国際協力機構(JICA)は2025年5月26日、東京都千代田区のJICA本部(麹町)で、モルドバにおける農業支援をテーマとした報告会を開催した。JICAの原昌平理事やモルドバのルドミラ・カトラブッガ農業・食品産業大臣が登壇し、同国のワイン産業とJICAの支援の状況について紹介した。
本稿では、JICAの原理事の言葉を軸に、モルドバへの農業支援の内容と、モルドバワインに寄せるJICAの期待を解説する。
JICAによるモルドバ支援の歩み
日本がモルドバへの支援を開始したのは1997年で、この年に初めて一般無償資金協力を実施した。2000年以降は、ワインをはじめ、蜂蜜やクルミ、プラム、リンゴなど多彩な農産物が生産されている“農業大国”モルドバに対し、JICAは農業機械の供与などを通じて、持続可能な経済発展と貧困農民の支援に力を入れてきた。そのうちの大きな柱が、農業設備の近代化だ。
具体的には、中小規模の農業事業体向けに近代的な農業機械・設備を供与し、農業生産性の向上を図っている。ワイナリー向けの機材も提供しており、現在はJICAが提供した20台の機材(うち5台が日本製トラクター)がモルドバのワイナリーで活躍している。
JICAが支援するモルドバワインの未来
モルドバは、輸出量が多く国際的評価も高いワイン産業を有しており、農業支援の中でも特に重要な分野となっている。2024年にはモルドバワイン協会日本支部「Wine of Moldova Japan」が設立され、日本市場での存在感を高めつつある。
JICAでは、これまでもモルドバのワイン関係者を日本に招き、ワイン関係者向けの試飲会やビジネスマッチングなど、日本での販路拡大に取り組んできた。こうした取り組みもあって、2024年の対日輸出量は前年比で約2倍にまで伸びている。
原理事は、「モルドバワインは非常に大きな伸びを見せており、今後注目すべき産地と言えるでしょう。ただし、現在の流通量はまだ十分とは言えません」と語り、さらなる認知拡大に意欲を示した。
今後もJICAは、認知度向上に向けたイベントの開催支援や、生産・加工資機材等の整備といった協力を通じて、モルドバワインの支援を継続していく予定だ。
日本との絆を深める“モルドバワイン”
JICAは、政府開発援助(ODA)の一環として、各国への物資提供だけでなく、「人と人とのつながり」や「消費を通じた関係構築」を大切にしている。その一例として注目されているのが、ワインを通じたモルドバとの関係強化だ。

報告会後に歓談する原理事とモルドバ代表団。左から、ドゥミトル・ソコラン駐日モルドバ共和国大使、ルドミラ・カトラブッガ農業・食品産業大臣、原昌平理事、ポポフ農業開発近代化庁長官
知って、買って、つながる
JICAでは、日本とモルドバの絆を深める象徴的な存在になると期待を寄せているのが、「モルドバワイン」だ。より多くの人々にモルドバワインを知ってもらうことで、同国に対する理解や関心が拡大するのではないかと期待している。
モルドバワインを通じて、同国の自然や人々の営み、文化的背景への理解が広がれば、より持続的な関係が築けると、JICAは考えている。モルドバ産ワインは国際コンクールで高い評価を受け、世界各地でブランド価値を押し上げている。
こうした背景を踏まえ、日本でも「知って、買って、つながる」という消費者意識の変化が、モルドバとの新たな関係構築の鍵となりそうだ。
ワインを通じた関係強化へ
原理事は、モルドバの“ワインツーリズム”にも注目している。日本の酒蔵ツアーに似たワイナリーツアーが盛んで、「飲む」だけでなく、宿泊や収穫なども楽しめる体験の場として発展している。これは日本の酒蔵やワイナリーにとっても参考になるモデルだと考えているという。
JICAは、今後もモルドバの農業分野を支援しつつ、ワインを通じた関係強化にも取り組む方針だ。「ワインをボトルという商品として見るだけではなく、背景にある人々の生活や風景、文化を知り、また違った楽しみ方ができるようになるといいですね」と原理事は語っている。