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2026年は、パリスの審判(Judgment of Paris)から50周年を迎える節目の年。カリフォルニアワイン委員会(CWI)が開催した年に一度の試飲会「カリフォルニアワイン ALIVEテイスティング」には、歴史的勝利を収めたナパの名門スタッグスリープ・ワインセラーズ(Stag’s Leap Wine Cellars)も出展した。
本記事では、輸入元ファインズの担当者へのインタビューをもとに、同ワイナリーの現在のスタイルと、会場で試飲できた3本のワインを紹介する。
スタッグスリープ・ワインセラーズとパリスの審判
1976年の“パリスの審判(Judgment of Paris)”で、フランスの銘醸ボルドーを抑え赤ワイン部門1位に選ばれたのが、スタッグスリープ・ワインセラーズの「カベルネ・ソーヴィニヨン1973」だ。
1970年にナパ・ヴァレーのスタッグス・リープ・ディストリクトで創業したスタッグスリープは、1973年がファーストヴィンテージ。当時ほとんど知られていない存在だった。そんな新しいワイナリーが、フランスの名門シャトーを抑えたことは、ワイン界に大きな衝撃を与えた。
創業者はウォーレン・ウィニアルスキー。スタッグス・リープ・ディストリクトのテロワールとカベルネ・ソーヴィニヨンに魅了された人物だ。醸造所の完成後には、「アメリカ近代ワイン造りの父」と呼ばれるアンドレ・チェリチェフをコンサルタントに招集。彼は、アメリカのプレミアムワイン発展を支えたことで知られており、特にカベルネ・ソーヴィニヨンの醸造に精通し、エレガンスとストラクチャーの両立を得意としていた。
2007年からはサン・ミッシェル・ワイン・エステーツ(Chateau Ste. Michelle)とアンティノリ家(Antinori)が共同所有。2013年からはマーカス・ノタロ(Marcus Notaro)がワインメーカーを務めている。
輸入会社の担当者が語るスタッグスリープ
スタッグスリープの輸入を手掛けるファインズの浦健太さんに、スタッグスリープについて伺った。
スタッグスリープのワインライン
スタッグスリープの上級レンジは3種。畑名がつけられた単一畑の「S.L.V.」と「FAY」。さらに、この個性の異なる両畑の良い区画のものを合わせた特別品「CASK23」となります。S.L.V.は1976年のパリスの審判で1位を獲得した畑でStag’s Leap Vineyardの略称。醸造長のマーカス ノタロ氏の言う「ダスティー・ココア・パウダー」の香りがこのワインの特徴です。なお、S.L.V.の陰に隠れがちなFAYも面白いワインです。畑はS.L.V.に隣接していますが、実は土壌の個性が大きく異なるためワインの味わいもS.L.V.とは対照的です。力強く骨格のあるS.L.V.に対してFAYはしなやかで優美。ナパでは非常にユニークな特徴であり、ワインに詳しい方からの評価が高いように見えます。
この3つのワインの下には中価格帯のワインが3つあります。基本的には買いブドウをメインに使用しているのですが、使っている畑としてはアンティノリ社が持っている畑のものを主に使っています。つまり、しっかりスタッグス・リープ・ワインセラーズおよび名門アンティノリの目と美学が行き届いたブドウを主に使用しているということです。
スタッグスリープのスタイルについて
“STAG’S LEAP”とは、stag=牡鹿、leap=飛ぶで、鹿のジャンプを表す言葉です。力強くもあくまでも優雅というところが、ワインのスタイルと一致しています。
76年当時のものは飲んだことがないのでわからないのですが、スタイル自体は近年大きく進化していると感じています。スタイリッシュでエレガントな味わいに磨きがかかっていいます。白ワインであれば2023年ヴィンテージ、赤ワインであれば2021年ヴィンテージ以降にその変化が顕著に表れています。現在の味わいはグラスで言えば、厚みが薄くやや鋭角的な傾斜のついたグラスが似合う味わいではないでしょうか。ワイナリーでもそういったグラスを使用していました。
スタッグス・リープ・ワイン セラーズのワインは人の手の痕跡をできるだけ感じさせない、素材を感じさせる味わいに向かっています。ただし、これはもともとスタッグスリープが持っていた価値観と近いものだと思います。そんな価値観で造られたスタッグスリープのワインが、フランスのグレートヴィンテージのすごい造り手のワインだと捉えられたことから、パリスの審判で1位になったのだと思っています。
出展されていた3本のワイン
会場で試飲提供されていた、3本のワインをファインズの浦健太さんのコメントとともに紹介する。
アヴィータ ソーヴィニヨン・ブラン 2023
ギリシャ神話で水の神を意味するアヴィータ。スタッグスリープが、時代に合わせてフレキシブルに変化していることを特に感じられるワインだ。

【浦さんのコメント】
前のヴィンテージまでは、もう少し樽の印象が強く出ていましたが、この23年から大きく変わりました。樽の比率を1/3ぐらいに少なくして、残りがステンレス。より現代的な食事に合わせやすいスタイルへと変化しています。
| ワイン名 | Aveta Sauvignon Blanc 2023 |
|---|---|
| 品種 | ソーヴィニヨン・ブラン、ソーヴィニヨン・ムスク、マスカット・カネリ、セミヨン |
| 産地 | ナパ・ヴァレー |
| アルコール度数 | 13.5% |
| 参考小売価格 | 7,000円(税別) |
カリア シャルドネ 2023
ギリシャ語で優雅さを表すというカリア。爽やかな酸やミネラル感から海の影響を感じるワインだ。

【浦さんのコメント】
このヴィンテージはMLFの比率がたったの5%で、よりシャープな酸味となっています。これはスタイルの変化というよりも、スタッグスリープで持っていた資質もあると思います。創業者のウィニアルスキーさんはとても博学で、ヨーロッパの古典的な文化とかにも造詣の深い方でした。ギリシャ彫刻のようなバランス感をワインの中でも追求したのではないかと想像しています。ミネラル感も十分にあるワインです。
| ワイン名 | Karia Chardonnay 2023 |
|---|---|
| 品種 | シャルドネ100% |
| 産地 | ナパ・ヴァレー |
| アルコール度数 | 13.5% |
| 参考小売価格 | 8,500円(税別) |
アルテミス カベルネ・ソーヴィニヨン 2021
名前の由来は、ギリシャ神話の狩猟の女神。浦さんが一番飲むことが多いスタッグスリープのワインとのこと。

【浦さんのコメント】
こちらも、ウィニアルスキーさんを感じさせるワインです。物静かでギリシャ文化などに精通されていた方だったようで、中庸の美学やバランスの美学を最初から指向されていた方だったのではないかと思います。ナパらしいしっかりした果実味はありますが、そこが行き過ぎない点にも知的な雰囲気を感じます。
ナパは収穫期も雨が少ないため収穫を遅らせることは難しくなく完熟したブドウを手に入れるのはさほど難しくないかもしれません。しかしそれだけではフィネスを欠いてしまうでしょう。ですので、節度をもっていかにいいバランスで収穫するかというのが重要です。今のワインメーカーは、ブドウ栽培チームからもう来なくていいよと思われるぐらい頻繁に畑に通っているそうです。それくらいいつも畑に出て、どのタイミングで摘むか、どの畑がどういう状況になっているかなどを細かく把握しています。そういった日々の努力が、このバランスに直結しているのだと思います。
| ワイン名 | Artemis Cabernet Sauvignon 2021 |
|---|---|
| 品種 | カベルネ・ソーヴィニヨン 98%、カベルネ・フラン 1%、マルベック、メルロー |
| 産地 | ナパ・ヴァレー |
| アルコール度数 | 15.0% |
| 参考小売価格 | 15,000円(税別) |
パリスの審判で世界を驚かせたスタッグスリープ・ワインセラーズ。ナパ・ヴァレーを代表するワイナリーとしてその地位を確立しながらも、時代に合わせてスタイルを進化させ続けている。浦さんのお話と今回試飲したワインからは、創業者の哲学が今も受け継がれていることが感じられた。