前回は、おいしいワインの特徴をより的確に表現するための言葉を「外観・味わい」という面からご紹介した。
今回は、より細かなニュアンスまで表現できる「香り」のことを取り上げていこう。
白ワイン編
白ワインの香りを表現するときには、次のような言葉を使うのが一般的だ。
グレープフルーツ:
ソーヴィニヨン・ブランの香りに良く使われる。苦味のあるすっきりした香り。
レモン:
品種を問わず使われ、すっきりとしたフレッシュな酸味の印象。
白桃、黄桃:
よく熟したシャルドネやその他の白ワインに使われる。
パイナップル、マンゴー:
温暖な地方で作られるシャルドネやその他の白ワインに使われる。トロピカルな甘い香りを表す。
りんご:
青っぽいソーヴィニヨン・ブラン、ミュスカデなどの甘酸っぱさを表す。
アカシア、白い花:
柔らかな華やかさを表す。パワフルというより繊細なイメージの表現。
はちみつ:
トロッと濃厚な印象を与える香り。熟したぶどうを使ったワインや、貴腐ワインに良く使われる表現だ。
赤ワイン編
白ワインの香りを表現する代表的な言葉を取り上げたところで、次は赤ワインの香りを表現する言葉たちを紹介していこう。
赤果実:
色調の明るいワインに多く使われ、具体的にはラズベリーやいちご、クランベリーなどのイメージ。甘酸っぱい印象を表す。
いちご:
ガメイを中心に、フレッシュでフルーティーなワインに使われる。
黒果実:
色調の黒めな濃いワインによく用いられる表現で、ブルーベリーや黒すぐり、カシス、ブラックベリーなどの印象を示す。よく熟したしっかりめの味わいとリンクする。
いちじく:
樽で長く熟成した赤ワインに使われる表現。「乾燥イチジク」ともいう。
杉:
カベルネ・ソーヴィニヨンの香りに良く使われる、森の中や檜風呂のようなすっきりとした印象を表す言葉だ。
バラ:
若いワインのストレートさと華やかさを併せ持つ印象に使われる。特にネッビオーロらしさを表現するのによく見られる表現だ。
黒胡椒:
主にシラー種をメインにしたワインの表現だ。スパイシーで力強いイメージを指す。
たばこ:
熟成感のあるワインに現れる香り。主にフランスのボルドーワインやピノ・ノワールに使われる。
シナモン:
スパイシーかつ甘い香り。温暖な地域の樽熟成ワインによく表れる。
甘草:
漢方薬のような強めの香りで、甘草=スパイシーという言葉でも表現される。
腐葉土:
チリやアルゼンチンのカベルネ・ソーヴィニヨンなどによく使われる、土や大地の香り。
肉:
生の赤肉の血や鉄のような香りを指す。若めのピノ・ノワールやシラーでよく使われる。
なめし皮:
新しい皮のバッグのような香り。上質なワインが熟成した香りに使われる。
「嗅覚を開発する」感覚を磨こう
こうした表現の中でも「腐葉土」「なめし皮」といった言葉に慣れない人は多いことだろう。
ただ、「味覚を開発する」という考え方がある。例えば、酸っぱいもの、しょっぱいものを食べなくなった近年の日本人の多くは、イタリア人と比べてレモンの味わいを感じにくい。なぜならレモンの刺激に脳が過剰に反応してしまい、本来の味わいを楽しむ余裕がなくなるからだ。
それがレモンに慣れてくると、突如として「あれ、これはおいしい」と気づくことになる。このとき、「味覚が開発された」ことになる。
香りも同じだ。例えばワイン店の商品説明に、「バラの香りのピノ・ノワール」と書いてあったら、脳はその香りからバラのイメージを探す。
しかし「鉄のニュアンス」と言葉が添えてあったなら、脳はピノ・ノワールの香りの中に、過去に嗅いだ鉄の記憶を探そうとする。それが見つかったときに、脳のデータベース内の「嗅覚が開発された」ことになる。
このように「嗅覚を開発する」ことで、あまり耳慣れない表現も腑に落ちるようになるはずだ。しばらくはよく分からなくても、ワインの香りを意識していくことで、ワイン好きとしてのレベルを上げていってもらいたい。