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メルシャンは2017年5月10日、2016年に収穫したぶどうを醸造したワイン(プリムール(新酒))を振る舞う「プリムール・テイスティング 2017」を開催した。
山梨県、長野県、福島県、秋田県でぶどう栽培を展開しているメルシャン。2016年のヴィンテージはどのような特徴・出来栄えになっているのだろうか。シャトー・メルシャンのブランド・コンサルタントを務める大橋 健一マスター・オブ・ワイン(MW)のコメントを紹介していこう。
2016年ヴィンテージ、9月中旬の雨をどう扱ったかで大きな差
大橋氏によると、フランスなどとは違って、日本には地域ごとの気候の違いはあるものの、平均気温や降水量には大きな違いは生まれにくい。毎年、日本全体が同じような天候の影響を受け、共通のスタイルをもつ傾向があるという。
2016年の気候については、出だしは恵まれた天候だったが、秋には台風が上陸し、長雨も続いてしまった。日本はヨーロッパと比べて降水量が多いため、ぶどう畑に雨よけを導入しているところもある。2016年は特に、9月中旬にまとまって降った雨の影響が大きかった。大橋氏は「雨よけの方式を採っているところと採っていないところで大きく差が出た」と分析する。
降水量の多かった9月中旬は、白ワイン用ぶどうを収穫する時期の終わりごろ、赤ワイン用ぶどうの収穫期の序盤に当たる。白ワインなら収穫のタイミングが雨の前か後かで凝縮度に差がつき、赤ワインの場合はいつまでぶどうを収穫するのを待つかによって成熟度が決まることになった。この時期の雨をどう乗り越えたかで、2016年ヴィンテージのクオリティやスタイルに大きな差が生じたそうだ。
ほっそりとしながらも屋台骨がしっかりした白ワイン、適度な凝縮感でエレガントな赤ワイン
従って、2016年はつくり手の力量がクオリティに表れやすい年、「ワインメーカーズ・ヴィンテージ」となった。
大橋氏はメルシャンが手掛ける2016年のヴィンテージについて、「メルシャンの契約農家さんとの取り組みを通して、匠の技が非常によく出ている」とコメント。赤ワインに関しては収穫のタイミングをしっかりと見極めて、醸造の段階で適切にブドウの成分を抽出したことで、ヴィンテージの特徴を引き出せていると評価した。
白ワインの2016年ヴィンテージについては、凝縮度は控えめ。リッチで果実味を強く感じられるヴィンテージとはならなかった。その分、醸造家はワインの骨格を補うためにフェノール成分を上手に利かせ、ワイン自体はほっそりとしたリニアなテクスチャを持ちながら、屋台骨をしっかりと持たせたスタイルに仕上がっているという。
赤ワインに関しては、こちらも雨の影響からか凝縮度は決して強いわけではない。しかし、適度な凝縮感を持たせながら、しなやかでエレガントなスタイルになったそうだ。
日本人が日本ワインのヴィンテージをもっと語れるように
2016年の訪日外国人旅行客数は2400万人を超えた。大橋氏は「海外の方々が自分の産地のヴィンテージを語れるように、われわれ日本人に問いかけてくる時代が来ると思います。例えば『2013年に比べて14年はどうだったんだ?』と言われたときに、まだまだ日本人はそれをきちんと語れない傾向があります」と課題を挙げた。そして今回、メルシャンが2016年のプリムールを語る場を設けたように、日本のワイン関係者・愛好家がヴィンテージについてもっと語れるようになってほしいと大橋氏は希望を述べている。