フランスを代表するワイン生産地・ボルドー。そこでつくられるボルドーワインの特徴の1つは、さまざまなぶどう品種をブレンド(=アッサンブラージュ)していくことで、つくり手たちがそれぞれの目指すワインをつくり出していることだ。
例えば、5大シャトーの1つ、シャトー・ラフィット・ロートシルトのファーストラベルは、公式サイトによるとカベルネ・ソーヴィニヨンを80~95%、メルローを5~20%、カベルネ・フランとプティ・ヴェルドを0~5%アッサンブラージュしているという。
ボルドーのワインのつくり手たちは、なぜ/どのようにアッサンブラージュしていくのだろうか。ボルドーワイン委員会が2017年11月に主催したワークショップ「芸術のワインBordeaux White」で伺った内容を紹介していこう。
アッサンブラージュによって実現、それぞれのつくり手が目指す理想的なバランス
アッサンブラージュする利点としては、「それぞれのぶどう品種の特徴を上手く引き出して、理想的な味わいのバランスに仕上げられる」「ぶどう栽培は天候に左右されやすいので、生育時期が異なる複数の品種を組み合わせることで、天候による影響を軽減できる」といった点が挙げられる。
前者の「それぞれのぶどう品種の特徴」とは、どのようなものだろうか。「芸術のワインBordeaux White」では、ボルドーの辛口白ワインについて語られた。ボルドーの辛口白ワインは、ソーヴィニヨン・ブランやセミヨンから主につくられ、ミュスカデルやソーヴィニヨン・グリ、コロンバール、ユニ・ブランといったぶどう品種が加えられる。
特に、ボルドーの辛口白ワインのベースになることが多いのは、ソーヴィニヨン・ブランだ。アメリカやドイツ、ニュージーランドなど、世界各地で栽培されているぶどう品種だが、原産地はボルドーだと考えられている。
ソーヴィニヨン・ブランの特徴は、豊かなアロマ。柑橘類、トロピカルフルーツ、カシスの芽、白い花といった香りが漂い、心地よい酸味を感じられる。
次にセミヨン。セミヨンは、繊細なアロマが特徴だ。若いうちはアーモンド、ヘーゼルナッツ、桃、アカシアの花といった香りがある。それが熟成すると、ハチミツ、洋ナシ、マンゴー、砂糖漬けのアプリコットといった要素を持つようになる。
ソーヴィニヨン・ブラン単一品種からつくるワインは、非常に表現力豊かで爽やかな味わい。一方、セミヨン単一品種からつくったワインは、しっかりしたストラクチャーが特徴だ。
ソーヴィニヨン・ブラン単一品種のワインでは、いくら豊かなアロマが楽しめても、すぐにアロマが消えてしまう。しかし、そこにセミヨンをアッサンブラージュすることで、長い間、余韻を味わえるようになる効果が期待できるという。
このソーヴィニヨン・ブランとセミヨンでつくられた辛口白ワインに加えられるのが、ミュスカデルやソーヴィニヨン・グリなどだ。
ミュスカデルには、花やマスカット、わずかにオレンジの果皮といった力強いアロマがあり、酸味は少ない。比率は大きくなくてもミュスカデルを加えると、アッサンブラージュした辛口白ワインの中で大きな役割を果たしてくれるという。
また、ソーヴィニヨン・グリも非常に豊かなアロマを持つ。ソーヴィニヨン・グリを足すことでオレンジを強く感じられる柑橘系の香り、花やマスカットといった上品なアロマを追加できる。
年によって5~10%ポイントは変動。目指す味わいに向けてブレンドを決める
同ワークショップでは、シャトー・オー・リアンのポリーヌ・ディエトリッシュ氏、シャトー・ルクーニュのマルク・ミラド氏の2人が、アッサンブラージュについてレクチャーしてくれた。
ポリーヌ氏はボルドーでも注目されている若手女性醸造家。シャトー・オー・リアンはブリュッセル国際ワインコンクールで金賞に輝き、「WINE ENTHUSIAST」「DECANTER」などのワイン専門誌においても90点台を獲得している実力派のシャトーだ。
ポリーヌ氏によると、アッサンブラージュする比率は毎年5~10%ポイントほど変わってくる。ただ、アッサンブラージュの比率は年によって違っても、目指す方向性は同じだ。
ボルドーには家族経営のつくり手が多く、ポリーヌ氏も両親とともにワインづくりに取り組んでいる。シャトーごとに“家庭の味”とでも言うべきアッサンブラージュのやり方・ブレンド比率があり、ポリーヌ氏も父親から受け継いできたそうだ。その年の最終的なブレンド比率を決めるときは、父親、ポリーヌ氏、醸造長、そしてワインにはあまり詳しくない母親などが意見を出し合って、決定を下すという。
ボルドーには6300軒のワイン生産者がいるが、大半が家族経営。それぞれが、その家ならではの“家庭の味”を持っていて、年々のぶどうの出来栄えを見ながら、その味を実現するためにブレンドの比率を決めていく。日本でも家庭ごとに味噌汁の味は違うと言うが、そう考えてみると、ボルドーワインのことをこれまでよりも身近に感じられるのではないだろうか。