コラム

長野のこだわりワイン×お肉のマリアージュ。楠わいなりー×ダボス牧場のスペシャルディナーをレポート

長野県須坂市にある楠わいなりーは2018年5月23日、上田市のダボス牧場とともに一夜限りのスペシャルディナーを開催した。料金はワイン4杯がついたプレミアムコースで1万6000円。どんな思いが込められたディナーだったか、レポートしたい。

クラウドファンディングで参加者を募集

今回のディナーは、日本経済新聞社が運営するチケット購入型クラウドファンディングサイト「未来ショッピング」を使って参加者を募集した。市場にほとんど流通していないダボス牧場の牛・豚・羊の肉を、東京で1度に味わえるという内容だ。

チケットの売上が目標金額を達成しないと開催が見送られる「目標達成型」の募集だったが、目標金額の20万円を大きく超える44万6000円分の応募が集まった。

肉の部位をワインとともに味わう

今回のイベント開催のきっかけについて、「ダボス牧場の伊藤さんとの出会い」だと語る楠わいなりーの楠茂幸代表取締役。おいしいお肉を食べるためのコースが、4種類のワインとともに提供された。

楠わいなりーの楠茂幸代表取締役(左)と、ダボス牧場の伊藤さん(右)

提供された楠わいなりーのワインは4種類。それぞれのワインの特徴や肉との相性を楠さんに伺った。

サラダとともに提供されたのが、セミヨン(80%)とソーヴィニヨン・ブラン(20%)をブレンドした「日滝原2016」。すっきりとした味わいで、完熟トマトの甘みや野菜の旨味を引き立ててくれる1本だ。

「新鮮な魚介類はじめ、日本食との相性が抜群のワインです。食事のはじめのサラダやシャルキュトリーやホワイトソーセージと合わせるとそのすっきりとした味わいが心地よく、幕開けの1杯としてはとても良かったと思います」

肉の脂を堪能できるシャルキュトリー3種盛合せとともに、提供されたのは「カベルネ・ソーヴィニオン2014」だ。

「黒い果実や樹の皮、それにカカオの香りを感ずるワインです。しっかりとした味わいが感じ取れます。カタシンやクリといった、赤身がメインの部位のお肉の香りと繊細さにピッタリでした。肉の味わいを感じつつ、それが口の中でワインと渾然一体となり、ワインがお肉のおいしさをさらに引き出します」

メインの肉盛りは、牛の希少な5つの部位(ミスジ、カタシン、トモサンカク、クリ、ザブトン)、ヨークシャー豚のソーセージ、マトンだ。

牛の部位はこちら(出展元:未来ショッピング、楠わいなりーのプロジェクトより)

このタイミングでグラスに注がれたのは、「ハーブやスパイスなどを香りに感じ、軽めの色合いの割に旨味を強く感じるワイン」という「ピノ・ノワール2015」だ。

「ミスジやサブトンといった脂身が多くなる部位のお肉に良く合います。特に脂身との相性が良く、お肉が一層甘く感じるとともに、その脂もサラッと流してくれるような軽快さがあるワインです。お肉にはひと目で分かるような脂身の塊がなくても、細かな脂身が混ざっているので、それが溶けるときにお肉のおいしさが倍増します」

当日会場では、「好みのペアリングを見つけてほしい」というあいさつもあり、以降はテーブルの上に「ピノ・ノワール2015」と「メルロー2015」がある状態で、食べながら飲み比べる来場者も多くいた。

コースとしては他に、肉寿司、チーズ3種盛合せ、そしてデザートが提供された。

肉寿司(白トリュフ塩/レモン塩/うに醤油)

長野県東御市のチーズ工房「アトリエ・ド・フロマージュ」のチーズ3種盛り合わせ

デザートは長野県産リンゴのコンポートのバニラアイス添え

食べた肉の総量は300g。ダボス牧場の伊藤さんが「翌日に胃もたれはしない」と自信をもって語っていたとおり、翌日の胃もたれは皆無だった。おいしいお肉とワインを堪能したという満足感でよく眠れ、目覚めは爽快だったほどだ。

臭みのないマトンとメルローを味わう

楠さんのお勧めは、国内でわずか3%しか流通していないという国産マトンを、「メルロー2015」で楽しむこと。「赤い果実や煮詰めた果物、森の湿った土の香など、柔らかな香りと優しい味わいがありながら、そこにスパイス感もあり力強さも感じるワイン」だという。

ダボス牧場のマトンは冷凍をしておらず、牛としか思えないほど臭みがないのが特徴だ。「力強いワインよりもこういう優しい感じのワインが口の中でお肉と渾然一体となって味わいが一層深まりました」とのこと。

なかなか味わうことができない、“スペシャルディナー”ならではのマリアージュだった。

地元のおいしいお肉とワインを味わってもらいたい

ダボス牧場で独自に開発した発酵飼料には、楠わいなりーのワインの搾りかすを混ぜているそうだ。

ダボス牧場で使われている飼料。人の食欲もそそるほどのフルーティな良い香りだった

楠さんはダボス牧場の魅力について、次のように語っている。

とてもこだわった飼料で牛や豚、羊を育てていて、その考え方にとても共感が持てました。

牧草を早くたくさん育てるために、通常は牧場に肥料を撒きますが、その肥料は多くの場合、化成の窒素肥料です。そうすると確かに生育は良いのですが、たくさんの硝酸態窒素が牧草の中に残り、家畜にとっても人間にとってもよくありません。それを避けて健康的に牛を育てるために、ダボス牧場では肥料は使っていないということでした。また、1頭当たり1haの牧草地を確保して、適正な飼育頭数を保っています。

楠わいなりーは、“減農薬”、“無肥料”、“不耕起”、“草生栽培”を栽培方針に、健康なぶどうを育てています。同じようになるべく自然のままで健康的に育てるというダボス牧場の考えに、大いに共感しています。

山の上から弊社まで絞りカスを取りにくるのは大変なことですが、その手間を惜しまないところにも、家畜に対する愛情や良いお肉をつくるんだという熱い想いを感じます。

もちろん飼育へのこだわりだけではなく、お肉の味わいにも感動したという。「本当においしくてお肉本来の味がして、また脂部分も全く臭みがなくしつこくなく溶けていきます。味わいの深いお肉に感動したからこそ、こういう食材が地元にあること、またその素晴らしさをより多くの方に知っていただきたい。そうして弊社のワインと一緒に楽しんでいただきたいと思いました」と、今回のスペシャルディナーを企画した理由を語ってくれた。

今回のイベント終了後、来場者からは「とってもおいしかった」「ぜひ長野に行ってみたい」「なかなかこういうワインはないよね」など、お肉とワインの両方に満足した声が聞かれたそうだ。

10月以降とはなるが、楠ワイナリーでは新しいプロジェクトを予定しているとのこと。今度はどんな企画で来場者を楽しませてくれるのだろうか。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ