アメリカのワイン専門誌「Wine Spectator(ワインスペクテイター)」。ワイン業界に大きな影響力を持つ同誌は、1999年1月に「Wines of the Century(20世紀を代表するワイン)」を発表している。
「20世紀を代表するワイン」として、20世紀にリリースされた数多くのワインの中から、厳選された12本のワインを選び抜いた。取り上げられたことをきっかけに、価格が高騰したワインもあったという。
ワインバザールではこれまでに、Wine Spectatorが選抜した12本を紹介する記事を掲載してきた。今回は、掲載済みの12本をまとめてご紹介したい。
「20世紀を代表するワイン」に選ばれた12本
シャトー・マルゴー 1900年
産地:フランス > ボルドー > オー・メドック
つくり手:シャトー・マルゴー
メドック1級格付けを得た5大シャトーの1つ、シャトー・マルゴーによるカベルネ・ソーヴィニヨンを主体にブレンドした赤ワイン。
100年後に飲んだワイン評論家のロバート・パーカー氏が、100点満点を付けたことでも知られている伝説的なワインだ。偽物が多いことでも知られている。
日本でも「ふれあい港館」(大阪市)のワインミュージアムにて展示されていたことがある。閉館後の2009年11月に開かれたオークションでは、82万円の値がつけられた。
【参考記事】シャトー・マルゴー 1900年――約100年後に飲んだロバート・パーカー氏が100点満点を付けたワイン
シャトー・ディケム 1921年
産地:フランス > ボルドー > ソーテルヌ
つくり手:シャトー・ディケム
セミヨン80%、ソーヴィニヨン・ブラン20%でつくられる貴腐ワイン。シャトー・ディケムは、世界最高峰の貴腐ワインのつくり手として知られている。
シャトー・ディケムは、1本のぶどうの木からグラス1杯のワインしかできないとされるほど、妥協を許さないワインづくりをしている。ぶどうの出来によっては、ワイナリーの名前でワインが販売されないこともある。
素晴らしいヴィンテージがいくつもあるシャトー・ディケムだが、Wine Spectator やロバート・パーカー氏は、1921年が最も優れたヴィンテージだとしている。
【参考記事】シャトー・ディケム 1921年――世界最高の貴腐ワインの中でも“間違いなく最高”
キンタ・ド・ノヴァル・ナシオナル1931年
産地:ポルトガル > ドウロ
つくり手:キンタ・ド・ノヴァル
最高品質のポートワインの生産者として知られるキンタ・ド・ノヴァル。
1800年代にはワインの根を腐らせるブドウネアブラムシ(フィロキセラ)がヨーロッパ各地で流行した。それでもキンタ・ド・ノヴァル・ナシオナルは、ポルトガルの土壌に根付いた“ポルトガルの”ぶどう樹にこだわり、このポートワインを生み出している。
世界恐慌の影響もあり、1931年のポートワインはほとんど流通していない。しかし、ぶどうの出来が良かったため、キンタ・ド・ノヴァルは通常のヴィンテージとナシオナルを少量だけ生産した。その結果、1931年ヴィンテージはポートワインの名門として、「キンタ・ド・ノヴァル」の名前を世界中に知らしめることになった。
【参考記事】キンタ・ド・ノヴァル・ナシオナル1931年――わずか2500本、”ナシオナル”にこだわった「幻のポートワイン」
ロマネ・コンティ 1937年
産地:フランス > ブルゴーニュ > ヴォーヌ・ロマネ
つくり手:ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ
ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)が、ヴォーヌ・ロマネ村に独占所有するぶどう畑で栽培したピノ・ノワールを使用した赤ワイン。
1937年はブルゴーニュ地方全体が天候に恵まれた当たり年だが、ロマネ・コンティは別格のワインを生み出した。
DRCの共同経営者の1人、オベール・ド・ヴィレーヌ氏は、ロマネ・コンティ 1937年を「見習うべきワイン」としている。
【参考記事】ロマネ・コンティ 1937年――天候に恵まれたブルゴーニュの歴史的な当たり年。その中でも別格のワイン
イングルヌック カベルネ・ソーヴィニヨン 1941年
産地:アメリカ > カリフォルニア > ナパ・ヴァレー
つくり手:イングルヌック
1879年設立のイングルヌックは、アメリカのワイナリーとして長い歴史を持つ。その全盛期に誕生したのがこの1本だ。
1941年のぶどうは非常によく熟し、アルコール度数は14%以上。大きな木製の樽を用いてゆっくりと熟成された。
生産本数は5000ケース程度とみられており、非常に貴重なワインだ。2011年に開かれたオークションでは、2本セットで実勢価格1万1400ドル(約125万8300円)の値が付けられた。
現在は映画監督のフランシス・コッポラ氏が、ワイナリーの再建に尽力している。
【参考記事】イングルヌック カベルネ・ソーヴィニヨン 1941年――巨匠コッポラが再建したワイナリーが全盛期に生み出した1本
シャトー・ムートン・ロートシルト 1945年
産地:フランス > ボルドー > ポイヤック
つくり手:シャトー・ムートン・ロートシルト
カベルネ・ソーヴィニヨンを主体としてブレンドした赤ワイン。
現在はボルドー5大シャトーの1つであり、最も華やかなイメージを持つシャトー・ムートン・ロートシルト。1945年当時は「当主がフランス人ではない」という理由で、メドック2級にとどまっていた(1973年に1級に格上げ)。そのワインは「25年以上の熟成を経て真価が表われる」とも言われている。
第2次世界大戦が終わりを告げた1945年は、ボルドー全体の当たり年となった。冬の寒さが収穫量を減少させた代わりに、濃縮な味わいを生み出した。
1945年は、シャトー・ムートン・ロートシルトのワインを彩るアートラベルが始まった年でもある。
【参考記事】シャトー・ムートン・ロートシルト 1945年――誕生から半世紀以上経っても色あせない。終戦の年に生まれたワイン
シャトー・シュヴァル・ブラン 1947年
産地:フランス > ボルドー > サンテミリオン
つくり手:シャトー・シュヴァル・ブラン
カベルネ・フランとメルローをブレンドした赤ワイン。
1947年は5月以降、前年よりも暑い日が続き、ぶどうは平年よりも早く収穫された。しかし、すでにぶどうは完全に熟しきっており、糖度の高いぶどうを使ったことで、ワインのアルコール度数は通常よりも高い14.4%となった。糖度が高いため、発酵には苦労したそうだ。発酵後にも糖分が1L当たり3g残り、揮発性酸度もかなり高くなった。
しかし、それがワインの骨格を形作り、アロマを構成する結果となった。多くのワイン愛好家や批評家によって、典型的なボルドーのワインというよりも、濃厚でポートワインを思わせる味わいだと指摘されている。
1947年が特に高い評価を受けているが、続く1948年、1949年も素晴らしいヴィンテージとなったことで知られている。
【参考記事】シャトー・シュヴァル・ブラン 1947年――ボルドー5大シャトーと並び称されるサンテミリオンの”第1特別級A”
ビオンディ・サンティ ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ リゼルヴァ 1955年
産地:イタリア > トスカーナ > モンタルチーノ
つくり手:ビオンディ・サンティ
サンジョヴェーゼ・グロッソ(=ブルネッロ)を100%使用した赤ワイン。
フランコ・ビオンディ・サンティ氏(2013年死去)は、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの名声の礎を築いた人物。他のワイナリーへの技術支援も惜しまず、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノを国内外で評価されるブランドへと押し上げた。
ビオンディ・サンティ ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ リゼルヴァは、標高300~500mのところにある樹齢25年以上の樹から収穫されたぶどうを使用。当たり年にのみつくられるワインだ。Wine Spectatorは、「イタリア初の偉大なトスカニー産のワイン」と評している。
【参考記事】ビオンディ・サンティ ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ リゼルヴァ 1955年――バローロ、バルバレスコと並ぶワインブランドを育てた偉大なつくり手の最高傑作
ペンフォールズ グランジ ハーミテイジ 1955年
産地:オーストラリア
つくり手:ペンフォールズ
南オーストラリア全域からさまざまなぶどうを仕入れ、品質の高いものをブレンドしてつくる「マルチリージョナルブレンド」を採用してつくられた赤ワインだ。
1955年のグランジのブレンド比率は、シラーズ90%、カベルネ・ソーヴィニョン10%。
グランジ最初の商用ヴィンテージが発表されたのは、1952年。1955年ヴィンテージは、1962年のシドニー・ワイン・ショウで金メダルを獲得し、世界からペンフォールズに注目が集まるきっかけとなった。合計で12のトロフィーと52の金メダルを獲得している。
【参考記事】ペンフォールズ グランジ ハーミテイジ 1955年――醸造中止の指示を乗り越えて金メダル受賞の大逆転!
ポール・ジャブレ・エネ エルミタージュ ラ・シャペル 1961年
産地:フランス > コート・デュ・ローヌ > エルミタージュ
つくり手:ポール・ジャブレ・エネ
収量を抑えた畑で栽培したシラーを使用した赤ワイン。ポール・ジャブレ・エネは、ほぼすべてが手作業という伝統的な農法と有機肥料によるぶどう栽培を徹底している。
1961年は非常に暑く、目標としていた収量の4分の1ほどしかぶどうを収穫ができなかったという。しかしその結果、とても濃厚なぶどうが出来上がった。
多くのワイナリーはその濃厚さに対処しきれず、熟成に苦労したが、ポール・ジャブレ・エネは濃厚なぶどうを上手く扱い、20世紀を代表するワインを生み出した。
【参考記事】ポール・ジャブレ・エネ エルミタージュ ラ・シャペル 1961年――ワイン評論家がこぞって“満点”と評価するローヌの伝説的ワイン
シャトー・ペトリュス 1961年
産地:フランス > ボルドー > ポムロール
つくり手:シャトー・ペトリュス
品質の良いもの以外は間引いて質を向上させたメルローを使用。収穫量は限られるため、シャトー・ペトリュスの流通量も少ない。
さらに1961年のボルドーは、春先に霜の被害を受けたためにぶどうの収穫量が減少。しかし、雨が少なく、気温の高かった夏のおかげで濃縮した味わいのぶどうが出来上がった。
1961年ヴィンテージは約680ケースしかつくられていない。
【参考記事】シャトー・ペトリュス 1961年――パーカーが「不死身のワイン」と100点を付けた神話的1本
ハイツ・カベルネ・ソーヴィニヨン・ナパ・ヴァレー マーサズ・ヴィンヤード1974年
産地:アメリカ > カリフォルニア > ナパ・ヴァレー
つくり手:ハイツ・セラー
カベルネ・ソーヴィニヨンを100%使用した赤ワイン。
ハイツ・セラーを1961年に創業したジョー・ハイツ氏は、高品質ワインの創始者と呼ばれ、業界全体の基準をつくった人物とされている。
ハイツ・カベルネ・ソーヴィニヨン・ナパ・ヴァレー マーサズ・ヴィンヤード1974年は、ぶどうの収穫からリリースまで5年を費やすハイツ・セラーの初期の傑作ワインのひとつだ。
ワイン名にヴィンヤード名を入れたのはハイツ・セラーが初めてというわけではないが、マーサズ・ヴィンヤードをきっかけに、ワイン醸造業者の間でヴィンヤード名を取り入れるのが流行したという。
【参考記事】ハイツ・セラー マーサズ・ヴィンヤード カベルネ・ソーヴィニヨン ナパ・ヴァレー 1974年――飲みごろは2019年まで? 流行を生んだナパワイン
選出には、品質に加えて歴史的意義も考慮
ボルドー産5本を含むフランスワインが7本、カリフォルニアのナパ・ヴァレーで生まれたワインが2本、ポルトガル・イタリア・オーストラリアのワインが1本ずつ選出された「20世紀を代表するワイン」。Wine Spectatorは「品質に加えて、歴史的意義も考慮して選んだ」としている。
例えばロマネ・コンティ1937年やポール・ジャブレ・エネ エルミタージュ ラ・シャペル 1961年は、ブランドのベンチマーク的存在。ビオンディ・サンティ ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ リゼルヴァ 1955年(イタリア)とペンフォールズ グランジ ハーミテイジ 1955年(オーストラリア)は、その国がワールドクラスのワインをつくれるのだと世界に知らしめるワインとなったことも選出理由の1つだと説明している。