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時代は「エコ」「オーガニック」を超えて「サステナブル(持続可能)」へ――。
アメリカ・カリフォルニア州では、持続可能なワインづくりへの移行が急ピッチで進められている。その規定は細かに定められ、多くの農家やワイナリーが積極的に、そして誇りを持って取り組んでいるという。
そうしたサステナブルなワインづくりの取り組みについて、カリフォルニアワイン協会(CWI)日本支部によるセミナー「カベルネ・ソーヴィニヨンを通じて知るカリフォルニアワインのサステナビリティ」(講師・小原陽子氏)において語られた。同セミナーの概要を通じて、カリフォルニア州での取り組みをご紹介していきたい。
カリフォルニアワインにおけるサステナブル認証と現状
「サステナビリティ」って何?
このところ「サステナビリティ」という言葉を聞く機会は増えてきたと思う。だが、その解釈や使われ方は、それぞれのケースによって大きく異なる。
カリフォルニアワイン協会では、「サステナブルなワインづくり」に欠かせないものとして、3つのキーワードを挙げている。
サステナビリティは近年高まりを見せているエコやオーガニック認証と考え方が似ているが、オーガニックというのはあくまでぶどう栽培についての話だ。
サステナブル認証については、ぶどう栽培のみならず醸造段階についても査定される。オーガニックとイコールではないことを注意しておこう。
旧来のワインづくりの設備をサステナブルな設備に変革することで、多くの場合はぶどうの収量が下がったり、ワインの生産量が下がったりする。
それを踏まえてワインの値段を上げてしまっては、ワインの販売量が落ちるかもしれない。
そういった全体のことを踏まえて、サステナビリティについて「経済的に成立するのか?」とシビアに考える必要もある。
例えば、サステナブルな設備を導入・運用することで、近隣や他者へ何らかの被害があってはならない。また、もちろん法を犯してはならないし、従業員に実害があってもいけない。
サステナビリティを追い求める上で、あらゆる面でフェアでなければならない。
これらの3点をクリアし、かつ「持続可能」である、ということを「サステナブル」としている。
認証制度と認証方法
カリフォルニアワイン協会では、農家の組織とアライアンスを組み、共同で「CODE」という農法規約を作っている。
「CODE」の正式名称は、「California Code of Sustainable Winegrowing」。400ページを超える分厚い本の中には、栽培技術について140項目、醸造技術について104項目が記されている。
例えば「ぶどうの木」については19の項目が並ぶ。どのように育てるのかが細かく記されており、地方・地域によって異なる条件が課されている。
そしてCODEには自己添削シートがついており、自分で点数を割り出し、認証を申請する仕組みとなっている。実際に認証されるまでには、第三者機関による調査も入る。
カリフォルニアで急加速するサステナブル認証
カリフォルニアのワインは現在、実に74%もサステナブル認証されたワイナリーで生産されている。
この流れはここ数年で急に加速しており、サステナブル認証された畑は現在1099(前年比+46%)、ワイナリー数は127(前年比+20%)を数える。
各産地では異なる認証基準があるが、例えばソノマ郡では2019年までにすべてのワイナリーがサステナブル認証を受けられるようソノマ・カウンティ・ワイングロワーズが初期費用の一部を負担している。
キーワードで探る。サステナブルなワインづくりの取り組み
それでは、サステナブルなワインづくりの取り組みとは、具体的にどんなものになるのだろうか。キーワードを用いながら紹介していこう。
「カバークロップ」
「カバークロップ」とは、ぶどうの木が植わっていないところにあえて植える草のことだ。最近、多くのつくり手が導入している。ぶどうの木の間に土は見えず、緑の草が敷き詰められている。
このカバークロップは、ぶどうの木と水分や養分を競合して取り合い、土のバランスを保つ。また、土に含まれる養分や土そのものが過剰な水分とともに流出してしまうのを防ぐ。さらにぶどうの木の生育に欠かせない窒素などの栄養素をつなぎとめる効果がある。
「コンポスト」
「コンポスト」とは堆肥のこと。一般に植物性の堆肥を指すことが多いが、動物性のものが含まれることもある。
<メリット>
土が豊かになり、同時に土壌に空気が入るため、ぶどう樹の根の伸びが良くなる。
<デメリット>
臭いがきつい。効果が出るのが遅い。必要なものだけではなく不必要な成分が入っていることもあるので、手放しで使用を推奨しない場合もある。
そういったデメリットもふまえ、それでも使う価値があるとされる場合に使用される、とのことだ。
「クリッター」(生き物)、「エコシステム」、「バイオダイナミクス」
「益虫」「益鳥」「益獣」と呼ばれる生き物を使い、生態系をコントロールすることを指す。
以前は殺虫剤や除草剤などを使用していたが、そういった化学物質を使わず、自然の生態系を利用するサステナブルな栽培方法が広まってきている。
いくつかの例を見てみよう。
・てんとう虫 — アブラムシを食べる
・コウモリ — 虫全般を食べる
・フクロウ — げっ歯類(ネズミなど)を食べる
・羊 — 雑草を食べる
・ハヤブサ — 害鳥を追い払う
彼らの働きは想像以上に大きい。例えば、1匹のふくろうは自分とヒナの分を合わせて、1シーズンで1000匹ものネズミを捕まえるという。また、ハヤブサについては鳴き声のテープをかけるだけでも害鳥を追い払う効果があるそうだ。
今や、カリフォルニアにおいては、ぶどう畑のど真ん中にふくろうやコウモリ用の巣箱がある光景を当たり前に見られるとのことだ。
太陽光と風力の利用
「節電」というのもサステナブルの大きなキーワードの1つだ。多様な方法で電力を確保することは、醸造設備の安定化にもつながる。
そのため、ぶどう畑の横に大きなソーラーパネルが広がっていたり、醸造所の屋根がソーラーパネルになっていたりするワイナリーが増えてきているそうだ。
また、ぶどう畑は山麓に広がることが多いため、風力も大きな味方となる。
水の確保と灌漑設備
電気の節約と同様に、「節水」も大切なキーワードとなっている。
カリフォルニアの地中海性気候下でぶどうを育てるには、5~8月の生育期に、5~7日に1度、1haあたり25mプール約4杯分の水が必要になる。
できるだけ効率的にこれだけの水を確保するために、ドリップ式の灌漑設備を導入している農家が多い。
<ドリップ式灌漑のメリット>
・何本かに分けた灌漑を引いておけば、必要なところだけ注水することができる
・水の蒸発が少ない
・コントロールが簡単
・水分や養分が流出しない
しかし、当然のことだが設備の初期投資は莫大な額となる。また、設置や設定のために知識を持つ者が欠かせない。さらには、いざ運用を開始した後に目詰まりを起こすリスクがあるため、定期的なメンテナンスが必要だ。
では、ドリップ式灌漑のほかに節水に関連する方法を見てみよう。
「ウォーターストレス」
これは、意図的に水を足りない状態にし、ぶどうにストレスを与えることで、以下のような成果を引き出そうという目的で行われる。
・水が足りないと枝がゆっくり成長するため、果実にエネルギーが集まる
・果粒の大きさが小さくなるため、旨味が凝縮する
・果皮の果汁に占める割合が上がるため、色が濃くなり、タンニンも増える
このほか「ドライファーミング」と言って、ぶどうの生育期に灌漑を行わない方法もある。しかし気候が乾燥しすぎた場合、ぶどうがレーズン化してしまう可能性があること、収量が非常に低くなること、土壌が向いていないと難しいことなどから、リスクの高い方法と言われている。
「リサイクル」、「リユース」
ワイナリーではさまざまな物のリサイクルが試みられている。
まず「ワイナリーならでは」と言えそうなのが、絞りかすやオリ、濾過材、瓶や樽、コルクのリサイクルだ。
特に大切なのが水のリサイクルになる。ワイナリーではさまざまな設備を洗浄するため大量の水を使用する。使用後の水は、固形物を除去して、有機物質も取り除き、さらにはフィルター濾過を経てからリサイクルする。
排水口から直接リサイクル設備へ流れ込ませ、ほぼ100%が再利用されるというから驚きだ。
このように、カリフォルニアでは州を挙げて「サステナブルなワインづくり」に取り組んでいる。日本においても、サステナブルであることが評価される時代は、もうすぐそこまで来ているのかもしれない。