INDEX
- ワインのペアリングと甘口ワインの特性
- ワインと和食の6種のペアリング
- 「シャトー・ロレット2016」(AOPサント・クロワ・デュ・モン)×柚子豆腐・クリームチーズ・東京べったら漬け(わさび風味)
- 「シャトー・ド・マルサン2015」(AOPプルミエ・コート・ド・ボルドー)×びんちょう鮪のアイエソースかけ 林檎のガリ添え
- 「シャトー・レ・トゥレル 2015」(AOPカディヤック)×帆立貝と蒸し無花果・胡麻甘味噌だれ
- 「シャトー・シガラ・ラボー No.5 2017 」(AOPボルドー・モワルー)×地鶏胸肉焼と雲丹・醤油風味
- 「シャトー・ユラダン 2015 」(AOPセロンス)×フランス産セップ茸と湯葉のグラタン
- 「シャトー・ルーピアック・ゴティエ 2017」(AOPルーピアック)×白もろこし寄せ・はちみつ風味の干し柿添え
- 無限の可能性を秘めた甘口ワイン
2019年11月8日、東京・丸の内の東京ステーションホテルで、「スイートボルドー」に限定したマスタークラスが開催された。
「ソーテルヌ」という甘口ワインの一大産地を抱えるボルドー。だが、甘口=デザートワインと捉えられることも多く、それがスイートボルドーの可能性を狭めてしまっている面もあるという。今回は、6種類のスイートボルドーを和食とペアリングさせるという試みにチャレンジした。銀座「ロオジエ」のソムリエ・井黒卓氏の解説になぞらえ、ペアリングのポイントとワインの味わいをご紹介する。
ワインのペアリングと甘口ワインの特性
「同調系」と「対象系」、2つのペアリング方法
ペアリングには、大きく分けて2つの方法がある。1つは、「同調系ペアリング」だ。これは、料理の味わいのうちの「五味」のどれかに、ワインの味わいの一部を同調させることで、味わいの相乗効果をもたらすという。もう1つは「対称系ペアリング」で、料理にない味わいをワインで加えるというもの。「同調系」に対し、「対象系」は挑戦的なペアリングだが、うまく成功した場合はゲストの心に大きな印象を残すことができる。
どんな脂質にも合わせられる甘口ワイン
また、料理にあってワインにないものは「脂質」だ。しっかりと脂質の感じられる料理には重めのワイン、脂質の少ない軽やかな料理には爽やかな辛口ワイン、といったように、料理に合わせてワインのボリューム感や味わいを選ぶのが基本とされる。一方で、甘口ワインの強みは、どんな脂質の料理にも万能に合わせられるといったところ。同時に、スパイシーな料理にも合わせられる、数少ないワインでもある。
ワインと和食の6種のペアリング
「シャトー・ロレット2016」(AOPサント・クロワ・デュ・モン)×柚子豆腐・クリームチーズ・東京べったら漬け(わさび風味)
ペアリングの方法にはいくつかあるが、「風味・質感を合わせる」というものがある。こちらの料理には、クリームチーズや珍味豆腐が使われているが、それらのまろやかな質感と甘口ワインの質感が見事にリンク。また、柑橘の風味がわさびの爽やかさと調和し、バランスが取れている。
「シャトー・ド・マルサン2015」(AOPプルミエ・コート・ド・ボルドー)×びんちょう鮪のアイエソースかけ 林檎のガリ添え
このワインは、日照の良い地域で育ったぶどうを使い、フレッシュに仕上げた“やや甘口”なスイートボルドーだ。新鮮な魚介類は、実は、甘口ワインとの相性がとても良い。料理で使われているびんちょう鮪などには、貴腐の付いた重みのある極甘口のワインより、爽やかさのあるワインの方が調和が取れる。ただし、魚介が少しでも古くなると、ワインが生臭さを助長するので要注意だ。
「シャトー・レ・トゥレル 2015」(AOPカディヤック)×帆立貝と蒸し無花果・胡麻甘味噌だれ
ワイン漫画『神の雫』に取り上げられてから、大変話題になったワイナリー。なんと、他のワイナリーに先駆け、70年ほど前から環境保護に取り組んできたこともあり、とても健康的なぶどうが実る。ワインの味わいは大変濃厚だが、帆立貝のうま味、イチジクの自然で優しい甘みをワインが優雅に包み込む。胡麻味噌だれは炒りゴマの香ばしさが立つが、この香ばしさとワインの凝縮感がリンクする。
「シャトー・シガラ・ラボー No.5 2017 」(AOPボルドー・モワルー)×地鶏胸肉焼と雲丹・醤油風味
ソーテルヌの最高峰「シャトー・ディケム」のすぐ近くに畑を持つメゾン。甘口ワインには珍しく、サンスフル(亜硫酸を使用しない無添加ワイン)をつくっている。アンズやキンモクセイといったかぐわしい香りが広がる「やや甘口」で、フィニッシュに苦味も感じる味わいだ。この苦味が、料理に使われるウニと同調する。なお、亜硫酸が少ないワインの方が料理の生臭みを目立たせないため、サンスフルはウニなどの魚介にぴったりとのことだ。
「シャトー・ユラダン 2015 」(AOPセロンス)×フランス産セップ茸と湯葉のグラタン
産地の特徴として、香りの中に明確なキノコやラノリンのニュアンスが感じられる。ワインのつくり方としても非常にクラシックで、土っぽさの感じられる味わいだ。こういった“食材を選ぶワイン”は、ピンポイントで合わせるのが正解。セップ茸が豊かに香る、クリーム感のあるグラタンに合わせ、相乗効果抜群のペアに仕立て上げた。
「シャトー・ルーピアック・ゴティエ 2017」(AOPルーピアック)×白もろこし寄せ・はちみつ風味の干し柿添え
このワインは万能選手で、今回のペアリングのどの食材にも合わせられるポテンシャルを持つ。甘み、酸味、苦味、全てが高いレベルで調和しているため、ペアリングに強い。味わいは、あんぽ柿のようなジューシーな果実味とレモングラスの爽やかなニュアンスを持つ。裏ごししたトウモロコシの滑らかな食感、干し柿の凝縮したうま味を引き立て盛り上げる、抜群の組み合わせだ。
無限の可能性を秘めた甘口ワイン
このように、デザートとともにいただく食後酒にかぎらず、料理とともに味わうアペリティフとしての甘口ワインには、無限の可能性がある。ソムリエの間では「デザートワイン」という呼び方はやめ、「スイートワイン」あるいは今回のように「スイートボルドー」と呼び、料理と積極的に合わせていこうという流れがある。また、氷を入れたり、カクテルベースにしたり、さまざまな楽しみ方があるべきではないかと考えられるようになっている。
枠にとらわれず、自由に甘口ワインを楽しむ時代が到来したのは、喜ぶべきことだろう。