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日本ソムリエ協会(JAPAN Sommelier Association:J.S.A.)が認定する「J.S.A.ワインエキスパート(ワインエキスパート)」は、職業に関係なく、20歳以上であれば受験できるワイン愛好家のための資格だ。
この記事では、ワインエキスパート資格試験の詳細や受験内容、勉強方法などを紹介していく。
ワインエキスパート呼称資格認定試験とは
1年に1度実施されるワインエキスパート呼称資格認定試験には一次と二次がある。一次試験の内容はワインのプロのための資格「J.S.A.ソムリエ(ソムリエ)」とほぼ同じ。さらに二次試験にはテイスティングがある。
つまり、ワインエキスパートの資格を持っていれば、ソムリエと同等の知識があり、ワインを分析するテイスティング力があることを証明することができる。
愛好家向けとはいえ、2019年度の合格率は4割程度にとどまっており、簡単に合格できる試験ではないので、しっかりと勉強や準備をしておくことが必要だ。
ソムリエとの違い
ワインエキスパートとソムリエとの違いは3つある。
●受験資格
ソムリエは、アルコールを提供するレストランなどの飲食店やアルコールを販売するお店などに勤めている、プロのための資格だ。受験するには、ワインやアルコールに関連する職務を3年(日本ソムリエ協会の会員は2年以上)経験し、第一次試験基準日である2020年8月31日時点において同職務に従事している必要がある。
●二次試験の内容
どちらの資格も二次試験で5種類をテイスティングするのは同じだが、内容が異なる。ソムリエはワイン3種類とその他アルコール2種類、ワインエキスパートはワイン4種類とその他アルコール1種類が対象となる。
ワインの解答で問われるのは、外観、香り、味わいなどの表現と、生産国、品種、収穫年、適したグラス形状、供出温度帯、デキャンタージュの有無(赤ワインのみ)。解答は全て選択式となっている。
また、ソムリエには20分の論述試験があるが、ワインエキスパートにはない。
●三次試験の有無
ソムリエは、三次試験としてワインの開栓およびデキャンタージュを行うサービスの実技試験が実施されるが、ワインエキスパートに三次試験はない。
ワインエキスパート資格を取得するメリット
ワイン愛好家がワインエキスパートの資格を取得するメリットは、主に3つある。
1つは、試験勉強を通してワインの知識を深められること。幅広いワインの生産地やワインの種類について詳しくなれるので、新しいワインに興味を持ったり、レストランでワインを選んだりする楽しみが広がる。また、人の好みに合わせてワインを選ぶという楽しみ方もできる。
2つ目は、日本ソムリエ協会が提供する有資格者向けのセミナーに参加できること。2019年には「ヴィーニョ・ヴェルデの多様性」「カリフォルニアワインの『今』と料理とのペアリング方程式」「シャブリ/Chablis ワインと和食の相性」「シャンパーニュの伝統と今」などのセミナーが開催された。同協会の正会員であり、有資格者であれば無料で参加できる催しも多い。資格を取れば終わり、ではなく、取得後にも知識を深める機会を得られるのがメリットだ。
3つ目は、初心者向けの検定である「ワイン検定」の講師になれること。ワイン検定は、ブロンズクラスが年に3回、シルバークラスが年に1回開催されるが、ワインエキスパート有資格者は、検定試験前に実施される講習会の講師を務めることができる。ワイン初心者にワインをさらに好きになるきっかけを提供したり、人に教えることで自分自身のワインの知識を深めたりできる。このメリットは、ソムリエの資格者には認められておらず、ワインエキスパートの特権といえる。
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ワインエキスパート資格認定試験の概要と受験までの流れ
2020年の受験日程
【出願期間】
2020年3月2日(月)10時~7月15日(水)18時まで
【一次試験】
日程:2020年7月20日(月)~9月6日(日)
受験会場:全国に約250カ所ある会場の中からWebで予約
【二次試験】
日程:2020年10月12日(月)
会場:札幌、盛岡、仙台、東京、長野、金沢、名古屋、京都、大阪、神戸、岡山、広島、高松、福岡、鹿児島、沖縄
<関連リンク>
一般社団法人日本ソムリエ協会 呼称資格認定試験 Web出願
受験資格
ワインエキスパート認定試験は、職種や経験を問わず受験可能だ。また、ソムリエを受験する資格のある職業に就いているが、経験年数が受験資格に満たないという人も受験できる。ただし、一次試験基準日(2020年度は8月31日)までに満20歳以上である必要がある。
2020年度から一次試験免除制度が変更に
2020年度から、一次試験の免除制度が変更されている。一次試験に合格したものの二次試験が不合格だった人に対して、これまで「翌3年間」の一次試験免除期間が設けられていたが、2020年度からは「翌5年間のうち3回まで免除」となり、チャレンジできる期間が延びた。
該当職務での経験年数が足りずソムリエ資格試験を受けられない人で、自分のワインの知識を公的に裏付ける呼称を早く手に入れたい人は、先にワインエキスパート資格を取得しておくのもいいだろう。なお、過去5年間のうちにワインエキスパート試験に合格している人は、ソムリエの一次試験が免除となる。
受験までのSTEP1:出願
毎年3月から一次試験が始まる直前までWebでの出願を受け付けている。
出願には、写真の付いた有効期限内の身分証明書、ない場合は顔写真と健康保険証などの画像をアップロードする必要があるので、あらかじめ用意しておこう。また、出願時にはメールアドレスも必要となる。
受験料支払い完了とともに、出願内容に不備がないことが確認されてから、順次最新テキストが送付される。一次試験はこのテキストから出題されるので、申し込みは早めにした方がいいだろう。
受験までのSTEP2:受験料の支払い
受験料は受験回数によって異なる。ワインエキスパートは一次試験を2回まで受験可能だ。
[2020年度の受験料(税込)]
1回受験 J.S.A.正会員/賛助会員:2万380円、一般:2万9600円
2回受験 J.S.A.正会員/賛助会員:2万5220円、一般:3万4440円
出願と同時にJ.S.A.に入会して正会員になれば、入会金(1万円)が半額となり、受験料も会員価格となる。年会費は1万5000円だ(初年度の会費は入会月によって異なる)。
なお、一次試験免除で二次試験から受ける人の受験料は、正会員/賛助会員が7300円、一般は1万4210円となっている。
受験料の支払い方法は、クレジットカード払い、コンビニエンスストア払い、ATM(ペイジー)決済が選べる。
受験までのSTEP3:会場予約
一次試験を受ける会場は、全国に約250カ所ある会場の中からWebで予約する。予約の受付開始期間は出願日によって異なる。2020年度は6月1日以降に出願すると、予約できる試験日が7月31日以降となってしまい、選べる日程が少なくなるため、やはり出願は早いほうが良さそうだ。
一次試験詳細
時間:70分
問題数:120問
形式:多肢選択式
持ち物:顔写真付きの公的な身分証明書、筆記用具
受験票:なし
合否判定:試験終了直後
CBT方式とは
2020年度の一次試験の期間は7月20日~9月6日。同じ日に全国一斉に実施されるわけではなく、受験者が希望会場と日時を予約して受験する。一次試験は、2回受験が可能なので、「1回目の問題を覚えていたら受かるんじゃないか」「先に受験した人に問題を聞いたとしたら……」と考える人がいるかもしれないが、残念ながらそうはいかない。
一次試験に採用されているCBT(Computer Based Testing)方式とは、国家試験などでも採用されている試験方式で、会場のコンピュータに表示された問題に対して解答するものだ。数千の問題の中からランダムに抽出された120問が出題されるので、1回目と2回目の問題が全て異なることもあり得る。
これまでの問題では必ず出ていた範囲が全く出ない可能性もあり、ヤマを張れない方式だ。合格するには、試験範囲の知識をまんべんなく深める必要がある。運が悪いと、問題が苦手な分野ばかりだったということもあるため、救済措置として2回受験が選べるようになっているともいわれる。
一次試験の出題範囲
一次試験は、最新版の「日本ソムリエ協会教本」に基づいて出題される。細かい数字や表現が改訂されることがあるので、必ず最新版をチェックしよう。年度によっては産地や国が追加されていることもある。
2020年度の主な内容は以下の通りだ。
・ワイン概論(ワインとは、ぶどうの栽培、ワインの醸造など)
・酒類飲料概論(ワイン以外のアルコール飲料やミネラルウォーターについて)
・各国解説(26カ国)
・テイスティング
・料理、チーズ
・ワインの購入、保管、熟成、販売
・ソムリエの職責とサービス実技
・日本酒、焼酎
[国名一覧]
日本、南アフリカ、ドイツ、アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ブルガリア、カナダ、チリ、クロアチア、スペイン、アメリカ、フランス、ジョージア、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、ルクセンブルク、モルドバ、ニュージーランド、ポルトガル、ルーマニア、イギリス、スロヴェニア、スイス、ウルグアイ
二次試験詳細
ワインエキスパートの二次試験は、ソムリエの試験と同一日時に行われる。2020年は10月12日が試験日となっている。
時間:50分
問題数:5種類(ワイン以外のテイスティング含む)
持ち物:受験票、筆記用具
合否判定:後日、同協会Webサイト上で合格者の受験番号を発表。また、特定記録郵便にて結果を通知
二次試験の出題内容
ワインエキスパートの二次試験は、ワイン以外の酒類を含む5種類をテイスティングする。
2019年度は、ワイン4種類(白2種、赤2種)とその他酒類1種類として紹興酒が出題された。国際規格のテイスティンググラスにて提供される。
テイスティングをしたワイン4種類については、以下の内容が問われる。選択肢から選び、マークシート方式で解答する形式だ。
【問われること】
・外観
・香り
・味わい
・評価
・適正な温度
・適正なグラス
・デカンタージュの必要性(赤のみ)
・収穫年
・生産国
・主なぶどう品種
「品種や地域を間違えたら必ず不合格」というわけではなく、その他の部分で取り返すことも可能なので、分からなかったり、迷ったりしても焦る必要はない。
その他酒類については、テイスティングしたお酒が何かを選択肢から解答する。
過去3年間の受験者数と合格率
[2019年]
受験者数:3249人
合格者数:1437人
合格率:44.2%
[2018年]
受験者数:3214人
合格者数:1054人
合格率:32.8%
[2017年]
受験者数:3174人
合格者数:1051人
合格率:33.1%
ワインエキスパートの認定者は、2019年までの累計で1万7112人。そのうち1万27人を女性が占めている。
また、過去5年間の試験を見てみると、一次試験の平均合格率は45%。二次試験は74%と一次試験に比べると高いが、油断は禁物だ。
試験合格後の流れ
合格者が、ワインエキスパートの認定を受けるには、登録手続きが必要だ。2020年度の資格認定登録料は2万950円(税込)。手続きが終了すると、認定証と認定バッジ、認定カードが送付されてくる。
日本ソムリエ協会への入会は必須ではないが、同協会会員の有資格者は参加無料というセミナーも多数開催されているので、資格取得をゴールとせず、そこからさらに知識を深めたいという人には、入会をおすすめする。
合格するための勉強法は?
ワインエキスパートは、毎年受験者の半分以下しか合格しない難関資格だ。「できれば一発で合格したい、でもどうやって勉強したらいいのか分からない」という人は、次の方法を参考にしてほしい。
スクールに申し込む
一次試験の出題範囲は、出願すると送られてくるテキストの内容のみ。テキストは非常に分厚く、情報量も多い。テキストを読み込んで、完全に覚えてしまえば確実に合格できるのだが、なかなかそれは難しい。
数千もの問題からランダムに出題されるCBT試験は、ヤマを張りにくい方式だが、それでも出題の可能性が高い項目と低い項目がある。時間がない場合や効率良く合格を目指す場合には、出やすい項目を絞って覚えることが重要だ。
ワインスクールのワインエキスパート受験対策講座は、出題されやすい項目を絞り込んだ授業内容になっている。また、テキストには載っていない写真を見せてくれたり、覚えるコツを教えてくれたりと効率良く勉強が進められる。二次試験の対策が同時にできるのもポイントだ。
スクール選びでは「合格実績」を目安にする人も多いと思うが、「テイスティングできるワインの数」も大事な要素となる。また、「授業が振り替えられるか」「オンライン受講システムがあるか」など、休んだ場合の対応方法や通いやすさなどを参考にするといいだろう。
「一次試験は自分で勉強できそうだけど、二次試験は自信がない」という人は、二次試験対策講座のみを受講するという方法もある。
なお、残念ながら、ワインエキスパート資格は教育訓練給付金制度の給付対象ではない。
問題集を何冊も解く
数多くの問題集を解けば、どの項目が出やすいのかが絞られてくる。問題を解いて、分からなかったところをまとめて、また問題を解く……。それを最低3回は繰り返すのが効果的だ。
テキストを完全にまとめ上げ、その後で問題集に取り組むというよりは、テキストを読んだ後に問題を解きながらテキストの内容を効率的に覚えていくイメージだ。CBT方式の試験対策としては、たくさんの問題を解くことが重要になってくるため、問題集も「短期間でマスター」というものより、問題数が多いものの方が良い。
過去問題に取り組んだ方がいいのは、スクールに通っている人も同じだ。スクールに通うことで満足するのではなく、問題集を繰り返し解いて、自分の苦手な項目やあいまいな部分をなくしていくといいだろう。
スマートフォンで隙間時間に勉強する
ワインエキスパートのテキストは大きい(2020年度版は厚さ約3cm、重さ約1.7kg)ため、持ち運びにはあまり向いていない。ただし、電子版付きの教本もあり、スマートフォンやタブレットで「Actibook」というアプリをインストールすることで、電子版をダウンロードできる。ダウンロード後はオフラインで利用できるため、電車の中や隙間時間にテキストを読み進めることが可能だ。なお、PCで閲覧するHTML版はダウンロードができないため、閲覧する際はその都度サイトにログインする必要がある。
また、ワインエキスパート(ソムリエ)試験対策のスマートフォンアプリなどもあるので、活用するといいだろう。
二次試験の対策も忘れずに!
ワインエキスパートの二次試験対策としては、ワインの外観のどの部分を見るのか、香りの表現にはどのようなものがあるのか、味わいはどう表現していくのか、などを知っておく必要がある。
テイスティングの基礎ができていない状態であれば、スクールの二次試験対策講座を受けてみよう。プロから基礎を教えてもらえること、複数のワインを一度に飲み比べできることがメリットだ。二次試験対策講座は全3回など短期間で終了するものもあるので、多少スクールが遠くても通ってみてはいかがだろうか。
自宅でテイスティングをする場合、さまざまな産地や品種のワインをそろえて飲み比べるのは難しい。そこでおすすめしたいのが、テイスティング試験対策用のワインセットだ。ワインショップやネット通販などで購入できる。
日ごろから二次試験対策を意識して自宅で飲むワインを選ぶなら、単一品種のものを選んでテイスティングノートを付けてみるのもいいだろう。飲んだワインの記録にもなるので、楽しみながら無理なく続けられる。また、飲んだワインを写真で管理できるアプリもおすすめだ。
二次試験では、国際規格のテイスティンググラスが使用される。スクールに通わない人は、自宅で使ってみて、一般のワイングラスと味や香りの感じ方がどう変わるかを確認しておくと良い。東京・台東区のかっぱ橋道具街やネットショップで購入可能だ。ただ、6脚1セットで販売されていることが多いので、スクールなどでテイスティンググラスを使う機会がある人は、無理に購入する必要はないだろう。
また、二次試験ではワイン以外の酒類も出題される。出題される可能性のある酒類は多数あるので、早くから対策しておく必要がある。スクールで効率良く学んでもいいし、行きつけのバーがある人はマスターに協力をお願いしてみよう。
過去5年間の二次試験の平均合格率は74%。一次試験と比べると高いものの、4人に1人は不合格になる計算なので、二次試験の対策もしっかりとやっておきたい。
体調管理も大事
体調を崩すと集中力が低下するので、一次試験は万全の体調で臨むようにしよう。また、体調が良くないときは、味覚や嗅覚にも影響を与えてしまう。1日しかない二次試験の前は、体調をしっかり整えておきたいものだ。
1年に1度のワインエキスパート呼称資格認定試験。合格率は決して高くなく、ワイン愛好家にとってはチャレンジしがいのある試験だ。試験勉強を通して、ワインの知識の幅だけではなく、ワインの選択肢も広がる。また、ワイン仲間が増える、日常がより豊かになる、世界的なコミュニケーションツールとして有意義(ワイン好きは世界共通)、接待など仕事での有効利用の機会も多い、といったようにさまざまなメリットがあるため、興味のある人は挑戦してみてはいかがだろうか。
【監修】
石田 充(イシダ ミツル)
株式会社シャルパンテ VINOSITYグループ統括ソムリエ
ワインスクールシャルパンテカレッジ主任講師
日本ソムリエ協会認定シニアソムリエ
東京神田のワインバル『VINOSITY(ヴィノシティ)』グループに勤務。ワインスクール講師も担当しており、日々ワインの魅力を1人でも多くの方に広めるため、幅広く活躍中。