コラム

日本人ワインメーカーが語る、カリフォルニア注目の産地「ウェスト・ソノマ・コースト」 ~CWIウェビナー:Behind The Wines

カリフォルニアワイン協会では、イレイン・チューカン・ブラウンさんがホストを務めるウェビナー「Behind the Wines」を2020年4月初旬より実施している。

ワインライターやワインエデュケーターとして活動しているブラウンさんは、2019年にワイン・インダストリー・ネットワークが選んだ「ワイン界で最も影響力のある9人」の1人に選出された人物だ。さらに、2019年と2020年の2年連続で、インターナショナル・ワイン&スピリッツコンペティション(IWSC:IWC)による「年間最優秀ワイン・コミュニケーター」の最終候補者にも選出されている。

日本特別版「Behind the Wines」

Behind the Winesでは、毎回、カリフォルニアを代表するワインメーカーをゲストに迎えている。2020年4月29日には、フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリーのアキコ・フリーマンさんをゲストに迎えた日本特別版「Behind the Wines【ビハインド・ザ・ワインズ ~ワインの裏側~】」が開催された。

アキコ・フリーマンさんとは

今回のゲストであるアキコ・フリーマンさんは、カリフォルニアでワイナリーと畑を所有する唯一の日本人オーナーであり女性醸造家だ。2001年に家族と共にフリーマン・ヴィンヤード&ワイナリーを設立し、2009年からはフリーマンの醸造責任者を務めている。

フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリーは有機農業を基本とし 、最高のピノ・ノワールを使ったエレガントなワインを手掛けている。2015年4月には、当時のバラク・オバマ大統領が安倍晋三首相を招いたホワイトハウス公式晩餐会で、フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリーの2013年ヴィンテージ「涼風 シャルドネ」が供されたことで注目を集めた。

ブラウンさんは、アキコさんのことを「アキコは、畑づくりから醸造まで手掛けている素晴らしい生産者。カリフォルニアでも貴重な存在だ」と紹介した。

ソノマ・カウンティの新AVA「ウェスト・ソノマ・コースト」

カリフォルニア州は、アメリカのワイン生産の中心地だ。ワイン産出カウンティの分布は以下のようになっている。

フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリーは、カリフォルニア州北部ソノマ・カウンティ(郡)のロシアン・リバー・バレーAVAの中にある、グリーン・バレー・オブ・ロシアン・リバー・バレーAVA(グリーン・バレーAVA)に位置する。 AVAとは、アメリカワインの品質を管理するために制定された、アメリカ政府認定のぶどう栽培地域の総称だ。

現在、ソノマ・カウンティの中でも海側のエリアを、ウェスト・ソノマ・コーストAVAとして新たに申請している。フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリーのあるグリーン・バレーAVAも気候などで類似点が多いことから、ウェスト・ソノマ・コーストAVAへ仲間入りしようと動いている。

ウェスト・ソノマ・コーストAVA部分をクローズアップした画像がこちらだ。

ウェスト・ソノマ・コーストAVAは、太平洋にとても近く、標高が高い山の上にあるエリアだ。険しい斜面にレッドウッド(セコイア)の森が広がっており、畑を切り開くのが大変な環境だが、良いぶどうができる。

ウェビナー開催時点で、既に新しいAVAとして申請されており、新型コロナウイルス感染拡大の影響で遅れているが、間もなく認可されると見込まれている。

新AVAが必要な理由

ウェスト・ソノマ・コーストAVAを誕生させるために、地域にある6ワイナリーが要望を出したのは10年ほど前のこと。その動きは徐々に広がり、今では25ワイナリーがグループに参加している 。

現在、このエリアはソノマ・コーストAVAに該当する。しかし、ソノマ・コーストAVAはとても広く、海の影響を受けにくい内陸の地域も含まれている。しかもウェスト・ソノマ・コーストAVAは山が険しく、さまざまな土が混じり合う複雑な土壌の地域だ。気候や土地の個性が異なるために、同じソノマ・コーストAVAといっても味にも違いが生まれる。

ウェスト・ソノマ・コーストAVAでは、収穫できるぶどうの量は1エーカー当たりで2トンほど。海から離れた内陸の地域では、1エーカー当たり5~6トンが収穫できることを考えると、いかに厳しい条件下で手間をかけてぶどうづくりに取り組んでいるかがうかがわれる。

フリーマンが手掛ける2つのヴィンヤード

フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリーでは、2つのヴィンヤードを所有している。新たなAVAとして申請中のウェスト・ソノマ・コーストの南部に位置するユーキ・ヴィンヤードと、グリーン・バレーAVAにあるグロリア・ヴィンヤードだ。

ウェスト・ソノマ・コーストAVAは、南の方にいくほど「ペタルマ・ギャップ」と呼ばれる、海から内陸に向かう冷たい空気の通り道の影響を受ける。冷たい空気はグリーン・バレーAVAも通るので、どちらのヴィンヤードも気候的に近いエリアにあるといえる。また、ヴィンヤード同士の距離も非常に近い。

アキコさんはこの土地に出会うまでに、3年ほどさまざまな畑を見たり、ワインメーカーに会ったりしてきたという。エレガントなワイン、そして最高のピノ・ノワールをつくれる場所としてたどり着いたのが現在のエリアだ。

ユーキ・ヴィンヤード (ソノマ・コーストAVA)

ユーキ・ヴィンヤードは、標高約300mの山の上にあり、海から8kmほど離れた風の強いエリアに広がっている。土壌は砂や粘土質、溶岩などが混ざり合っており、1つの畑に違う土壌が存在しているという。周囲を囲むレッドウッドの森が畑を守り、ぶどうの収穫は安定している。

この地にぶどうが植えられたのは2007年のこと。畑を切り開くには許可が必要だが、ユーキ・ヴィンヤードを始めた後に、傾斜の大きい急斜面の土地には新しくぶどうを植えてはいけないという規則ができた。レッドウッドの森を保護し、伐採による土砂崩れの危険を防ぐための規則だ。そのため、現在では同じ条件の畑を新しく切り開くことは難しい。

ユーキ・ヴィンヤードの一部は、1860年から羊の放牧のために森が切り開かれていた土地。畑の許可が下りた理由の1つに、新しく木を切らなくてもよいという点もあっただろうと、アキコさんは説明している。

グロリア・ヴィンヤード(グリーン・バレーAVA)

グロリア・ヴィンヤードは、標高約120mの丘にある。ユーキ・ヴィンヤードと比べて1日当たりの日照時間が1~2時間ほど長く、ぶどうはしっかりと太陽を浴びて育つ。ユーキ・ヴィンヤードよりも暖かい内陸にあるため、より果実味の豊かなピノ・ノワールを収穫できるという。ぶどうが植えられたのは、ユーキ・ヴィンヤードより1年早い2006年だ。

ロシアン・リバー・バレーAVAよりも冷涼な地域であり、ウェスト・ソノマ・コーストAVAとの類似点も多い。アキコさんは、将来的にはグリーン・バレーAVAの生産者たちを説得して、ウェスト・ソノマ・コーストAVAに合流してほしいと考えているそうだ。

アキコさんおすすめのワイン5本

今回のウェビナーでは、フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリーの土地の個性を味わえる2本とワイナリーのこだわりが感じられる1本、そして、ウェスト・ソノマ・コーストAVAの2ワイナリーからそれぞれ1アイテムが紹介された。

フリーマン ユーキ・エステート ピノ・ノワール ソノマ・コースト 2016

Freeman Estate Yu-Ki Pinot Noir Sonoma Coast 2016

アキコさんによると、このワインは「ローストしたお茶のような感じだ」と表現されることが多いという。塩のミネラル感や昆布だしのうま味があり、しょうゆに合う1本だとのこと。ブラウンさんも、「うま味のあるピノ・ノワールなので、ネギみそと軽く火を通したサーモンとの相性は抜群」とコメントしていた。

フリーマン グロリア・エステート「輝」ピノ・ノワール グリーン・バレー・オブ・ロシアン・リバー・バレー 2016

Freeman Gloria Estate Pinot Noir Green Valley of Russian River Valley 2016

「赤いフルーツ感や、ミカンの皮をむき始めた時に広がるかんきつ系の香りがある」とアキコさん。ブラウンさんは「こちらもエレガントで、エネルギーやうま味を感じる。ユーキ・ヴィンヤードのワインと比べると、よりフルーティだ」と解説した。

フリーマン アキコズ・キュヴェ ピノ・ノワール ソノマ・コースト 2016

Freeman Akiko’s Cuvée Pinot Noir Sonoma Coast 2016

「アキコズ・キュヴェ」は、2つのヴィンヤードのいいとこ取りをしたシリーズ。

2つの畑にはいくつか異なるピノ・ノワールのクローンを植えている。クローンとはぶどうの家系のようなもので、同じピノ・ノワールでも、土地が違えばできるぶどうの特徴も違うそうだ。

クローンごとに畑に植えて、収穫もクローンごとに行う。さらに、発酵や熟成もクローンごとにしている。熟成に使うフランス産オーク樽も5社の樽を使用しており、同じワインでも違う樽に入れて熟成させると、違う味わいのワインが出来上がる。

出来上がったワインの中から、良い味わいの15~20樽を厳選。その年の特徴が出ているワインをつくったのがアキコズ・キュヴェだ。

このワインを味わったブラウンさんは、「骨格自体はユーキの畑から来ていると思う。赤い果実やうま味、だしの風味が1つのワインに溶け込んだ素晴らしいワイン」と表現した。

リトライ ピヴォット・ヴィンヤード ソノマ・コースト ピノ・ノワール 2017

Littorai Wines The Pivot Vineyard Sonoma Coast Pinot Noir 2017

リトライ・ワインズは、ウェスト・ソノマ・コーストAVAの発起人となったワイナリー6社のうちの1つだ。ビオディナミ農法によるワインづくりを行っている。

アキコさんは、ワインづくりを始める前に、リトライのワインを飲んで感動したのだという。控えめだがエレガントであり、エイジングすることで化けるワインを手掛けているとのこと。

ペイ エステイト ピノ・ノワール スキャロップ・シェルフ 2014

Peay Vineyards Pinot Noir Estate Scallop Shelf 2014

ペイ・ヴィンヤーズもウェスト・ソノマ・コーストAVA発起人となったワイナリーの1つ。ウェスト・ソノマ・コーストAVAの北部にあるアナポリスでつくられており、うま味があって明るさを感じられ、フローラルな香りもするワイン。日当たりの良い広い畑でさまざまな種類のぶどうを生産しており、面白いワイナリーだとのこと。

アキコさんが今回紹介してくれたワイン5本について、ブラウンさんは「軽やかなのに凝縮感があり、骨格があって均整の取れたワインだということが共通している。長い余韻があり、味わいもしっかりとしている」と解説。アキコさんが「そういうワインをつくりたくて、私たちはこの土地でワインづくりをしているのだと思う」と強調し、今回のウェビナーは終了した。

カリフォルニアの中でもさまざまな個性のあるワイン。ブラウンさんは、特にカリフォルニアのピノ・ノワールについて「海に近いほどうま味があり、内陸に行くほどフルーツ感や重みが出てくる」と説明した。

今は旅行するのも難しいが、オンラインショップでカリフォルニアワインを購入して各地の味の違いを実感し、ちょっとした旅気分を味わってみるのも楽しいかもしれない。

アキコさんの穏やかな語り口と、ブラウンさんとアキコさんとのやり取りから、お互い信頼関係があることが伝わってくるウェビナーのアーカイブ動画は、YouTubeで視聴できる。

<関連リンク>
Behind the Wines – Japan Special Edition【ビハインド・ザ・ワインズ ~ワインの裏側~】日本向け特別編 アキコ・フリーマン

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ