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大手ワインメーカーであるメルシャンは、「シャトー・メルシャン」として国内外から評価される日本ワインを提供するほか、海外原料を使用して日本の食卓に合った国内製造ワインも精力的に生み出している。
神奈川県藤沢市にある「メルシャン藤沢工場」は、同社が新しい国内製造ワインをリリースする際に、アピールポイントとしてよく登場する工場だ。
2020年9月24日に行われた「メルシャン藤沢工場&デイリーワイン」オンライン見学会から、その魅力を探っていこう。
日本のワイン市場をけん引してきた「メルシャン藤沢工場」
メルシャンの国内製造拠点には、日本ワインを製造するシャトー・メルシャンのワイナリーが3カ所(山梨県・長野県)と国内製造ワインを製造する藤沢工場(神奈川県)、そして焼酎を製造する八代工場(熊本県)がある。
製造拠点の1つである藤沢工場は、これまでさまざまなワインを生み出し、日本のワインブームや市場拡大をけん引してきた。日本のワイン市場にとっては“特別”な存在ともいえるが、その理由を見ていこう。
生産量日本一のワイン工場
意外に思うかもしれないが、日本で最も果実酒の生産量が多い都道府県は神奈川県だ。
その内の9割以上が藤沢工場でつくられているため、藤沢工場は日本一の生産量を誇るワイン工場だといえるだろう。メルシャン全体で見ても、酒類の約9割が藤沢工場で製造されている。
2020年で創業100周年
第一次世界大戦終了後の1920年に「大日本醸造株式会社」として設立された藤沢工場は、2020年で創業100周年を迎える。当時は米が貴重だったため、米を使わない合成清酒などをつくっていた。その後、時代の流れとともに合併を重ね、1990年に社名を現在の「メルシャン株式会社」に変更している。
高い技術力
手頃な価格で気軽に味わえるデイリーワインを製造している藤沢工場。約200人の従業員が、焼酎や梅酒などを含め、約630品目の製造を手掛けている。
日本初の民間ワイン会社「大日本山梨葡萄酒会社」をルーツに持つメルシャンは、品質の改善を重ねながら、日本国内でのワインの普及に努めてきた。国内にワイン文化を伝えていくため先代が積み重ねてきたワイン技術は、藤沢工場に受け継がれている。
「ブレンド技術」は、メルシャンが大切にしている技術の1つだ。藤沢工場でつくるワインは、いつでも同じ味わいにならなくてはいけない。しかし、ワインの味は、その年のぶどうの出来栄えや産地、つくり手が目指す味わいによって変わってきてしまう。いつでも同じ味わいのワインをつくるために必要なのが、高いブレンド技術だ。
それぞれの商品ごとに味わいをつくり出すレシピがあるものの、レシピ通りにブレンドしてみても、味が変わってしまうことがある。そんな味のぶれを抑えるブレンド技術が、藤沢工場の強みの1つだという。
藤沢工場でつくるデイリーワイン約100種類に使用する原料は、世界5大陸から調達した濃縮ぶどう果汁や海外で発酵させたワインであるバルクワインだ。藤沢工場で濃縮ぶどう果汁を発酵させてつくったワインをブレンドしてベースをつくり、そこに世界各国から選ばれた特徴的な風味のバルクワインを、スパイスのように加えて味わいをつくり出している。現在は2人の若手ブレンダーが、メルシャンの味を支えているそうだ。
また、メルシャンが求める味わいを理解した海外サプライヤーの協力も、年間を通じて安定した生産を可能にするためには欠かせないという。
元工場長・麻井宇介氏のこだわり
藤沢工場が、メルシャンのワインづくりのDNAを受け継ぐ工場だということは、その歴史を見るとよく分かる。
1979年から藤沢工場長を務めていたのが、「麻井宇介」のペンネームで知られる故・浅井昭吾氏だ。日本のワインづくりを主導した人物であり、その教えを受けた若手醸造家たち、「ウスケボーイズ」の姿を描いた物語は書籍化され、2018年には映画化もされている。
1972年以降の第一次ワインブームを経て、市場のニーズは甘口ワインから辛口ワインへと変わっていった。浅井氏は、当時コンコードやナイアガラといった甘口ワイン用のぶどう品種の産地だった長野県塩尻市の桔梗ヶ原地区で欧州系ぶどう品種導入の可能性を探り、桔梗ヶ原メルローの誕生に貢献。また、甲州が世界的に高い評価を受けるきっかけとなったシュール・リー製法技術を、山梨県勝沼の近隣ワイナリーに公開して広めるなどの功績を残している。
1972年の第一次ワインブーム後、ワイン市場は5年間で約5倍に成長。国産ぶどうだけでは需要に追い付かなくなっていた。原料を確保しないといけないという使命の中、よりリーズナブルな原料を海外に求め、「良いワインは良いぶどうから生まれる」という信念の下、浅井氏が目を向けたのがアルゼンチンとチリだ。
現地で技術指導を手掛ける
1976年、浅井氏は技術指導のためにアルゼンチンとチリに渡り、現地の技術員と共にぶどうの品種改良に着手した。
浅井氏が海外に注目し、海外から原料を調達し始めてから45年。現在でも現地とは良好な関係が続いており、質の良い原料を調達できているという。藤沢工場の概要説明をしてくれた技術課の福田崇氏は、「それがメルシャンの財産」だと語っていた。
「メルシャン藤沢工場」でつくられるワイン
藤沢工場でつくられているワインは約100種類。今回は、その中から藤沢工場の特徴が分かる4つのワインが紹介された。
それぞれのワインを見ていこう。
「ビストロ」&「ボン・ルージュ」
1995年に発売して以来、コスパが良いワインとして支持されてきたのが「ビストロ」(写真左)シリーズだ。濃縮果汁のポテンシャルを引き出すことをテーマに改良を重ねており、バルクワインに頼っていた要素を、濃縮果汁を発酵させたワインで表現することに成功している。
「ボン・ルージュ(赤)」(写真右)は、ポリフェノールを多く含んでいながら、最後までまろやかな味わいを楽しめるのが魅力のワインだ。ポリフェノール含有量を高くするには発酵期間を長くする必要がある。そうすると苦味成分であるタンニンもより多く出てきてしまうのだが、ポリフェノール抽出技術によりタンニンが抽出されることなく「苦くない」「渋くない」味わいが実現した。
「おいしい酸化防止剤無添加ワイン 厳選素材 プレミアム」
2003年に発売された「おいしい酸化防止剤無添加ワイン」シリーズは、酸化防止剤を使わずにつくられており、ぶどうそのままの味わいが楽しめるワインだ。なるべく自然なものを選びたいという需要に応えたシリーズとして人気が高く、同シリーズの無添加カテゴリーでの国内ワイン売り上げシェアは14年連続でNo.1(2006年4月~2020年3月実績/流通専門誌『ダイヤモンド・チェーンストア』調べ)となっている。
「おいしい酸化防止剤無添加ワイン 厳選素材 プレミアム」の赤にはチリ産のカベルネ・ソーヴィニヨンを、白にはオーストラリア産のシャルドネを使用。収穫から瓶詰めまで、徹底して酸素に触れさせないように管理しているのだという。収穫したてのぶどうをできるだけ素早く果汁にして濃縮させ、-18℃で凍結。その状態で日本に輸送し、冷凍保管している。
鮮度を保ったぶどう果汁は、味わいごとに最適な酵母や発酵条件を選定して日本で発酵。果実味や複雑な味わい、味の厚みをアップさせる芳醇製法でつくられている。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のための外出自粛により、「いつもよりちょっといいものを」「プチぜいたくをしたい」という、おうち時間を充実させたい消費者からの支持を受け、「おいしい酸化防止剤無添加ワイン 厳選素材 プレミアム」の2020年1月~8月の販売数量は前年比118%とアップしている。
オンライン工場見学
今回のイベントのメインは、なんといってもオンラインでの工場見学ツアーだ。東京ドーム約0.8個分の敷地面積を持つ藤沢工場の中から、今回は「おいしい酸化防止剤無添加ワイン 厳選素材 プレミアム」の製造工程が現地から伝えらえた。
「メルシャン藤沢工場 オンライン開放祭」を開催
藤沢工場の創業100周年、そして藤沢市制80周年を記念して、2020年11月1日にオンライン工場見学イベント「メルシャン藤沢工場 オンライン開放祭」が実施される。
当日は工場内部のオンライン見学の他に、藤沢工場の従業員である滝沢英昭氏監修のセミナー「ワインと食のマリアージュ会」や、ワインと和菓子・洋菓子とのマリアージュを提案するトークショー、メルシャン賞品が当たるオンライン抽選会などが楽しめる。
イベントの定員は500人だが、募集に対して6000人以上の応募があったそうで、関心の高さがうかがえる。
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コロナ禍の中、藤沢工場の従業員は、日々の体調管理やマスク着用、手洗いなどのスタンダード・プリコーション(標準予防策)に取り組んでいるという。「多くの従業員に支えられて、お客様にワインが提供できている」と、前述の福田氏はコメントしている。
メルシャンのイベントではいつも、ワインづくりを、そしてワインづくりに関わる人々を大切にしていることが伝わってくる。つくり手の顔が見える今回のオンライン工場見学会は、よりワインをおいしくしてくれそうだ。