カリフォルニアワイン協会(CWI)は、カリフォルニアワインについての知識を深めることを目的として、影響力のある若手ソムリエに現地のワイナリーを“バーチャル”で体験してもらう「カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー」を開催した。
ツアーは2020年11月19日・20日と同年12月3日・4日の2回に分けて実施され、ソムリエたちは、コンラッド東京(東京都港区)に設けられた会場から、ワイナリーを訪問した。
今回はそのバーチャルツアーから、ハーン・ファミリー・ワインズ(Hahn Family Wines)の内容を紹介する。
ハーン・ファミリー・ワインズ
ハーン・ファミリー・ワインズは、カリフォルニア州モントレー郡サンタ・ルシア・ハイランズ(SLH)にある家族経営のワイナリーだ。設立者のハーン夫妻が1970年代後半に土地を購入し、1980年からワインづくりをスタートした。
ハーン・ファミリー・ワインズでは、ハーン・ワイナリー、ハーンSLH、ルシエンヌ、スミス&フック、ボーンシェーカーなどのブランドを展開している。
今回のバーチャルツアーを率いてくれたのは、ワインメーカーであり、シニア・プロダクション・マネージャーであるフアン・ホセ・ヴェルディナブッシュ氏だ。
彼は2002年にハーン・ファミリー・ワインズの一員となり、その哲学とテロワールに魅了されたそうだ。「ここでのワインづくりは、趣味をしながらお金をもらっているようなものだ」と語っていたのが印象的だった。
環境と人を重視したサステナブルへの取り組み
サステナブルへの取り組みが盛んなカリフォルニア州。40年以上もモントレー郡でワインづくりをしているハーン・ファミリー・ワインズも例外ではない。ハーン・ファミリー・ワインズは、セントラル・コーストのぶどう栽培農家団体が始めた環境保全実践プログラム「SIP(サステナビリティ・イン・プラクティス)」の認証を同郡で最初に取得したワイナリーの1つだ。
バーチャルツアー内では、ぶどう栽培のディレクターであるパトリック・ヘドリー氏が取り組みの内容を伝える動画が紹介された。
サステナビリティプログラムを立ち上げたのは2008年。この年に方針を切り替えたということではなく、既にいろいろと取り組んでいたことを、正確な記録を残して詳細を確認しながら、さらに展開していくことにしたそうだ。
具体的には、雨による土地の浸食を防ぐため自生しているカバークロップを利用する、太陽光パネル400枚を設置して高地にあるワイナリーまで谷底から水をくみ上げる設備の電力をまかなうなどの取り組みを行っている。
また、10年ほど前に従業員の仲間入りをしたのが鷹匠だ。彼女とハヤブサは、鳥よけネットの代わりに、ぶどうの果実を狙う鳥からヴィンヤードを守っている。
フアン氏は、サステナブルの取り組みについて、次の世代にこの世界を引き継いでいくためにサステナブルへの取り組みは大切だと考えているという。
生態系の多様性を守ること、土壌を守ること、太陽光発電や水質保全などの取り組みは、ぶどうの品質向上にもつながると考えているそうだ。また、「従業員やその家族を大切にしないと、素晴らしいワインは生まれない」と、環境だけではなく人も重視していることが説明された。
ハーン・ファミリー・ワインズの生産地
続いて、ハーン・ファミリー・ワインズの6つのヴィンヤードがある場所を見ていこう。
ハーン・ファミリー・ワインズのヴィンヤードは、サンタ・ルシア・ハイランズAVAとアロヨ・セコAVAの2つのAVAに散らばっている。異なるテロワールでぶどうを栽培することで、お互いを補い合うワインが出来上がるのだという。
サンタ・ルシア・ハイランズAVA
まずは、4つのヴィンヤードがあるサンタ・ルシア・ハイランズAVAだ。
土壌は、かつて川底だった沖積層。ぶどうの品質を高めるために欠かせない、水はけの良い土壌だ。海のグランドキャニオンと呼ばれる、北米大陸で最も深い海溝があるモントレー湾に近く、冷たい海の影響を受けやすい。4月にアラスカから南下してきた海流が7~8月になるとここに滞留する。海水温は非常に冷たく、内陸の空気が温まると海の冷たい空気が内陸に引き寄せられることから、非常に冷涼で風の強い地域だ。
ワイン産地の気候区分では、最も冷涼なリージョン1に属するほど冷涼な気候で、ぶどうの生育期には海からの霧が頻繁に発生。内陸に吹きこんで気温を一気に下げてくれる。
モントレー湾からの影響を強く受け、朝は非常に冷涼でありながら午後は風が吹いて良い天候になるが、ぶどうの樹の光合成を抑えるので生育期間がとても長い。こうした条件により、バランスが良く、色合いやストラクチャーに優れたワインができる。
また、山脈が雲の行く手を阻んでくれるので、他のエリアよりも雨が少ないのも特徴だ。降水量が少なく、思うように水分を補給できないことで、ぶどうの樹に適度なストレスがかかり、その結果として果実の質を高めることになる。
このサンタ・ルシア・ハイランズAVAにある4つのヴィンヤードを見ていこう。土壌はほとんど同じでありながら、多様なテロワールがあり、さまざまな品種が育つのだという。
●ローン・オーク・ヴィンヤード
146エーカーほどのヴィンヤード。ここではシャルドネとピノ・ノワールを中心に、ピノ・グリも栽培している。シャルドネは、複数のクローンを植えており、クローンごとに発酵させて、ボトリング直前までブレンドはされない。クローンとは、挿し木や接ぎ木により栽培されて、親となるぶどうの樹と同じ特徴を持った樹のこと。同じぶどう品種でも、クローンごとに味わいやかかりやすい病気などの特徴が異なる。
●ドクターズ・ヴィンヤード
243エーカーほどのヴィンヤード。広大ななだらかな土地で谷に囲まれており、カリフォルニア州に分布するセージが自生している。フアン氏はこうした環境が、スパイシーで美しい色合いのワインを生んでいると考えているそうだ。
●スミス・ヴィンヤード
131エーカーほどのヴィンヤード。標高がやや高いので、太陽の恩恵を受ける。霧も出るが、その影響は比較的少ないという。ピノ・ノワールに注力している。
●フック・ヴィンヤード
123エーカーほどのヴィンヤード。スミス・ヴィンヤードに隣接しているが、標高はフック・ヴィンヤードのほうが高い。ローヌ系品種に注力していて、シラー、グルナッシュ、ピノ・ノワール、マルベックなどを栽培している。
アロヨ・セコAVA
続いて、約460エーカーのヴィンヤードがあるアロヨ・セコAVAを見ていこう。「霧」「砂質土壌」「風」が、このエリアを表す3つのキーワードだ。
サンタ・ルシア・ハイランズAVAよりも内陸側に位置している。土壌は多様で、霧は少ないため、太陽の恩恵も多い。かなりの砂質土壌で水はけの良い地域だ。
こちらもワイン産地の気候区分では、最も冷涼なリージョン1に属する冷涼な気候。サンタ・ルシア・ハイランズAVAよりも風がさらに強い。
アロヨ・セコAVAには、2つのヴィンヤードがある。
●サン・ニコラス・ヴィンヤード
171エーカーほどのヴィンヤード。ピノ・ノワールとシャルドネを手掛けている。
●サン・フィリップ・ヴィンヤード
夏のビーチのような非常に乾いた砂質土壌。ピノ・ノワールとメルローとグルナッシュを手掛けている。日光が豊富で、風が強いのが特徴だ。長年をかけて、かんがい設備を整備したという。水分が少なく風が強いことで、ぶどうの樹には非常にストレスがかかるため、複雑なワインができる。
ハーン・ファミリー・ワインズのワイン
続いて、バーチャルツアーで紹介された5本のワインを見ていこう。テイスティングコメントは、フアン氏によるものだ。
2018 ハーン・ワイナリー シャルドネ モントレー・カウンティ
主にアロヨ・セコAVAのサン・ニコラス・ヴィンヤードのぶどうを使ったワイン。機械を使って収穫し、軽さを残すために茎は完璧に取り除き、控えめに圧搾している。ステンレスタンクにて17~18℃(華氏62~65度)の低い温度で、10~14日間発酵させている。酸を柔らかくするマロラクティック発酵(MLF)を9割以上に行い、10カ月程度熟成させた。
【テイスティングコメント】
酸が鮮やかで、トロピカルフルーツ、パイナップル、レモンの皮の香りがある。フィニッシュもきれい。食事と一緒でもワイン単体でも楽しめる。
2018 HAHN CHARDONNAY, MONTEREY COUNTY
アルコール度数:14.5%
品種:シャルドネ100%
アペレーション:モントレー
参考小売価格:2695円(税込)
2018 ハーン・ワイナリー シャルドネ SLH エステート・グロウン サンタ・ルシア・ハイランズ
手摘みしたぶどうを房ごと圧搾。ステンレスタンクで1~2日間落ち着かせた後に、フレンチオーク樽で10~12日間ほど発酵させる。熟成はフレンチオーク樽で11カ月。そのうちの35%に新樽を使用している。
【テイスティングコメント】
より凝縮感と粘度があり、トロピカルフルーツとかんきつ類の香りが感じられるワイン。長い余韻が楽しめるワインだ。ストラクチャーとバランスを粘度がまとめている。
2018 HAHN SLH CHARDONNAY
アルコール度数:14.5%
品種:シャルドネ100%
アペレーション:サンタ・ルシア・ハイランズ
参考小売価格:4345円(税込)
2019 ハーン・ワイナリー ロゼ・オブ・ピノ・ノワール モントレー・カウンティ
アロヨ・セコAVAのぶどうを使用。手摘みされたぶどうを房ごと軽めに圧搾し、低温でゆっくりと発酵させることで美しい果実のアロマを残している。熟成は樽を使わずステンレスタンク。MLFはあえて行わずに、酸を残した。
【テイスティングコメント】
ストロベリーやラズベリー、そしてグレープフルーツの果実感が詰まったワイン。1本目のシャルドネと同じスタイルだが、より鮮やかな酸が楽しめる。また、糖度やアルコール度数が高いワインの特徴である粘度がしっかり味わえる。
2019 HAHN ROSÉ MONTEREY COUNTY
アルコール度数:14.2%
品種:ピノ・ノワール100%
アペレーション:モントレー
参考小売価格:2695円(税込)
2018 ハーン・ワイナリー ピノ・ノワール モントレー・カウンティ
アロヨ・セコAVAのぶどうを使用。アメリカで最も人気のあるワインの1つだ。ヴィンテージによってはサンタ・ルシア・ハイランズAVAのぶどうをブレンドすることもある。12~25トンのぶどうを発酵させ、8時間ごとに、または1日に2回かくはんさせる。
7~14日間ステンレスタンクで発酵させた後で、10~11カ月ほど熟成させている。
【テイスティングコメント】
レッドフルーツやチェリー、若干の清涼感もある飲みやすいデイリーワインだ。
2018 HAHN PINOT NOIR, MONTEREY COUNTY
アルコール度数:14.5%
品種:ピノ・ノワール100%
アペレーション:モントレー
参考小売価格:2695円(税込)※2019ヴィンテージの参考価格
2018 ハーン・ワイナリー ピノ・ノワール SLH エステート・グロウン サンタ・ルシア・ハイランズ
サンタ・ルシア・ハイランズAVAにある4つのヴィンヤードのワインを使用。35%に新樽を使い、11カ月熟成させている。
ブレンド比率は、スミス・ヴィンヤード48%、ドクターズ・ヴィンヤード30%、フック・ヴィンヤード20%、ローン・オーク・ヴィンヤード2%。シルキーなタンニンはローン・オーク・ヴィンヤード、スパイシーさとアロマティックさはドクターズ・ヴィンヤード、美しいストラクチャーはスミス・ヴィンヤードとフック・ヴィンヤードと、4つのヴィンヤードの特徴が出ているという。
また、このワインには20種類以上のクローンを使用。非常に複雑な奥行きが感じられる。
【テイスティングコメント】
サンタ・ルシア・ハイランズAVAを非常に表現しているワイン。とても複雑なワインで食事との相性が良い。口に含むと清涼感があり、柔らかいタンニン、ストラクチャー、スパイシーさを感じ、フィニッシュも長い。樽が果実味を支えている。
2018 HAHN SLH PINOT NOIR
アルコール度数:14.5%
品種:ピノ・ノワール100%
アペレーション:サンタ・ルシア・ハイランズ
参考小売価格:5060円(税込)
2020年11月と同年12月に開催された、「カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー」。若手ソムリエたちが熱心に耳を傾けた各ワイナリーのツアーから、カリフォルニアワインの魅力を知り、カリフォルニアワインをより楽しんでみてはいかがだろうか。
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