近年、注目を集めているウクライナワイン。ウォッカを飲む人が多いというウクライナだが、実は、国際的に高い評価を受けている高品質ワインが数多く生産されている地域でもある。
最近注目を集めているウクライナワインについて、その基礎知識を紹介する。
ウクライナとは
ウクライナとは、東ヨーロッパに位置する国家だ。日本の1.6倍ほどの国土に、日本の半分以下の人口が暮らしている。首都はキーウ(キエフ)。「ウクライナ」とは古東スラヴ語で「国境地」を意味するとされ、その言葉どおり多くの国と国境と接している。東はロシア、西はポーランドやスロバキア、ハンガリー、ルーマニア、モルドバなどと国境を接しており、南は黒海に面している。
1991年にソビエト連邦から独立。独立前は“ソ連最大の工業地帯”と呼ばれていたが、この数年は優秀で安い人材が起用できるとIT産業からの注目度も強い。また、ヨーロッパ全体の耕作可能地の1/3を占めており、“ヨーロッパの穀倉地帯”とも呼ばれている。国旗の青は澄んだ空、黄色は小麦の色を示している。
ウクライナの気候風土
極寒のイメージがあるウクライナだが、位置しているのは北緯44~52度で、実はフランスとそれほど変わらない(日本は北緯20~46度)。南部のクリミア地方は亜熱帯に分布されるが、ほぼ全域が温帯大陸性気候で明確な四季があり、夏は暑くて乾燥し、冬は寒い。1日で日中と夜の気温差が大きいという特徴もあり、これはワインに適したぶどうが栽培される条件でもある。
ワインづくりの歴史
紀元前4世紀には、クリミア半島の南岸でアンフォラ(ワイン醸造で使われる陶器)と圧搾機がつくられており、ワイン文化があったことが判明している。
11世紀ごろになると、キーウやチェルニヒウなどウクライナ北部の大都市周辺で、修道士によってワイン用ぶどうの栽培が始まった。キーウにあるキーウペチェールシク修道院では、ワインづくりの遺跡が見つかっているという。
19世紀に入ると、1820年にクリミア半島のヤルタ近郊にミハイル・ボロンツォフ伯爵が大規模なワイナリーを建設。1828年には、ぶどう栽培研究機関のマガラッチが、同じくクリミア半島に設立された。
大きな変換期を迎えたのが、ソ連下にあった1980年代のこと。禁酒政策が敷かれ、自宅でワインの密造ができないようにぶどう畑が燃やされることとなった。一度は失われてしまったぶどう畑だが、独立後にはドイツやフランス系などのヨーロッパ品種が植えられて、現在のウクライナワインが形づくられることとなった。
ウクライナのワイン産地
ウクライナには明確な原産地呼称がないため、大ざっぱな区切りとはなるが、ワイン生産地は全部で8つのゾーンがある。
①トランスドニストリアンゾーン
②オデーサゾーン
③南西部(草原)ゾーン
④ドニプロ川下流(砂浜)ゾーン
⑤アゾフゾーン
⑥イズマイールゾーン
⑦ザカルパッチャゾーン
⑧クリミアゾーン
日本でも手に入りやすい産地を中心に、主なワイン産地の詳細を見ていこう。
ザカルパッチャゾーン
地図上の⑦にあたるザカルパッチャゾーンは、ウクライナの最も西に位置するワイン産地。カルパッチャ山脈の麓の南斜面に広がっている。「ザカルパッチャ」とは、「カルパッチャ山脈の向こう側」を意味する。
フランスのアルザス地方と同様に、山が雨雲や北西の冷たい風を遮ってくれるため、夏は長くて暖かく、冬は短くて寒くないという特徴がある。山を越えた風は暖かくて乾燥しており、ワイナリーは最も暖かい地域に集まっている。
この地域のワインづくりは、ハンガリー、イタリア、オーストリア、ソ連の影響を受けているため個性的だ。
ヨーロッパ系品種を中心に、ホワイトフェテアスカ(リーンカ)、セレムスキーグリーン、イタリアンリースリング、フルミント、ガルスレヴェル、トラミナー、ホワイトマスカット、セミヨン、リースリング、バケーターなどの多様なぶどう品種が栽培されている。
主なワイナリー:Stakhovsky(スタホフスキー)、Chizay(チザイ)
イズマイールゾーン
地図上の⑥にあたるイズマイールゾーンは、ウクライナの南西部に位置し、黒海に面したワイン産地だ。
北の丘陵部は高品質なテーブルワインやスパークリングワインが生産されている。平坦な中央部では、砂地にワイナリーがあり、唯一の原産地呼称「シャボー(Shabo)」が有名。2500年以上前にギリシャ人が、シャボーにぶどう畑をつくったと言われている。
ヨーロッパ系品種に加えて、土着品種であるテルティクルック(キツネのしっぽ)などが栽培されている。
主なワイナリー:Shabo(シャボー)
クリミアゾーン
黒海に面した亜熱帯性気候のクリミアゾーンでは、ほぼ冬はなく、夏はとても暑い。乾燥した土地で、アルコール度数が高くて酸の低いワインづくりに適しており、高品質のデザートワインが有名だ。
世界最大規模のオールドワイン・コレクションの1つである、「マサンドラ・コレクション」があるのもこのエリアだ。日本で「マサンドラ・コレクション」のワインがオークションにかけられたことがあったが、多くがデザートワインだった。
主なワイナリー:Massandra(マサンドラ)
南西部(草原)ゾーン
地図上の③にあたる南西部(草原)ゾーンは、ウクライナ最大のワイン産地だ。
ヨーロッパ系品種のアリゴテ、ブラック・ガメイ、ボルトゥガイザー、シャルドネ、カバスマ、カベルネ・ソーヴィニヨン、リースリング、ブラックセレクシア、ビラージなどをブレンドしてワインをつくられている。特にリースリングから高品質のワインがつくられている。
主なワイナリー:Trubetskoy(ツルベツコイ)、Beykush(ベイクシュ)
その他のワイン産地
①トランスドニストリアンゾーン:モルドバ東部を流れるドニエストル川沿いにワイナリーが点在している。リースリング、セミヨン、アリゴテ、カベルネ・ソーヴィニヨンを生産。
②オデーサゾーン:リースリング、アリゴテ、ピノ・グリ、ピノ・ブランなどのヨーロッパ系品種を中心に、酸が低く、アルコール度数が高いワインがつくられている。オデーサには、1902~1934年まで日本領事館があった。ちなみに現在、神奈川県横浜市とは姉妹都市になっている。
④ドニプロ川下流(砂浜)ゾーン:キーウの北からウクライナを縦断して黒海に注ぐ、ドニプロ川の下流に広がるワイン産地。特にカベルネ・ソーヴィニヨンの赤ワインが有名だ。
⑤アゾフゾーン:アゾフ海の北海岸に沿って広がる、温帯大陸性気候のワイン産地。冬が短く、夏は暑く乾燥している。地元では「バーチ」と呼ばれる、マスカットシャスラ品種からつくられたテーブルワインで知られる。他に、ヨーロッパ系品種の中で、ミュスカデル、セミヨン、リースリング、アリゴテ、カベルネ・ソーヴィニヨン、サペラヴィなどが栽培されており、アルコール度数が高く、酸性度が低いワインに適している。
この記事は、インポーターのヘルムズ(Vino Pioner)と日本ソムリエ協会が2022年5月18日に開催したウクライナワインセミナーの内容を、許可を得て参考にしている。
2022年4月には品切れになるほど、昨今注目を集めているウクライナワイン。品質が高くてユニーク、そしてリーズナブルなウクライナワインを、ぜひ手に取ってみてはいかがだろうか。なお、Vino Pionerで取り扱いのウクライナワインに関しては、売り上げの一部がウクライナへ寄付されるとのことだ。