コラム

“ピノ・ノワールの名人”が理想実現のために設立したワイナリー、メイヤー ~解説:オーストラリアのワイナリー

ワイン新興国ながら、今や世界各地で人気の高いワインを生み出す、オーストラリア。数多くあるつくり手の中から今回は、自宅の前に広がる小さな農園で栽培したぶどうを使い、独創的かつ最高級のワインを産出するメイヤー(Mayer)を紹介する。

設立者のティモ・メイヤー氏は、ピノ・ノワールの高級稀少ワインを産出するジェムブルック・ヒルでワインメーカーを務め、“ピノ・ノワールの名人”として知られている。メイヤーは、同氏が自身の理想とするワインづくりのために設立したワイナリーだ。

メイヤーとは

オーストラリア南東部に位置するビクトリア州のヤラ・バレーにあるメイヤーは、1999年に設立された比較的新しいワイナリーだ。

“人の介入を最小限にとどめる”という理想を掲げてこのワイナリーを開いたメイヤー氏は、設立時点で既に世界的名声を獲得していた。

ティモ・メイヤー氏による唯一無二のワイナリー

メイヤー氏はドイツのシュツットガルトで400以上ものワイナリーを営む一族の出であり、1990年に近代的なワインづくりを学ぶため、オーストラリアに移住した。デ・ボルトリなどの大手ワイナリーで働いた後、マークス夫妻が1983年に設立したジェムブルック・ヒルで、チーフ・ワインメーカーとなった。

このワイナリーは、“オーストラリア産の究極”と称されるピノ・ノワールを産することでも知られており、ここでの仕事が、メイヤー氏を世界的ワインメーカーに押し上げたのだ。今ではメイヤー氏の手掛けるワインのほとんどがコレクターの手に渡り、入手が難しくなりつつある。

ワインは畑でつくられる――メイヤー氏のワインづくり

メイヤー氏のワインは“エレガントの極致”と評されているが、一方で、メイヤー氏自身は、“欲望むき出し”“欲望が服を着て歩いている”などと呼ばれることもある。食、睡眠、そしてきれいな女性が大好きという人間の欲望を臆することなくさらけ出し、それでいて人懐っこい少年のような笑顔が魅力的な、“愛すべきおじさん”なのだ。

そんな愛すべきおじさん、メイヤー氏の信念は、“ワインは畑でつくられる”というもの。自然の力を最大限に引き出すのが彼のやり方だ。すり鉢状に広がる傾斜のきつい丘(bloody steep)に約2.5haの畑を所有し、その形状から「ブラディー・ヒル(bloody hill)」と呼んで大切にしている。メイヤー氏がその畑で栽培しているぶどうの多くはピノ・ノワールで、他にネッビオーロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、ガメイ、シャルドネなど。いずれも無農薬栽培であり、自然な味わいを生かすノンフィルター方式と、酸化防止剤(亜硫酸塩)不使用でワインをつくっている。

メイヤー氏は、シャルドネやシラーなど、彼の代名詞でもあるピノ・ノワール以外の品種のワインづくりでも常識を覆し、名声を得てきた。例えば、カベルネ・ソーヴィニヨンはタンニンが多く青臭さを感じやすいため、その原因となる茎を取り除く除梗をしてから発酵させるのが常識とされてきた。しかしメイヤー氏は、除梗を全くしない全房発酵100%でカベルネ・ソーヴィニヨンを醸造し、多くの評論家を驚かせ、“オーストラリアで購入可能なカベルネ・ソーヴィニヨンの最高峰”と称賛された。このようにさまざまな醸造方法を試みながら、メイヤー氏は素晴らしいワインをつくり続けている。

おすすめワイン5選

メイヤー氏のワインは入手が困難になっているため、ネット上でもほとんどのワインが売り切れの状態になっている。運よく在庫を見かけたら、すぐに注文する方がよさそうだ。

メイヤー ブラディー・ヒル・ピノ・ノワール

唯一の自社畑である、ブラディー・ヒルのピノ・ノワールを使ったワイン。徐梗率100%で、ステンレスタンクで発酵した後、古樽で熟成させている。赤い果実の味わいにスパイスが混じった奥深い味わいを持つ。タンニンは柔らかく、滑らかで上品な口当たりに仕上がっている。

品種:ピノ・ノワール
味わい:赤・ライトボディ
参考小売価格:5500円(税込)

メイヤー クロース・プランテッド・ピノ・ノワール

ポテンシャルを最大限に引き出すため、ブラディー・ヒルではぶどうの樹を密植させている。このワインに使用するぶどうは、その中でも特に条件の整った区画で収穫されたもの。徐梗率は70%ほどで、茎を感じる野性味のある味わいが特徴的なワインだ。

品種:ピノ・ノワール
味わい:赤・ミディアムボディ
参考小売価格:9350円(税込)

メイヤー ドクトル・ピノ・ノワール

ブラディー・ヒルの上部に広がる1エーカー(約0.4ha)の区画で、6000本という超密植で栽培したぶどうを使用している。ヴィンテージにより異なるが、徐梗率は15~0%。つまり、全房率85~100%という驚くべき割合になっている。野性味が特徴的な「メイヤー クロース・プランテッド・ピノ・ノワール」の上を行く、非常に野性味にあふれたワインだ。

品種:ピノ・ノワール
味わい:赤・ミディアムボディ
参考小売価格:8800円(税込)

メイヤー カベルネ・ソーヴィニヨン

徐梗が常識と考えられていたカベルネ・ソーヴィニヨンを全房率100%でつくり、常識を覆した1本。2015年5月に開催された展示会で初披露された。除梗もクラッシュもせずに古樽に入れ、液体が上面に到達したらパンチダウンを数回行い、そのまま樽に寝かせて熟成している。凝縮した果実味と爽やかなハーブを感じられ、“世界トップクラスのカベルネ・ソーヴィニヨン”と評されている。

品種:カベルネ・ソーヴィニヨン
味わい:赤・ミディアムボディ
参考小売価格:9350円(税込)

メイヤー シラー

近年の温暖化はぶどう栽培にも影響を与えているが、その中でメイヤー氏は、環境の変化を考慮して自社畑のブラディー・ヒルの下部をシラーへと植え替えた。

「シラーやグルナッシュが美しく熟成を経ると、ピノ・ノワールと見分けがつかなくなる。それは品種の壁を越えて、美しいワイン全てが到達する理想の最終形だ」という、メイヤー氏の言葉通りのワイン。ベリーやプラムなどの果物の香りと、燻製やフローラルが重なった香りを持つ。しっかりとしたタンニンと酸が果実味によく調和した、バランスの取れたエレガントな味わい。全房率は90%。

品種:シラー
味わい:赤・フルボディ
参考小売価格:9350円(税込)

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