社会的な課題を解決しながら、企業の利益にもつながるCSV経営を目指すシャトー・メルシャン。前回の記事では、2022年9月14日に開催された「シャトー・メルシャン戦略説明会」より、CSVにつながる同社の戦略についてまとめた。
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キーワードは「CSV」! ワインをより魅力的なものにする、シャトー・メルシャンの経営方針
この記事では、シャトー・メルシャンがCSVの一環として立ち上げた、コンサルティング事業について解説する。
日本のワイン産業の現状
2008年以降、拡大してきた日本のワイン市場。しかし、市場規模は総酒類の4.3%とまだまだ小さい。また、直近5年は伸び悩んでいる現状がある。
まずは、日本のワイン産業の現状について見ていこう。
ワイン全体の市場動向
日本のワイン市場で、着実に伸びを見せているのが「日本ワイン」だ。国産のぶどうを使用して国内で醸造する「日本ワイン」は、2015年には日本のワイン市場の3.5%だったが、2021年には約1.5倍の5.4%となった。
ワイナリーの数も継続して増加している。酒税法の特例措置によって、小規模事業者でも果実酒などの製造免許取得が可能になる構造改革特区(ワイン特区)が制定されたこと、そして日本食との相性の良さや品質の高さから日本ワインの人気が高まったことが主な理由だ。
日本ワイン産業の課題
順調に見える日本ワイン産業だが、主に3つの課題を抱えていると、シャトー・メルシャンは指摘する。
●大多数が中小企業で低収益
ワイナリーの92%が営業利益50万円未満(生産量300kl未満)
●特に新規ワイナリーの多くは規模・収益ともに小さい
全ての新規ワイナリーが生産量100kl未満で、営業利益が出ていない
●日本国内ではワインづくりを系統的に学べる場所が限られている
これは、シャトー・メルシャンが「日本ワインの将来にとって最も大きな課題」と指摘している項目だ。スタートアップワイナリーの多くが、栽培および醸造技術、品質の面で課題を抱える結果となっている。
コンサルティング事業の内容
こうした日本ワイン産業の現状と課題を踏まえて立ち上げたのが、スタートアップワイナリーへのコンサルティング事業だ。
シャトー・メルシャンが持つ経験豊富な人材や145年の経験から得たノウハウなどを提供することで、持続可能な日本ワイン産業に貢献し、結果的に“日本を世界の銘醸地に”というビジョンに少しでも近づくことが期待されている。
コンサルタントを務めるのは、シャトー・メルシャンのシニア・ワインメーカーである藤野勝久氏など。
藤野氏は、現代日本ワインの父と呼ばれる故・浅井昭吾氏から薫陶を受けた“アサイ・チルドレン”の1人だ。多数の国内外ワインコンクール審査員に選抜されており、日本ワイナリー協会の顧問や葡萄酒技術研究会エノログ部の会長を務めている。
コンサルティング事業の対象
対象は、シャトー・メルシャンの掲げる“日本を世界の銘醸地に”というビジョンに共感し、共に日本ワイン市場の活性化に取り組むスタートアップワイナリーだ。
現在は、以下の4ワイナリーがコンサルティングを受けている。たまたま東北地方に集中しているが、日本各地のワイナリーが対象だ。
●MKファームこぶし(岩手県花巻市)
ワイナリー建設を視野に入れて2017年9月に創業し、ぶどう栽培をスタートさせた。
●アールペイザンワイナリー(岩手県花巻市)
社会福祉法人悠和会を母体とするワイナリー。放置されている棚田をどうにかして生かせないか、福祉施設に通う障害者たちに雇用の機会を与えられないかと、2019年4月に設立された。
●仙台秋保(あきう)醸造所(宮城県仙台市)
東日本大震災で失われたワイナリーを復活させたいという思いで、2015年12月に創業。
●南三陸ワイナリー(宮城県南三陸町)
南三陸を人々が足を運ぶ場所にしたいという思いから、2019年2月に設立したワイナリー。海の中にワインを沈めて熟成させるなど、ユニークな取り組みをしている。
コンサルティングの内容
コンサルティング事業では、それぞれのワイナリーが抱える課題に応じた内容を提供している。
コンサルティングを受けているワイナリーからは、「コンサルティングを通じて、ワインづくりに対する情熱や向き合う姿勢を学んだ」「収穫期の判断、ぶどうのポテンシャルに応じた醸造方法など、状況に即したコンサルティングで学びが多い」「状況に応じた的確な指導により、既に成果が表れていて、スタッフのモチベーションが上がった」などの声が上がっているという。
シャトー・メルシャンでは、こうした活動をボランティアではなく事業の一環として行っていく。企業として利益を上げながら、日本ワイン産業の課題を解決することで、“日本を世界の銘醸地へ”というビジョンの実現を目指すコンサルティング事業。日本のワイン産業の持続的な成長を担っていくのだという思いから、説明会では、コンサルティング事業をさらに進化させていくことが強調されていた。