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かつては寒すぎて、ワイン用ぶどうの栽培は難しいと言われていた、信州高山村。温暖化の影響により、現在ではワイン用ぶどうの畑が広がる地となっている。人口7000人に満たない村に6つのワイナリーがあると言えば、ワイン産地としての成長ぶりは明らかだろう。
地球温暖化によって生まれた奇跡のワイン産地、信州高山村の魅力を紹介する。
信州高山村とは
信州高山村とは、長野県の北東部に位置する村だ。正式名称は、長野県上高井郡高山村。長野市の中心街から千曲川を渡り、車で20分ほどの場所にある。住民の多くが果樹園などの農業に従事し、松川渓谷が織り成す自然と、複数の温泉が湧き出る観光資源に恵まれた、農業と観光の村だ。
ワイン産地としての特徴
ワイン用ぶどう産地としての自然条件に恵まれており、フランスのシャンパーニュ地方やブルゴーニュの南部地方に似ていると言われる信州高山村。長野県の信州ワインバレー構想の中では、最もワイナリーの数が多い千曲川ワインバレーに属している。
信州高山村のワイン産地としての特徴を見ていこう。
●標高が高い
かつてはワイン用ぶどうの栽培は難しいと言われていたほど、標高が高く、冷涼な地域だ。標高が高いワイン産地は他にもあるが、珍しいのは、村の中での標高差が約1600mもあること。そのため、同じ信州高山村産のシャルドネでも、標高の高さによって個性の異なる味わいのワインになる。
●降水量が少なく、夏でも湿気が少ない
日本でワイン用ぶどうを栽培する場合には、雨と湿気対策が重要となる。その結果、生食用のぶどう栽培と同様に、棚栽培でワイン用ぶどうを育てているところも多い。信州高山村は年間降水量が850mm前後と少なく、夏でも湿気が低いため、ヨーロッパで主流の垣根づくりでぶどうを栽培することが多い。特に、ぶどうの収穫期を迎える夏から秋に雨が少ないため、しっかりと成熟したぶどうを収穫することができる。
●日照時間が長く、昼夜の寒暖差が大きい
信州高山村のぶどう栽培地は、西傾斜で日光を浴びる時間が長いこと、昼夜の寒暖差が大きいことも特徴だ。良質なワインにするには、果実の糖分と酸の高さが重要となる。信州高山村で育ったぶどうは、暖かい日中に糖分を蓄え、気温の低い夜に必要な酸をキープしたまま、ゆっくりと成熟していく。
●水はけが良い
松川渓谷の扇状地であり、傾斜のある砂礫(されき)質土壌で水はけが良いことも、ワイン用ぶどうの栽培には適した条件だ。
ワイン用ぶどうの産地として、こうした好条件に恵まれた信州高山村では、受け継ぐ人がいなくなったリンゴ園、見捨てられた農地などがワイン用ぶどう畑に姿を変えている。2006年には3haほどしかなかったワイン用ぶどう畑が、20年も経たないうちに40ha以上にまで拡大。数字からも、その勢いを知ることができる。
信州高山村で栽培されている主な品種
信州高山村では、主にヨーロッパ系品種が栽培されている。これは、長野県全体の特徴でもある。日本固有品種の甲州やマスカット・ベーリーAの栽培が盛んな山梨県とは、異なる特徴だ。
《赤ワイン用品種》
メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワール、シラー、バルベーラ など
《白ワイン用品種》
シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン など
特に長野県産のメルローは「長野メルロー」とも呼ばれており、日本を代表する産地となっている。
人口7000人未満の村にある、6つのワイナリー
信州高山村には現在、6つのワイナリーが存在している。小さなワイナリーが中心だが、観光客を受け入れているワイナリーもある。
●カンティーナ・リエゾー(2015年設立)
ワインの販売あり。見学は事前に電話で予約が必要
●信州たかやまワイナリー(2016年設立)
ワイン販売:9:00~12:00 13:00~16:00
定休日:年末年始
●ヴィニクローブ(2019年設立)
見学はHPから問い合わせが必要
●ドメーヌ長谷(2017年設立)
●マザーバインズ長野醸造所(2018年設立)
※委託醸造専門のワイナリー
●川島醸造(2021年設立)
この他にも信州高山村には、シャトー・メルシャンの「北信シャルドネ」「長野ピノ・ノワール」などに使用されるぶどうを提供している、ぶどう栽培家の佐藤明夫氏の畑がある。「北信ピノ・ノワール キュヴェ・アキオ」など、その名前を冠したワインも発売されている。シャルドネとピノ・ノワールの栽培家としてだけではなく、生ハムの生産者としても知られている人物だ。
1996年に信州高山村で初めて、ワイン用ぶどうの栽培を始めたのが、彼の父である故・佐藤宗一氏だ。父子2代でワイン用ぶどうの栽培を手掛けてきた。
信州高山村にこれほどワイナリーが多い理由は、気候や土壌が良質なワイン用ぶどうをつくる条件に恵まれているだけではない。構造改革特区(ワイン特区)に指定されていることも理由の1つだ。
酒類製造免許を取得するためには、通常なら6kLの製造見込数量が必要だが、ワイン特区に指定されていれば、2kL(750mlのワインボトル約2700本)から酒類製造免許を取得できる。ただし、特区内のぶどうを使用していることが条件となる。信州高山村は、東御市に続き、長野県で2例目のワイン特区指定となった。
恵まれた自然環境にひかれて移住、村外出身のワインメーカー
良質なぶどうは良質なワインを生む重要な条件だが、決して唯一の条件ではない。それを醸す“人”の存在も重要だ。
2011年のワイン特区認定後、2015年にはカンティーナ・リエゾー、2016年には信州たかやまワイナリーという、2つのワイナリーが立ち上がっている。
信州たかやまワイナリーは、地元出身の代表取締役社長・涌井一秋氏を含む13人のぶどう畑のオーナーが参加する、“農家の夢をかなえるワイナリー”だ。信州高山村で最大規模のワイナリーとなる。一方、カンティーナ・リエゾーは、栽培から醸造まで、オーナー夫婦での手作業にこだわる家族経営のワイナリーとなっている。
それぞれのワインメーカーは、メルシャンで経験を積んだ鷹野永一氏、長野県飯綱町のサンクゼールで経験を積んだ湯本康之氏だ。2人とも豊かな経験を持つ村外出身者だが、信州高山村の恵まれた自然環境にひかれてこの地にやって来たという。
行って実感! 信州高山村の魅力
ここまでは、パンフレットなどでも調べることができるワイン産地・信州高山村について説明をしてきた。
信州高山村は、「便利な都会とは異なる、“大いなる田舎”であることが魅力」だと語るのが、村民の1人である深谷照男氏だ。
「都会のマネをするのではなく、この土地を生かした暮らしをしている」と語る深谷氏は、信州高山村の豊かな自然を生かした高山村総合型スポーツクラブにて、古道復活などの活動に携わっている。
2022年10月5日と6日には、長野県が主催する「“農観連携”ワインツーリズム」の一環として、メディアツアーが開催された。1泊2日のツアーでは、信州高山村のワイン産地としての魅力、そして足を運ばないと知ることができない観光地としての魅力を体験する機会に恵まれた。深谷氏もツアー中に出会った人物の1人だ。彼の言葉のように、信州高山村のワイン、そして魅力は“大いなる田舎”であり、地元出身者や外からやってきた人々が、それを守り、生かしているのだと感じられた。
次回以降は、メディアツアーの内容、信州たかやまワイナリー、カンティーナ・リエゾーのワイナリー訪問レポートをお送りする。