コラム

ワインメーカーが語る! NZのチャーチ・ロードが受け継ぐレガシーとは ~「THE WINE SHOW by Pernod Ricard Japan」レポート①

ペルノ・リカール・ジャパンは2023年11月21日、東京都渋谷区のTRUNK by Shoto Galleryで、同社が日本国内で販売するワインブランドを一堂に集めたテイスティングイベント「THE WINE SHOW by Pernod Ricard Japan」を開催した。

また、ワインメーカーが登壇するマスタークラスを同時に開催。今回は、チャーチ・ロード(Church Road)のワインメーカー、クリス・スコット氏が講師を務めたマスタークラスの内容を紹介する。チャーチ・ロードは、ニュージーランド国内で最も歴史のあるワイナリーの1つだ。

登壇者:クリス・スコット氏(チーフ・ワインメーカー)

チャーチ・ロードのチーフ・ワインメーカー、クリス・スコット氏

マスタークラスに登壇したのは、チャーチ・ロードでチーフ・ワインメーカーを務めるクリス・スコット氏だ。今回が初めての来日だという。

ワイン醸造学を学んでいた学生時代からワインづくりに携わるようになり、1998年に正式にチャーチ・ロードで働くようになった。2005年から、チーフ・ワインメーカーを務めている。

オーストラリアのワイン専門誌『ワインステート(Winestate)』が選ぶニュージーランドの最優秀醸造家に、2013・2016・2020・2021・2022年の5回選出。2017年には「ニュージーランド・インターナショナル・ワインショー(New Zealand International Wine Show)」の最優秀醸造家賞、2020年には「ロイヤル・イースター・ショー・ワイン・アワーズ(Royal Easter Show Wine Awards)」でワインメーカー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。

こうした評価についてスコット氏は、「うれしいとともに、ワインづくりはチームで行うものなので、素晴らしいチームに恵まれたと思っています」と語っていた。

チャーチ・ロードの歴史

マスタークラスが始まる前、スコット氏はチャーチ・ロードのワインについて、「皆さんがイメージしているニュージーランドのワインと、少し違うのではないでしょうか」と説明していた。その理由は、チャーチ・ロードの歴史の中にあるようだ。

チャーチ・ロードの歴史は、1897年にまでさかのぼる。1921年に、当時14歳だったトム・マクドナルド氏が就業。起業家精神に富んでいた彼は、1927年、19歳の時に元のオーナーから事業を引き継ぎ、それから3年間でワイナリーの規模を3倍に拡大した。

その当時、ニュージーランドワインの品質は、それほど高くはなかったという。しかし、マクドナルド氏が目指したのは、ボルドーやブルゴーニュのようなワインをつくること。当時の思いが、現在の品質につながっている。

1949年に、初めてのカベルネ・ソーヴィニヨンとシャルドネを発売。数年後、カベルネ・ソーヴィニヨンは、イギリスの批評家から「シャトー・マルゴーと比べて劣ることがない素晴らしい品質」と評価されることとなった。それをきっかけに、チャーチ・ロードのカベルネ・ソーヴィニヨンは入手困難なワインとなり、長いウェイティングリストができるまでに。

1991年、フランスの有名なワイナリー、ドメーヌ・コルディエ(Domaines Cordier)の2人のワインメーカーとともにワインづくりをスタート。フランスの伝統的なワインづくりがニュージーランドに持ち込まれた。共同でのワインづくりは、11年にわたっている。

スコット氏も、彼らと共に取り組んだ経験を生かし、伝統的な技術をホークス・ベイのぶどうに活用することで「皆さんがイメージしているニュージーランドのワイン」とは異なるワインを生み出している。

トム・マクドナルド氏のレガシーとは

スコット氏は、マクドナルド氏から受け継いだレガシーをこう説明している。

「トム・マクドナルド氏は、品質に制限を付けず、常に今よりも良いものをという姿勢でワインづくりに取り組んできた。その姿勢は今も受け継がれており、品質をどんどん高めていくことを重視している」

1995年には、マクドナルド氏に敬意を表した「トム」の最初のヴィンテージを発売している。

ホークス・ベイとは

ニュージーランドで、マールボロ地方に次ぐ第2位の栽培面積を誇るホークス・ベイ。グレート・ワイン・キャピタルズ・グローバル・ネットワーク(Great Wine Capitals Global Network)による、「Great Wine Capital of the World(世界の素晴らしいワイン産地)」で、12位に選出されたワイン産地だ。

北島東岸に位置しており、ホーク湾に面している。内陸側に山脈があり、西から吹く冷たい風から守ってくれるため、温暖で乾燥している。ニュージーランドでも暖かいワイン産地であり、南島とは異なる品種に適している。

ホークス・ベイのサブリージョン

ホークス・ベイには、4つのサブリージョンがある。マスタークラスでは、チャーチ・ロードのヴィンヤードがある2つのサブリージョンについて解説された。

トゥキ・トゥキ・バレー(Tuki Tuki Valley)
海から4kmほどの場所にあり、ホークス・ベイで最も海に近いエリア。午後になると冷たい海風の影響を受けるので、ホークス・ベイの他の地域と比べて冷涼だ。シャルドネに向いており、適切な酸味とフレッシュさ、果実味が実現できる。

ギムレット・グラヴェルズ&ブリッジ・パ・トライアングル(Gimblett Gravels & Bridge Pa Triangle)
トゥキ・トゥキ・バレーから車で25分ほど西(内陸)に行ったエリア。海風が届かないので、午後は高温になる。トゥキ・トゥキ・バレーに比べると、気温は5℃ほど高い。カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、メルロー、カベルネ・フランの栽培に向いている。石が多く混じった土壌となっており、水はけが非常に良いので濃縮した果実が育つ。

ギムレット・グラヴェルズの方が、タンニンが強くなる。ブリッジ・パ・トライアングルは土壌が異なり、よりフローラルで穏やかなタンニンのワインが出来る。この地域の土壌は、川からの石で出来た厚い層の上に砂の土壌、さらにその上に火山灰の赤い土があり、鉄分の含有量が高い。カベルネ・ソーヴィニヨンは粒が小さくなり、皮の割合が多いため、皮に含まれる成分によりパワフルでしっかりとした味わいのワインができる。

今回は、マスタークラスでクリス・スコット氏が語った内容を紹介した。次回は、展示されていたチャーチ・ロードのワインについて、マスタークラスで語られた内容を含めてご紹介する。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ