コラム

ハッシャー|ヘメルアンアードに惚れこんで移住! 農場を愛する一家が生み出すワイン ~「DISCOVER SOUTH AFRICA TOKYO 2024」レポート②

   

WOSA JAPAN(Wines of South Africa、南アフリカワイン協会)は2024年10月22日、年に一度の南アフリカワインの大試飲会「DISCOVER SOUTH AFRICA TOKYO 2024」を開催した。

今回は、出展されたワイナリーの中から、ハッシャー・ファミリー・エステート(Hasher Familiy Estate)の3本のワインを紹介する。

ハッシャー・ファミリー・エステートとは

ハッシャー・ファミリー・エステートは、2021年にヘメルアンアード・バレーに設立された、家族経営のワイナリーだ。ワイナリー名は、セリーヌ・ハスペラス(Haspeslagh)氏とフレデリック・ヘルテン(Herten)氏の設立者夫婦の姓を組み合わせたもの。当日は、妻のハスペラス氏が来日しており、話を聞くことができた。

左端から、妻のセリーヌ・ハスペラス氏、長女、夫のフレデリック・ヘルテン氏、長男。右上端は叔父とその孫息子

家族が南アフリカに移住した理由こそが、ヘメルアンアード・バレーだという。近くの街ハーマナスは、ヘルテン氏にとって少年時代の夏を過ごした思い出の場所。2008年にハスペラス氏と一緒に訪れてから、この地でワイナリーを立ち上げるのが2人の夢になったそうだ。南アフリカ自体が美しさと可能性を秘めているのに加えて、ヘメルアンアード・バレーは南アフリカのワイン銘醸地の1つであるステレンボッシュよりも平均8℃ほど気温が低く、海が近いため、エレガントなワインがつくれる土地だとのこと。さらに、花崗岩が含まれた土壌が、この土地を特別なものにしていると考えているそうだ。

ハッシャー・ファミリー・エステートの農場の30%は自然保護区に指定されており、60haの土地に40種類もの絶滅危惧種の花を見ることができる。さらに、ヒョウなどのさまざまな動物の痕跡も目にすることがあるという。「農業は自然が大きな役割を果たすものです。上手く農業を行えば自然が助けてくれるので、自然と協力する必要があります」と、ハスペラス氏は話してくれた。

「農場が大好き」と話すハスペラス氏。一家はヴィンヤードを担当し、醸造はワインメーカーであるナターシャ・ウィリアムズ氏に任せている。ハスペラス氏は、彼女を「とても若くて、素晴らしい才能を持っています」と表現し、信頼を寄せている。

ウィリアムズ氏は、南アフリカの銘醸地の1つ、スワートランド出身。ステレンボッシュ大学でぶどう栽培と醸造を学び、アメリカ・カリフォルニアのロシアンリバー・バレーで経験を積んだ。彼女のシンプルで自然なワインづくりは、テロワールに敬意を寄せるハッシャー・ファミリー・エステートの理想にも合っているようだ。

輸入元のマスダの資料によると、農場があるのは太平洋から5kmの距離にある標高180mの土地で、さらに近くを流れるオンラス川からも冷えた風が吹きこむ冷涼な気候とのこと。ハッシャー・ファミリー・エステートのワインを「エレガントで誠実なワイン」としているが、とてもぴったりな表現だと感じられた。

ハッシャー・ファミリー・エステートのワイン3本

日本へ輸入されているハッシャーのワインは3本。輸入元のマスダによると、春前には売り切れてしまう見込みとのことなので、気になる人は早めに手に取った方がよさそうだ。

ノーティカス ソーヴィニヨン・ブラン 2023

「ノーティカス」(ラテン語で船員)と名付けられたワイン。ハスペラス氏は、「サラダやピクルスと合うフレッシュさが大好きです」と話してくれた。海由来のミネラル感やフレッシュながらも落ち着きのある果実感で、赤酢のお寿司などの和食にも合いそうだ。

名前の通り、海に近い畑で収穫したぶどうを使用している。一晩冷却して選果・除梗し、その後、雑味が出ないように優しく3時間かけてプレスした果汁を、ステンレスタンクとコンクリートエッグタンクにて発酵させている。30%はフレンチオークの古樽で、残りはコンクリートエッグタンクにて5カ月間熟成する。花崗岩由来の丸みを引き出せるように醸造しているとのこと。

【味わい】
かんきつ類やパッションフルーツの香りに、わずかにオークの風味。フレッシュで生き生きとした酸、やや強めのミネラル、塩味、程よい骨格、やや濃厚なクリーミーさも感じられ、複雑性もある。このソーヴィニヨン・ブランの最大の特徴は、冷涼地区&海の影響を強く受けているということが表現されている点。美しく高貴なシャルドネを思わせるような秀逸でエレガントな仕上がり。スターターからメイン料理まで幅広く使える。
マスダの商品紹介より

品種:ソーヴィニヨン・ブラン100%
タイプ・味わい:白・辛口
アルコール分:12.5%
生産地:ウエスタン・ケープ、ヘメルアンアード
参考小売価格:3500円(税別)

アーネスト ピノ・ノワール 2022

長男の名前が付けられたワイン。ハスペラス氏は、「マグロとぜひ合わせてほしい」とのこと。マスダの資料に「今飲んでおいしく、今後の成長を期待したい」と書かれている通り、今後の可能性を秘めた長男の名前にぴったりだと感じられた。

全て除梗した果実を、80%は人口酵母、20%は自然酵母を使用してステンレスタンクで発酵後、フレンチオーク樽(20%新樽)で11カ月間熟成させているハスペラス氏によると、このワインの野イチゴやチェリーなどの赤い果物の香りは花崗岩からくるものだという。

【味わい】
イチゴやチェリー、フィンボスなど植物の香り。若々しい赤い果実のフルーツ感に少し土の風味も感じる。優しくフレッシュな酸、柔らかく滑らかなタッチ。フルーツのピュアなテイストに塩味も感じる。このエリアらしい冷涼感を感じ、美しくエレガントにまとまっている。余韻も長い。今飲んでおいしく、今後の成長を期待したいピノ・ノワール。
マスダの商品紹介より

品種:ピノ・ノワール
タイプ・味わい:赤・ミディアムボディ
アルコール分:13.5%
生産地:ウエスタン・ケープ/ヘメルアンアード
参考小売価格:7500円(税別)

シリエル カベルネ・フラン 2022

叔父の初孫の名前が付けられたワイン。ハスペラス氏は、「グリルしたお肉とよく合わせています。和牛とも合うでしょうね」と話してくれた。

8%は全房のまま、25%は自然発酵、75%は人口酵母を使用してオープンタンクにて発酵後、フレンチオークの古樽にて11カ月間熟成させる。

【味わい】
きめ細やかな渋味、滑らかなタッチ、冷涼地区で育ったことが分かる酸と繊細さ、美しさを持つこのカベルネ・フランは、まるでピノ・ノワールのようにエレガントに仕上がっている。タレで焼いた牛肉とワサビ、青椒肉絲、ピーマンの肉詰め、麻婆豆腐と山椒、マグロの赤身とワサビ、ウナギの蒲焼とワサビやさんしょう、シシトウ、パクチーを使った料理、羊肉などに合う。
マスダの商品紹介より

品種:カベルネ・フラン
タイプ・味わい:赤・フルボディ
アルコール分:14.5%
生産地:ウエスタン・ケープ、ヘメルアンアード
参考小売価格:6900円(税別)

ハスペラス氏と話した時間は短かったが、農業やワインづくり、そして家族への愛情が穏やかに伝わってきた。テロワールや自然への敬意を持って、誠実に果実の個性を引き出しているハッシャー・ファミリー・エステートのワインは、大切な人と過ごす時間にぴったりだと感じられた。


【関連記事】「DISCOVER SOUTH AFRICA TOKYO 2024」レポート
スティーンバーグ|南アフリカワインの歴史と共に歩むワイナリー

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で
About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ