キッコーマン国際食文化研究センターは2024年11月16日、「日本ワイン最前線～日本のワインぶどう品種、その魅力～」と題した食文化講座を開催した。「食文化の国際交流」を経営理念の1つに掲げるキッコーマンは、発酵・醸造技術を生かしワイン事業も展開している。グループ会社のマンズワインは創業以来、一貫して日本のぶどうによる日本のワインづくりを目指し、国内外で高い評価を得ている。
今回は同講座で語られた、世界の中の日本ワインについて紹介する。
《講師：後藤奈美氏》
公益財団法人日本醸造協会常務理事
1983年4月 国税庁醸造試験所（現独立行政法人酒類総合研究所）入所
1991年8月 ボルドー大学留学（1年間）
2016年4月～2021年4月 酒類総合研究所理事長
主にワイン醸造と原料ぶどうに関する研究に従事
世界の中の日本ワイン
国際ぶどう・ワイン機構（OIV）のデータによると、日本のワイン生産量は、海外原料を国内で醸造したワインなども含めても世界全体の0.5％に届くかどうかぐらいとのこと。日本は世界規模で見ると、まだまだ生産量の少ないワイン産地だが、世界の中の日本ワインの位置について後藤氏は以下のようなポイントを挙げている。
国際コンクールでの評価が高まる
日本ワインは、国際コンクールでも高い評価を得るようになってきている。2021年以降の「インターナショナル・ワイン・チャレンジ（International Wine Challenge：IWC）」での日本ワインの結果を例に挙げ、後藤氏は「甲州やシャルドネなどで金賞が得られるようになったのは、素晴らしいことだと思います。最近では、他のワインコンクールでも高い評価を得るようになってきています」とコメントしている。
4年で輸出は約3倍に
世界での評価の高まりもあり、日本ワインの輸出金額は、2019年で1.8億円程度だったものが2023年には5.6億円を超えている。ウイスキーの500億円と比べると少ないが、フランスなどのEU（欧州連合）にも輸出されるようになってきている。
日本固有の品種が見直されている
世界的に広く栽培され、認知されているワイン用ぶどう品種は、国際品種と呼ばれている。世界のワインの流れとしては、国際品種が世界中に広まっているため、世界中同じようなワインばかりになってつまらないのではないかという思いから、今まであった品種を見直そうとする動きがあり、在来品種や固有品種の見直しが進んでいる。
“ワインの女王”と呼ばれるジャンシス・ロビンソン氏らが執筆した『ワイン用葡萄品種大事典』（共立出版、監訳・後藤奈美、2019年）には1368品種が掲載されている。その中には、多くの絶滅危惧品種が含まれており、そうした品種を復活させようという取り組みがイタリアなどの伝統的なワイン生産国で広がっているという。
そうした流れもあり、以前は甲州やマスカット・ベーリーAばかりではよくないと日本でも言われていたが、現在は、世界で通用する甲州やマスカット・ベーリーAをつくっていこうという流れに変わってきていると後藤氏は感じているそうだ。
EUのワインラベルに関する規定では、EUへ輸出するワインのラベルに品種名を表示できるのは、OIVなどのリストに掲載された品種のみとされている。一番有名なOIVのぶどう品種および同義語リストは、国や地域によって品種名が違うと、貿易をするときに混乱が生じるので、品種名をリスト化して分かりやすくすることが目的だ。日本の品種では、2010年に甲州、2013年にマスカット・ベーリーA、2020年に山幸が掲載された。
このリストに掲載されることを「国際品種の仲間入りをした」と報道されることもあるが、後藤氏は「掲載されることをきっかけに、ワインの品質の向上やアピールに努めていくことが重要です」と話していた。
日本ワインの強み
日本ワインは、固有の品種を生かす、栽培適性のあるアメリカ系品種を上手に使う、そしてヨーロッパ系品種に挑戦を続ける、と大きく分けて3つの方向があり、どれを取るかはそれぞれのワイナリーの考え方次第だ。
日本ワインの強みとしては、日本人の嗜好に合うこと、繊細な味わいで和食に合うことが挙げられた。それに加えて、日本がぶどう栽培には不利な条件にありながら「克服していく高い技術力がある」ことも強みだという。「より良いものをつくろうという工夫や知恵、技と考えることができると思います。これは非常に重要なことです」と強調していた。
また、生産者が日本国内の消費者に近いので、輸送コストが少なく地球に優しいこと、つくり手の情報を届けやすいことも強みだという。新型コロナウイルス感染症の流行以降はオンラインでの発信も増えてきて、よりつくり手の“顔”が見えるワインが増えてきたことが、日本ワインの強みだとしている。
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