ワインレビュー
2001年という年は、僕にとっても世界にとっても忘れられない年だ。
その年、僕は勤めていた会社を辞めてフリーランスとして独立した。今思うと無謀な選択だったかもしれないが、僕は若く、世界は21世紀を迎えて未来は黄金のように輝くはずだった。
しかしそんな未来は、夏の終わりにニューヨークでいとも容易く壊れてしまった。
その翌月、フランスのアルザス地方ではいつものようにぶどう畑で収穫が行われた。そして収穫されたぶどうは類い稀なヴィンテージとなって、10年後の僕の前に現れたのだった。
「神々しい」という表現がワインにふさわしいかどうかは分からないが、そうとしか言えない味わいを持つのが、マルセル・ダイス アルテンベルグ・ド・ベルグハイム・グラン・クリュ 2001だ。
アルザス地方のワインだからすっきりしたものを想像すると、そんな予想は裏切られることになる。パイナップルに代表されるトロピカルフルーツの甘い香りにスパイスや蜂蜜などの香りも混ざり、熟成を経て複雑な味わい深いものに仕上がっている。料理とのマリアージュを考えるのではなく、ワインそのものと対峙して楽しみたい。
「甘い」という言葉を聞くと敬遠したくなる方もいるかもしれない。しかし、この絶妙さは天下一品だ。
アルテンベルグ・ド・ベルグハイム・グラン・クリュは、マンガ「神の雫」で2005年のものが取り上げられ、このワインを生み出したメゾンは世界で最も影響力があるといわれるアメリカのワイン評論家 ロバート・パーカーが最高ランクの5つ星を付けているといった話もある。しかし、飲んでしまえば、そうしたエピソードもあくまで「おまけ」でしかないときっと感じるはずだ。
アルザスの伝統的なぶどう品種13種をブレンドして完成させたアルテンベルグ・ド・ベルグハイム・グラン・クリュについて、メゾン当主のジャン・ミッシェル・ダイスは「このワインは、私の人生における記念碑であり、過去100年間、アルザスが大いに害されてきた“テロワールよりもぶどう品種”という観念的支配を打ち破ろうとするものです」とコメントしている。味わいとともに、そのバックグラウンドに思いをはせるのもまたいいだろう。
ところで、このヴィンテージを楽しむには、どんなシチュエーションが良いのだろうか。僕の場合、東京ミッドタウンの中にあったあるバーで、当時付き合い始めて2カ月の若く、美しく、そして聡明なスタイリストの女性の誕生日デートの席だった。
このワインは、女性を口説くツールとして使うのではなく、恋人や妻との特別な時間を、より特別な時に昇華させるためにこそ味わってほしい。
ワインデータ
メゾン
マルセル・ダイス
MARCELDEISS
http://www.marceldeiss.com/fr/
マルセル・ダイスは、1744年からアルザス地方のベルグハイム村でワイン生産を行っているメゾンだ。1945年に現在のドメーヌが設立されたのだが、現在の当主、ジャン・ミシェル・ダイスに継承されてからの発展が著しく、アルザスのドメーヌの頂点とまで言われるようになった。
アルザスのグラン・クリュはゲヴュルツトラミネール、リースリング、ピノ・グリ、ミュスカの4品種のうちのひとつを使い、品種名を表記することが原則。しかし彼が、アルザスで初めて「テロワール」のコンセプトを持ち込み、最終的に複数の品種を混植・混醸することを2001年に認めさせている。
生産地
フランス、アルザス地方
ぶどう品種
リースリング、ゲヴュツトラミネール、シルヴァネール、ピノ・ブラン、オイノ・ノワール、ピノ・グリ、ピノ・ブーロ、シャスラ、シャスラ・ローズ、トラミネール、ミュシュカ・オットネル、ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン、ミュスカ・ロゼ・ア・プティ・グラン
商品名
アルテンベルグ・ド・ベルグハイム・グラン・クリュ 2001
ALTENBERG DE BERGHEIM GRAND CRU 2001
色:白ワイン
味わい/ボディ:やや甘口/ミディアム~フル
アルコール度数:
容量:750ml
参考価格:1万8000円(税抜)