2016年10~12月に放映された中で、話題になったテレビドラマと言えば「逃げるは恥だが役に立つ」だろう。
そうした人気ドラマに登場した場所やアイテムがブームになることは、昨今では珍しくないことだ。例えばドラマの舞台になった横浜市は、“聖地巡礼”のニーズを見越して「横浜逃げ恥MAP」を作成。観光地などで配布しているという。
そんな「逃げ恥」から生まれたブームの1つとして、「アイスワイン」が挙げられるだろう。
11月22日に放送されたエピソードで、登場人物たちが飲んでいたアイスワインが話題になった。そのワインには別のラベルが貼ってあったが、カナダのオンタリオ産「ノーザン・アイス ヴィダル アイスワイン」だと指摘する声もある。
逃げ恥でみくりと平匡さんが呑んでるアイスワインは、モンドセレクションで3度金賞を受賞したカナダ産アイスワインのノーザン・アイス ヴィダル アイスワインじゃないかな。
クリスピーなレモンやオレンジのアロマ、マンゴーやピーチの果実味がするみたい。呑んでみたいなあ…#逃げ恥 pic.twitter.com/xmLp85UYPr— 💮垂雪@世界の伝統衣装男士 (@sizuriyuki78) 2016年11月22日
このワインは1本375mlで販売価格は5000円前後。決して手頃とは言えない価格だが、ドラマの影響か、2017年1月時点でもAmazonや楽天で扱うショップのページをいくつかチェックした限りでは「在庫切れ」となっていた。
ドラマに出てきたアイスワインをすぐに試してみるのは難しいようだが、アイスワインとは一体どんなワインなのか、まとめておこうと思う。
アイスワインの起源は「偶然から」
アイスワインとは、氷結したぶどうを使ってつくられるワインのこと。ドイツでは、収穫時の気温が-7℃以下だったぶどうを使ってアイスワインをつくるように定められている。
そんな特殊なつくり方をするアイスワインの起源は、思い掛けないものだった。
1794年、ドイツのフランコニアでは予想外の霜に見舞われ、収穫前だったぶどうが凍結してしまった。処分せざるをえなくなったものの、生産者たちはぶどうの廃棄を惜しみ、ワインをつくってみたのだ。
すると、甘味が強く香り豊かなワインが出来上がった。それがアイスワインの起源だと言われている。
濃厚な甘みと香りが生まれる理由
口に含むと濃厚な甘味と香りが広がるアイスワイン。ワインや甘いお酒が苦手な人の中にも、アイスワインなら「おいしい」と感じる人もいるようだ。
何度か触れてきたが、アイスワインの特徴は、普通のワインからは想像できない甘さや果実の香り。その甘味と香りは、一体どのようにして生まれるのだろうか。
一般的にワイン用のぶどうは秋に収穫されるが、アイスワイン用のぶどうは氷点下の気温が続く厳冬期に収穫される。実を木につけたまま冬を待つことで、ぶどうの実は何度も凍結と解凍を繰り返し、少しずつ水分を失っていく。その結果、ぶどう本来の甘みと香りが果汁に凝縮されるのだ。
そして-7℃を下回った早朝に、自然凍結したぶどうを選別しながら丁寧に手摘みで収穫する。収穫したばかりで凍ったままのぶどうに圧力を掛けて、一気に果汁をしぼり出すのだ。
すると、果実に残ったわずかな水分は凍ったままとなり、氷点下でも凍らない果汁だけを抽出できる。得られる果汁は、通常の製法と比べると8分の1程度と非常に少ない。しかしその分、甘みと香りが凝縮した果汁を得られることになる。
その貴重な果汁を使うからこそ、アイスワインは甘味が強く濃厚な香りを持つワインに仕上がるわけだ。
アイスワインが高級ワインである理由
「逃げ恥」に登場したアイスワインの価格が5000円前後だとご紹介したが、こうしたつくり方を知れば「それくらいの価格でもおかしくない」と納得してもらえたのではないだろうか。
というのも、通常のワインと同じ量をつくろうと考えたら、アイスワインには8倍のぶどうが必要になる。しかも、氷点下まで気温が下がる地域で栽培する必要があり、産地が限られることに。さらに果実を木につけたまま冬まで待つため、鳥や昆虫の被害に遭いやすい。収穫作業も極寒の早朝にすべて手作業で行うため、過酷な労働となってしまう。しっかりと熟成させるために長い時間をかけるのも、アイスワインの価格を高くする一因だろう。
希少性が高く、手間を掛けられてつくられるアイスワイン。多少値は張るものの、最愛の人とアイスワインをゆっくり味わえば、「逃げ恥」の主人公たち2人がアイスワインを飲んで2回目のキスを迎えたシーンのように“甘いひととき”を過ごせるかもしれない。――どちらかが「無理です」とでも言い出さない限りは。