ぶどうを原料につくるワイン。しかし考えてみると、同じぶどうを使ってつくっているはずなのに、ぶどう品種によって赤や白といった色の違いが生まれ、製造方法によってはロゼやスパークリングワインなど、実にさまざまな種類のワインをつくり分けることができる。
今回は、そんな数多くの種類を持つワインの中から、失敗やハプニングによって偶然誕生したワインの種類を紹介していこうと思う。
熟成の見極めミスからシャンパンは生まれた?
グラスに注ぐと細かい泡が立ち昇る「シャンパン」。オシャレで高級感のあるワインの種類だが、ちょっとしたミスがきっかけで誕生したものだという見方もある。
シャンパンの特徴である発泡は、瓶内2次発酵によって生まれる。この瓶内2次発酵は、ある人のミスによって偶然引き起こされたものだというのだ。
その人物というのが、ベネディクト派僧院の僧侶ドン・ペリニヨン。シャンパンの製造方法を確立させた人物とされ、高級シャンパン「ドン・ペリニヨン」は彼にちなんで付けられた名前だ。
一説によると、彼は貯蔵庫にあったワインを瓶詰めした。しかし、瓶詰めしたワインは発酵しきっておらず、瓶の中で再度発酵し始めてしまった。その結果、発泡性のあるシャンパンができたというのだ。
真偽のほどは諸説あるようだが、シャンパーニュ地方はフランスでも北部にある。寒い地域で早い時期から冬に入ってしまうため、酵母がワインを熟成させる期間を十分に取るのが難しい。熟成が不十分のまま春になると、暖かくなって酵母が活動を再開し、ワインから泡が発生するという問題に昔は頭を抱えていたようだ。
産膜酵母による「汚染」から生まれたシェリー
「シェリー」は、スペイン南部に位置するアンダルシア州のヘレス周辺でつくられている白ワイン。世界3大フォーティファイドワインの1つに数えられている。
シェリーの製造方法の特徴として、アルコールを加えること(酒精強化)に加えて、産膜酵母による熟成が挙げられる。
スティルワインを醸造する場合、この産膜酵母の発生は失敗を意味する。「ワインが産膜酵母によって汚染された」と見なされるのだ。
しかし、その「汚染された」状態のまま保存した結果、シェリーが誕生したという。
産膜酵母は、樽の中にワインを満タンに詰めず、隙間を空けておくと発生する。ワインの表面に「フロール」と呼ばれる産膜酵母の白い膜が張り、それがシェリーに独特の風味を与えるのだ。
貯蔵中の温度上昇から生まれたマデイラ
ポルトガルのマデイラ島でつくられる「マデイラ」。シェリーと同様に世界3大フォーティファイドワインの1つに数えられている。
マデイラをつくるときには、ぶどう果汁の発酵途中に蒸留酒を添加するだけでなく、加熱処理を挟むことになる。現在では人工的な装置を使うことも多いが、加熱処理すると独特の風味が生まれることに気付いたのは、偶然の出来事がきっかけだった。
古くから、イギリスとインドを行き来する船に積まれていたマデイラ島のワイン。現在のように保冷技術が発達していなかったため、赤道付近を航海する際、暑さにより酸化が急激に進んでしまった。それが逆に、独特な風味を生み出すようになったのだ。
そのことに着目して、人工的に加熱処理したマデイラがつくられるようになったという。
霜による災害から生まれたアイスワイン
アイスワインは、-7℃以下で氷結したぶどうを使ってつくられるワイン。その始まりは、霜の災害によるものだった。
1794年、予想外の霜に見舞われたドイツのフランコニアでは、収穫されていなかったぶどうが凍結してしまい、処分せざるをえなくなった。
しかし、そのぶどうを処分するのがもったいないからとワインをつくってみたところ、甘味が強く香り豊かなワインが出来上がったのだ。それが今日のアイスワインの始まりと言われている。