コラム

シャブリはより“ピュア”に――減農薬栽培を推進。より細かい畑の区画である「クリマ」の違いを鮮明に

生牡蠣には冷やしたシャブリがよく合う――。ワインに興味がなかった子どものころの筆者でも、テレビやマンガの情報などから覚えてしまった“常識”だ。それくらい「シャブリ」は、ワインの中でも特別なブランドだろう。

シャブリは、フランス・ブルゴーニュ地方のシャブリ地区でつくられる白ワイン。2016年、東京のレストラン150軒を対象に調べてみたところ、61%の店舗においてワインリストの中にシャブリが含まれていたというデータもある。

そのシャブリの生産に関わる人たちをまとめる役割を担っているのが、ブルゴーニュワイン委員会(BIVB)内にあるシャブリ委員会だ。同委員会で副会長を務めるルイ・モロー氏が2017年11月に来日。シャブリの最新の取り組みについて、メディア向けに語ってくれた。

さらに“ピュア”になるシャブリ

シャブリ(Chablis)ワインの公式サイト「chablis.jp」を見ると、「Pure Chablis」というキャッチフレーズが目にとまる。

「シャブリ」を名乗れるのは、ブルゴーニュ・シャブリ地区でつくられる白ワインだけ。しかも、使用できるぶどう品種はシャルドネのみ。世界中を見渡してみても、シャブリほど “ピュア”なワインブランドはそう多くない。シャブリに対しては、「世界で最もピュアなシャルドネの表現」という評価もある。

モロー氏によると、シャブリでは現在、すべての生産者が「よりピュアな本来のシャブリらしさを取り戻そう」という共通認識を持ち、ワインづくりに取り組んでいるという。

具体的な取り組みとしては、地域憲章を制定して減農薬栽培(リュットレゾネ)を推進。ぶどう畑での殺菌・殺虫剤の使用量を大幅に削減するなどして、環境に加え、消費者・地域住民・生産者の健康に優しいぶどうづくりを進めている。

さらに、“ピュア”さをより強く打ち出すため、醸造に使う樽の影響を軽減しようと試みる動きが、シャブリのつくり手たちの間で広がっている。

一時期、樽を積極的に活用しようというつくり手も増えたが、現在では「醸造にステンレスタンクを用いる」、樽で醸造するにしても「より大型の樽を用いて影響を軽減する」――といったアプローチが主流になっているそうだ。

土台は整えても、そこから先はつくり手次第

シャブリ地区のつくり手たちの間で「リュットレゾネの推進」「樽の影響を軽減する」といった共通項が増えているようだが、その結果として「シャブリを飲んだら、どのつくり手のシャブリも同じような味がする」といった事態になってしまわないのだろうか。

そんな心配は、まったく無用だとモロー氏は語る。リュットレゾネなど、すべてのつくり手にとっての「共通の土台」は整えていくが、そこから先はつくり手次第。一歩踏み込んで有機(オーガニック)農法に取り組むつくり手もいれば、そこからさらに突き詰めて、月や惑星の運行などを考慮しながらワインをつくるビオディナミ製法にこだわるつくり手もいる。

「生産者がそれぞれのクリマを自由に表現できるような、そういった余地が残されています。リュットレゾネをやる人、オーガニックをやる人、ビオディナミをやる人、それぞれに選択が委ねられておりますけれども、産地全体としては『より環境に優しい方向へ』という意識で統一されています」(モロー氏)

アペラシオン、クリマ、リュー・ディー。細かな違いへのこだわり

「シャブリ」と一括りに言う人もいるが、ぶどうが採れる地区によって「プティ・シャブリ」「シャブリ」「シャブリ・プルミエ・クリュ」「シャブリ・グラン・クリュ」と許される呼称が異なる。

もっと細かく見ると、シャブリの中には47の「クリマ」がある。クリマとは、シャブリ地区の中でさらに細かく厳密に線引きされた区画のこと。ブルゴーニュ地方でよく使われる概念で、クリマに注目することで気候・地質の細かな違いをよりはっきりと理解できるようになる。

さらに、クリマに加えて「リュー・ディー」という概念も用いられている。リュー・ディーとは、地形的・歴史的な特徴を持つ土地の区画のこと。クリマと同じような概念だが、1つのクリマの中に複数のリュー・ディーが含まれることもあれば、1つのリュー・ディーが複数のクリマにまたがっていることもある。

そうした特定のクリマやリュー・ディーで採れたぶどうのみを使い、従来よりも小型のステンレスタンクを用いて、よりピュアなシャブリをつくる。細かな違いにこだわるのが、シャブリのつくり手たちの間でトレンドになっているそうだ。

ここまでに触れてきたようなシャブリの「細かな違い」を味わうためにはどうしたらいいのだろうか。近日中に掲載する次回の記事において、モロー氏がおすすめしてくれたシャブリの違いを楽しむためのシャブリ6本をご紹介しよう。

データ:シャブリの現在

ワイン大国・フランスの中でも、ワイン生産地の双璧と言えるのがボルドーとブルゴーニュだろう。ボルドーと言えば赤ワインを思い浮かべる人が多いと思うが、ブルゴーニュでは白ワインの生産も盛ん。日本に輸入されているブルゴーニュワインのうち、57%は白ワインだ。

ただ、ブルゴーニュにはシャブリ以外の白ワイン生産地もある。それでも日本におけるシャブリの存在感は圧倒的で、ブルゴーニュから輸入する白ワインの中で、シャブリは常に40%以上のシェアを誇る。2016年については、シェア48%だ。

シャブリはブルゴーニュ地方の中でも、最北端の位置にある。気品ある爽やかさとミネラル感あふれる味わいがシャブリの特徴だ。

シャブリでは1970~2000年にかけてぶどう畑の面積が4倍に拡大。現在は約6800haのぶどう畑が広がる。

ワイン生産量はブルゴーニュ地方の18%を占め、主な輸出先はイギリス(29%)、アメリカ(10%)、日本(9.5%)、スウェーデン(8%)となっている。

データ:シャブリ・グラン・クリュ、プルミエ・クリュの違い

前述のように、シャブリには「プティ・シャブリ」「シャブリ」「シャブリ・プルミエ・クリュ」「シャブリ・グラン・クリュ」という4つのアペラシオン(産地呼称)がある。

シャブリ地区内でのワイン生産量の内訳は、プティ・シャブリが18%、シャブリが64%、シャブリ・プルミエ・クリュが16%、シャブリ・グラン・クリュが2%を占める。

それぞれの産地の特徴は次のとおりだ。

プティ・シャブリ

コストパフォーマンスに優れたエントリーレベルのシャブリ。

シャブリ地区のうち、斜面上部の平地になっている畑で栽培されたぶどうがプティ・シャブリに使われる。1ha当たりの収量制限は60hL(ヘクトリットル)。土壌は茶色で硬い石灰岩だ。

食前酒(アペリティフ)などで飲むのがおすすめ。若いうちに、できれば2年以内に飲むのが理想的だ。

シャブリ

シャブリ地区で最も多くつくられるアペラシオンが「シャブリ」。独特の個性があり、繊細で辛口。つくり手の醸造方法やヴィンテージによって、さまざまなスタイルがある。

シャブリに使われるぶどうは、シャブリ地区のうち北か東を向いた斜面・台地で収穫される。収量制限は1ha当たり60hL。

シャブリ・プルミエ・クリュ

「シャブリ」よりも上級なのが「シャブリ・プルミエ・クリュ」。このクラスになると5~10年ほどの熟成に耐えるワインもある。

南か西を向いたぶどう畑から採れるぶどうが使用される。収量制限も1ha当たり58hLと厳しくなる。

シャブリ・プルミエ・クリュでは収穫場所の名前を付けることができるようになり、場所によって個性が異なる。

モンテ・ド・トネール(Montee de Tonnerre)や、コート・ド・レシェ(Cote de Lechet)などのシャブリ・プルミエ・クリュは、引き締まるニュアンスがあり、火打石のようなミネラル感がある。

ボーロワ(Beauroy)やモンマン(Montmains)のシャブリ・プルミエ・クリュは、滑らかで、果実味豊かなのが特徴だ。

シャブリ・グラン・クリュ

シャブリ地区で生産するワインのうち、最上級の2%に当たるのが「シャブリ・グラン・クリュ」だ。

セラン川右岸の丘陵地帯にある7つのクリマ、小さな牡蠣の化石を含んだ泥灰岩とキンメリジャンの石灰岩を土壌とする106haの畑からつくられるワインのみ、シャブリ・グラン・クリュを名乗ることが許される。1ha当たりの収量制限は54hLだ。

シャブリ・グラン・クリュが生まれる7つのクリマの一覧と特徴は次のようになっている。

・ブランショ(Blanchot):花のようで、滑らかで、心地よい
・ブーグロ(Bougros):丸く、ミネラル感があり、滑らか
・レ・クロ(Les Clos):ミネラルと力強さがある。偉大な熟成能力を持つ
・グルヌイユ(Grenouilles):花のようで、果実味豊かで、厚みがある
・レ・プルーズ(Les Preuses):長く気品があり、桁外れの熟成能力を持つ
・ヴァルミュール(Valmur):ミネラル感、果実味豊か。とてもバランスが良い
・ヴォーデジール(Vaudesir):生き生きとしていて、花のようで、丸みがある

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