コラム

ボルドー地方|書籍『ワインは楽しい!【増補改訂版】』(パイ インターナショナル)より

本記事は、発売元のパイ インターナショナルから許諾を得て、フランスで一番売れているワインの教科書『ワインは楽しい!【増補改訂版】』の一部をご紹介するものです。

『ワインは楽しい!【増補改訂版】』は、主要産地の地図がより詳しく、分かりやすくなった他、ワインの発展に貢献した伝説的な人物の紹介も掲載。ページ数も約40ページ増え、よりワインの知識が深まる1冊となっています。

今回は『ワインは楽しい!【増補改訂版】』の中から、「ボルドー地方」について記したページをご紹介します。


どんな産地?

世界最高峰の(そして世界一高価な)赤ワインを生むことで有名だけれど、あまりよく知られていない、リーズナブルなワインも無数に存在するので、なかなか選ぶのが難しい。エチケットに記載されているAOC、シャトー名、ヴィンテージ(産年)をよく見ることが大切。

AOC

地区名が限定されていればいるほどいい。まず、ボルドー、ボルドー・シュペリウールという、この地方全域を示すAOCがあり、それからメドックなどの地区名、さらに限定して、サン・テステフ、ポイヤック、マルゴー、サン・ジュリアンなどの有名な村名を示すAOCがある。

ボルドー・シュペリウール

その名から誤解されがちだけれど、AOCボルドー・シュペリウール(上級ボルドーの意)はポムロールやサンジュリアンなどの村名AOCよりも格上ということではないので要注意。これは地方名格のAOCで、ボルドー地方全域のぶどうを使用することができる。ただし、普通のAOCボルドーよりも厳しい生産条件(例えば、ぶどう樹は樹齢20年以上、販売前に最低でも12カ月以上の育成などの条件)をクリアする必要がある。

シャトー

ボルドー地方では、ドメーヌよりもシャトーという言葉がよく出てくるわ。お城ではなく、ぶどう畑を含めた醸造元のことを指す。とても有名で品質が確かな(価格もそれに見合った)名門シャトーがある一方で、地味だけど良心的な価格設定で、発掘しがいのあるシャトーもある。また、スーパーマーケットのマーケティング部で作り上げた、紙の上にしか存在しない、実体のないシャトーもあり、このタイプのワインは往々にして凡庸ね。

ぶどう品種

【白ぶどう品種】
ソーヴィニヨン、セミヨン、ミュスカデル

【黒ぶどう品種】
カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド、マルベック

ヴィンテージ(産年)とプリムール(新酒)

ヴィンテージはボルドー地方ではワインの価格を左右するので特に重要。毎年4月になると、世界中のワインテイスター、ネゴシアンが、出来立ての「プリムール(新酒)」の味を見るべく、ボルドー地方にこぞって集結する。その品質を見定め、ワインを販売するネゴシアンで構成される「ボルドー市場」が価格を決める。あるシャトーのワインの価格は、ヴィンテージの評価によって変動する。同じシャトーのワインでも、当たり年と評価された2010年、2015年のものは2011年、2013年のものよりも高値が付く。いいヴィンテージだと、小さなシャトーでもかなりの出来栄えが期待できるし、名門シャトーでは、長期熟成に適した上等なワインに仕上がる。

いいヴィンテージの例

2016年 2015年 2010年 2009年 2005年

味わい

ボルドーワインの香味特性は、2世紀ほど前から世界中で模倣されるほどの指標となっている! アングロ・サクソンの国々では、メルロ種とカベルネ・ソーヴィニヨン種の調合からなるワインは、「ボルドー・ブレンド」と呼ばれている。ボルドーワインはタンニン豊かな、酸味のある風味と、樽育成によるしっかりしたストラクチャーが際立つタイプ。若いワインはウッディーな香りを帯びたものが多いわ。

ボルドー地方の畑

左岸

カベルネ・ソーヴィニヨンが圧倒的に多い地区で、長期熟成型のワインを造っている。つまり、その全ての特徴を開花させるのに長い年月が必要ということ。若いうちに飲むと樽香とタンニンが強すぎて、渋みで舌が痺れてしまう。けれど10年、極上のものは30年、40年寝かせると素晴らしい味わいになる。グラーヴ地区のワインも同様で、まろやかな味わいになるまで数年間の熟成が必要。

左岸(オー・メドック地区、メドック地区)、カベルネ・ソーヴィニヨンが主流(次いでメルロ)

右岸

若いうちから楽しめるワインが多い地区。メルロが主流でより柔らかな味わい。カベルネ・フランはその交配親となったカベルネ・ソーヴィニヨンほど硬くなく爽やか。それでも、右岸のワインも何年か熟成させるとより深みが増す。

右岸(ポムロル地区、サン・テミリオン地区など)、メルロが主流(次いでカベルネ・フラン)

白ワイン

アントル・ドゥ・メール地区の白は溌剌とした、爽やかで軽やかな味わい。グラーヴ地区の白はウッディーで、しっかりしたコクのある味わい。
ソーテルヌ地区、バルサック地区、ルピアック地区は極甘口ワインを代表する、甘美なワインを産出している。

ボルドーワインの格付け

メドック地区、グラーヴ地区、サン・テミリオン地区、ソーテルヌ地区にはそれぞれ、上級ワインの格付けが存在する(論争が起きることも多いけれど…)。例えばメドック地区の赤ワインには、1855年に当時の価格に基づいて決められた格付けがある。「グランクリュ・クラッセ」と呼ばれ、等級は第1~第5級まで。さらにその下に「クリュ・ブルジョワ」というクラスもあるわ。

メドック格付1級シャトー(1855)(プルミエ・グランクリュ・クラッセ・ド・メドック)
★シャトー・ラトゥール(Chateau Latour)(ポイヤック地区)
★シャトー・ラフィット・ロートシルト(Chateau Lafite-Routhschild)(ポイヤック地区)
★シャトー・ムートン・ロートシルト(Chateau Mouton Routhschild)(ポイヤック地区)
★シャトー・オー・ブリオン(Chateau Haut-Brion)(グラーヴ地区)
★シャトー・マルゴー(Chateau Margaux)(マルゴー地区)

ソーテルヌ格付特別第1級シャトー(1855)(プルミエクリュ・スーペリウール・ド・ソーテルヌ)
★シャトー・ディケム(Chateau d’Yquem)

サン・テミリオン格付第1級特別級Aシャトー(2012)(プルミエ・グランクリュ・クラッセA・ド・サン・テミリオン)
★シャトー・オーゾンヌ(Chateau Ausone)
★シャトー・シュヴァル・ブラン(Chateau Cheval Blanc)
★シャトー・パヴィ(Chateau Pavie)
★シャトー・アンジェリュス(Chateau Angelus)

豆知識:ボルドー地方のワイナリー巡り

ボルドーワインを知る手段のひとつとして、メドック地区のワイン・マラソンがある。あるいは、のんびりドライブしながら、シャトー見学を楽しんでもいいわね。名門シャトーも見学できるけれど(ただし試飲が有料なところもある)、あまり知られていない小さなシャトーもぜひ訪ねてみて。ただ、事前に電話かメールをして見学と試飲ができるか確認するほうが無難。一般公開や個人向けの販売をしていないシャトーもあるから。


『ワインは楽しい!【増補改訂版】絵で読むワイン教本』

著:オフェリー・ネマン
ワインジャーナリスト、ブロガー。 2009年から、ル・モンド紙のウェブ版に「Miss GlouGlou* (ミス・グルグル)」というペンネームで、愛すべきワインに悩まされる日々を軽妙に綴ったブログを掲載し、人気を博している。主な著書に『Le vin pour ceux qui n’y connaissent rien(初心者のためのワイン入門書)』(L’Etudiant社)、『Boissons et seduction(お酒と恋の駆け引き)』(Delcourt社)などがある。
*グルグル:ワインを注ぐ時の「とくとく」という音を表す擬声語。

イラスト:ヤニス・ヴァルツィコス
パリとビアリッツで活躍するアートダイレクター、デザイナー。書籍のイラストレーションや、レストラン、食品のグラフィックデザイン、服飾、インテリア雑貨のデザインなど、様々な分野で活躍している。イラストを担当した主な書籍に『コーヒーは楽しい!』『ウイスキーは楽しい!』『美しいフランス菓子の教科書』(パイ インターナショナル)などがある。

翻訳:河 清美
広島県尾道市生まれ。東京外国語大学フランス語学科卒。翻訳家、ライター。訳書に『コーヒーは楽しい!』『ウイスキーは楽しい!』『美しいフランス菓子の教科書』(パイ インターナショナル)、共著書に『フランスAOCワイン事典』(三省堂)などがある。

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