コラム

“農家のシャンパーニュ”がブーム! 「RM」を知らずしてシャンパーニュは語れない

「ぶどう農家のシャンパーニュ 試飲商談会」が2019年1月30日、ザ・ランドマークスクエア トーキョーにて開催された。この試飲会は2015年、2017年に続き、3回目の開催となる。

「ぶどう農家のシャンパーニュって、なんのこと?」。そんな風に思われた方は、ぜひこの記事をチェックしてほしい。なぜなら、農家のつくるシャンパーニュはここ数年、大きな話題となっているからだ。

「NM」と「RM」、シャンパーニュの大きなカテゴリーを知ろう



まずは、シャンパーニュの概要からチェックしていこう。

皆さんはどんなシャンパーニュをご存知だろうか。モエ・エ・シャンドン、ヴーヴ・クリコ、ローラン・ペリエ、テタンジェ、パイパー・エドシック、ペリエ・ジュエ、ポメリー、クリュッグ、サロン……。日本のワイン専門店に並ぶシャンパーニュだけでも、数えきれないほどの種類がある。

今挙げたシャンパーニュは全て、「メゾン」と呼ばれる大手のつくり手が醸造するものだ。フランス国内には300軒ほどのメゾンが存在し、彼らは契約農家の栽培・収穫したぶどうを使って、膨大な量のリザーブワイン(過去年からストックしたもの)をブレンド。そのブランドイメージに沿ったワインをつくり上げる。こういったシャンパーニュを「NM(Negociant Manipulant/ネゴシアン・マニピュラン)」という。

一方、シャンパーニュ地方では4000以上ものつくり手が「RM(Recoltant Manipulant/レコルタン・マニピュラン」と呼ばれるカテゴリーのシャンパーニュをつくっている。これは、ぶどう栽培農家が自ら作るシャンパーニュのことだ。ブルゴーニュのつくり手が自社畑でつくったぶどうを使いつくるワインを”ドメーヌもの”と呼ぶのになぞらえ、「ドメーヌ・シャンパーニュ」と呼ばれることもある。

「RM」の魅力のヒミツ

では、農家のシャンパーニュがなぜここ最近、注目されるようになっているのか、その魅力を解説していこう。


土地の個性を味わえる

一口に「シャンパーニュ地方」といっても全体は広大で、大きく3つの産地に分かれている。

一番北に位置するモンターニュ・ド・ランスは最もぶどうの栽培量が多く、特に質の良いピノ・ノワールが育つことで知られる山岳地帯だ。真ん中のヴァレ・ド・ラ・マルヌはマルヌ川に沿った渓谷地帯で、特にピノ・ムニエに適している。少し南に下がったコート・デ・ブランでは、栽培量の95%がシャルドネだ。

農家は土壌を知り尽くし、その土壌に最も適したぶどうを生育するプロだ。収穫したぶどうは、大手メゾンに売却してしまえばその農家の個性は消えてしまうが、自らがシャンパーニュをつくればそのぶどうの個性を大きく引き出すことができる。ぶどう自体の味を生かすため、大手メゾンに比べドサージュ(補糖)が少ないのも特徴的だ。

背景を知ることができる

大手メゾンのNMシャンパーニュにおいて、どこの地域のどんなぶどうが使われたかは開示されないことがほとんどだ。それらのぶどうがどのように育ってきたかも、分からない。

収穫年を明らかにしないNV(ノン・ヴィンテージ)の場合は特に、飲み手はメゾン名以外の情報をほとんど何も知らないのだ。

一方、農家の作ったRMシャンパーニュは、バックラベルにブレンドの割合や有機栽培の有無、ドサージュの量などの情報を明示していることが多い。「この地域のこのぶどうにはこんな個性があるのか」。そんなことを考えながらシャンパーニュを味わうという今までとは違った楽しみ方が可能になる。

つくり手の考えが分かる

NMにおいては均一で安定した味が大きな価値となっている。一方、小さな農家のつくるシャンパーニュには、探究心のあふれるものも多い。

一例として、大手メゾンでは現在ほとんど使われない「木樽の使用」が挙げられる。ステンレスタンクが一般的になるまでは、どのメゾンでも木樽が使われてきた。樽を使うことによる熟成香や、酸がまろやかになる効果などを、そのシャンパーニュの個性として楽しむRMが見られる。

他には、異なる年度のリザーブワインを幾層にも重ねてブレンドするものや、赤ワインをあえて醸造してそれをブレンドするなど、つくり手の意図が明確に分かるものが多い。

トレンドに沿った「RM」は注目の的

ビール市場では変わらずクラフトビールが強く、ワイン市場ではローカル色の強い土着品種が注目を浴びる昨今。日本酒では季節限定ものや出回らない地酒、スピリッツでもクラフトジンなどが人気だ。

どこでも誰にでも手に入るものではなく、こだわりを持ってつくられた少量生産のものが魅力的に映る。そんな”今の価値観”の中で、RMシャンパーニュに対して注目が上がってきているのは自然なことだろう。


世界の愛飲家がこぞって探し求める誰も知らない絶品シャンパーニュ。いったん話題になれば、生産本数が少ないため争奪戦となり、価格が高騰することもあるという。

農家の作るシャンパーニュ、大手メゾンとは異なる個性的なおいしさを、皆さんも試してみてはいかがだろうか。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で
About the author /  Yayoi Ozawa
Yayoi Ozawa

フランス料理店経営ののち、ワインとグルメ、音楽を専門とするライターへ転身