コラム

『神の雫』でも絶賛! 辛口評価本も認めるトップワイナリー、ファルネーゼ ~解説:イタリアのワイナリー

   

イタリアのワイナリーを解説するシリーズ4回目は、イタリア中部のアブルッツオ州にあるファルネーゼ(Farnese)だ。

有名評論家のアドバイスをもとにつくったフラッグシップワインの「エディツィオーネ」をはじめ、ワイン漫画『神の雫』(講談社)の影響で日本でも話題になった「カサーレ・ヴェッキオ」など、世界的に人気の高いワインを多く生み出している。『神の雫』では、「カサーレ・ヴェッキオ」のことを、1本2000円以下の低価格ながら、1万円台の高級ワインに負けない品質だと絶賛している。

ワインづくりへのこだわりや工夫で、高いレベルのワインをリーズナブルに提供するファルネーゼについて紹介していく。

ファルネーゼとは

ファルネーゼは1994年設立と比較的新しいが、複数のワイナリーを傘下に収める大手で、10年足たらずのうちにイタリアのトップワイナリーの座に就いた。辛口評価本で何年にもわたって高評価を受けたり、国外のコンクールで多くの受賞歴を持つなど、イタリア国内のみならず、世界的にも一流生産者であることを知らしめている。

16世紀のワイナリーを再建、トップワイナリーへ

ファルネーゼは設立年こそ新しいが、その由緒は古い。1582年にアブルッツオ州の貴族、ファルネーゼ家の王子と結婚したオーストリアのマルゲリータ王女が、同州オルトナ市でワインづくりを行っていたことに始まる。

その後、数百年の間はワインづくりが途絶えていたが、20世紀の終わりごろになって、ワインを愛する3人が現代のファルネーゼとして再建を目指すこととなる。創設者のカミッロ デ・ユリウス氏、現社長のヴァレンティーノ・ショッティ氏、エノロゴ(醸造家)であるフィリッポ・バッカラーロ氏だ。

彼らは、1990年からワインづくりに着手。1994年に新生「ファルネーゼ」を立ち上げ、復活させた。

その後、10年も経たないうちにワイナリーを拡大。本拠があるアブルッツオ州のファンティーニのほか、グループには、シチリア島のヴィニエティ・ザブ、プーリア州のヴィニエティ・デル・サレント、バジリカータ州のヴィニエティ・デル・ヴルトゥーレ、トスカーナ州のテヌーテ・ロゼッティ、カンパニア州のヴェゼーヴォがある。これらは皆、ファルネーゼグループとして、自社の技術や情報を共有しながら、各地の個性を生かして優れたワインを生産している。

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ファルネーゼはワインづくりにおいて、3つのこだわりを掲げている。

 1.良いぶどうで「高品質」のワインをつくること
 2.手に取りたくなるようなパッケージやラベルなど、「見た目が魅力的」であること
 3.最高の品質でありながら、リーズナブルな「コストパフォーマンスの良さ」

そのため、伝統的な手法を守りつつ、最新の技術や設備も取り入れている。辛口な評価本として有名な、ルカ・マローニ氏のワインガイド『グイダ・ディ・ヴィーニ・イタリアーニ(GUIDA DEI VINI ITALIANI)』において、2005~2007年度版と3年連続、また、2012~2017年度版、2019年度版において、2500以上の生産者の中からイタリア1位に選出されている。

ユリウス氏ら3人のワインづくりへの情熱により、ファルネーゼは、イタリアで揺るぎないトップ生産者としての地位を築いたのだ。

13人もの醸造家チームが行うワインづくり

自社所有畑は計150haで、モーロ川渓谷の北側の斜面に位置する。そのため、南向きの畑で育つぶどうは太陽の日差しを存分に浴びることができるのだ。

標高が約3000mで、海から18マイル離れたマイエッラ山脈は、海洋性と山岳性の両方の影響を受けたミクロクリマ(微気候)のため、良質なワインを生産する条件が整っていると言える。
 
一方、契約畑は450haだが、1軒あたり1~2haの小さな農家と契約している。ファルネーゼは、質の良いぶどうを得るためには、広い自社畑で多くの季節労働者を雇うよりも、専門知識とぶどうづくりへの情熱を持った小規模農家と長期契約した方が良いという考えだ。

そのため、5年単位で契約し、ぶどうの収穫量ではなく、畑の面積に応じて支払いをしている。量ではなく品質により高く買い取るシステムのため、契約農家は剪定や間引きを積極的に行って、低収量で質重視のぶどうを栽培することができるのだ。これは、リーズナブルに高品質のワインをつくることができる仕組みでもある。

ファルネーゼでは、ぶどうの収穫から24時間以内に醸造するため、常にワインづくりができる体制が整っていなければならない。そのため、設立当時から関わっているエノロゴのバッカラーロ氏が、コンサルタントのアルベルト・アントニーニ氏とともに責任者として指導を行いながら、大人数のエノロゴをまとめている。

通常、ワイナリーには1~3人ほどのエノロゴしかいないが、ファルネーゼグループでは総勢13人のチームがワインづくりを行っている。優れたエノロゴたちが24時間体制でワインに向き合うことで、管理を万全にして品質の高いワインを生み出している。

ファルネーゼを代表するワイン

高品質ながら、比較的手頃な価格で楽しめるファルネーゼのワイン。それを象徴するのが、次の2本のワインだ。

評論家のアドバイスから生まれたフラッグシップワイン「エディツィオーネ」

ファルネーゼは設立当初、エントリーレベルのワインしかつくっていなかった。しかし、1995年に転機が訪れる。ファルネーゼを訪れたイギリスの著名評論家ヒュー・ジョンソン氏から、土着品種で最高のワインをつくってみてはどうかというアドバイスを受けたのだ。

それから4年の歳月をかけて最良の畑をリサーチし、試行錯誤を繰り返した。その結果、異なる土壌の5品種を別々に醸造しブレンドすることで、至高の赤ワインづくりに成功。こうして生まれたのが、今やファルネーゼの看板ワインともなった「エディツィオーネ チンクエ アウトークトニ(エディツィオーネ)」で、2001年に初めてリリースした。

名称にある「チンクエ アウトークトニ」とは、5種類の土着品種のぶどうを意味する。アブルッツオ州の海抜500mにあるモンテプルチアーノやプーリア州の樹齢100年のプリミティーヴォなど、厳選を重ねたぶどうを使用。2州のぶどうを使っているため、イタリアのワイン法上、ヴィンテージの表示はできない。その代わりに、エディションナンバーが付けられている。凝縮した果実味と、滑らかでしっかりとしたタンニンが特徴の、濃厚なフルボディのワインだ。

オーストラリアのワインコンクール「Top100」でベストワインに選出され、その後大ヒット。世界中から注文が殺到し、瞬く間にファルネーゼの名も広まった。

「ファルネーゼ エディツィオーネ チンクエ アウトークトニ」
品種:モンテプルチャーノ、プリミティーヴォ、サンジョヴェーゼ、ネグロアマーロ、マルヴァジア・ネーラ
味わい:赤・フルボディ
参考小売価格:5000円(税別)

日本でも話題になった「カサーレ ヴェッキオ モンテプルチアーノ ダブルッツオ」

漫画『神の雫』で取り上げられ、日本でも人気のため売り切れ続出となった赤ワインが「カサーレ ヴェッキオ モンテプルチアーノ ダブルッツオ」だ。2000円以下と低価格ながら、その実力は1万6000円の高級ワインに負けていないと同作品で絶賛されている。

コストパフォーマンスに優れたファルネーゼのワインの中でも、特に秀逸なもので、著名なワイン評論家のロバート・パーカー氏に「車に詰め込めるだけ買うべきだ」と評されるほど、“買い”なワインとされている。

通常は1枝から8房のぶどうを収穫するが、4房と収穫量を抑えることで、凝縮感のあるぶどうになる。そのため、色も濃く香り高い、ボリュームのあるワインに仕上がるのだ。

モンテプルチアーノを100%使用し、凝縮された果実味で、パワフルで濃厚ながらエレガントさもあり飲みやすく、バランスのよい仕上がりになっている。ワインの内容だけではなく、見た目にも妥協しないファルネーゼらしく、ラベルもスタイリッシュなデザインだ。

「ファルネーゼ カサーレ ヴェッキオ モンテプルチアーノ ダブルッツオ」
品種:モンテプルチャーノ
味わい:赤・フルボディ
参考小売価格:2300円(税別)

その他のおすすめワイン

ファルネーゼのワインは、どれもプレミアム感のある高品質なものだが、1000円台から買えるものが多い。そこには、生産者の“良いワインを少しでも安く”という思いが詰まっている。

ファルネーゼ ファンティーニ サンジョヴェーゼ テッレ ディ キエティ

1000円台ながら、ルカ・マローニ氏の評価本で96点(2018年)という高得点を出した赤ワイン。アブルッツオ州のサンジョヴェーゼのみを使用しており、豊かな果実味とボリューム感が特徴だ。ガーネット色で、赤いベリー系果実やスパイスが香る、しっかりとしたフルボディ。

品種:サンジョヴェーゼ
味わい:赤・ミディアムボディ
参考小売価格:1500円(税別)

ファルネーゼ ドン カミッロ

創設者のカミッロ・デ・ユリウス氏の名前から名付けられた赤ワインで、世界市場に向けた野心作とも言われる。

果実味や酸味が特徴のサンジョヴェーゼを主体に、骨格がしっかりしたカベルネをブレンド。熟成した果実やスパイスのアロマに、樽熟成ならではのバニラやチョコレートのニュアンスが加わり、複雑で風味豊かに仕上がっている。

品種:サンジョヴェーゼ、カベルネ・ソーヴィニヨン
味わい:赤・フルボディ
参考小売価格:2600円(税別)

ファルネーゼ ファンティーニ スプマンテ グラン キュヴェ

ファルネーゼが初めてつくったスプマンテ。アブルッツオ州のココッチオーラという土着品種を使用した。かんきつ系や花のアロマを持ち、爽やかで清涼感のある味わいだ。かなり低温でもアロマが広がるため、キンキンに冷やしてもおいしく飲める。

パッケージにもこだわるファルネーゼらしく、ボトルはシャンパーニュの名門リュイナールと同じものを使用。ラベルにはスワロフスキークリスタルがあしらわれ、美しいデザインになっている。

品種:ココッチオーラ
味わい:白・辛口
参考小売価格:2400円(税別)

高級ワインに負けない味でありながら、親しみやすく、肩ひじを張らずに飲めるファルネーゼのワイン。“1000円台から買えるプレミアムワイン”を、ぜひ体験してみてはいかがだろうか。

【解説:イタリアのワイナリー】
サクラアワードで最高賞受賞の「イル パッソ」を手掛けるヴィニエティ・ザブ
世界品質の「ソアーヴェ・クラシコ」のつくり手、イナマ
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About the author /  大江 有起
大江 有起

コピーライター、雑誌の編集者などを色々経てフリーライターに。文章を書くことと、赤玉スイートワインや貴腐ワインのような甘いワインが好きです。 ワインバザールさんにてワインに興味を持ち、一般社団法人日本ソムリエ協会ワイン検定シルバー取得しました