コラム

レオヴィル3兄弟|サン・ジュリアンを代表する、3つの格付け第2級シャトー ~知っておきたいボルドーのつくり手

フランスワインの2大産地の1つ、ボルドーにおいて、小さいながら複数の格付けシャトーを有するサン・ジュリアン村。そのサン・ジュリアン村には、「レオヴィル」の名を冠する3つのシャトーがある。

同じシャトーをルーツとする3つのシャトーは「レオヴィル3兄弟」とも呼ばれ、スーパーセカンドと評される、高品質なワインをつくり続けている。今回は、そんなレオヴィル3兄弟のそれぞれのシャトーについて紹介していく。

「レオヴィル3兄弟」とは

レオヴィル3兄弟とは、格付けで知られるメドック地区のジロンド川沿いに位置するサン・ジュリアン村にある、3つのシャトーのことを指す。

「レオヴィル」の名を持つ、3つのシャトー

サン・ジュリアン村には、シャトー・レオヴィル・ラス・カーズ(Chateau Leoville-Las Cases)、シャトー・レオヴィル・ポワフェレ(Chateau Leoville-Poyferre)、シャトー・レオヴィル・バルトン(Chateau Leoville-Barton)という、「レオヴィル」と名の付くシャトーが3つある。この3つは、もともとはドメーヌ・デ・レオヴィルというシャトーだった。1638年にボルドーの商人がぶどうの栽培地として設立したが、その後、フランス革命の影響で畑が3分割されることとなる。

畑が分割されて以降、異なる歴史を歩んできた3つのシャトーには、それぞれの個性がある。また、メドック格付け第2級ながら「1級を脅かす存在」ともいわれおり、その品質の高さから、スーパーセカンドとも評される。

レオヴィル3兄弟のシャトーがあるサン・ジュリアン村

サン・ジュリアン村は、メドック地区に6つある村名AOC(Appellation d’Origine Controlee、原産地呼称)の1つだ。面積は約920haと小さく、メドック格付け1級のシャトーはない。しかしながら、格付シャトーは11あり、そのうちの5つは2級格付けと、全体的なレベルが高く、品質が安定している。また、土壌が砂利質で水はけがよいため、カベルネ・ソーヴィニヨンの栽培に適している。

レオヴィル3兄弟のシャトーはいずれも2級に格付けされており、バランスがよく、スマートな同村のワインづくりをけん引する存在でもある。

3兄弟の“長男”シャトー・レオヴィル・ラス・カーズ

シャトー・レオヴィル・ラス・カーズは、レオヴィル3兄弟の長男的存在のシャトーだ。もともとの敷地面積の5分の3を所有しており、3兄弟の中で最も広大なシャトーとなる。1級に引けをとらない2級格付けを指す、スーパーセカンドの中でも筆頭格といわれており、サン・ジュリアン村で最高の評価を得ている。

2つのテロワールが生み出す唯一無二の味わい

シャトー・レオヴィル・ラス・カーズの畑は、同じメドック地区の村名AOCで、パワフルなワインで知られるポイヤックと隣接している。そして、このポイヤックは、1級格付けのシャトー・ラトゥール(Chateau Latour)の畑でもある。

つまり、シャトー・レオヴィル・ラス・カーズのワインは、繊細で優雅なサン・ジュリアン村のテロワールと、厚みがあり力強いポイヤックのテロワールが混じり合って生まれる、唯一無二のものだともいえるだろう。

19世紀から続くワインづくりの哲学

シャトーの現オーナーは、ジャン・ユベール・ディロン氏。ディロン家では、「テロワールの尊重」と「ワインは食事中に消費されるもの」という考えのもと、19世紀からこのシャトーでワインづくりを行っている。

テロワールを尊重するために重視しているのは、テロワールを理解すること。そのため、過去につくられたワインを研究することで、テロワールとの関係性を研究している。

また、ワインは食事中に消費されるものという考えから、食事と合わせたシチュエーションを重視してブレンディングする。特に、熟成や樽香に負けてしまわない新鮮なぶどうのアロマを維持するために、繊細なブレンディングを行うという。

スーパーセカンドの筆頭格ともいわれる、上質でバランスのよいワインは、オーナー家に伝わるワインづくりの哲学のたまものなのだ。

セカンドラベルの先駆け「クロ・デュ・マルキ」

シャトー・レオヴィル・ラス・カーズの「クロ・デュ・マルキ」は、セカンドラベルの先駆けとなったワインといわれている。

セカンドラベルは、一般的にファーストラベルより樹齢が若いぶどうからつくられたワインや、醸造初期の熟成段階で選別されたワインであることが多い。一方で「クロ・デュ・マルキ」は、専用の区画が設けられており、このワイン自体がボルドー格付け3~4級に匹敵するとも評される。その高い品質から、2007年以降は「シャトー・レオヴィル・ラス・カーズ」のセカンドではなく、サン・ジュリアン村の独立したワインとして提供されるようになった。

シャトー・レオヴィル・ラス・カーズのおすすめワイン

シャトー・レオヴィル・ラス・カーズのおすすめワインとして、3本を紹介する。

「シャトー・レオヴィル・ラス・カーズ 1996」
サン・ジュリアン村の当たり年であり、シャトー・レオヴィル・ラス・カーズの最盛期でもある1996年ヴィンテージ。カシスのような香りが広がる、重厚でふくよかな味わいの赤ワイン。

ぶどう品種:カベルネ・ソーヴィニヨン66%、メルロー19%、カベルネ・フラン11%、プティ・ヴェルド4%
味わい:赤・フルボディ
参考小売価格:11万4000円(税別)

「シャトー・レオヴィル・ラス・カーズ 2010」
オーナーが代替わりし、よりエレガントになった「シャトー・レオヴィル・ラス・カーズ」が味わえる1本。

ぶどう品種:カベルネ・ソーヴィニヨン65%、メルロー19%、カベルネ・フラン13%、プティ・ヴェルド3%
味わい:赤・フルボディ
参考小売価格:2万5900円(税別)

「ラ・プティット・マルキーズ・デュ・クロ・デュ・マルキ 2018」
シャトー・レオヴィル・ラス・カーズの人気ワイン「クロ・デュ・マルキ」のセカンドラベル。「クロ・デュ・マルキ」と同じ区画にある、若い樹のぶどうを使ってつくられている。レッドチェリーを感じさせるアロマにカシスやアニス(セリ科の一年草)のニュアンス。酸とタンニンのバランスもよく、完成された1本。

ぶどう品種:カベルネ・ソーヴィニヨン45%、メルロー32%、カベルネ・フラン23%
味わい:赤・フルボディ
参考小売価格:5800円(税別)

3兄弟の“次男”シャトー・レオヴィル・ポワフェレ

1840年に誕生したシャトー・レオヴィル・ポワフェレは、レオヴィル3兄弟の次男的存在。1979年にボルドーの名門一族キュベリ家がシャトーを所有した頃から大改革が行われ、その後も著名なワインコンサルタントを招へいするなど、ワインづくりのクオリティを高めてきた。

その努力が実り、2000年以降はワインの安定した品質の高さに注目が集まっている。

名門キュベリ家による革新的な取り組み

1979年に所有者がキュベリ家となったことをきっかけに、シャトーの大改革が始まる。キュベリ家は、ボルドーのワイン商として200年もの歴史を持つ名門一族で、有名シャトーのオーナーとしても既に名をはせていた。

最初に行われた改革は、ぶどうの樹の植え替えだった。大胆にも、20haのぶどう畑の樹を全て植え替えたのだ。

そのため、何年にもわたって穫量が激減したが、痛みを伴いながらも粘り強い努力を続ける。その結果、1982年ヴィンテージで、ついに改革の効果を得ることとなる。

その後もセラーを近代化し、新樽使用量を増やすなど、さまざまな改革に着手する。1994年には、ワインコンサルタントとして著名なミシェル・ロラン氏を招き入れ、さらなる品質向上を目指した。こうしたシャトーの取り組みが実を結び、2000年以降、全てのヴィンテージで安定して高い評価を得ている。

プロの厳しい選別と分析からなるワインづくり

シャトー・レオヴィル・ポワフェレのワインづくりは、プロの手による厳しい選別と分析のもとで実施されている。ロラン氏を含む醸造チームは、収穫開始の3週間前からぶどうをテイスティングし、熟度を評価する。そして、最高のタイミングを計りながら、収穫の計画を立てる。

ぶどうは手作業で選別された後、光学選別機で粉砕し、植物性物質を除去する。二重壁のタンクでプレ・ファーメーテーションする。発酵前にぶどうの果醪(かもろみ、マスト)を低温にして成分を抽出するという、この工程を経ることで、果実のアロマや純度、色の強さが高まるのだ。

発酵に関しても、醸造学者とセラーマスターが、各タンクの持つアロマの潜在能力を最大限に引き出すために、温度や抽出時間、酸素の量などを調整する。

こうしたプロフェッショナルな人たちの熟練の仕事によって、シャトー・レオヴィル・ポワフェレのワインは、繊細かつ完璧なバランスを安定して保つことに成功している。

シャトー・レオヴィル・ポワフェレのおすすめワイン

シャトー・レオヴィル・ポワフェレのおすすめワイン3本を紹介する。

「シャトー・レオヴィル・ポワフェレ 2000」
1980年代から始まったシャトーの大改革が結実した2000年ヴィンテージは、特に高い評価を得ている。カシスやスパイスのアロマに、甘く豊潤な果実味とタンニンのバランスがよい。

ぶどう品種:カベルネ・ソーヴィニヨン68%、メルロー25%、カベルネ・フラン5%、プティ・ヴェルド2%
味わい:赤・フルボディ
参考小売価格:2万6180円(税込)

「シャトー・レオヴィル・ポワフェレ 2019」
2000年以降、安定して高い品質を維持している「シャトー・レオヴィル・ポワフェレ」の中でも、凝縮された華やかな果実味が印象的とされるヴィンテージ。複雑なニュアンスの味わいで、口当たりが滑らかな辛口のフルボディ。

ぶどう品種:カベルネ・ソーヴィニヨン67%、メルロー27%、カベルネ・フラン3%、プティ・ヴェルド3%
味わい:赤・フルボディ
参考小売価格:1万5400円(税込)

「シャトー・レオヴィル・ポワフェレ 1990」
2000年以前のヴィンテージの中で、最高峰との呼び声が高い1本。バランスがよく、華やかでエレガントな味わい。余韻も長く楽しめる。

ぶどう品種:カベルネ・ソーヴィニヨン65%、メルロー25%、カベルネ・フラン8%、プティ・ヴェルド2%
味わい:赤・フルボディ
参考小売価格:2万4700円(税込)

3兄弟の“3男”シャトー・レオヴィル・バルトン

1826年に設立されたシャトー・レオヴィル・バルトンは、レオヴィル3兄弟の中で畑の面積が最も小さいシャトーだ。

醸造は、オーナー家が隣に所有するシャトー・ランゴア・バルトン(Chateau Langoa Barton)で行っている。そのため、醸造所を持たない珍しいシャトーだ。

設立時からバルトン家がオーナーを続けており、同家による伝統的なワインづくりが現代にも継承されている。

近年では、減農薬農法を採用し、最新の醸造技術を取り入れるなど、新たな取り組みも実施している。また、コストパフォーマンスの高さにも定評があり、ワイン愛好家がこぞって買い求めるワインでもある。そのため日本への入荷本数は限られており、国内での入手は困難だ。

力強いワインを生み出す秘密

シャトー・レオヴィル・バルトンのワインは、カベルネ・ソーヴィニヨンの比率が高く、力強い味わいが特徴だ。その秘密は、土壌にある。畑は標高が高く南向きで、穏やかな傾斜を持つ砂利質の土壌は、カベルネ・ソーヴィニヨンの栽培に適している。

さらに、オーナー家が変わらずにワインづくりが続けられており、伝統的な栽培法を継承していることも、クラシカルでパンチのある味わいのワインを生み出す秘密の1つだ。

ぶどうの樹の平均樹齢は40年で、最も古いものは1953年から引き継いでいる。格付け3級のシャトー・ランゴア・バルトンと醸造所を共有しながら、スーパーセカンドとも評される高品質なワインを生み出す。こうしたワインづくりの功績は、ぶどう畑の個性によるところも大きいだろう。

伝統を守りつつ、新たなワインづくりに挑戦

収穫は全て手摘みで行われ、畑でぶどうを選別する。その後、醸造所にある木製のタンクに運ばれる。

低温マセラシオン(低温浸漬)などはせず、伝統的な醸造法を堅守しており、樽詰めされたワインは18カ月の熟成期間中は貯蔵室から動かさない。また、コラージュ(ワインを透明にするため、濁り成分を塊にし、沈殿させて取り除くこと)には、今でも卵白を使用している。

しかし、1983年にアントニー・バルトン氏がシャトーを引き継いでから、伝統を守りつつも新たな取り組みが始まった。醸造設備が整えられ、温度管理に注意を払う醸造技術が取り入れられた。

その結果、シャトー・レオヴィル・バルトンのワインの品質は向上し、同氏はイギリスのワインメディア『デキャンター(Decanter)』において、マン・オブ・ザ・イヤー2007に選出された。

シャトー・レオヴィル・バルトンのおすすめワイン

シャトー・レオヴィル・バルトンのおすすめワインとして、3本を紹介する。

「シャトー・レオヴィル・バルトン 2005」
ボルドーワインの当たり年とされる2005年ヴィンテージ。濃厚でクラシカルなフルボディで、インクのような深い色味と香ばしいオーク樽や木炭を感じさせるアロマが印象的だ。

ぶどう品種:カベルネ・ソーヴィニヨン72%、メルロー20%、カベルネ・フラン8%
味わい:赤・フルボディ
参考小売価格:3万6300円(税込)

「シャトー・レオヴィル・バルトン 2015」
カベルネ・ソーヴィニヨンの特性をより感じさせる1本。力強い味わいと芳香が特徴的で、ワイン専門誌『ル・ギド・デ・メイユール・ヴァン・ド・フランス(Le guide des meilleurs vins de France) 2020』で18.5点の評価を得た。

ぶどう品種:カベルネ・ソーヴィニヨン86%、メルロー14%
味わい:赤・フルボディ
参考小売価格:2万480円(税込)

「レディ・ランゴア 2014」
「シャトー・レオヴィル・バルトン」のセカンドワインと「シャトー・ランゴア・バルトン」をブレンドした、バルトン家のセカンドラベル。手頃な価格で購入できるので、「シャトー・レオヴィル・バルトン」のニュアンスを少しだけでも感じてみたいという人におすすめ。日本限定で流通している。

ぶどう品種:カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フラン
味わい:赤・フルボディ
参考小売価格:6820円(税込)

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About the author /  KYOKO
KYOKO

出版社勤務を経てフリーランス編集ライターに。旅、グルメ、美容を中心に執筆や編集を行っている。大酒飲みで、旅先でご当地酒を飲むのが好き。最近はビオワインにハマリ中。