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山梨県甲州市の勝沼エリアは、明治時代からぶどう栽培とワインづくりが盛んな日本のワイン銘醸地だ。このシリーズでは、勝沼エリアのワイナリーを紹介していく。
第2回目は、民間初のワイン会社をルーツに持つ「シャトー・メルシャン」。140年以上前に勝沼で誕生した、誰もが知る日本のワイン会社だ。
“辛口の甲州”を生み出したワイナリー
シャトー・メルシャンといえば、1980年代に、フランスのロワール地方でミュスカデ種に用いられていた「シュール・リー製法」を甲州種に取り入れたことで知られる。シュール・リー製法は、発酵中にたまった澱(おり)を発酵後も引かず、そのうま味成分をワインに与える手法だ。
さらにシャトー・メルシャンは、そのノウハウを近隣のワイナリーに公開し、勝沼のワイン産業の発展に貢献したそうだ。
それまで甘口のワインに仕上げられることが多かった甲州種だが、これをきっかけに“辛口の甲州”の歴史がスタート。2010年には、ワインの国際的審査機関「OIV(Office International de la vigne et du vin:国際ぶどう・ぶどう酒機構)」に甲州種が登録された。
シャトー・メルシャン誕生の歴史
民間初のワイン会社「大日本山梨葡萄酒会社」がルーツ
シャトー・メルシャンのルーツは、1877(明治10)年設立の「大日本山梨葡萄酒会社」にある。当時の山梨県令(知事)であった藤村紫朗氏の後援と地域の有力者の出資により設立された、民間初のワイン会社だ 。2人の若者がフランスで本場のワイン醸造技術を約2年間学び、帰国後にワイン醸造を開始した。
大日本山梨葡萄酒会社は、1886年に解散するものの、販売分野を担当していた宮崎光太郎氏が「甲斐産葡萄酒醸造所」を設立。1912(明治45)年には、観光もできるぶどう園を併設したワイナリー「宮光園」を創設した。今ではぶどう棚の下でワインを楽しめるワイナリーは数多くあるが、そのルーツとなった場所ともいえる。宮光園の跡地は、シャトー・メルシャンのショップやカフェが入ったワインギャラリーに隣接しており、現在は甲州市の管理する資料館「宮光園」 として一般に開放されている(入館料:大人200円、20歳未満、学生100円)。
「シャトー・メルシャン」シリーズの誕生
1949(昭和24)年には、甘味料を混ぜずにつくる本格テーブルワインとして、「メルシャン」ブランドが誕生。その後17年の時を経て、1966年に「メルシャン1962(白)」が国際ワインコンクールで日本初の金賞を受賞した。
1970年には、国産の高級ワインとして「シャトー・メルシャン」シリーズが誕生。同年に開かれた日本万国博覧会の影響もあり、国内でのワイン消費量は徐々に増え始めていた。そうした流れのなか、本格的なワインづくりに取り組むため、“現代日本ワインの父”と呼ばれる元メルシャン 勝沼ワイナリーの工場長を務めた故 浅井昭吾(筆名:麻井宇介)が欧州系品種の導入を主張。1976年には、長野県塩尻市桔梗ヶ原で、契約農家を説得してメルロー種の栽培を開始した。
また、各地域でのぶどう栽培の取り組みも開始する。1975年には、福島県新鶴村(現・会津美里町)から薬用人参の休耕地利用としてぶどう栽培をやってみたいという話が持ち込まれ、契約栽培がスタート。2001年に「新鶴シャルドネ 2000」が誕生し、国内外で多数の賞を受賞するシャルドネの産地に成長した。
桔梗ヶ原でのぶどう栽培に着手した1976年には、秋田県大森町(現・横手市)の産業振興の要望に応える形で、いくつかの品種の試験栽培を開始。1982年からリースリングの契約栽培地として品質向上を続け、「シャトー・メルシャン 大森リースリング 2008」が2010年に全国発売されることとなった。
進化し続けるワインづくり
1998(平成10)年には、ボルドーの1級シャトー「シャトー・マルゴー」の総支配人兼最高醸造責任者の故 ポール・ポンタリエ氏が醸造アドバイザーに就任。
また、甲州種の香りを研究していく中で、2004年にはボルドー第2大学デュブルデュー研究室との共同研究を開始し、その成果として「シャトー・メルシャン 甲州きいろ香 2004」を2005年に発売している。
シャトー・メルシャンのワインづくりはその後も進化を続けており、2018年秋には「桔梗ヶ原ワイナリー」(長野県塩尻市)、2019年9月21日に「椀子ワイナリー」(長野県上田市)がオープン予定。現在もなお、さまざまな取り組みにチャレンジしている。
土地やテロワールにこだわったワインづくり
山梨県、長野県、福島県、秋田県と、各地の特色を生かしたぶどう栽培に取り組むシャトー・メルシャン。ワインづくりのフィロソフィーとして、“フィネス&エレガンス(調和のとれた上品な味わい)”を掲げている。
フランス語の「フィネス(Finesse)」とは、「洗練さ」「繊細さ」「上品さ」を表す言葉だが、シャトー・メルシャンでは、フィネスを育む土地やテロワールにこだわっている。
ぶどう産地の特色
シャトー・メルシャンが手掛けるワインのぶどう産地の特色は、以下の通りだ。
【山梨県】
勝沼ワイナリーは甲府盆地の東側に位置しており、古くから甲州、マスカット・ベーリーAの産地として有名な場所。湿気の多い日本では棚式栽培が多いが、自社畑の「城の平ヴィンヤード」やワインギャラリーに隣接した「祝村ヴィンヤード」(写真)では、欧州で一般的な垣根式栽培に取り組んでいる。
【長野県】
1976年からメルロー種の栽培を始めた桔梗ヶ原地区や、理想のぶどう栽培地として2003年にスタートした自社管理畑の「椀子ヴィンヤード」の他に、安曇野地区と北信地区で欧州系品種を栽培。北信地区では、千曲川沿いで1990年代からシャルドネの契約栽培を続けている。2015年ヴィンテージからは、千曲川の左岸(粘土質)と右岸(砂礫質)という土壌の違いに注目し、より産地の個性を表現したワインづくりを行っている。
【福島県】
1975年から福島県新鶴村のなだらかな丘陵地でぶどう栽培をスタート。日当たりや水はけ、昼夜の温度差など、ぶどう栽培に適した条件に恵まれた場所だが、収穫前の秋雨に悩まされていた。この課題を、薬用人参で使用していた雨よけを設置したことで品質が向上した。2001年に誕生した「新鶴シャルドネ 2000」は、国内外で多数の賞を受賞するまでに成長した。
【秋田県】
秋田県大森町では、主にリースリングとケルナーを栽培している2003年から、シャトー・メルシャンの栽培担当による技術支援をスタート。収量制限区画を設けたり、秋雨の影響を軽減するため、2008年からぶどうに笠かけや袋かけを実施し、2012年には雨よけを設置するなど栽培方法を改革し、2010年に「シャトー・メルシャン 大森リースリング 2008」を全国発売した。
1987年からはその年に造られた「大森産ブドウのワイン」を地元の人たちとともに味わい、楽しむ「大森ワインパーティ」がスタート。地域活性化に取り組んでいる。
ワインは農業であり、また農作物であることを意識したワインづくりを目指し、冬には剪定、春には芽かき、夏には除葉・摘房、そして秋の収穫など、1年を通してぶどうの樹と向き合っている。収穫後は、品質に優れたぶどうを選び、品種に合わせた醸造に取り組んでいる。
おすすめワイン
シャトー・メルシャン 笛吹甲州グリ・ド・グリ
甲州種は白ぶどう品種だが、うっすらと灰色がかった(グリ)皮を特徴とする。通常、白ワインは果汁のみを発酵させるが、このワインは皮や種と一緒に発酵させた“オレンジワイン”だ。ワイン発祥の地であるジョージア(旧グルジア)で始まった製法だが、近年では世界的に大きな注目を集めている。
甲州種の淡く色づいた皮のエッセンスを、ワインに生かした1本。2017年ヴィンテージは、ロンドンで開かれた「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」で銀賞を受賞している。
シャトー・メルシャン 城の平 オルトゥス
世界でもトップクラスの産地から生み出される、メルシャンの各ワイナリー最高峰のワインを集めた「アイコン」シリーズの1本。「オルトゥス」は「起源」を意味しており、勝沼地区にある自社畑の城の平ヴィンヤードで収穫したぶどうを使用している。城の平ヴィンヤードは、メルシャンが垣根式栽培をスタートさせた土地だ。
カベルネ・ソーヴィニヨンを100%使ってつくられてきたが、城の平ヴィンヤードのポテンシャルを引き出すため、2013年ヴィンテージは、カベルネ・ソーヴィニヨン62%、メルロー20%、カベルネ・フラン18%でつくられている。
シャトー・メルシャン ももいろ
デイリーに楽しめる、シャトー・メルシャンの「クオリティ」シリーズの1本。しっかりとしたボディのメルローと華やかな香りのマスカット・ベーリーAを主体にした辛口のロゼワインだ。
ワイナリーを楽しむ
シャトー・メルシャンは、アジアワインに特化した品質評価サイト「Asian Wine Review(アジア・ワイン・レビュー)」で、2016年、2019年と2度にわたって「ワイナリー・オブ・ザ・イヤー」を受賞している。日本最古の民間のワイン会社をルーツに持つだけあって、勝沼のワインづくりの歴史、そして日本ワインのこれからを知ることのできるワイナリーだ。
●シャトー・メルシャン勝沼ワイナリー
電話:0553-44-1011
住所:山梨県甲州市勝沼町下岩崎1425-1
営業時間(ビジターセンター):9:30~16:30
定休日:火曜日、年末年始(※火曜日が祝日の場合は営業、翌日振替休日)
アクセス:JR勝沼ぶどう郷駅から車で約8分、JR塩山駅より車で約10分
HP : http://chateaumercian.com/
ワイナリー見学
ワイナリーツアーでは、シャトー・メルシャンでキャリアを積んだワインの醸造や営業のプロが案内してくれる。「スタンダード」「プレミアム」の2コースがあり、いずれも試飲付きで、じっくりとシャトー・メルシャンやワインの基礎について知ることができる。
[関連記事]ワインのプロ“メルシャンおもてなしガイド”がご案内! 見学もテイスティングも楽しめるワイナリーツアーとは
【プレミアムコース】
開催日:土日祝、一部平日も開催
*開催日時の詳細は、1カ月前よりHP(http://www.chateaumercian.com/winery/index.html)で公開される。
開催時間:14:00~15:30
所要時間:約90分
定員:6人
予約:必要
参加費:3000円(税込)
【スタンダードコース】
開催日:定休日・休業日を除く毎日
*開催日時の詳細は、1カ月前よりHP(http://www.chateaumercian.com/winery/index.html)で公開される。
開催時間:10:30~11:30(土日祝は13:00~14:00も開催)
所要時間:約60分
定員:10人
予約:必要
参加費:1000円(税込)
※いずれのコースも、開催日時をHPでご確認の上、ご予約ください。
ワイナリーでの試飲
ワインショップに併設されたテイスティングカフェでは、有料でテイスティングが楽しめる。ワイナリー限定ワインなど、ショップで取り扱いのあるワインが全てテイスティング可能で、気に入ったものをすぐに購入できるのが魅力だ。
「受賞ワインセット」「マリコヴィンヤードセット」「甲州セット」など、手頃な価格で飲み比べができるセットも人気だという。
また、ワイナリーツアーに申し込むと、スタンダードコースで3種類、プレミアムコースで6種類のワインのテイスティングを、ワインのプロの解説付きで楽しめる(コースによって試飲ワインは異なる)。
レストラン情報
テイスティングカフェでは、ワインに合うおつまみや軽食もあり、カジュアルにワインとフードのペアリングが楽しめる。
店内でガラス越しにぶどう畑を眺めながら、またテラスで勝沼の気候を体感しながら楽しんでもいいだろう。
●ワインギャラリー
電話(ビジターセンター):0553-44- 1011
営業時間:テイスティングカフェ/ワインショップ:10:00~16:30
定休日:火曜日、年末年始(※火曜日が祝日の場合は営業、翌日振替休日)