2012年から始まったとされる、第7次ワインブーム。そこからおよそ8年間で、チリがフランスを抜いて輸入元ナンバーワンになるなど、日本のワイン市場にはさまざまな変化が起きている。特に近年の「日本ワイン」は、産地の取り組みが功を奏し、国内外で人気が高まっている。
今回は、第7次ワインブーム以降の日本ワインや日本のワイナリーに起きた変化をまとめてみよう。
分かりやすくなったラベル表示
2015年10月、日本ワインに大きな変化が起こった。その変化とは、国税庁がワインのラベル表示に関するルール「果実酒等の製法品質表示基準」を定めたことだ。このルールは3年間の猶予期間が設けられ、2018年10月30日に適用された。
それまでは、輸入濃縮果汁や輸入ワインを原料として日本で製造されたワインも、国産ぶどうを使って日本で製造されたワインと同様に、「国産ワイン」と表記していた。
法整備により、「日本ワイン」と表示できるのは、国産ぶどうのみを使って日本で製造されたワインだけになった。その他に、産地や収穫年、醸造地、品種の表示ルールも定められ、消費者が商品を選ぶ際に分かりやすい表示となった。この法整備が、日本ワインのブランド力強化や海外展開を後押しすると期待されている。
出荷量は増加傾向
メルシャンが2020年7月に発表した「ワイン参考資料」によると、日本ワインの出荷量は2014年の1万4039klから2018年には1万5677klとなり、1割強の増加となっている。
国内市場における日本ワインの流通量構成比は、2016年が4.1%、2018年が4.6%で、全体に占める割合はまだ多くはないが、出荷量は増加傾向にあり、今後の成長が期待される。
海外のワインコンクールでも高評価
さらに近年、海外のワインコンクールで日本ワインの評価が高まっている。
特に目を引くのが、「中央葡萄酒(グレイスワイン)」の「キュヴェ三澤 明野甲州 2013」だ。2014年に開催された世界的なワインコンクール「デキャンター・ワールド・ワイン・アワード(Decanter World Wine Awards)」で、日本ワイン初の金賞とアジア地域の最高賞であるリージョナルトロフィーを受賞した。
また、フランス・ボルドーのワインコンクール「シタデル・デュ・ヴァン(Citadelles du Vin)」では、2020年大会で「シャトー・メルシャン 椀子シャルドネ 2018」が金賞を受賞。シャトー・メルシャンとしては、2015年から6年連続で金賞を受賞している。
日本ワインの発展を目指して――各産地の取り組み
日本ワインの原料となる国産ぶどうの生産量では、山梨県、長野県、北海道、山形県、岩手県が上位を占めている。日本ワインの地位や認知度の向上にまい進する、それぞれの産地の取り組みを見てみよう。
山梨県
日本のワインづくりの発祥の地として知られる山梨県は、2013年に国税庁から、「山梨」が地理的表示(GI)として指定された。
山梨県では、日本国内だけでなく海外も視野に入れたワインづくりを行っている。2009年には甲州ワインの海外での認知度を高めることを目的に、山梨県内のワイン生産者や甲府市商工会などが「Koshu of Japan」を設立。2010年から毎年、ワインマーケットの中心地であるイギリス・ロンドンでPR活動を継続している。
長野県
2013年に信州ワインバレー構想を発表し、ワイン産業を推進している長野県。ワイン特区の認定が進み、ワイナリー数も増加しつつある。近年ではシードルづくりも盛んだ。
2016年には、長野ワインを広く“知ってもらう”段階から、“買ってもらう”段階に入ったとして、長野県庁に「日本酒・ワイン振興室」が設置された。
北海道
ワイン用ぶどうの生産地として、ポテンシャルの高さが注目されている北海道。サッポロビールが北斗市内にワイン用ぶどうを栽培する同社最大の自社農園を開設し、2019年に第1期の苗を移植した。また、フランスの老舗ワイナリー「ドメーヌ・ド・モンティーユ」も函館市内に農地を取得するなど、この10年ほどでワイナリーの新設やワイン用ぶどう畑の開園が続いている。
2018年には、国税庁から「北海道」が地理的表示(GI)として指定された。
山形県
江戸時代からぶどうが栽培されていた山形県は、明治時代から続くワイナリーがあるなど、ワインづくりの歴史は古い。ワイン用のぶどうは欧・中東系品種が高く評価されており、県外からの需要も多かった。
近年では、2015年に上山市がワインの消費拡大やワイン用ぶどうの生産振興を目指して「かみのやまワインの郷プロジェクト協議会」を発足。2016年には上山市、南陽市がワイン特区を取得している。
岩手県
1950年の県立農業試験場大迫葡萄試験地の創設から、岩手県では本格的なぶどう栽培が始まった。岩手県で最も歴史あるワイナリー「エーデルワイン」の設立は1962年。以後、県内のワイナリーは増えていき、2015年には、紫波町に自分で育てたぶどうを自分で醸造する「自園自醸」をコンセプトにしたワイナリー「紫波フルーツパーク」が設立された。
東日本大震災の後、陸前高田市、大船渡市などの沿岸部や遠野市では、復興の一環として、地元のワインづくりを目指したワイン用ぶどうの栽培が盛んになっている。
番外編:東京都
最後に、ワイン産地の番外編として東京都を紹介したい。東京都では都市型ワイナリーが設立されており、現在4軒のワイナリーが存在している。主に都外のぶどうを使用してワインを醸造しているが、23区最大の農地を持つ練馬区産のぶどうを使用する「東京ワイナリー」や、多摩地区産のぶどうを使用する「都下ワイナリー」など、「東京ワイン」の製造を手掛けるワイナリーもある。
ブームという言葉がもはやしっくりこないほど、定着しつつある日本ワイン。スーパーマーケットで専用のコーナーが設けられるなど、日本ワインも選択肢の1つとして身近なものになってきている。この先、日本ワインはどのように進化していくのだろうか。
<関連リンク>
メルシャン「ワイン参考資料2020」