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カリフォルニアワイン協会(CWI)は、カリフォルニアワインについての知識を深めることを目的として、影響力のある若手ソムリエに現地のワイナリーを“バーチャル”で体験してもらう「カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー」を開催した。
ツアーは2020年11月19日・20日と同年12月3日・4日の2回に分けて実施され、ソムリエたちは、コンラッド東京(東京都港区)に設けられた会場から、ワイナリーを訪問した。
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今回はそのバーチャルツアーから、約140年間途切れることなくワインをつくり続けてきた、ウェンテ・ファミリー・エステート(Wente Family Estates)の内容を紹介する。
ウェンテ・ファミリー・エステート
今回のバーチャルツアーには、ディレクター・オブ・マーケティングであり、5世代目にあたるアリ・ウェンテ氏と、ワインメーカーのエリザベス・ケスター氏がガイドとして登場した。
ウェンテ・ファミリー・エステートの歴史
●初代:カール・H・ウェンテ氏
創業者であるカール・H・ウェンテ氏(アリ氏の高祖父)が、ドイツからアメリカに移民としてやってきたのは1880年頃のこと。彼が働き始めたのは、ドイツ語を話す人物のいるワイナリーだった。その人物とは、ナパ・バレーに初めて商業的なワイナリーを設立した、チャールズ・クリュッグ氏だ。
ワインづくりの全てを、クリュッグ氏から学んだというカール・H氏は、当時はワイン産地としてナパ・バレーと肩を並べるほど知られていたリヴァモア・バレーに、19haの土地を購入。1883年にウェンテ・ヴィンヤーズを創業した。その土地は現在にも受け継がれている。禁酒法時代にも許可を得てミサ用のワインを生産しており、途切れることなくワインをつくり続けている、カリフォルニア最古の家族経営ワイナリーの1つとなっている。
●2代目:アーネスト&ハーマン・ウェンテ氏
ファミリービジネスを大きくし、カリフォルニアのワイン産業にも大きな影響を与えたのが、カール氏の2人の息子、アーネスト氏とハーマン氏だ。
特に、カリフォルニア大学デイビス校でワイン醸造を学んだアーネストは、フランス・モンペリエのぶどう園からシャルドネの挿し木を手に入れて、1908年にカリフォルニアで最初にシャルドネを植えた人物となった。
彼の功績は、シャルドネを植えただけにとどまらなかった。ジューシーで美しく、生き生きとしたシャルドネを求め、さらにはぶどうの樹が健康かどうかを見極めて、どちらも備えている最高品質のシャルドネの挿し木を持ち帰り、増やし始めた。
さらには、畑を訪れた他の生産者がその挿し木を持ち帰れるようにし、彼の挿し木はカリフォルニア中に広まっていった。やがて、マスカットや核果、青リンゴの香りといった特徴があるその挿し木は、「ウェンテ・クローン」と呼ばれるように。現在では、シャルドネはカリフォルニアを代表する品種の1つとなり、カリフォルニア産シャルドネのおよそ75%がウェンテ・クローンにルーツを持っていると言われている。
アリ氏は、「これが私たちのシャルドネのストーリーで、私たちが誇りに思っていること」と語っている。
●3代目:カール・L・ウェンテ氏
カール・L・ウェンテ氏が目指したのは、畑の多様化だ。変化を求めて1960年代にモントレーにあるアロヨ・セコ・ヴィンヤードを購入。現在は1215haの畑を手掛けている。
当時はまだワイン生産者が少なかったアロヨ・セコだが、カール氏がこの土地のパイオニアとなり、アロヨ・セコは1983年にAVA認定された。
現在は、5代目のカール・D・ウェンテ氏が跡を継ぎ、4世代目と5世代目がワインメーカーやぶどう栽培のチームと協働しながら、ウェンテの歴史とワインづくりを守っている。
サステナブルな取り組み
ウェンテは、サステナブルな取り組みにも力を入れている。厳しい水の使用制限やリサイクルの有機肥料、雑草やハヤブサ、フクロウなど利用した害虫対策、ワイナリーで出たぶどうの皮や種、茎などを肥料としてヴィンヤードに還元することなどを実施しており、手掛けるヴィンヤードは全てサステナブル認定を受けている。
サステナブル認定を維持するために、取り組みは毎年見直され、改善されている。毎年の見直しが、ぶどうの樹に何が必要かを理解することにつながっているのだという。
自社畑のぶどうを100%使用したワインづくりを行っているウェンテでは、「植えられてからずっとサステナブルな方法で育てられたぶどうを、顧客のグラスに届ける」という点を、誇りにしているそうだ。
ウェンテ・ファミリー・エステートのヴィンヤード
ウェンテ・ファミリー・エステートのヴィンヤードがあるのは、リヴァモア・バレーAVAとアロヨ・セコAVAだ。いずれもミネラルが豊富な土壌だという。
ワインメーカーのケスター氏は、「土地を表すワインというのが、私たちの哲学です」と説明するほど、ウェンテが重視しているのがヴィンヤードのテロワールだ。それぞれの特徴を見ていこう。
リヴァモア・バレー
サンフランシスコ湾から48kmほどしか離れておらず、海の影響を強く受ける地域だ。ぶどうの生育期には、日中は35℃にまで気温が上がり、ナパ・バレーやソノマよりも暑くなるが、暖かい空気が海からの冷たい空気を引き込む影響で、7℃ほどにまでグッと気温が下がる。
昼の暑さが果実の成熟を進めるが、夜に気温が下がることでフレッシュな酸を維持することができ、ワインのバックボーンになるという。
リヴァモア・バレーでウェンテが手掛けているヴィンヤードには、カリフォルニアのワインづくりのパイオニアの1人である、チャールズ・ウェットモア氏が所有していたウェットモア・ヴィンヤードがある。砂利の地層で水はけがよく、カベルネ・ソーヴィニヨンと相性が良い畑だ。チャールズ・ウェットモア氏は1896年にパリで開催された国際的なワインコンクールで受賞を果たし、カリフォルニアをワイン産地として知らしめた人物だが、禁酒法以前の出来事であるため、残念ながらあまり語られることはない。
アロヨ・セコ
モントレーにあるアロヨ・セコは、海から16kmほどしか離れておらず、遮るものがないため、海の影響を直接受ける地域だ。夜に入り込んだ霧が午後2時まで晴れないこともあり、気候は冷涼で、ぶどうの生育期間が非常に長いというのが特徴だ。
昼夜の気温差は大きくなく、生育期間中の日中も4時間ほどしか暑い時間はない。収穫は10月の終わりと遅めだ。
ウェンテ・ファミリー・エステートのワイン4本
バーチャルツアーでは、4本のワインが紹介された。テイスティング・コメントはガイドの2人によるもの。どれも、「エレガントでバランスの取れたワインをつくる」というウェンテ・ファミリー・エステートの哲学を表しており、食事と一緒に楽しめるワインになっているという。
モーニング・フォグ シャルドネ 2018
夜になるとリヴァモア・バレーに入る、沿岸からの朝の霧から名付けられたワイン。リヴァモア・バレー内は微気候(マイクロクライメイト)のため、成熟度に合わせて区画ごとに収穫する。収穫が始まるのは9月なので、アロヨ・セコのヴィンヤードよりも早い。
このワインは、ぶどうの50%を2年目以降のアメリカンまたはフレンチオーク樽を使用して発酵させる。残りの50%には、ステンレスタンクを使用する。一次発酵が終わると、ワイン内のリンゴ酸を乳酸に変えるマロラクティック発酵(MLF)を行い、2~3週間に1度、手作業でかき混ぜることで、スムーズで甘やかな口当たりと、ソフトな味わいを与えている。半分をステンレスタンクで発酵することで、鮮やかな果実味と酸味を表現し、樽からのリッチさとバランスをとっている。
【テイスティング・コメント】
バランスの良さが魅力のワイン。鮮やかな果実のフレッシュさに加え、樽がクリーミーさを与えている。バターっぽさや樽っぽさが前面に出ているわけではなく、クリーンでまっすぐなシャルドネで、「シャルドネは好きじゃないかも」という人にこそ試してほしいワインだ。
アロヨ・セコで栽培されたゲヴュルツトラミネールを少量ブレンドすることで、シャルドネのキャラクターが強調されている。また、花の香りが若干加わることで、ワイン全体を引き上げている。
2018 MORNING FOG CHARDONNAY, LIVERMORE VALLEY
アルコール度数:13.5%
品種:シャルドネ98%、ゲヴュルツトラミネール2%
参考小売価格:2530円(税込)
リヴァ・ランチ・リザーヴ シャルドネ 2018
アロヨ・セコのリヴァ・ランチ・ヴィンヤードで栽培したぶどうを使用した、生育期間の長さが味わえるワイン。ぶどうの90%をフレンチまたはアメリカンオーク樽(新樽60%、2年目の樽40%)、10%をステンレスタンクで発酵させ、85%のワインをマロラクティック発酵している。発酵後に澱引きをしないシュール・リー製法でつくられており、2週間ごとにバトナージュ(攪拌)をすることで、シャルドネにリッチさと甘やかさを与えている。
【テイスティング・コメント】
生育期間の長さが、果実にトロピカルフルーツの味わいを与えており、焼いたパイナップルや白桃っぽさがあり、甘く香ばしいスパイスの風味が口の中に広がる。フィニッシュはまろやかだが、ステンレスタンクで発酵させた10%のワインが酸味を残し、ワインに鮮やかさを与えている。2%のゲヴュルツトラミネールがワインを引き上げている。リッチでボディがよりしっかりとしたスタイルのシャルドネだ。
2018 RIVA RANCH VINEYARD CHARDONNAY, ARROYO SECO, MONTEREY
アルコール度数:13.5%
品種:シャルドネ98%、ゲヴュルツトラミネール2%
参考小売価格:3960円(税込)
リヴァ・ランチ・リザーヴ ピノ・ノワール 2018
アロヨ・セコのリヴァ・ランチのみで栽培したピノ・ノワールを使用。長く、冷涼な生育期間が、完全な成熟と深い果実の味わいを生み出している。
畑には8種類のクローンが植えられており、それぞれが異なる味わいとテクスチャー、アロマをつくり出している。収穫や発酵も別々に行い、区画ごとにブレンドする。ブレンド比率を年によって変えることで、アロヨ・セコを表現したワインだ。
【テイスティング・コメント】
アーシーさや濡れた土の感じ、隠れたタールっぽさ、土壌からくるミネラル、花の香りというアロヨ・セコらしさの感じられるワイン。香りだけでどこのものかが分かる。
手を掛けないサステナブルなワインづくりにより、ピノ・ノワールらしさと産地を表現している。
2017 RIVA RANCH VINEYARD PINOT NOIR, ARROYO SECO, MONTEREY
アルコール度数:14.5%
品種:ピノ・ノワール100%
参考小売価格:3960円(税込)
チャールズ・ウェットモア・リザーヴ カベルネ・ソーヴィニヨン 2017
チャールズ・ウェットモアのヴィンヤードで栽培するカベルネ・ソーヴィニヨンを使用した、単一畑のワインだ。ステンレスタンクで発酵させ、毎日フェノールを評価し、色素が安定するように温度を調節する。同じ畑で栽培した他の品種とブレンドした後で、フレンチオーク樽(新樽40%、2年目または3年目60%)で18カ月熟成している。
プティ・シラーは口の中に広がるリッチさを与え、バルベラが赤い果実味とリッチさを強調する。プティ・ヴェルドが口の前方と後方で感じるストラクチャーを与えることで、カベルネ・ソーヴィニヨンらしさを際立たせている。
【テイスティング・コメント】
リッチでダークな成熟した果実味が感じられるワイン。乾燥したハーブのような風味もあり、これらが重なることで豊かで深い黒系果実の風味が感じられる。
2017 WETMORE VINEYARD CABERNET SAUVIGNON, LIVERMORE VALLEY
アルコール分:13.5%
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン75%、プティ・シラー13%、バルベラ5%、プティ・ヴェルド4%、マルベック2%
参考小売価格:3960円(税込)
5世代にわたり、家族の手でヴィンヤードとワインづくりの哲学を守ってきたウェンテ・ファミリー・エステート。歴史とテロワールを感じさせ、果実の魅力を引き出す丁寧なワインづくりをしているが、手に取りやすい価格も魅力の1つだ。ナパ・バレーやソノマ以外のカリフォルニアワインを味わってみたいという人は、ぜひウェンテ・ファミリー・エステートのワインを試してみてはいかがだろうか。