コラム

循環型農業にこだわり、食事に合うワインを生み出す「ロング・メドウ・ランチ」~カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー

カリフォルニアワイン協会(CWI)は、カリフォルニアワインについての知識を深めることを目的として、影響力のある若手ソムリエに現地のワイナリーを“バーチャル”で体験してもらう「カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー」を開催した。

ツアーは2020年11月19日・20日と同年12月3日・4日の2回に分けて実施され、ソムリエたちは、コンラッド東京(東京都港区)に設けられた会場から、ワイナリーを訪問した。

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今回はそのバーチャルツアーから、サステナブルなワインづくりに力を入れる、ロング・メドウ・ランチ(Long Meadow Ranch)についての内容を紹介する。

ロング・メドウ・ランチ

今回のバーチャルツアーでは、ブランド開発統括責任者のジェフ・マイゼル氏とセールス統括責任者のブラッド・グローパー氏がガイドとして登場した。

ロング・メドウ・ランチは、カリフォルニア州北部で、食事に合うワインを手掛ける家族経営のワイナリーだ。「エレガントでバランスが取れ、香りが著しく先行することのない、抑制されたアルコール度数の低いワイン」を特徴とし、オーガニック農法にこだわったワインづくりをしている。

写真提供:Long Meadow Ranch

サステナブルな取り組み

責任のある農業をモットーとしているロング・メドウ・ランチでは、サステナビリティに力を入れており、ヴィンヤードは全てオーガニック推進団体であるCalifornia Certified Organic Farmers(CCOF)によるオーガニック認証を受けている。

資源のリサイクルや再利用、資源使用量の削減などの他に、サステナブルな取り組みの1つとして行っているのが、フル・サークル・ファーミング(循環型農業)だ。

ロング・メドウ・ランチでは、ワインにするぶどうの他に、オリーブオイル用のオリーブ、マーケットやレストラン向けのフルーツ、野菜、卵を生産し、牛や羊を牧草で育てている。野菜や果物、家畜などがリンクして循環していく農業が、フル・サークル・ファーミングだ。

例えば、流通経路には乗せられないが、質の良いオーガニック食品をニワトリに餌として与える。健康的な餌で育ったニワトリが産んだ卵は、マーケットやレストランへと流通。さらに、ニワトリの排せつ物は肥料となり、畑の土に返っていく。

また、ぶどうの樹の間には、カバークロップとしてさまざまな種類のマメ科の植物を植えている。これは、土壌に窒素を還元することと、春に花が咲いた際に虫を引き寄せてぶどうの樹を虫から守ることなどが目的だという。ソラマメは収穫してワイナリーのレストランで提供しており、カバークロップ以上の役目を果たしているそうだ。

ロング・メドウ・ランチのヴィンヤード

ロング・メドウ・ランチが拠点としているのは、カリフォルニア州のノースコーストだ。

ピンク色の部分がソノマ・カウンティ、オレンジ色がナパ・カウンティ、緑色がメンドシーノ・カウンティだ。

続いて、地形がよく分かる地図を見てみよう。

赤線で囲まれた場所がナパ・バレーで、その中にある青色のマークがロング・メドウ・ランチのマウンテン・エステートとラザフォード・エステートの位置を示している。カベルネ・ソーヴィニヨンとメルローを栽培しており、ラザフォードではソーヴィニヨン・ブランも手掛けている。地図の上部にあるアンダーソン・バレーで栽培されているのは、ピノ・ノワールとシャルドネだ。

ナパ・バレー

まずは、ナパ・バレーを重点的に見ていこう。

写真提供:Long Meadow Ranch

地図上の青いマークが、ナパ・バレーにある2つのエステート。左側のマークがマウンテン・エステートだ。その西側にはマヤカマス山脈が南北に走っている。

マウンテン・エステートの歴史は、1872年に酪農とぶどう畑の農場として始まった。その後、禁酒法や大恐慌により一度は放置状態になってしまうのだが、1989年にテッド・ホール氏と妻のラディー、そして息子のクリスによって、ロング・メドウ・ランチとして生まれ変わることとなる。

650エーカー(約263ha)あるマウンテン・エステートの配置は次の通りだ。

写真提供:Long Meadow Ranch

マウンテン・エステートの土壌は赤ワイン用の品種に向いており、青色部分がカベルネ・ソーヴィニヨン、黄色い部分がメルローのヴィンヤードだ。南にあるカベルネ・ソーヴィニヨンのヴィンヤード(青色部分)の右隣には、ワイナリーの名前の由来となった牧草地(Meadow)が広がっている。

ドローンでこの場所を空から撮影した映像を見てみよう。

最初に見えてくるのが、ロング・メドウ・ランチが1990年の冬に最初に植えたカベルネ・ソーヴィニヨンのヴィンヤード。2020年に29回目の収穫を行った。

樹齢が25年を超えて収穫量が落ちた樹もあり、4~5年前には植え替えることも検討された。しかし、農業担当部長の提案から、一部の垣根仕立てをそれまでのコルドンから変更してみたところ、果実の質が向上して収穫量も増える結果となった。そのため、全てのヴィンヤードの仕立てを新しい方法に変更したそうだ。

もし、ぶどうの樹を植え替えていたら、古い樹を焼却処分する際に、二酸化炭素を大気に放出してしまうことになる。また、新しい樹から収穫できるようになるまで時間もかかっていたはずだ。チームの力によって、ワインの質にとっても土地にとっても良い方法を選ぶことができ、ヴィンヤードに新しい命を吹き込むことができた。

ここからドローンは東へと向きを変える。

ここは海抜400mほどの場所で、左手にセント・ヘレナ、右手にラザフォードを見下ろすことができる。

ワインづくりを始めた1990年頃は、ワイン評論家のロバート・パーカー氏のスコアを気にして、重厚なワインをつくるワイナリーが多かった。しかし、ロング・メドウ・ランチの設立者であるテッド・ホール氏は、当時からフランス・ボルドーのメドック地区にあるサン・ジュリアンのようなヨーロッパ的でフレッシュな酸味を感じられるワインをつくりたいと考えていたという。

ナパ・バレーに構えるもう1つのヴィンヤードが、90エーカー(約36ha)ほどのラザフォード・エステート。こちらがその配置図だ。

写真提供:Long Meadow Ranch

緑色部分がソーヴィニヨン・ブラン、紫色部分がカベルネ・ソーヴィニヨン、青色部分がメルローのヴィンヤードだ。道を挟んで、ガーギッチ・ヒルズのヴィンヤードが広がっている。

ドローンでこの場所を空から撮影した映像を見てみよう。

ラザフォードでは、ぶどう栽培だけではなく、同じ敷地内でニワトリの飼育や養蜂をしている。花の蜜を集めるハチは授粉してくれるだけでなく、レストランで使うハチミツを提供してくれる存在でもある。

手前にはソーヴィニヨン・ブランのヴィンヤードが広がっており、その突き当たりには水路が流れている。水路を整備修復することで鳥などの野生動物が戻ってきており、大切な自然保護活動と考えているそうだ。

ソーヴィニヨン・ブランは、深夜1時から午前7時頃までの気温が低い時間帯に収穫される。

写真提供:Long Meadow Ranch

その理由は、ぶどうの果実を冷たい状態で収穫するため。理想的な果実の温度は約12.8℃で、必要があればドライアイスを使うこともある。

ラザフォードのワインは、“ラザフォード・ダスト”と呼ばれる独特の味わいやフレーバーを持ち、この土地でつくられたカベルネ・ソーヴィニヨンは高い利益を生む。しかし、ロング・メドウ・ランチでは、この土地でつくるソーヴィニヨン・ブランには価値があり、ワイナリーにとってよりプラスになると考えているそうだ。

アンダーソン・バレー

ロング・メドウ・ランチがナパ・バレーの他に構えているエステートが、145エーカー(約58ha)あるアンダーソン・バレー・エステートだ。

写真提供:Long Meadow Ranch

灰色部分がピノ・ノワール、緑色部分がシャルドネのヴィンヤード。アンダーソン・バレー・エステートの西側には、南北にナヴァロ川が流れて太平洋に注いでいる。川沿いに冷たい海の影響を多く受けるため、カリフォルニア州で最も冷涼な地域の1つだ。川に近いピノ・ノワールのヴィンヤードの中には傾斜30度ほどの急斜面もあるが、ほとんどは東に向かってなだらかな地形が広がっている。

ドローンでこの場所を空から撮影している映像を見てみよう。

セコイアの木々が広がっているのが見える。セコイアが育つ冷涼な土壌が近隣にあることは、微気候を生み出すのに非常に重要な役割を果たしている。

道の左側がシャルドネ、右側がピノ・ノワールのヴィンヤードだ。海抜はあまり高くはなく、76mほど。このエリアでのスパークリングワイン用品種の可能性に気づいたのは、以前の所有者だという。1996年~1999年にさまざまなクローンが植えられたヴィンヤードを、ロング・メドウ・ランチが2015年に引き継ぎ、オーガニック畑に転換した。

このヴィンヤードの特徴は、午後の遅い時間にナヴァロ川を伝って入ってくる、海からの霧だ。

写真提供:Long Meadow Ranch

ヴィンヤードに漂う冷たい霧は温度を急激に下げて、良質なぶどうができる条件である寒暖差を生む。

ワインメーカーである、フランス・ブルゴーニュ出身のステファン・ヴィヴィエ氏が重視しているのは、こうしたヴィンヤードのテロワールを表現すること。シャルドネとピノ・ノワールの熟成では、樽はテクスチャーを与えてワインを開くために使用し、樽感が果実を上回ることがないように新樽率を低くしている。

ロング・メドウ・ランチを味わう4つのワイン

バーチャルツアーでは、進行に合わせて、以下の4つのワインが紹介された。テイスティング・コメントは、ロング・メドウ・ランチによるもの。

ソーヴィニヨン・ブラン, ラザフォード 2017

収穫は8月中旬からスタートし、3週間ほどかけて行われ、収穫したものからステンレスタンクに入れられて発酵作業に入る。爽やかな酸味により、熟成向きのワインがつくられる。

ロング・メドウ・ランチで理想としているのは「食事と合うワイン」。カリフォルニア州で4店舗展開している「Hog Island Oyster Co(ホグ・アイランド・オイスター)」では、3年前からグラスでこのワインが提供されており、理想を体現したワインだといえる。

【テイスティング・コメント】
ぜいたくすぎるスタイルでもリッチなスタイルでもない、実に爽やかな高い酸味があるミネラリーなワイン。貝やオイスターによく合い、ライムやシトラスの皮の風味が口の中に広がる。レモンを搾ってかける貝料理によく合う1本だ。

2017 Sauvignon Blanc, Rutherford, Napa Valley
アルコール度数:13.0%
品種:ソーヴィニヨン・ブラン100%
参考小売価格:4290円(税込)

シャルドネ, アンダーソンヴァレー 2016

写真提供:Long Meadow Ranch

フレンチオークで10カ月熟成。新樽の使用率は25%にとどめている。

【テイスティング・コメント】
緻密なアロマや味わいが感じられるワイン。花やモモ、若干のレモンという複雑な風味があり、長くてエネルギーあるフィニッシュが楽しめる、ミネラル感豊かな1本だ。

2016 Chardonnay, Anderson Valley
アルコール度数:13.5%
品種:シャルドネ100%
参考小売価格:7480円(税込)

ピノ・ノワール, アンダーソンヴァレー 2016

写真提供:Long Meadow Ranch

フレンチオーク樽で12カ月熟成。新樽の使用率は25%にとどめている。

【テイスティング・コメント】
バランスが良く、複雑さがある魅力的な1本。アーシーさとムスクローズ、スパイスの複雑な香りと洗練されたシルクのように滑らかなテクスチャーがあり、フレッシュで生き生きとした味わいが楽しめる。

2016 Pinot Noir, Anderson Valley
アルコール度数:13.5%
品種:ピノ・ノワール100%
参考小売価格:7480円(税込)

カベルネ・ソーヴィニヨン, ナパヴァレー 2013

写真提供:Long Meadow Ranch

マウンテン・エステートとラザフォード・エステートで収穫したぶどうをブレンドすることで、ナパ・バレーのテロワールを表現した1本。マウンテンのぶどうは果実が小さくて若干凝縮しており、ラザフォードのぶどうは果実が比較的大きく、よりぜいたくさがあるのが特徴だ。早朝に収穫をすることでフレッシュさと酸度を保ち、2020年時点で美しく熟成された1本。

フレンチオーク樽(新樽率50%)で18カ月熟成している。

【テイスティング・コメント】
ナパ・バレーの素晴らしいヴィンテージとなった1974年や1978年を思い起こさせるワイン。エレガントで、パワーとストラクチャーがあるが、酸度がワイン全体をまとめている。

2013 Cabernet Sauvignon, Napa Valley
アルコール度数:13.5%
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン86%、プティ・ヴェルド7%、プティ・シラー7%
参考小売価格:9350円(税込)

「自然とともに育まれたワイン」と表現したくなる、ロング・メドウ・ランチのワイン。現地を思いながら、食事とともに味わってみてはいかがだろうか。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ