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カリフォルニアワイン協会(CWI)は、カリフォルニアワインについての知識を深めることを目的として、影響力のある若手ソムリエに現地のワイナリーを“バーチャル”で体験してもらう「カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー」を開催した。
ツアーは2020年11月19日・20日と同年12月3日・4日の2回に分けて実施され、ソムリエたちは、コンラッド東京(東京都港区)に設けられた会場から、ワイナリーを訪問した。
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今回はそのバーチャルツアーから、ローダイで5世代にわたってぶどう栽培を続ける、ランゲ・ツインズ・ファミリー(LangeTwins Family)についての内容を紹介する。
ランゲ・ツインズ・ファミリー
バーチャルツアーにガイドとして登場したのは、インターナショナル・セールス・ディレクターのジョセフ・ランゲ氏。ランゲ家の5代目に当たる人物だ。
ランゲ・ツインズ・ファミリー(以下、ランゲ・ツインズ)は、セントラル・バレー北部に位置するローダイの地で、5世代にわたってぶどう栽培を続けてきたランゲ家のワイナリーだ。家族経営を続けており、「農家であり、ワイナリー」であることに重きを置いている。
ツアーの冒頭でジョセフ氏は、「私たちがしていることは、農業や家族への愛に基づいているのだということを頭に置いて、ワインを味わってほしい」と説明した。
ランゲ・ツインズ・ファミリーの歴史
ランゲ・ツインズを設立したのは、ジョセフ氏の父とその一卵性双生児である叔父だ。
大学を卒業後、1970年代半ばに、ワイン用ぶどうの栽培農家だった父親の後を継ぎ、ヴィンヤードを法人化することに。彼らは、別々に会社を立ち上げるのではなく、会社設立から今に至るまで、パートナーとして共に働き、頼りにし、信頼し合うことにしたのだ。
双子は自分たちの父親から、ローダイにある1つのヴィンヤードを購入し、1つの品種の栽培からスタートさせた。その少し後に、ランゲ・ツインズに大きな影響を与える人物がローダイにやって来る。それが、“カリフォルニアワインの父”と呼ばれるロバート・モンダヴィ氏だ。
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ナパ・バレーのイメージが強いモンダヴィ氏だが、少年時代を過ごしたのはローダイの地だ。モンダヴィ氏はナパ・バレーで大きな成功を遂げた後、“日常的に楽しめるワイン”というもう1つのビジョンを実現するため、ローダイの地にロバート・モンダヴィ・ウッドブリッジ(以下、ウッドブリッジ)を立ち上げた。この地がぶどうの栽培に適していて、手頃な価格で高品質のワインを生産できることを知っていたからだ。
「ロバート・モンダヴィという人物からの信頼と教えのおかげで、現在のワイナリーがある」と、ジョセフ氏は語る。
双子がワイナリーを立ち上げた1970年代は、ぶどうの大量生産から質の重視へと変わり始めた時代だった。モンダヴィ氏に売られたぶどうには、品質によってグレードが付けられたという。彼の教えのおかげで、双子は数十年をかけて、ぶどう栽培農家からワイン生産者に転向することができた。
他にもガロなどの大手ワイナリーにぶどうを提供するようになり、ビジネスを成長させていった。そして2006年、自分たちが手掛けたぶどうでワインをつくる、ワイナリーの設立に至った。
2人のワインメーカー
ワイナリーを立ち上げた当初、ランゲ・ツインズのビジョンを実現させるために、必要なワインメーカーがいた。
それが、モンダヴィ氏の立ち上げたウッドブリッジで醸造責任者を務めていた、デイヴィッド・アキヨシ氏だ。第2世代のワインメーカーである彼は、モンダヴィ氏のワイナリーが売りに出された後も、ローダイにとどまって家族経営の組織でワインづくりを続けたいと考えており、ランゲ・ツインズの一員となった。アキヨシ氏は、ワイナリーのファーストヴィンテージ(2005年)から参加している。
ランゲ・ツインズでは、自分たちでワインづくりを始めた後も、大手ワイナリーへのぶどうの提供は続けている。「どのヴィンヤードのぶどうで自分たちのワインをつくるべきか」を判断するには、既に25年間にわたり、ランゲ・ツインズのぶどうでワインをつくってきたアキヨシ氏の経験が必要だった。彼は、どのヴィンヤードのぶどうを自分たちで使用するべきかを知っていたのだ。
2008年にランゲ・ツインズに参加したカレン・バーミングハム氏も、ロバート・モンダヴィ氏のワイナリーからやってきた人物であり、ランゲ・ツインズのヴィンヤードのことを理解していた。
2人のワインメーカーは、栽培期や収穫期になると、ヴィンヤード担当であるジョセフ氏の叔父や兄弟たちと日常的にコミュニケーションを取り、最高品質のワインをつくるために最善の決断をするのを助けているのだという。
ランゲ・ツインズ・ファミリーが重視するサステナビリティ
ローダイの地で100年、200年先まで続く農業を目指しているランゲ・ツインズにとって、ビジョンの実現に直接関わるのが、サステナビリティ(持続可能性)だ。
ローダイは、カリフォルニア州でも早い時期からサステナブルに力を入れていたエリアだ。双子は1990年代のローダイ・ルールの制定にも携わっている。また、カリフォルニア州のサステナブル認証(CCSW)を受けたワイナリーでもある。
ワイナリーでは、フクロウの巣箱やソーラーパネルの設置、節度のある灌漑(かんがい)、カバークロップなどを採用。農業を続け、おいしいワインを生み出しながら、ポジティブな影響を環境やコミュニティに対してもたらすことを目指している。
ツアーでは、ランゲ・ツインズのサステナブルに対する思いを示した動画が公開された。
「現在の私たちだけではなく、後世の家族や動物たちがここで生き続けられるようにするのが義務です。結局、サステナビリティとは、世代の継続だと思います。持続可能性なしに、世代を重ねていくことはできません」と、動画は締めくくられている。
ぶどうの産地
100%自社畑のぶどうで、ワインづくりをしているランゲ・ツインズ。そのぶどうの産地についても、ツアー内で解説された。
ランゲ・ツインズのヴィンヤードは、2つのAVA(アメリカ政府認定ぶどう栽培地域)にある。1つは、一族が長年、ぶどう栽培を続けきたローダイだ。サンフランシスコから東のタホ湖に向かう途中にある。
太平洋から水脈を通り抜けて、シエラネバダ山脈に吹き込むデルタ・ブリーズと呼ばれる風が、ローダイを通る。ぶどうの生育期は、日中は25℃になるが、この風が吹くことで、夜はジャケットが必要なほどにまで気温が下がる。こうして生まれる気温差が、高い酸をつくり、質の高いワイン用ぶどうを生み出すのだという。収穫は、ぶどうの酸が高いまま収穫できる夜に行っている。
もう1つのAVAが、クラークスバーグだ。ローダイにほど近く、水脈に囲まれたデルタ地帯の一角にある。太平洋につながる水脈に囲まれており、ぶどう栽培に大きな影響を与えている。
ランゲ・ツインズ・ファミリーのヴィンヤード
続いて、ヴィンヤードのある場所を見ていこう。
ローダイは、7つのサブAVAに分けることができる。ランゲ・ツインズの主な拠点があるのが、ワイナリーのあるジャハント(Jahant)だ。29のヴィンヤードを所有していて、21種類のぶどう品種を育てている。
同じくローダイのサブAVAであるクレメンツヒル(Clements Hills)では7つのヴィンヤードで12品種、モークラムリバー(Mokelumne River)では23のヴィンヤードで13品種を栽培。クラークスバーグ(Clarksburg)では、8つのヴィンヤードで14品種を栽培している。
ランゲ・ツインズ・ファミリーの3つのブランドと4本のワイン
続いて、ランゲ・ツインズが手掛けている3つのブランドと、4本のワインが紹介された。
サンドポイント
ブランドの1つであるサンドポイントは、ジョセフ氏の両親の家から見える、モークラム川に面した土地の名前から付けられている。
サンドポイントは、1942年にはヴィンヤードがあった土地だ。しかし、川に面しているためビーチのような砂質土壌で、ぶどうの栽培に適した環境ではなかった。
そこで、ぶどう栽培をやめて、サンドポイントを野生動物の生息地として返すことにしたのだという。ぶどう栽培はやめたものの、ウサギやビーバーなどが生息できるようにぶどうの樹は残し、ウズラのためにカリフォルニア原産のオークを植えた。カリフォルニア州の鳥であるウズラは、サンドポイントのラベルにも描かれている。
数が減ってきている益虫を地域に取り戻すために在来種の植物を植え、鳥のために巣箱を設置した。鳥の中にはリスやネズミなどを食べてくれるものもおり、ヴィンヤードの役に立つ存在だ。ランゲ・ツインズでは、ヴィンヤードがその一部を担いながら、健康的な生態系をつくり出すことができると信じているという。
こうした取り組みの結果、20年前までは砂しかなかった土地が、写真のように自然を取り戻し、鹿やピューマの足跡まで見られるようになった。
サンドポイントは、こうしたサステナブルな取り組みに焦点を当てたブランドだ。
●サンドポイント ソーヴィニヨン・ブラン, ローダイ 2018
ジャハントにあるヴィンヤードのぶどうを使用。水はけの良い土壌や、水脈が生む冷涼な気候で、ソーヴィニヨン・ブランにも最適な土地だ。
ウェンテ・クローンが多いカリフォルニアでは珍しく、ミュスケ・クローンを採用。クローンとは、接ぎ木をして栽培されたぶどうの系統のこと。病気の耐性や品質などは、親となる木と同じ遺伝子を持つ。ミュスケ・クローンは、青っぽさやハーブさよりも果実味が感じられる、よりアロマティックなクローンだという。ランゲ・ツインズで手掛けているソーヴィニヨン・ブランは、全てミュスケ・クローンとのこと。
ステンレススチールで熟成させ、一部にシュールリーをすることで、きれいな酸味と、複雑さやテクスチャーのあるワインに仕上がっている。「ワインは食事に合うべきだ」という、モンダヴィ氏の教えが生かされており、口の中をリセットして、食事の味を引き立てる完璧なワインだ。
2018 SAND POINT SAUVIGNON BLANC, LODI
アルコール度数:13.0%
品種:ソーヴィニヨン・ブラン100%
参考小売価格:3080円(税込)
●サンドポイント ピノ・ノワール, カリフォルニア 2017
クラークスバーグのデルタ地帯にあるヴィンヤードのぶどうを使用。海抜0m以下のため、堤防に守られたヴィンヤードだ。水位が高く、栄養価の高いシルト質の粘土質土壌のため、ぶどうは早く成長しようとしてしまう。ゆっくりと成長したぶどうのほうが、ワインにした際に品質が高くなるため、光合成に必要な最低限の葉を残して成長を抑えるなど、他の地域よりも手を掛けて、高い品質のワインをつくっているという。
一部をフレンチオーク樽で熟成しており、ぶどうの成熟さに丸みを持たせている。
2017 SAND POINT PINOT NOIR, CALIFORNIA
アルコール度数:14.0%
品種:ピノ・ノワール100%
参考小売価格:3080円(税込)
ランゲ・ツインズ・エステート・ワインズ
一家の名前が付けられたこのブランドからは、双子のワインに対する哲学やモンダヴィ氏の教えが感じられるワインがつくられている。
●ランゲ・ツインズ カベルネ・ソーヴィニヨン 2016
使用するぶどうは、双子がローダイでカベルネ・ソーヴィニヨンを最初に植えた、ジャハントのヴィンヤードのもの。彼らがカベルネ・ソーヴィニヨンを植えた1982年当時、ローダイではカベルネ・ソーヴィニヨンはほとんど栽培されていなかった。
モンダヴィ氏は質の良いカベルネ・ソーヴィニヨンは斜面でできると考えていたが、ランゲ家のヴィンヤードは平坦な土地にあった。しかし、モンダヴィ氏に向けてつくったランゲ・ツインズのカベルネ・ソーヴィニヨンは質の高さが証明され、ウッドブリッジのベンチマーク・ヴィンヤードとなった。その当時、ウッドブリッジでワインづくりを主導していたのが、現在、ランゲ・ツインズでワインメーカーをしているアキヨシ氏だ。
食事との相性が良いようにつくられており、濃厚さとエレガンスを併せ持ったワイン。濃厚なぶどうを収穫するために、収量を抑えている。果実と皮を一緒に寝かせるマセレーションを30日間行うことで、タンニンを柔らかく抽出し、色のバランスを良くして長期熟成できるワインにしている。
味わった人からは、ミントやリコリス、場合によってはユーカリっぽさを感じると言われることがあるそうだ。これは、ヴィンヤードの近くに植えられている、ユーカリ属のゴムの木の影響だと考えているとのこと。
熟成にはフレンチオーク樽を使っているが、バランスを取る程度にとどめている。「私たちは、ヴィンヤードをワインで表現したいと思っており、フレンチオークを使ってどんなワインができるかは重視していません」と、ジョセフ氏は強調している。
2016 LANGETWINS ESTATE CABERNET SAUVIGNON, LODI
アルコール度数:14.0%
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン100%
参考小売価格:3630円(税込)
アイボリー&バート・ワインズ
続いてのブランドは、アイボリー&バート・ワインズだ。
ローダイの初期の入植者であるチャールズ・アイボリー氏とJ.M. バート氏の名前が付けられている。ランゲ家の初代が1870年代にドイツからローダイにやってきた時には、ローダイの地に2人が経営しているお店が存在していたという。そこで、彼らに敬意を表したワインをつくることにしたそうだ。
●アイボリー&バート・ジンファンデル 2017
このジンファンデルは、ローダイをよく表しているという。砂質ローム土壌により、害虫のフィロキセラが生息できないことから、ローダイには自根のジンファンデルが数多く残っている。このワインに使用するジンファンデルも、1903年に植えられた古い樹で、多くはないが濃縮感のある実を付ける。
ランゲ・ツインズでは珍しく、アメリカンオークの新樽で熟成させている。通常は樽の個性が控えめな2回目以降の樽を使っているのだが、濃縮感のある古樹のジンファンデルに関しては、アメリカンオークの新樽を主に使用しているという。
濃縮感とエレガントさのある味わいのワインが、手頃な価格で購入できることから、会場からは驚きの声が上がっていた。
2017 IVORY & BURT OLD VINE ZINFANDEL, LODI
アルコール度数:15.0%
品種:ジンファンデル100%
※ブランド再編のため、現在は日本での取り扱い中止
代々にわたって、ローダイの地でぶどう栽培を手掛けてきたランゲ家。「家族経営をしているワイナリーだからこそ、手に取りやすいワインをつくることを大切にできています。人々に私たちのワインを楽しんでもらい、私たちの土地とつながってほしいと考えているのです」と、ジョセフ氏はまとめている。
5世代続く農家としてのぶどう栽培へのこだわりと、ローダイへの愛情が伝わってくるバーチャルツアーだった。