コラム

“カリフォルニアワインの父”を知るガイドが語る、「ロバート・モンダヴィ・ワイナリー」のワインづくり ~カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー

カリフォルニアワイン協会(CWI)は、カリフォルニアワインについての知識を深めることを目的として、影響力のある若手ソムリエに現地のワイナリーを“バーチャル”で体験してもらう「カリフォルニアワイン産地 バーチャルツアー」を開催した。

ツアーは2020年11月19日・20日と同年12月3日・4日の2回に分けて実施され、ソムリエたちは、コンラッド東京(東京都港区)に設けられた会場から、ワイナリーを訪問した。

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今回はそのバーチャルツアーから、“カリフォルニアワインの父”と呼ばれるロバート・モンダヴィ氏がナパ・バレーに設立した、ロバート・モンダヴィ・ワイナリー(Robert Mondavi Winery)の内容を紹介する。

ロバート・モンダヴィ・ワイナリー

今回のバーチャルツアーには、ワイナリーから2人のガイドが登場した。1人は、シニア・ワイン・エデュケーターのインガー・シフラー氏。現地は夜の9時だったが、「ワイナリーの精神を感じてもらいたい」とワイナリーからツアーに参加した。

シニア・ワイン・エデュケーターのインガー・シフラー氏

もう1人は、チーフワインメーカーのジャヌヴィエーブ・ジャンセンズ氏。2020年に、日本の女性ワインプロフェッショナルによる国際ワインコンペティション「サクラアワード(“SAKURA” Japan Women’s Wine Awards)」で“GRAND PRIX”女性ワインメーカー賞に選ばれ、2010年には『Wine Enthusiast』誌の「ワイン・スター・アワード」でワインメーカー・オブ・ザ・イヤーに輝いた人物だ。

チーフワインメーカーのジャヌヴィエーブ・ジャンセンズ氏

2人ともロバート・モンダヴィ氏と共に働き、彼のビジョンを支えてきた人物だ。

ワイナリーツアー

1966年にナパ・バレーに設立されたロバート・モンダヴィ・ワイナリーは、禁酒法以降、ナパ・バレーに最初にできたメジャーなワイナリーだ。当時、ナパ・バレーに20軒ほどしかなかったワイナリーは、現在では500軒ほどになっている。

ツアー内では、収穫期である9月のワイナリーを動画で巡った。

まず紹介されたのは、ロバート・モンダヴィ・ワイナリーの入り口。印象的なアーチを抜けると、そこにあるのが「カベルネ・ソーヴィニヨン リザーブ」を生み出すト・カロン・ヴィンヤードだ。

ト・カロン・ヴィンヤードは、ロバート・モンダヴィ・ワイナリーにとって、グラン・クリュ(特級畑)とも呼べるヴィンヤードだ。背後にはマヤカマス山脈が伸びている。

収穫期を迎えたカベルネ・ソーヴィニヨン。人の手でサンプルを収穫して糖度や酸をテストし、ワインメーカーが味見をして成熟度を見定め、収穫日が決められる。

ほぼ全ての収穫は夜間に手摘みで行われている。気温の低い夜に収穫すると、ワインのフレッシュさをつくる果実の酸が豊かな状態で収穫できるからだ。収穫人は朝の3時に起床して作業に当たる。

収穫された果実は、朝のうちにワイナリーに運ばれる。

茎と果実を分けた後に、葉や未熟な果実が取り除かれる。かつては人の手で行っていたが、現在は機械化されている。今回がこの機械を導入して2回目の収穫期だ。望ましい色やサイズをプログラムすることで、質の高い果実だけを選別できるようになった。

この大きなオーク製タンクで10~15日間の発酵と、最大で40日間のマセレーション(醸し)が行われる。

タンクに残った皮もバスケットプレスに集めて圧搾。プレス果汁は最終的なブレンドで使用される。

その後、ワインはフレンチオーク樽に入れられ、18~20カ月間、時には22カ月間熟成される。使用する樽は、品種によって慎重に選ばれる。

熟成させたワインをテイスティングして分析。ヴィンヤードの区画ごとの味の違いを踏まえて、「カベルネ・ソーヴィニヨン リザーブ」や「オークヴィル カベルネ・ソーヴィニヨン」「ナパ・バレー カベルネ・ソーヴィニヨン」にふさわしいトライアルブレンドをつくる。

ブレンドしたワインは瓶詰めされ、基本的には瓶詰めから2年後に食卓に並ぶことになる。

ト・カロン・ヴィンヤード

1966年にロバート・モンダヴィ氏がワイナリーを設立した場所が、オークヴィルのト・カロンだ。ジャンセンズ氏が、「ト・カロンを(創業の地に)選んだことで、モンダヴィ氏はナパ・バレーの未来、そして彼のワイナリーの未来を築いたのだと思う」と語るほど、ワインメーカーには魅力的なヴィンヤードだ。

ギリシャ語で「美しさ(beauty)」を意味するト・カロンは、19世紀にワインやぶどうに情熱を注いだ人物、H. W. クラブ氏によって発見された土地だ。1866年から1868年に、彼のワインはいくつかの審査会で金賞や銀賞を受賞している。当時から、ト・カロンがカベルネ・ソーヴィニヨンにとって素晴らしいテロワールであることは知られていた。

ナパ・バレーの中心より西側にあるト・カロンは、太平洋の影響を受けやすい土地だ。夏や収穫時期には、夕方になると霧が入り込んで気温が下がるが、朝になると霧は晴れて太陽の光の恩恵を受ける。

マヤカマス山脈の麓に位置しているト・カロンは、数百万年かけて、海底から地上に出てきた土地だ。堆積物と砂利で構成されており、山から離れるほど、砂利は細かくなっていく。ハイウェイ29号線に程近いところは粘土土壌だ。ぶどう栽培に適した斜面もあり、水はけが良い。砂利の影響で、ぶどうの樹は地中深くまで根を伸ばす。良質なワインをつくる条件である気温差があり、独特のコンディションがぶどうの栽培や成熟に最高の環境を生み出している。

ジャンセンズ氏は、ト・カロン・ヴィンヤードについて次のように語っている。

1966年、そしてその前から、素晴らしいワインメーカーたちがト・カロン・ヴィンヤードを歩き、素晴らしいワインをつくり、土壌や果実の扱い方への理解を深めていきました。

私たちは、ト・カロン・ヴィンヤードをグラン・クリュ(特級畑)のファースト・グロース(一級品)と呼んでいます。グラン・クリュとは何か、一級品とは何かという問題に私は人生をかけて取り組んできました。

そして、何年も収穫するうちに気付いたのです。このヴィンヤードは、グラン・クリュであろうとなかろうと回復力のあるヴィンヤードであり、どんな気候でも、どんなに雨が多くても少なくても、最終的に素晴らしいワインができるのです。

その中でのワインメーカーの役割は天候に対処することであり、テロワールを知り、瓶詰めされた素晴らしいワインをつくり上げます。

ト・カロン・ヴィンヤードを経験したワインメーカーは最高の学校に通ったようなもの。とても幸運だと言えるでしょう。

ロバート・モンダヴィ・ワイナリーのワイン

ここからは、バーチャルツアーで取り上げられた5本のワインを紹介する。テイスティングに関するコメントは、ジャンセンズ氏によるものだ。

フュメ・ブラン 2018

ワインを手にするシフラー氏

「フュメ・ブラン」は、ロバート・モンダヴィ氏によって付けられた、ソーヴィニヨン・ブランを使用したワインの名前だ。1950~1960年代にはソーヴィニヨン・ブランがたくさん栽培されていたが、ワインの品質は良いものではなかった。

ソーヴィニヨン・ブランを「輝かしいものに高め、ナパ・バレーのソーヴィニヨン・ブランの可能性を最大限引き出したい」と考えたモンダヴィ氏は、残留糖度がなくなるまで発酵させた辛口のワインを、味に深みや重さ、複雑さは出るが、樽っぽさが出すぎない程度に樽で熟成させて売り出した。

その際に、ソーヴィニヨン・ブランの銘醸地であるフランスのプイィ・フュメから「フュメ」を、ソーヴィニヨン・ブランから「ブラン」を取って名付けたのが「フュメ・ブラン」だ。その後、カリフォルニアの多くの生産者が「フュメ・ブラン」と名付けたワインを出したが、ナパ・バレーのソーヴィニヨン・ブランの可能性に気付いたのは、ロバート・モンダヴィ・ワイナリーが最初だ。

このワインは2つの自社畑のぶどうを100%使用している。1つはト・カロンで、もう1つはナパ・バレーの反対側にあるスタッグス・リープにあるヴィンヤードだ。セミヨンを13%ブレンドしており、通常はステンレススチールと樽で発酵させている。

スタッグス・リープは火山性の土壌で、オークヴィルよりも冷涼。夕方の早い時間から濃い霧に覆われる地域だ。果実味とシトラスの風味があり、とてもフレッシュで非常に鮮やかな酸があるソーヴィニヨン・ブランができる。

一方で、オークヴィルのソーヴィニヨン・ブランは、より丸みがあって、フラワリー。根が深く張ることから味わいも深みがある。

「2つのヴィンヤードの果実をブレンドした、とてもユニークな1本。このような表現のソーヴィニヨン・ブランを他に知らない」とジャンセンズ氏は説明する。

ROBERT MONDAVI WINERY FUMÉ BLANC, NAPA VALLEY 2018
アルコール度数:14.5%
品種:ソーヴィニヨン・ブラン87%、セミヨン13%
参考小売価格:5940円(税込)

フュメ・ブラン・リザーブ 2015

フュメ・ブラン・リザーブは、ト・カロンのぶどうを100%使用している。ハーブのような風味があり、とても余韻が長く、重さがあって生き生きとしているワインだ。

同ワイナリーでのソーヴィニヨン・ブランの収穫は、非常に厳密であることが求められる。通常は8月に始まり、10日ほどで終わる。収穫初期には、ソーヴィニヨン・ブランは緑がかっており、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランのような個性がある。少しだけ待つと、急に美しいオレンジの花のようなシトラス、白いエキゾチックフルーツのような、ワイナリーが求めている味わいとなる。それより長く待ってしまうと、マンダリンやアプリコットのようなオレンジのエキゾチックフルーツの味わいになってしまうので、求めている味わいで収穫できるのは、10日間ほどだ。

ロバート・モンダヴィ・ワイナリーでは、ソーヴィニヨン・ブランから収穫が始まるので、ワインメーカーやワイナリーの目を覚まさせる品種でもあるという。

2015 ROBERT MONDAVI WINERY FUMÉ BLANC RESERVE, TO KALON VINEYARD, NAPA VALLEY
アルコール度数:14.5%
品種:ソーヴィニヨン・ブラン94%、セミヨン6%
参考小売価格:1万4710円(税込)

マエストロ 2017

2016年に50周年を迎えたロバート・モンダヴィ・ワイナリー。2013年に、ジャンセンズ氏とワインメーカーチームが来たる50周年記念に新しいワインを出したいと提案して、つくり上げたのがこのブレンドワインだ。

ト・カロン・ヴィンヤードとスタッグス・リープのワッポ・ヒル・ヴィンヤードのボルドー品種を使用しており、洗練されたものではないが、とても飲みやすい。同時に、ワイナリーの個性を表している1本だ。とてもスムーズでさまざまな個性があり、食事と合わせやすい。食事との相性の良さは、モンダヴィ氏がワインに求めていたもの。「私たちはブレンドをする時に、彼のビジョンを考えます。スーパースターとなるワインではなく、シェフや食事と相性がいいか、友人や家族など一緒に楽しむ相手と相性がいいかを考えます」とジャンセンズ氏は語る。

また、決められたレシピを毎年再現するのではなく、そのヴィンテージを表現したワインを目指しており、マエストロの味わいは毎年変わるのだという。

ワイン名の「マエストロ(指揮者)」は、2000年にト・カロンのセラーが完成した際に開かれたパーティーでのモンダヴィ氏の姿が由来となっている。セラーのオープンに合わせて、交響楽団のナパ・バレー・シンフォニーに楽曲の制作を依頼しており、パーティー当日に交響楽団に興奮したモンダヴィ氏は、楽団に駆け寄って指揮棒を手にし、笑顔で指揮をし始めたのだ。その姿から、このワインの名前が付けられている。「実際にモンダヴィ氏の“指揮”により、現在のナパ・バレーがありますから」と、ジャンセンズ氏は語る。

最高のセラーと、それを祝ってくれる友人たちに囲まれたこの日は、当時80代だったモンダヴィ氏にとって、とても幸せな時間だっただろうと、ガイドの2人は振り返る。

2017 ROBERT MONDAVI WINERY MAESTRO, NAPA VALLEY
アルコール度数:15.0%
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン55%、メルロー31%、プティ・ヴェルド7%、カベルネ・フラン5%、マルベック2%
参考小売価格:1万3520円(税込・2014年ヴィンテージ)

カベルネ・ソーヴィニヨン 2018

カベルネ・ソーヴィニヨンは、ロバート・モンダヴィ・ワイナリーの核となる品種だ。モンダヴィ氏は、「私のカベルネ・ソーヴィニヨンは、赤ちゃんのお尻のようにソフトで、歌手のパバロッティの声のようにパワフルであってほしい」と話していたという。

使用しているぶどうは、ナパ・バレーの北から南、東から西まで幅広い。太陽光に恵まれて、ぶどう栽培に適したナパ・バレーの気候が表現されている。「ナパ・バレーのカベルネ・ソーヴィニヨンを手掛けるとき、それはチームワークによる成果だと私は思っています。なぜなら、私たちはあちこちに出かけていき、全てのぶどう栽培者たちがこの素晴らしいワインを生み出すために協力してくれているからです。これは、ナパ・バレーの全体像とヴィンテージを反映したものです」とジャンセンズ氏は強調する。

ステンレススチールで発酵させ、マセレーションは28~30℃で22~25日間と控えめ。ぶどうが本来の姿以外のものにならないように、シンプルに手掛けている。フレンチオーク樽で12カ月熟成させており、新樽率は15%と控えめだ。

カリフォルニアのワインは飲んだことがあるけれど、ナパ・バレーのワインを飲んだことがない人にすすめたいワインとのこと。「なぜナパ・バレーのワインを飲んだほうがいいのかという疑問に、このワインが答えてくれる」とシフラー氏は語る。

ナパ・バレー産のワインには200~500ドルもするものが多い中、値段も手頃で、毎日友人や家族で楽しめる1本だという。

2018 ROBERT MONDAVI WINERY CABERNET SAUVIGNON, NAPA VALLEY
アルコール度数:14.5%
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン87%、メルロー5% 、プティ・ヴェルド4%、カベルネ・フラン3%、マルベック1%
参考小売価格:8700円(税込)

カベルネ・ソーヴィニヨン リザーブ 2015

ト・カロン・ヴィンヤードのぶどうを使用。「カベルネ・ソーヴィニヨン リザーブ」は、その中でも最高のものを選りすぐったワインだ。

樽での発酵中に毎日テイスティングを行い、ヴィンヤードのポテンシャルに到達しているかをワインメーカーが確認している。マセレーションは平均32日間と長く、温度も31~32℃と高めだ。フレンチオークの新樽を100%使用している。

18カ月間、常にテイスティングをしながら熟成させる。多くのつくり手は、収穫した年の冬のうちにブレンドするが、区画ごとに熟成させ、ワインがどのように姿を変えるのかを見ている。

2015 ROBERT MONDAVI WINERY RESERVE CABERNET SAUVIGNON, TO KALON VINEYARD, NAPA VALLEY
アルコール度数:14.5%
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン91%、カベルネ・フラン7%、プティ・ヴェルド2%
参考小売価格:2万3340円(税込)

1966年にナパ・バレーのオークヴィルにワイナリーを設立し、“カリフォルニアワインの父”と呼ばれたロバート・モンダヴィ氏。2008年に彼はこの世を去っているが、そのレガシーはしっかりと受け継がれていることが感じられるバーチャルツアーだった。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ