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ブルゴーニュワイン委員会は2022年5月31日、国の重要文化財である自由学園明日館(東京都豊島区)にて、音楽とシャブリワインのペアリングイベント「シャブリ・シンフォニー」を開催した。シャブリのアペラシオン(AOC)ごとの個性を、聴覚と味覚で味わうという内容だ。
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今回は、演奏会に先駆けて行われた、シャブリセミナーの内容を紹介する。ナビゲーターを務めたのは、東京・銀座のフランス料理店「銀座レカン」の料飲統括マネージャーでソムリエの近藤佑哉氏だ。
シャブリとは
シャブリとは、フランス・ブルゴーニュ地方の最北部に位置するワイン産地でつくられる白ワインのこと。冷涼な気候と石灰質の土壌から生まれる、フレッシュな酸味とミネラル感が特徴だ。
2021年の生産規模は5821ha。平均生産本数は3720万本だ。ブルゴーニュのワインのうち、シャブリワインが占める割合は18%程度と聞くと、限定された地域であることが分かるだろう。
土壌の特徴
シャブリワインの特徴的なミネラル感を生み出すのは、小さなカキの化石を含むキンメリジャン土壌だ。1億5000万年前のジュラ紀後期に浅い海だった土地で、もろくて崩れやすいという特徴がある。雨が地面に染みこむ際に有機物が溶け込みやすく、ぶどうの樹は深く下ろした根で土壌から栄養を蓄えながら成長していく。
シャブリでつくられるワインは、土壌に含まれるカキ由来の磯の香りやヨード香など、土壌の要素がふんだんに感じられるフレーバーとなり、ワイン愛好家をとりこにしている。
シャブリの品種
ブルゴーニュ地方では、基本的に赤ワインはピノ・ノワール、白ワインはシャルドネでつくられている。シャブリも、シャルドネ種のみからつくられる白ワインだ。
シャルドネは冷涼な地域から温暖な地域まで栽培されており、その土地やつくり手の個性を十二分に発揮してくれるという特徴がある。そのため、シャブリを特徴づけるキンメリジャン土壌を味わうのにふさわしいぶどう品種だ。
シャブリの4つのアペラシオン
シャブリは、スラン川を挟んで右岸と左岸にぶどう栽培地域が広がっており、4つのアペラシオンに分かれている。アペラシオンとは、法律で定められた原産地呼称のこと。シャブリのアペラシオンは、格付けごとに4つに分かれている。
セミナーでは、4つのアペラシオンについて解説された。アペラシオンごとに、それぞれの特徴を見ていこう。
プティ・シャブリ(Petit Chablis)
シャブリワインの19%を占めるアペラシオン。キンメリジャン土壌が、一世代新しい石灰質の土壌に覆われている。
シャブリ地区の標高230~280mという高い地域に散らばっており、冷たい風が吹いていることから、きりっとした個性が感じられる。最もピュアでフレッシュなシャブリワインだ。
シャブリ(Chablis)
シャブリワインの66%を占めるアペラシオン。広範なため、どこでつくられているかで個性が異なるが、ピュアな味わいが楽しめる。
大部分がジュラ紀の石灰質土壌であり、よりキンメリジャン土壌の特徴を感じられる。プティ・シャブリの清涼感に加えて、ふくよかな印象があり、熟成の可能性もあるアペラシオンだ。
シャブリ・プルミエ・クリュ(Chablis Premier Cru)
シャブリワインの14%を占めるアペラシオン。プルミエ・クリュ(一級畑)では、40のクリマ(区画)が指定されている。
ジュラ紀に形成されたキンメリジャン土壌で、シャブリと同様に石灰質土壌だが、より日当たりが良い。日照量がぶどうの成長に影響を与え、スケールの大きさが感じられるワインになっている。
シャブリ・グラン・クリュ(Chablis Grand Cru)
シャブリワインのうち、1%ほどしかないアペラシオン。ここまではスラン川の右岸と左岸に広がっていたが、グラン・クリュ(特級畑)は右岸の急斜面、朝から晩まで日が当たる一角に7つのクリマが集中している。
短くても収穫の翌年の3月15日までに、熟成を行わなくてはいけないと定められている。
紹介された4つのワイン
セミナーでは、アペラシオンの特徴が感じられる4つのワインが紹介された。シャブリワインの特徴を、実際に味わって体験してみたいという人は、参考にしてみてはいかがだろうか。テイスティングコメントは、近藤氏によるもの。
プティ・シャブリ 2019 ドメーヌ・ビヨー・シモン
1815年からシャブリに居を構える老舗ドメーヌ。現在は、シャブリ・グラン・クリュの4つのクリマとシャブリ・プルミエ・クリュの4つのクリマも所有しており、4つのアペラシオン全てのワインを生産している。
「プティ・シャブリ 2019」は、キンメリジャン土壌で栽培され、手摘みで収穫した果実を使用。ステンレスタンクでアルコール発酵後に酸を和らげる発酵を行っている。熟成にもステンレスタンクを用い、8~10カ月ほど。
【テイスティングコメント】
若々しいグリーンがかったレモンイエローの外観。キンメリジャン土壌だが、プティ・シャブリらしいフレッシュ感のあるもぎたてのレモンのような香り、ハーブなどの清涼感のある香りが感じられる。しっかりとした酸で生き生きとした印象と、かんきつを思わせるような果実味のある味わい。しっかりと冷やして若いうちに飲み干したい。
プティ・シャブリ 2019 ドメーヌ・ビョー・シモン
Petit Chablis, 2019, Domaine BILLAD-SIMON
参考小売価格:3100円(税別)
シャブリ・サンマルタン 2019 ドメーヌ・ラロシュ
世界的にシャブリのプロモーションをし、ムーブメントの火付け役となったドメーヌの1つでもある。1850年創業と長い歴史を持ち、シャブリに大きな畑を所有する。ドメーヌのカーブとなっているオベディエンスリーは、修道士によって最初にシャブリワインがつくられたとされるサン・マルタン・ド・トゥール修道院の一部で、シャブリの歴史的建造物でもある。
ドメーヌの中でも最高の区画のぶどうを厳選してブレンド。85%をステンレスタンク、残り15%を30年物のフードル(大樽)を使用し、発酵後に澱引きをしないシュール・リーにて熟成させている。
【テイスティングコメント】
外観は、少しゴールドがかったレモンイエロー。清涼感はあるが、青リンゴや洋ナシなどの甘やかな香りの果実が中心となり、そこに白い花の香りなどが加わってくる。グラスを回すとヨード香が感じられ、奥行きや複雑さがあり、ワンランク上級になっていることが感じられる。
爽やかな酸味を持つが、舌先で感じる柔らかな果実味の豊かさが大きな特徴。プティ・シャブリと比べると、柔らかさが表現されている。
シャブリ・サンマルタン 2019 ドメーヌ・ラロシュ
Chablis, Saint Martin, 2019, Domaine LAROCHE
参考小売価格:3500円(税別)
シャブリ・プルミエ・クリュ コート・ド・レシェ 2019 ドメーヌ・ダニエル・ダンプ・エ・フィス
150年以上続くワイン生産者の家系に生まれたダニエル・ダンプ氏が、義理の父であるジャン・デフェ氏とともに創設したドメーヌ。収穫から熟成、瓶詰めに至るまで全てを自社で行い、木樽を一切使わずにステンレスタンクを使用している。息子のヴァンサン氏とセバスチャン氏は、ニュージーランドとオーストラリアでワインづくりを学び、ドメーヌに新しいアイデアをもたらしている。
【テイスティングコメント】
シャブリと色調に大きな違いはないが、粘度からぶどうの凝縮感がうかがえる外観。心地よいフルーツの香りやフレッシュなハーブ、白い花のフローラルさがグラスいっぱいに感じられる。グラスを回すとスパイシーさが出てくるのが、プルミエ・クリュの特徴だ。ヨードも感じられ、スケールの大きさが香りにも出ている。
口に含むと、柔らかい肉厚なキャラクターとともに、凛とした酸が張っているような、バランスの取れたワイン。テクスチャー(質感)が、より滑らかに口の中に広がる。
シャブリ・プルミエ・クリュ コート・ド・レシェ 2019 ドメーヌ・ダニエル・ダンプ・エ・フィス
Chablis Premier Cru, Côte de Lechet, 2019, Domaine Daniel DAMPT et Fils
参考小売価格:5000円(税別)
シャブリ・グラン・クリュ ヴォーデジール 2019 ドメーヌ・ジャン=ポール・エ・ブノワ・ドロワン
こちらもシャブリの老舗ドメーヌの1つ。シャブリ全域に所有している25ha以上の畑の大部分は、13世代にわたり、生まれ故郷を離れたことのないワイン生産者たちによって取得されたものだ。
ヴォーデジールは、7つあるグラン・クリュのクリマのうち、谷底のようなエリアにある。熱がたまりやすいので、ぶどうの熟度が非常に高くなり、濃縮感が生まれるのが特徴だ。
ステンレスタンクと樽で発酵後、酸を和らげるマロラクティック発酵を行っている。熟成もステンレスタンクと木樽で8~10カ月間行った後でブレンドする。
【テイスティングコメント】
プルミエ・クリュで感じられた香りに加えて、香ばしさもプラスされている。非常に滑らかでみやびな印象のある味わいに、舌をつかむようなしっかりとした力強い骨格が感じられる。
シャブリ・グラン・クリュ ヴォーデジール 2019 ドメーヌ・ジャン=ポール・エ・ブノワ・ドロワン
Chablis Grand Cru, Vaudésir, 2019, Domaine Jean-Paul & Beoit DROIN
参考小売価格:1万2000円(税別)
前回の記事で紹介した「シャブリ・シンフォニー」では、セミナーで紹介された4つのワインがテイスティングとして提供された。4楽章で構成される交響曲「シャブリ・シンフォニー」は、ブルゴーニュワイン委員会のサイトから視聴可能だ。ぜひ、ワインを片手に“耳で味わうシャブリワイン”を体験してみてはいかがだろうか。
「シャブリ・シンフォニー」の視聴はこちら