コラム

ボデガス・エル・ニド|「ウニコ」「ピングス」に並ぶ注目のスペインワイン「エル・ニド」のつくり手 ~解説:スペインのワイナリー

スペイン産の高級ワインといえば、「ウニコ」や「ピングス」が有名だが、この2銘柄に引けを取らないとして年々評価が上がってきているワインがある。それが、「エル・ニド」だ。

入手困難といわれる「ウニコ」「ピングス」と比べても生産本数が少なく、日本に輸入される本数はごくわずかだ。そのため、「エル・ニド」の希少性は2銘柄よりも高いとされる。今回は、この「エル・ニド」を手掛ける、ボデガス・エル・ニド(Bodegas El Nido)について解説していく。

ボデガス・エル・ニドとは

ボデガス・エル・ニドは、スペイン・ムルシア州のフミーリャ地方を拠点とするワイナリー。2002年がファーストヴィンテージとなるが、米ワイン評価誌『ワイン・アドヴォケイト(Wine Advocate)』で初登場にして96点を獲得。その後も連続して高得点を出し、世界的に注目を浴びるワイナリーとなった。

3カ国のスペシャリストがタッグを組む

スペインの中では歴史の浅いワイナリーだが、世界的に注目を集める存在となった背景には、ワインづくりを支える3人のキーパーソンの存在がある。

拠点とするフミーリャ地方は、荒涼とした砂漠のような地域だ。豊潤な土壌とはいえないこの土地に目を付けたのが、オーストラリアの名醸造家であるクリス・リングランド氏。彼のワイナリーであるクリス・リングランド(Chris Ringland)のシラーズは、年間生産量が極端に少なく、1本1000ドル以上で取引されることも珍しくない。彼がここに目を付けた理由の1つが、フミーリャ地方のテロワール(ぶどう畑を取り巻く自然環境要因)が、彼のワイナリーがあるオーストラリアの土壌に似ていることだった。

このようなテロワールでの生産を得意とするリングランド氏は、フミーリャ地方の代表的な生産者であるミゲル・ヒル(ミゲール・ジル)氏と、アメリカで活躍するワイン輸入のスペシャリスト、ホルヘ・オルドネス氏に協力を仰ぎ、彼らを共同オーナー兼生産者として、ボデガス・エル・ニドを立ち上げた。ワイナリーはヒル氏が率いるヒル・ファミリー・グループ(Gil Family Estates)の一員となっており、リングランド氏は醸造コンサルタントおよび醸造責任者を務めている。

フミーリャ地方のテロワールとぶどうの特徴

スペイン南東部に位置するフミーリャ地方は、厳しい自然環境で知られている。大陸性気候に属し、夏は40℃近くまで気温が上昇するが、冬は氷点下まで下がる。土壌は、砂や石が多い砂粘土質だ。標高1372mのカルチェ山を筆頭として、800m以上の山々に囲まれた盆地であり、中心市街地でも標高は510mある。年間日照時間は約3000時間で、年間降水量は約300mm。ぶどう畑以外にも、オリーブ畑やその他の果樹園が点在している。

同地方では、固有品種であるモナストレルをはじめとして、フランス系のシラー、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、プティ・ヴェルドなどが栽培されている。ぶどうの生育には過酷ともいえるテロワールだが、メリットもある。というのも、このようなテロワールでは虫害や病気が少なく、その対策となる農薬の使用量を抑えることができる。自然のままのぶどうを収穫できるかどうかは、ワインの品質や味わいに直結する要素の1つだ。また、厳しい環境によって1本の樹から採れるぶどうが自然と少なくなるため、1粒1粒に味わいが凝縮される。

こうしたメリットから、フミーリャ地方で採れるぶどうからつくられるワインは、濃厚なフルボディで、香り高くラグジュアリーな余韻を楽しめるものが多い。同地方で栽培されているぶどうは、いずれも痩せた土壌と相性がよいこともあり、テロワールがもたらすメリットを存分に享受して味わいを深めている。

国内外から高い称賛を受ける「エル・ニド」とは

ボデガス・エル・ニドは、「エル・ニド」とそのセカンドキュヴェ「クリオ」、シラー100%でつくる「コルテオ」を提供している。中でもフラッグシップである「エル・ニド」は、世界各国の著名人から称賛を受けているワインだ。

ファーストヴィンテージから高得点を獲得

「エル・ニド」のファーストヴィンテージは2002年だが、これを高く評価した著名人の1人が、著名なワイン評論家のロバート・パーカー氏だ。彼はファーストヴィンテージに対し、「びっくりするほどすごい」「ワインの世界がこれまで以上に面白くなる」などとコメントし、96点という高得点を付けた。これによって「エル・ニド」は、ファーストヴィンテージから世界にその名を知られることとなった。

パーカー氏は、その後もリリースされた「エル・ニド」に高得点を付け続ける。特に、2004年ヴィンテージには、99点というほぼ満点の得点を付けたことでも話題になった。

さらに、信頼性が高いワイン情報誌として名高いスペインの『ギア・ペニン(Guia Penin)』は、「エル・ニド」の2008年ヴィンテージを「エル・ニドにより、フミーリャ地方ならびにモナストレルの価値をさらに高めた」として、96点の高得点を付けた。また、スペインの3つ星レストラン「サン・パウ」でもオンリストされている。

「エル・ニド」の生産方法

「エル・ニド」の生産は、その収穫から始まるといっても過言ではない。完全に成熟した房のみを、小さなかごを用いて数回に分けて収穫する。収穫したぶどうはセラーでさらに選別され、「エル・ニド」に適したものだけが使われる。

次に、ぶどうを上部開放型のステンレスタンクで7日間アルコール発酵させる。その後の抽出には、なるべく空気に触れさせないよう、ルモンタージュ(ステンレスタンクの下部から上部へパイプを使って循環させる)方式を採用している。熟成期間は24カ月。アメリカンオークとフレンチオークの新樽を100%用いて行う。

味わいとスペック

「エル・ニド」をグラスに注ぐと、向こう側が全く見えないほど濃い紫色が目に入り、見た目からも濃厚な味わいを期待させられる。エスプレッソ、ダークチョコレート、ブラックベリーリキュールなどの心地よさと複雑さが絶妙に入り混じった香りが感じられ、口に含むとどこまでも続くかのようなフルボディならではのタンニンと濃厚さが広がる。舌触りは滑らか。古樹から採れた完熟ぶどうの結晶であり、それを実感できる1本だ。

ヴィンテージによってアルコール度数が変わることがあるため、参考として、2019年ヴィンテージのスペックを記す。

「ボデガス・エル・ニド エル・ニド」
ぶどう品種:カベルネ・ソーヴィニヨン70%、モナストレル(ムールヴェードル)30%
味わい:赤
アルコール度数:15.5%
参考小売価格:2万4600円(税別)

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関西大学卒 専業ライターを夢見て日々執筆する複業ライター。酒と肉と旅行と昼寝が好き。