コラム

他のマールボロ産とは一線を画すソーヴィニヨン・ブランを手掛けるフォリウム・ヴィンヤード ~今知っておきたいニュージーランドのワイナリー

ワインの新興国の中でも、特に新しい産地であるニュージーランド。栽培や醸造に先進的な技術を取り入れたワインづくりで、ワインファンからの信頼や人気を集めている。

今回はそんなニュージーランドを代表するワイナリーの中から、日本人醸造家が設立したフォリウム・ヴィンヤード(Folium Vineyard)を紹介する。

フォリウム・ヴィンヤードとは

フォリウム・ヴィンヤードは、2010年6月に岡田岳樹(たかき)氏がニュージーランドに設立したワイナリーだ。

フォリウム・ヴィンヤードの特徴

1978年に東京都文京区に生まれた岡田氏は、2003年にニュージーランドのクロ・アンリに入社。クロ・アンリは、ソーヴィニヨン・ブランの名手としても知られている、フランス・ロワール地方のサンセール地区で10世代続くアンリ・ブルジョワ家が手掛けるワイナリーだ。

岡田氏は2006年には栽培責任者となり、2009年に6年間の経験を積んだクロ・アンリを退社。その1年後に、フォリウム・ヴィンヤードを立ち上げている。

フォリウム・ヴィンヤードのぶどう畑が広がるのは、ニュージーランドを代表するワイン産地である南島マールボロのブランコット・バレーだ。

フォリウム・ヴィンヤードでは、ヴィンヤードのテロワールを生かしたワインづくりをしているが、ハーブの風味とトロピカルフルーツの香りが混在する、いわゆる“ニュージーランド産”“マールボロ産”とは風味が異なるソーヴィニヨン・ブランを手掛けている。

ジェームズ・サックリングの「Top 100 New Zealand Wines」では、2019~2021年の3年連続でフォリウム・ヴィンヤードのワインが選抜されている。

フォリウム・ヴィンヤードのワイン哲学

フォリウム・ヴィンヤードのワイン哲学は、「ワインづくりはぶどう畑から始まる」というもの。これは、岡田氏が経験を積んだクロ・アンリで、「ワイン生産は農業である」と叩き込まれたことからたどり着いた考えで、「高品質なワインをつくる一番の近道は高品質なぶどうを育てること」という信念の下でワインを手掛けている。

その考えは、ワイナリー名からもうかがうことができる。フォリウム(Folium)とは、ラテン語で“葉”を意味する言葉だ。この名前を付けた理由を、岡田氏は「葉が光合成や果実の生育に必要な仕事を行ってくれるからだ」とワイナリーのYouTubeチャンネルで説明している。葉が最も大変な仕事をしてくれており、自身はその手伝いをしているだけだと考えているという。

冬の剪定作業から始まり、ぶどうが生育する夏には摘房や摘粒による収量制限、除葉を含めたキャノピーマネジメント(樹勢のコントロール)を実施。秋に成熟したぶどうを手摘みで収穫している。もちろん全ての樹に同じ作業を行うのではなく、樹ごとやクローンごとに適した手の掛け方をしているという。

ぶどうやテロワールを最大限に表現することを目指し、醸造は伝統的な手法を用いている。

サステナブルな取り組み

フォリウム・ヴィンヤードでは、ワイン文化を次世代に引き継ぐことを目的に、2つのキーワードの下でサステナブルなワインづくりに取り組んでいる。

ドライ・ファーミング

その1つがドライ・ファーミングで、名前のとおり、灌漑(かんがい)をせずにヴィンヤードを維持する農法だ。新しい考え方ではなく、フランスの伝統的な技術でもある。灌漑をすると樹の根は表面の水を求めて横に広がるが、灌漑をしないことで、樹は地中深くに根を張るようになる。

降水量が少ないマールボロでのドライ・ファーミングは、収量が安定しないというデメリットがあるものの、灌漑用水を節約して環境を守ることができる。また、次のようなメリットもある。

●その年の降水量がぶどうの個性に関わってくるので、ヴィンテージが表現しやすくなる
●灌漑をすると根は灌漑用水が届く範囲にしか広がらないが、ドライ・ファーミングをすれば根に制限がかからず、テロワールを表現しやすくなる
●マールボロ産のソーヴィニヨン・ブランの特徴である、ハーブの風味を生むメトキシピラジンは、灌漑をしないことで少なくなる。そのため、同地域の他のワイナリーとは一線を画すスタイルのソーヴィニヨン・ブランを手掛けることができる

オーガニック農法

フォリウムは、2011年からオーガニック農法に着手し、2018ヴィンテージからはBiogro(バイオグロ)という、ニュージーランドで最も知られているオーガニック認証を取得している。この認証は、3年連続で査察に合格しないと取得できないもので、さらには査察を毎年受けることが義務付けられているという厳しいものだ。

フォリウム・ヴィンヤードでは、オーガニック農法は消費者に安全なワインを届けるだけではなく、スタッフに安全な環境を与えるというメリットがあると考えているという。

この写真を見れば分かるように、ぶどうの樹の間には雑草が生えている。除草剤を使わないからでもあるが、雑草自体がヴィンヤードに恩恵を与えてくれるからこそ、生えたままにしている。雑草には、土壌に栄養を与える、害虫を捕食してくれる益虫を呼び寄せる、草の根が土に穴を開け、そこに雨水がたまり、保水してくれるという役割がある。

フォリウム・ヴィンヤードのテロワール

マールボロ地方のブランコット・バレー

フォリウム・ヴィンヤードの畑があるのは、ニュージーランドを代表するワイン産地のマールボロ。最も北にあるワイラウ・バレーがマールボロのぶどう栽培面積の半数近くを占めるが、フォリウムがあるのは、それよりも南に位置するサザン・バレーのブランコット・バレーだ。

マールボロの中でも、より冷涼で乾燥した地域だが、土壌は氷河期のもので粘土質・シルトのため、保水力が高い。さらには、ワイラウ川の氾濫によって積み重なった砂礫(されき)や小石を含む河川土壌と層になっていることも特徴といえる。

ぶどうの生育期間の気候は、冷涼で乾燥しており、昼夜の温度差が大きい。ワイン用ぶどうには非常に適した環境であり、ぶどうは酸を保ちながら香りや味わいの成分を蓄えつつ、ゆっくりと成熟させることができる。

ヴィンヤードの特徴

ヴィンヤードの特徴の1つは、密植(みっしょく)だ。密植とは、単位面積当たりに植え付けられている株数が、一般よりも多い栽培方法のこと。フォリウム・ヴィンヤードでは、1ha当たりのぶどうの樹の数が、他のヴィンヤードの2倍となっている。しかし、それは収量を多くすることが目的ではない。生育期間中にぶどうの果実を通常の畑よりも減らすことができるので、結果的に風通しが良くなる。

また、密植することでぶどうが養分を奪い合うため、根をより深くまで伸ばすことになり、凝縮した味わいのぶどうが収穫できる。また、樹勢を抑えることができるので、ハーブの風味を生むメトキシピラジンの生育も抑えられる。

フォリウム・ヴィンヤードのワイン

フォリウム・ヴィンヤードでは、マールボロの代表品種であるソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールを主に手掛けている。樽はフレンチ・オークを使用しており、どの森のオークを使っているかにまでこだわっているという。

ソーヴィニヨン・ブランは、爽快さときれいな酸が楽しめるが、フォリウムのソーヴィニヨン・ブランはニュージーランド産よりも、フランス産に近い味わいだ。収穫は手作業で行い、全房を圧搾してステンレスタンクに入れ、澱を減らすために後半の果汁は別のステンレスタンクに貯蔵する。どちらもステンレスタンクにて、澱と共に10カ月育成させたのちにボトリングしている。

ピノ・ノワールは、手作業で早朝に収穫し、丁寧に除梗した後でステンレスタンクに入れ、室温で5日間置いた後に野生酵母で発酵させる。その後、およそ10~15%をエステート用に、33~40%をリザーヴ用に樽へ移し、気温が上昇する春ごろに、酸をまろやかにするマロラクティック発酵に移る。エステートは11カ月、リザーヴは16~18カ月樽にて育成した後に瓶詰めされている。

なお、日本では、WINE TO STYLEがフォリウム・ヴィンヤードのワインの輸入を手掛けている。

フォリウム・ヴィンヤード ソーヴィニヨン・ブラン

白ワインで最も人気が高い、スタンダードなタイプ。マールボロでつくられるが、他のマールボロ産とは一線を画しているのが特徴だ。

決して奇をてらったものではなく、ヴィンヤードがあるブランコット・バレーの土壌や気候が反映されている。そして、ドライ・ファーミングや密植により、ハーブの風味を抑えた凝縮感のある味わいのワインになっている。

フォリウムのソーヴィニヨン・ブランを初めて味わう方に、最も適した1本だ。

色調は淡いレモンイエロー、白桃やグレープフルーツなどの生き生きとした香りが広がります。アプリコット、白桃、洋ナシなどのピュアな果実味に、キレのある酸が全体を引き締めます。(2021ヴィンテージのテクニカルシートより)

ぶどう品種:ソーヴィニヨン・ブラン100%
味わい:白・辛口
参考小売価格:4620円(税込)

フォリウム・ヴィンヤード ピノ・ノワール

赤ワインで最も人気が高いスタンダードな1本。ホテルやステーキハウス、飲食店などで幅広く取り扱われているという。

色調はルビーレッド。ラズベリー、赤いサクランボ、ドライハーブやスパイスのフレーバーが特徴的です。ラズベリーやレッドチェリー、滑らかなタンニンがしっかりとした果実味と骨格のある酸と調和しています。(2020ヴィンテージのテクニカルシートより)

ぶどう品種:ピノ・ノワール100%
味わい:赤・ミディアムフルボディ
参考小売価格:4620円(税込)

フォリウム・ヴィンヤード ソーヴィニヨン・ブラン リザーヴ

2019ヴィンテージが、ジェームズ・サックリングの「Top 100 New Zealand Wines of 2021」に選出されている。スタンダードとの違いは、ヴィンヤードの区画と酵母だ。スタンダードは市販の酵母で発酵させるが、リザーヴは最初に野生酵母で発酵させておき、途中で市販の酵母を追加している。酵母の違いがどのような味わいの変化を生むのか、飲み比べてみると楽しそうだ。

2018ヴィンテージでは、ソーヴィニヨン・ブランのリザーヴの区画から、貴腐菌が付いて糖度の上がったレイトハーヴェストがつくられている。2022ヴィンテージもレイトハーヴェストがつくられる予定なので、甘口ワインが好きな人は要チェックだ。

色調は淡いレモンイエロー、レモン、グレープフルーツの皮、白い花のフレーバーに、塩味のある貝殻や鉱物系のミネラルとはつらつとした酸が特徴的で、味わいに複雑性と骨格をもたらします。(2021ヴィンテージのテクニカルシートより)

ぶどう品種:ソーヴィニヨン・ブラン100%
味わい:白・辛口
参考小売価格:5280円(税込)

フォリウム・ヴィンヤード ピノ・ノワール リザーヴ

こちらも、2019ヴィンテージが、ジェームズ・サックリングの「Top 100 New Zealand Wines of 2021」に選出されている。スタンダードと比べて、ヴィンヤードの区画、熟成期間が異なっている。

色調は赤みがかった濃紫色、キイチゴ、サクランボ、イチゴなどのフルーツ、
バイオレットの花やスパイス香と樽香の調和が取れています。アメリカンチェリーや、赤シソの味わい、スパイス感、そしてタンニンもしっかりと感じるが、バランスよく果実味と溶け込んでいます。(2020ヴィンテージのテクニカルシートより)

ぶどう品種:ピノ・ノワール100%
味わい:赤・ミディアムフルボディ
参考小売価格:6380円(税込)

フォリウム・ヴィンヤード ピノ・ノワール ロゼ

ピノ・ノワールをステンレスタンクで発酵させた後、シュール・リーにて12カ月後にボトリングしている。

色調は透明感のある淡いピンク色、サクランボ、イチゴ、かんきつの香り、 ジューシーな果実味と、ストロベリーキャンディのような甘やかな味わいと、 フレッシュな酸味が心地良いです。(2020ヴィンテージのテクニカルシートより)

ぶどう品種:ピノ・ノワール100%
味わい:ロゼ・辛口
参考小売価格:4620円(税込)

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ