コラム

世界が認める甲州へ ――サントリー「デキャンター・ワールド・ワイン・アワード2023」受賞ワインを楽しむ会(後編)

サントリー ワインカンパニーは2023年7月18日、同社の田町オフィスにて「デキャンター・ワールド・ワイン・アワード(Decanter World Wine Awards:DWWA)2023」受賞ワインを楽しむ会を開催した。

今回の受賞ワインを楽しむ会では、同社ワイナリーワイン事業部部長 宮下弘至氏から、日本ワインブランド「FROM FARM」のコンセプトを踏まえた重要戦略の1つ“甲州戦略”について話があった。また、サントリー登美の丘ワイナリー栽培技師長 大山弘平氏からは、同社の受賞ワインの品質に大きく貢献した甲州ぶどうの栽培状況や甲州ぶどうの可能性をさらに広げるための新たな産地での取り組みが語られた。

取り組みについて語った、サントリー登美の丘ワイナリー栽培技師長 大山弘平氏

後編となる本記事では、甲州ぶどうの魅力をさらに引き出すための同社の取り組みや、新しい産地について紹介する。

サントリーの甲州栽培の歴史

同社の甲州栽培の歴史は古く、登美の丘ワイナリーが開園した1900年代前半には甲州が植えられていた記録があるという。1970年代から80年代には、限定畑による単独商品として「甲州遅摘み」シリーズを販売していたが、1990年代は育種やブランデー原料としての活用が主で、栽培面積も小さかった。

2000年頃には進めていた技術開発が実を結び、残糖のない本格辛口甲州ワインがつくられるようになった。2010年以降も、山梨県系統選抜甲州の試験栽培などの取り組みが積極的に進められ、現在は、山梨県や長野県の標高が異なるさまざまな畑で栽培している。

農業生産法人を設立

自らが甲州の栽培者となり、甲州の品質と収穫量の向上を図るべく、大山氏をはじめとするつくり手数名により、2015年に農業生産法人のジャパンプレミアムヴィンヤードが設立された。

現在の圃場面積は、山梨県中央市、甲斐市、南アルプス市を合わせて16haほどになっている。甲州の収穫量は年々増加しており、計画では山梨県内と同社で管理する畑で2024年に126t、2027年に257t、2030年には297tになる見込みだ。2030年に目標の297tを達成すると、現在の山梨県全体の甲州収穫量(3000t)の10%近くを占めることになる。

系統の特性や標高の違いを生かし、品質を向上 

山梨県では、優良系統として甲州の3系統を推奨している。香りの強い「KW01(KSA)」と、多収で後から熟す「KW02(KLU)」、高糖度の「KW05(KKA)」だ。他に、2019年に推奨系統候補として「KW06」が追加されている。

同社では、この3つの優良系統について、畑を区切って1つの系統を植えてその系統だけで醸造する、小さいぶどう粒が先に熟すことを考慮して同じ標高に違う系統を植え、分散収穫をするといった工夫をしている。

甲州の魅力を引き出す新たな産地

甲州の魅力の1つは、かんきつ系の香りだ。これを生かそうとすると、収穫を早める必要がある。だが、収穫を早めると、ぶどうの凝縮感が足りなくなってしまう。

香りと凝縮感、どちらの良さも残るようなワインをつくるには、醸造や酵母で改良する方法もある。しかし、ぶどうそのものに働きかけることで、甲州の魅力を引き出したい。そのような考えのもと、長野県立科町での甲州栽培が始まった。2016年5月の植え付けの際は、牧草地にトラクターを乗り入れて開拓し、水や電気を引くところから始めて、社員が手弁当で植え付けたという。

立科圃場(2016年)

立科圃場(2022年)

立科のテロワール

長野県立科にある圃場は、標高780mで北東に浅間山、南に蓼科山、西に浅間岳と四方を山に囲まれている。土壌は、火山岩由来の強粘土質土壌となる。

最大の特徴は気温の低さだ。年間平均気温と成熟期である9月の最低気温のいずれも、山梨県甲府市、韮崎市、勝沼町や山形県鶴岡市などの産地と比べて低い。生育期を通じた降水量は山梨県の産地と同程度(約1000mm)で、宮崎県日向市の半分ほどになっている(2023年4月ワイナリー協会甲州セミナーの資料より)。

一般的にぶどうの糖度を上げると酸度は下がるが、立科の圃場では、その冷涼な気候により、豊かなかんきつ感と鮮やかな酸の骨格を兼ね備える甲州ぶどうが収穫できた。

大山氏は、各産地の甲州生産者と交流するなかで、島根県や山形県、長野県などで良い甲州が出てくることが、山梨県の甲州の良さが改めて際立つことにつながるのではないかと感じたという。「どの産地もそれぞれの良さがある、というワインにとっての良い流れが生まれつつあり、立科の甲州がそのきっかけになれば」と語った。

最高品質の甲州を目指して

世界に認められる最高品質の甲州を目指し、同社が登美の丘ワイナリーで実施している取り組みを紹介する。

畑を見てイメージから戦略を立てる

「FROM FARM」の言葉どおり、畑を見て地形や日当たりからどのようなぶどう、ワインができるかをイメージし、そのイメージに合わせた栽培方法を選択する。例えば、南向きで日当たりが良い若木の畑の場合は、フェノリックな香りを持ち、味わいに勢いのあるワインを念頭に置いて、より日の当たる垣根仕立てにする、といった具合だ。

棚仕立てと垣根仕立てでの取り組み

棚仕立ての栽培では、ぶどうの熟度に応じて房単位で選別収穫し、別仕込みにしている。また、垣根仕立てでは、甲州の樹勢を見ながら、芽数を増やして枝と果実、葉と果実のバランスを取っている。こうしてぶどうの樹1本当たりの果実を制限するとともに、徹底した除葉でさらにぶどうに日が当たるようにして熟度を高めている。

垣根仕立て栽培の甲州(登美の丘ワイナリー)

畑に合わせた栽培や仕立ての工夫により、2019~2021年の3年間で、棚仕立てと垣根仕立ての若木はどちらも糖度が向上している。1粒当たりの重さは、仕立てや樹齢を問わず、3g前後と理想的なサイズに育っている。

さらなる高みへ

これまで、ワインの品質向上は、仕込みや醸造法に重きが置かれてきた感がある、しかし同社では、甲州ワインがさらに高い次元に到達するには、ぶどうの品質を上げることが肝要だと考えている。

DWWA2023でのプラチナ賞受賞で、日本の甲州ワインの品質の高さが世界的に認められた。今後さらに品質が向上し、甲州の新たな魅力が日本そして世界に広がっていくのが楽しみだ。

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