コラム

カリフォルニアの注目産地パソ・ロブレス。ルールにとらわれない自由さと多様性 ~「カリフォルニアワインAliveテイスティング2024」レポート①

   

カリフォルニアワイン協会(CWI)は、2024年2月20日に東京・丸の内のパレスホテル東京、同月22日に大阪市北区のウェスティンホテル大阪で、「カリフォルニアワインAliveテイスティング 2024」を開催した。今回は業界向けとは別に、初めて一般向けの試飲会を実施。総来場者数は2会場合わせて1300人超と過去最高を記録するなど、カリフォルニアワインの注目度の高さがうかがえるものとなった。

今回のレポートでは、今年のテーマ産地「パソ・ロブレス」に注目し、来日した10ワイナリーのうち5つのワイナリーをピックアップする。来日した担当者の話と共に、ワイナリーやワインについて紹介していく。

それに先駆けて本記事では、パソ・ロブレスの自由さと多様性についてのセミナー「パソ・ロブレス、思ったよりもクールかも!」の内容を紹介する。

申し込み開始から3時間で満席となったセミナー(画像提供:CWI)

パソ・ロブレスの基礎知識

「オークの峠」を意味するパソ・ロブレスには、その名の通りたくさんのオークが自生している。いかにもワイン産地にふさわしい名前だが、残念ながらワイン樽に使われるオークとは異なる種類とのこと。

24万3000haの地域に、1万7000haのヴィンヤード、250のワイナリーがあり、そのうち180のワイナリーが観光客にテイスティングルームを開放している。ワイナリーの数は今後も増えていく見込みだ。

パソ・ロブレスの位置

パソ・ロブレスは、カリフォルニア州セントラルコーストの中央に位置している。

西側には太平洋が広がっているが、サンタ・ルシア山脈が南北に連なり、海の影響を和らげている。また、東側にはチョラメ・ヒルズ、ラ・パンサ山脈が広がり、内陸の暑い空気を遮ってくれる。山脈の間には、なだらかな丘陵や乾燥した河川敷、段丘などの多様な光景が広がっている。

パソ・ロブレスの成り立ち

パソ・ロブレスがAVA(American Viticultural Areas:アメリカ政府承認ぶどう栽培地域)として設立されたのは、カリフォルニアのナパやソノマなどと同時期の1983年のこと。2007年には、大きなエリアを小地区(サブリージョン)に分けて土地の特徴を表そうという取り組みが始まり、現在は以下の11の小地区が定められている。

パソ・ロブレスの小地区

パソ・ロブレスの小地区(画像提供:CWI)

アデレイダ・ディストリクト(Adelaida District)
クレストン・ディストリクト(Creston District)
エル・ポマール・ディストリクト(El Pomar District)
パソ・ロブレス・エストレッラ・ディストリクト(Paso Robles Estrella District)
パソ・ロブレス・ジェネセオ・ディストリクト(Paso Robles Geneseo District)
パソ・ロブレス・ハイランズ・ディストリクト(Paso Robles Highlands District)
パソ・ロブレス・ウィロー・クリーク・ディストリクト(Paso Robles Willow Creek District)
サン・フアン・クリーク(San Juan Creek)
サン・ミゲル・ディストリクト(San Miguel District)
サンタ・マルガリータ・ランチ(Santa Margarita Ranch)
テンプルトン・ギャップ・ディストリクト(Templeton Gap District)

パソ・ロブレスの範囲外だが、すぐ隣にあるヨーク・マウンテン(York Mountain)ともパートナーシップを結んで連携し、一緒に活動しているとのこと。

パソ・ロブレスの気候

パソ・ロブレスは、太平洋と山脈から大きな影響を受けているエリアだ。

西のサンタ・ルシア山脈が冷たい海の影響を遮り、北のモントレー湾から風が吹いて、東に連なる標高の高い山脈からも冷たい風が吹き下ろす。こうした条件が重なって、日中に上がった気温が夜になるとぐっと下がる、日較差(1日の最高気温と最低気温の差)の大きな地域だ。

西側は暑過ぎず寒過ぎないが、東に行くと日中はより暑くなり、夜はさらに寒くなるという特徴がある。

パソ・ロブレスの土壌

パソ・ロブレスは、古代に海底だった土地が隆起したエリアだ。30種類の土壌があり、主に4つのタイプに分けることができる。

石灰質土壌(炭酸塩が豊富)

石灰質は、スポンジのような働きをする土壌だ。たっぷり吸収した水をゆっくりと排出する。そのため、非常に暑くて乾燥した夏でも、ぶどうの樹の根が水分を見つけることができ、灌漑(かんがい)を必要としない。また、何百万年もかけて動物の骨や貝殻などが圧縮されて隆起した土地のため、カルシウムが豊富に含まれており、ぶどうの酸を保つ条件がそろっている。

セミナーでは、水の入ったグラスに石灰質の石を入れるデモンストレーションが行われた。

石灰質の石を入れたグラス(画像提供:CWI)

水中の石からは細かい泡が出て、プチプチという音が聞こえてきた。それは石が水を吸収して、石の中の酸素を外に出している音とのこと。

石灰質土壌は表土層の下に広がっており、ぶどうの樹はそこまで根を伸ばして水分を吸い取っている。中には、地面を蹴飛ばすと、すぐに石灰質土壌が出るような場所もあるそうだ。

粘土質土壌

粘土質土壌は、水をしっかりと吸収して保水するが、夏の乾燥した時期はすぐに乾いてしまう。粘土質土壌で栽培されたぶどうは、成熟が遅くなり、アロマティックで色の濃いワインになる。

砂質土壌

砂質土壌は、非常に排水性が良く、すぐに水が流れていってしまうため、最も痩せた土壌となる。粘土まじりの土壌も多い。

シリカが豊富な土壌

シリカ(ケイ素を含む物質)が豊富な土壌は熱を保持しやすく、ぶどうの生育期に保水性がある。

こうしたさまざまな土壌が広がっているため、複数の小地区のぶどうをブレンドして、パソ・ロブレスを表現したワインを手掛けているつくり手も多い。

パソ・ロブレスのぶどう品種

パソ・ロブレスで栽培されているぶどうの品種を見てみると、半数以上を占めているのがカベルネ・ソーヴィニヨンだ。他にもローヌ系品種やジンファンデル、スペイン系の品種など、多様なぶどうが栽培され、ブレンドされている。

フランスなどでは、AVAを名乗るためにブレンドに使用できる品種が決められていることがあるが、パソ・ロブレスにはそのルールはない。ラヴァンチュール(L’Aventure)のステファン・アセオ氏などは、その自由さに引かれてフランスからこの地にやってきたワインメーカーだ。今回のセミナー講師であるクリストファー・タラント氏は、「ルールにとらわれず、多くの品種を使用できることが、パソ・ロブレスの個性そのものだ」と説明した。

多様性こそがパソ・ロブレスの魅力!

パソ・ロブレスの素晴らしさは1つではなく、土壌や気候、品種など多くの要素が重なり合ってできている。パソ・ロブレスの多様性こそが魅力であり、「パソ・ロブレスでは昔ながらのルールにとらわれずに、それぞれの思いを反映できる」と、タラント氏は解説した。また、「マーケティングの観点から見ると、一貫性がないように思える地域かもしれない。つくり手それぞれの魅力を発見できる場所がパソ・ロブレスだ」と語った。

セミナー概要

【講師】クリストファー・タラント氏

セミナーで講師を務めたのは、パソ・ロブレス・ワインカントリー・アライアンス(PRWCA)コミュニケーション・ディレクターのクリストファー・タラント氏だ。

【登壇ワイナリー】

東京会場と大阪会場で、次の計10ワイナリーからそれぞれ担当者が登壇した。

●東京会場
<午前>
クリス・チェリー氏(ヴィラ・クリーク・セラーズ)
ステファニー・テルリッチ氏(ジョルナータ)
ジェイク・ベケット氏(ピーチーキャニオン ワイナリー)
スティーヴ・ロアー氏(J. ロアー)
シモーネ・ベラルデッリ氏(ラヴァンチュール)※

<午後>
ジェイソン・ハース氏(タブラス・クリーク・ヴィンヤード)※
メリザ・ジャルバート氏(ホープ・ファミリー・ワインズ)※
ジョセフ・スペルマン氏(ジャスティン・ヴィンヤード&ワイナリー)※
エヴァン・ネルソン氏(ウォールーム セラーズ)
メイヴ・ペスケラ氏(ダオ・ファミリー・エステイト)※

●大阪会場
ステファニー・テルリッチ氏(ジョルナータ)
メリザ・ジャルバート氏(ホープ・ファミリー・ワインズ)
スティーヴ・ロアー氏(J. ロアー)
エヴァン・ネルソン氏(ウォールーム セラーズ)
シモーネ・ベラルデッリ氏(ラヴァンチュール)

※は、次回以降に紹介予定のワイナリー。

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ