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カリフォルニアワイン協会(CWI)は、2024年2月20日に東京・丸の内のパレスホテル東京、同月22日に大阪市北区のウェスティンホテル大阪で、「カリフォルニアワインAliveテイスティング 2024」を開催した。本レポートでは、今回のテーマ産地「パソ・ロブレス」に注目し、来日した10ワイナリーのうち5つをピックアップして、担当者への取材内容と共に紹介していく。
今回は、パソ・ロブレスに関するセミナー「パソ・ロブレス、思ったよりもクールかも!」と個別取材で語られた、ダオ・ファミリー・エステイト(DAOU Family Estate)について紹介する。
ダオ・ファミリー・エステイトとは
来日したダオ・ファミリー・エステイト副社長のメイヴ・ペスケラ氏は、ワイナリーの来歴やダオ兄弟が追い求めたパソ・ロブレスのテロワールについて、次のように語ってくれた。
戦火を逃れた兄弟が設立
ダオ・ファミリー・エステイトは、レバノンのベイルート生まれのダニエル・ダオとジョージ・ダオの兄弟が2007年に設立しました。ワイナリーは、パソ・ロブレスの西に位置するアデレイダ地区にあり、ダニエルがワインメーカーとして、弟のジョージはワインづくり以外の全てを担い、ワイナリーを支えています。
一家がベイルートを離れたのは、戦争で自宅に爆弾が落ちたことがきっかけでした。心身ともに傷ついた彼らが亡命した先が、フランスです。ワイン好きだった父親は、生活が落ち着いたころにサンテミリオンのシャトー・シュヴァル・ブラン(Château Cheval Blanc)のワインを2ケース持って帰ってきたそうです。ダニエルはその香りを「素晴らしい」と感じ、それは彼がボルドー品種に初めて恋した瞬間でもありました。ダニエルはワインメーカーを務める現在も、カベルネ・ソーヴィニヨン、そしてボルドー品種への情熱を持ち続けています。
ワインメーカーになるという夢を持ったダニエルでしたが、ワインづくりが代々家族間で引き継がれているフランスでは、亡命者である自分たちにチャンスはないと感じていました。そこでアメリカの大学に進学してエンジニアとなり、テクノロジー会社を設立。アメリカンドリームとも呼べる成功を収めました。しかし、ワインメーカーの夢を諦められず、会社を売却して、完璧なテロワールを探し始めたのです。
ボルドーのようなワインをつくりたいと考えていたダニエルが、8年かけてたどり着いたのがパソ・ロブレスでした。ボルドーの石灰質粘土土壌、ナパのセントヘレナのような気候、高い標高(2200フィート:約670.6m)、海への近さといった条件を持つパソ・ロブレスであれば、世界最高のワインと肩を並べるワインを生み出せると、ダニエルは確信していました。
「パソに来て夢を生きよう」をスローガンに
ダニエルはこの地で、カベルネ・ソーヴィニヨンなどのボルドー系品種の栽培を始めました。他にカベルネ・フラン、マルベック、メルロー、プティ・ヴェルドなど、ボルドーの主要な黒ぶどう品種を植えています。彼がやって来た当時、パソ・ロブレスはローヌ系品種やジンファンデルで知られている土地でした。
パソ・ロブレスをワインの銘醸地に押し上げるためには、複数のワイナリーが世界クラスのワインをつくる必要があります。そこで重視したのが、「コミュニティと一緒に動くこと」です。
兄弟は周囲のワイナリーを訪れて、「最良のぶどうのクローンを分けるし、どうやって栽培したらいいのかも教える」と伝えました。時にはそれが挑戦的だと受け取られることもありました。それでも、「最高の区画の最高の樽を使ってワインをつくる」というアドバイスに従ったワイナリーは、現在では100ドルを超えるワインを数種類も抱える生産者となっています。
兄弟が最初に掲げたスローガンが「パソ(=パソ・ロブレス)に来て夢を生きよう」です。これは、ダオ・ファミリー・エステイトだけ、カベルネ・ソーヴィニヨンだけで叶えられる夢ではありません。私たちは競争相手ではなく、コミュニティとして一緒に働き、夢を叶えようとしているのです。
ゲームチェンジャーとなるワインの誕生
ダオ・ファミリー・エステイトが“世界最高のワイン”を目指してリリースしたのが、「ソウル・オブ・ライオン」です。ワイン評論家のロバート・パーカー氏から、「この地域で最高のカベルネ・ソーヴィニヨン」との評価を受けたことをきっかけに、ワイナリーは大きく躍進していきました。
ダオでは、テロワールを純粋に表現したいと考えています。敷地内の山で採取した100種類の土着酵母から、何年もかけて選んだ特別な天然酵母を全てのワインに使用しています。また、余計な苦味や渋味、タンニンを排除するため、圧搾を一切行わずに、フリーランジュースのみを使用しています。生産量を減らしてでも、品質を高めているのです。
ダオ・ファミリー・エステイトのワイン
ここからは、ペスケラ氏の解説を中心に、ダオ・ファミリー・エステイトのワインを紹介していく。
※ワインの画像はヴィンテージが異なる場合あり。
ソウル・オブ・ライオン 2020
産地:パソ・ロブレス
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン81%、カベルネ・フラン13%、プティ・ヴェルド6%
参考小売価格:3万800円(税込)
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2020ヴィンテージで10周年を迎えたワイン。ペスケラ氏が「このワインのためにこの地(パソ・ロブレス)にやってきたと言っても過言ではありません」と語る、ダオを代表する1本だ。ダオ兄弟は父親から「人生は厳しいが、どんなに打ちのめされても立ち上がらなくてはいけない」と育てられてきた。そんな父の精神をライオンになぞらえて、この名前を付けたのだという。
フレンチオークの新樽を100%使用し、22カ月間熟成させている。アルコール度数は14.7%もあるが、酸と果実味とのバランスが良く、エレガントさを感じるワインだ。
味わいの秘密の1つは、ぶどう畑にあるという。ほとんどのぶどう畑では、腰の位置(36インチ:約91.4cm)に果実がなるように植えられているが、ダオ・ファミリー・エステイトのカベルネ・ソーヴィニヨンの畑は、その半分ほどの18インチ(約45.7cm)の位置で果実が成熟していく。果実を低い位置にして、つるの天蓋をつくることで、全ての葉が均等に太陽を浴びて光合成をし、全ての房が均等に熟していくそうだ。さらに、「石灰質と粘土質の土壌や急な斜面などがダニエルの心と組み合わさって、この味わいが実現できている」と話していた。
リザーブ・カベルネ・ソーヴィニヨン 2021
産地:パソ・ロブレス
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン77%、プティ・ヴェルド23%
参考小売価格:1万1000円(税込)
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「パソ・ロブレスの美しいカベルネ・ソーヴィニヨンを知ってもらうためのワイン」と表現されるワイン。比較的リーズナブルな価格帯で、ダオ・ファミリー・エステイトのカベルネ・ソーヴィニヨンを体験できる1本だ。
フレンチオーク樽(新樽率50%)を使用し、18カ月間熟成させている。「熟した果実味、力強さ、エレガンス、ゴージャスなミネラル感、素晴らしい酸味がある、バランスの取れたワインです」とのこと。
リザーブ・シャルドネ 2021
産地:パソ・ロブレス
品種:シャルドネ100%
参考小売価格:8250円(税込)
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ボルドーやブルゴーニュと同様に、石灰質と粘土質の土壌で育ったシャルドネ。ペスケラ氏は、このシャルドネを「カリフォルニアンフレンチのシャルドネ」と表現していた。カリフォルニアワインのシャルドネのイメージにある、オーク樽や強過ぎる果実味は感じられない。
ミネラル感とバランスの取れた、熟した果実味が非常にエレガントに表現されている。
ディスカバリー・ソーヴィニヨン・ブラン 2022
産地:パソ・ロブレス
品種:ソーヴィニヨン・ブラン100%
参考小売価格:4620円(税込)
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「パソ・ロブレスやダオ・ファミリー・エステイトが、ボルドーの白品種で何ができるかを世界に示すソーヴィニヨン・ブラン」と、ペスケラ氏が語ったワイン。
カリフォルニアの太陽を思わせる、若干のトロピカルさのある果実味と、ゴージャスで自然な酸味、土壌からのミネラル感も備えたソーヴィニヨン・ブランだ。
その他のディスカバリー・シリーズ
シャルドネ2022
産地:パソ・ロブレス
品種:シャルドネ100%
参考小売価格:4796円(税込)
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カベルネ・ソーヴィニヨン2021
産地:パソ・ロブレス
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン78%、メルロー13%、プティ・ヴェルド8%、カベルネ・フラン1%
参考小売価格:6325円(税込)
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カリフォルニアワインファンもボルドーワインファンも納得させる、ダオ・ファミリー・エステイトのワイン。取材に同席してくれたインターナショナル・セールス担当のシャルロット・フレッセ氏は、「フランスワインとナパワインに強い関心のある日本では、両方のスタイルを併せ持つダオ・ファミリー・エステイトのワインが受け入れられるはず」と、自信をのぞかせていた。
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