コラム

タブラス・クリーク・ヴィンヤード|伝統を受け継いだ2代目GMが語る、パソ・ロブレスの魅力 ~「カリフォルニアワインAliveテイスティング 2024」レポート④

   

カリフォルニアワイン協会(CWI)は、2024年2月20日に東京・丸の内のパレスホテル東京、同月22日に大阪市北区のウェスティンホテル大阪で、「カリフォルニアワインAliveテイスティング 2024」を開催した。本レポートでは、今回のテーマ産地「パソ・ロブレス」に注目し、来日した10ワイナリーのうち5つをピックアップして、担当者への取材内容と共に紹介していく。

今回は、パソ・ロブレスに関するセミナー「パソ・ロブレス、思ったよりもクールかも!」と個別取材で語られた、タブラス・クリーク・ヴィンヤード(Tablas Creek Vineyard)の内容を紹介する。

タブラス・クリーク・ヴィンヤードとは

タブラス・クリーク・ヴィンヤードの2代目オーナーでGMのジェイソン・ハース氏が、ワイナリー設立の経緯やパソ・ロブレスの魅力、環境再生型農法について語ってくれた。

今回来日した、オーナー兼GMのジェイソン・ハース氏

ローヌの名門シャトーと共に見出したパソ・ロブレスの地

タブラス・クリーク・ヴィンヤードは、私で2代目となる生産者です。フランスワインの輸入業者であった父が、仕事でシャトー・ド・ボーカステル(Château de Beaucastel、300年以上の歴史を誇り、極めて高品質な「シャトーヌフ・デュ・パプ」を生み出すローヌの名ワイナリー)のペラン家と出会い、誕生しました。パソ・ロブレスはローヌ系品種で知られていますが、私たちがそのパイオニアです。

父とペラン家は、20年間一緒に仕事をしていく中で、カリフォルニアを素晴らしいワイン産地として意識するようになり、どこかローヌに近い地域はないかと探し始めました。

1989年、パソ・ロブレスの西側に120ac(エーカー、1acは約4047m2)の土地を見つけた父たちは、既にカリフォルニアにあったグルナッシュやシラー、ルーサンヌのほか、当時はアメリカに存在しなかったピクプール、グルナッシュ・ブラン、クノワーズの苗木をシャトー・ド・ボーカステルから取り寄せました。

苗木を持ってきても、すぐ植えるわけにはいかず、3年間は熱処理をする期間を設ける必要がありました。それが終わった後にぶどう畑をスタートし、ローヌ系品種の苗木を供給する会社を設立したのが始まりです。

サステナブルへの取り組み

タブラス・クリーク・ヴィンヤードにとって重要なのは、ぶどう畑での栽培です。1989年の設立当初からオーガニック農法を取り入れていましたが、私の代になって2010年からビオディナミを採用し、2020年には環境再生型農法を取り入れて認証を得ました。

環境再生型農法では、例えば畑に放した羊が草を食べてくれ、そのふんが堆肥となります。また、使用電力の100%をソーラーパネルによる太陽光発電で賄ったり、1ac当たり80%の節水を達成したりしています。私たちが重視しているのは社会的な責任です。動物福祉について取り組み、働いている人々についても生活できる環境を整えています。

私たちは35年間、パソ・ロブレスでワインをつくっています。設立当時は17軒しかなかったワイナリーが、今では250軒になりました。このコミュニティをとても大事に思っています。

素晴らしいワインをほぼ毎年つくれる場所

パソ・ロブレスの優れているところは、素晴らしいワインをほぼ毎年つくれることです。収穫期に雨が降らず、天候が安定していますし、長い生育期間をかけてゆっくりと果実が成熟することで、酸の豊かな果実ができます。素晴らしい土壌もありますね。今まで35年間ワインをつくっていますが、天候のせいで悪いヴィンテージになったことはありません。

ビオディナミに変えて15年ほど経ちますが、ぶどうはさらに表情豊かで複雑になり、猛暑や干ばつにも耐える味わいになりました。土壌がより命を宿すようになり、極端な天候からぶどうの樹を切り離してくれています。猛暑や干ばつのときでも土壌は冷えており、保水されているので、ぶどうの樹が健康でいられるのです。

タブラス・クリーク・ヴィンヤードのワイン

続いて、ジェイソン・ハース氏の解説を中心に、タブラス・クリーク・ヴィンヤードのワインを紹介する。

エスプリ・ド・タブラス・ブラン 2020

産地:パソ・ロブレス
品種:ルーサンヌ主体、グルナッシュ・ブラン、ピクプールなど
参考小売価格:1万1000円(税込)

ハース氏が、「シャトーヌフ・デュ・パプのカリフォルニア版だと思ってくれていい」と紹介するワイン。

「シャトーヌフ・デュ・パプ」で使われている白ワイン品種の全てを使用して、初めてシャトーヌフ・デュ・パプ以外でつくられた白ワイン。とてもリッチで豊かな口当たりのルーサンヌが主体。ルーサンヌは栽培が難しく、成熟しにくいため収量が少ないが、成熟すると非常に素晴らしい本領を発揮するものになるとのこと。酸が高いグルナッシュ・ブランとピクプールがバランスを支えてくれている。品質の良いロットを厳選してブレンドしている。

熟成には、45hLの大きなフードルを使用している。「2020ヴィンテージは、20年間は熟成に耐えられるワインだと考えている」とのこと。

エスプリ・ド・タブラス・ルージュ 2020

産地:パソ・ロブレス
品種:ムールヴェードル、グルナッシュ、シラー、クノワーズ
参考小売価格:1万4300円(税込)

「シャトーヌフ・デュ・パプ」で使われている、赤ワイン用の4品種を使用したワイン。シャトー・ド・ボーカステルがムールヴェードルで知られていることに倣って、ムールヴェードルを主体にブレンドしている。

今後発売予定のワインも

「パトラン・ド・タブラス」シリーズは、今後、発売予定(発売時期未定)のワインだ。「エスプリ・ド・タブラス」シリーズは、シングルヴィンヤード(単一畑)のワインだが、こちらは複数のヴィンヤードのぶどうが使用されており、パソ・ロブレスの多様性が生かされている。

「パトラン・ド・タブラス・ブラン 2022」

「パトラン・ド・タブラス・ブラン」は、パソ・ロブレスの5つのサブリージョンにある8つの畑のローヌ系品種を使用した白ワイン。グルナッシュ・ブランやピクプール主体で酸が高く、「エスプリ・ド・タブラス・ブラン」とは異なるスタイルのワインに仕上げている。

「パトラン・ド・タブラス・ロゼ 2022」

「パトラン・ド・タブラス 2022」

取材時、ハース氏が「エスプリ・ド・タブラス・ブラン 2020」を抱き締めるように持ってきた姿が印象的だった。ハース氏自身も思い入れのある1本だそうだ。「エスプリ」シリーズは、以前は「エスプリ・ド・ボーカステル」という名前だったが、10年前に現在の名前に変更。「私たちの魂を込めて変えた」と語るハース氏から、情熱を持ってワインづくりをしていることが伝わってきた。

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①カリフォルニアの注目産地パソ・ロブレス。ルールにとらわれない自由さと多様性
②ジャスティン・ヴィンヤード&ワイナリー|ワイナリー所属のマスターソムリエが語る魅力とは
③ダオ・ファミリー・エステイト|副社長が語る、コミュニティとして夢を叶えたワイナリーとは

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About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ