コラム

先進技術を取り入れ、“量より質”を目指すボルドーの赤ワイン。ソムリエの石田博氏が解説する「Re BORDEAUXマスターセミナー」レポート②

ボルドーワイン委員会(CIVB)は2024年4月17日、日本未輸入のボルドーワイン60種と、ボルドーワインの“今”を代表する厳選50種の試飲・商談会を開催した。

「Undiscovered 2024」と題して開催したこのイベントは、ボルドーワインの新しい魅力を伝えるために、CIVBが2024年からスタートした新プロモーション「Re BORDEAUX(リ・ボルドー)」の第1弾となる。現地から6人の生産者が参加して、各シャトーやドメーヌのワインを紹介。会場となった代官山 蔦屋書店(東京都渋谷区)には、多くの業界関係者が訪れた。

試飲・商談会と併せて行われたマスターセミナーでは、ソムリエでRe BORDEAUXプロフェッショナル・アンバサダーの石田博氏が講師を務めた。これは、CIVBが世界的に展開する教育システムに基づくプログラムの一環で、今回は45分の特別ショートバージョンで実施した。

講師を務めた、石田博ソムリエ(日本ソムリエ協会副会長)

3回に分けて行われた講義のうち、本記事では「ボルドーの新世代の赤ワインについて」を紹介する。

ボルドーのぶどう栽培

恵まれた環境から、“ワイン生産の聖地”とも呼ばれる、フランス南西部のボルドー。その評価の背景には、長い歴史だけではなく、ぶどう栽培へのこだわりがある。

ボルドーの赤ワイン品種

ボルドーで栽培されるぶどうは、89%が赤ワイン用、11%が白ワイン用だ。赤ワインの主要な品種と、それぞれの特徴は以下の通りとなっている。

メルロー(66%)
ボルドーで最も栽培面積が大きいのが、メルローだ。アロマティックで、ソフトなタンニンを持ち、アルコール度数が高くなる傾向がある。特に石灰岩と粘土質の土壌を好む品種。

カベルネ・ソーヴィニヨン(22%)
次いで多く栽培されているのが、カベルネ・ソーヴィニヨン。酸が豊かで、味のストラクチャーがしっかりしたワインになり、タンニンや熟成能力を加えるためにも使用される。砂利質の土壌を好む。

カベルネ・フラン(9%)
エレガントなタンニンが特徴で、程よい酸味を持つ品種。特に粘土・石灰質の土壌に向いている。

上記3品種の他にも、気候変動により注目が集まり、ここ20年で栽培面積が急増しているマルベック(2%)やプティ・ヴェルド(1%)がある。また、ボルドー原産だが、ヨーロッパではほぼ消滅しているカルメネールも少量ながら栽培されている。

先進的手法によるぶどう栽培

実はボルドーワインは、ここ20~30年で生産量が半減している。「気候変動の影響もあると思うが、量より質を目指す方針によるところが大きい」と石田氏は言う。

ボルドーはワインづくりにおける最先端技術を、世界でもいち早く取り入れている地域だ。特に成熟の把握が非常に高いレベルで行われており、GPSやGIS(地理情報システム)、ドローンなどを駆使し、プロット(畑の区画)の状態を精密にマッピングしている。そして、それぞれの畑に合わせた栽培を行い、適切な時期に収穫することによって、全体としてのワインの質を向上させている。

また、ぶどうの日焼けを防ぎ、光合成を促進させてぶどうの糖度を上げ、アルコール度数のポテンシャルを上げるために、葉の密度を高めるということが行われる。

土壌の管理も徹底している。ぶどうは強いストレスを与えられると、味わいの邪魔になる「乾いたタンニン」が出てしまう。そうならないよう、ストレスが適度になるようにコントロールしている。また、化学肥料を減らすのはもちろんのこと、畝の間に穀類などのカバー・クロップ(被覆作物)を植え、土壌が固くなりすぎるのを防いでいる。

畑のぶどうから優秀な樹を選んで枝を取り、新しい区画に挿し木をする「マサル・セレクション」はよく知られた技術だ。これにより、その土地に合うぶどうを増やすことができ、土壌の保全にも役立っているとされる。

貯蔵時の工夫

ワイン貯蔵時における酸素のデメリットについては、世界でもボルドーでいち早く着目されてきた。現在では、酸素の少ない環境で酸化を抑えることにより、生き生きとした自然な味わいのワインになるという考えが主流になっている。

また、ボルドーでは早くからステンレスタンクの導入や新樽を使った醸造が進められてきたが、より自然な味わいを求めて従来の容器の再評価が行われている。それが使用済みのオーク大樽やアンフォラ(陶器)、コンクリートタンクだ。中でもアンフォラとコンクリートタンクは、急激な温度変化や過剰な空気接触を避けることができる優れた容器として見直されている。

ボルドーの赤ワインづくり

ボルドーは、ワインのブレンド技術が古くから確立されていた地域でもある。

ブレンドのアート:品種ごとの特徴

フレッシュ感が求められるボルドーの赤ワインにおいて、重要な品種となるのがメルローだ。その人気によって世界中に広まった品種で、かつては栽培が容易であると誤解されていたが、実際は非常に繊細。フレッシュ感を得るには、石灰岩を含む最高の土壌が必要となる。

カベルネ・フランは、成熟させるのが容易で、かつワインの色や濃縮感が高くなりすぎることを抑え、安定させることができる。エレガントなスタイルが特徴の、将来を期待される品種だ。

また、タナとカベルネ・ソーヴィニヨンを掛け合わせたアリナルノアや、フランス南西部原産のカステ、カベルネ・ソーヴィニヨンとグルナッシュを掛け合わせたマルセランなどの新品種も注目されている。第1の理由は気候変動対策だが、カビ耐性があり無農薬または少ない農薬で栽培できることから、環境の保全にもつながっている。

ボルドーワインの色の表現

ボルドーの赤ワインの色は大きく4つに分けられる。そのうち、「ガーネットレッド」「クリムゾンレッド」「カーマイン」という3つの言葉は、ボルドーの赤ワインの特徴をうまく表している、と石田氏は言う。

ガーネットレッド
オレンジとまではいかないが、少しグラデーションがかかったような色合いで、伝統的なボルドーの赤ワインに対してよく用いられる表現。スムーズでバランスが取れた、不朽の赤ワインだ。

クリムゾンレッド
やや青みを帯びた明るい色で、果実を感じられる若々しく豊潤なワインの表現に使われる。非日常の赤ワイン。

カーマイン
クリムゾンレッドがやや明るくなったもので、プレミアムなワインに対して使う表現となる。繊細で複雑、象徴的な赤ワイン。

ルビーレッド
この表現を用いることは比較的少ない。軽くてフルーティーな、日常の食卓で楽しむ赤ワインを表す。

大きな可能性へ向けて

生産量を減らすことにより、個性を際立たせてきたボルドーの赤ワイン。栽培から貯蔵までさまざまな技術を取り入れ、時代によって変わる人々の好みに合わせてきた。

区画ごとに適切に栽培、収穫、醸造することにより、果実の品質を高め、魅惑的でフレッシュなブレンドを育んでいる。貯蔵においても、アンフォラやコンクリートタンクを使用することで酸化を抑え、生き生きとした赤ワインを生み出している。

マスターセミナーには、シャトー・ブレイニャンのアメリー・ポルフィレ氏(左)、シャトー・ブティスのマルク・ミラード氏(中央)、ヴィニョーブル・フォールのデルフィーヌ・フォール・メゾン氏(右)も同席し、自らのシャトーを紹介した

今後は、既存のぶどうの樹を地球温暖化に耐えられるようにすることが、重要な課題となっている。新種のぶどうが大きな可能性を示す日も、そう遠くないのかもしれない。

【関連記事】
進化し続けるボルドーの白ワインを、ソムリエの石田博氏が解説! 「Re BORDEAUXマスターセミナー」レポート①

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で
About the author /  菅沼 佐和子
菅沼 佐和子

おもに旅行の書籍やウェブサイトの制作に携わる編集者兼ライター。世界各地を旅するうちに、ワインに出会い興味をもつ。好きなワインはポルトガルのヴィーニョ・ヴェルデ。