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Wines of Germany日本オフィスは2024年6月27日、SPICE LAB TOKYO(東京都中央区)にて「進化するドイツワインとモダンインディアンキュイジーヌのハーモニー」を開催した。当日は、パレスホテル東京 グランドキッチンのアシスタントマネジャー&ソムリエの瀧田昌孝氏が講師を務め、ドイツワインの最新情報について解説があった。
今回の記事では、ドイツワインとインド料理とのペアリングの詳細や、スパイスとドイツワインのペアリングのコツを紹介する。
<登壇者:瀧田昌孝ソムリエ>
2019年にGerman Wine Instituteが主催する「Sommelier Summer Class」に参加。ドイツの醸造学で最も権威のあるガイゼンハイム大学にて、世界14カ国から参加した50人のソムリエと共に1週間の研修を受けた。現在は、German Wine Academy(ジャーマン・ワイン・アカデミー)の公認講師としても活動している。
モダンインディアン料理×ドイツワインのペアリング
瀧田氏と共に今回のペアリングをつくり上げたのは、SPICE LAB TOKYOの総料理長テジャス・ソヴァニ氏だ。
34歳と若手ながら、世界一予約が取れないレストランとして知られる、デンマーク・コペンハーゲンの「noma」で修行。インドのラグジュアリーホテル「AMAN」では副総料理長を務めるなど、シェフとして豊富な経験を持つ。
ソヴァニ氏は、「インド料理とドイツワインの組み合わせは意外に思えるかもしれないが、さまざまな味わいを持つインド料理は、ワインのフィネスに合わせやすいのです」とコメントしていた。
ペアリング1:ゼクト×前菜
ゼクト(ドイツのスパークリングワイン)とインドのソウルフードを前菜に仕立てたものをペアリングしている。1品1品が多様な香りを持っていたが、それぞれに寄り添うペアリングだった。
【ワイン詳細】
クレマン・ブリュット・ナチュール 2020
Cremant Brut Nature 2020
生産地:ザール/モーゼル
生産者:ビショフリッヒェ・ヴァインギューター・トリアー
品種:シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)、ヴァイスブルグンダー(ピノ・ブラン)
アルコール度数:12.5%
未輸入ワイン
<瀧田ソムリエの解説>
それぞれの料理とゼクトのミネラル感との相性が良いです。ブリュットナチュール、つまりドザージュ(補糖)していないタイプのゼクトで、残糖は0.6gと非常にドライ。さらに、酸がとてもしっかりとしています。
アルコール度数が12.5%と低めですが、薄くはありません。これがドイツワインの最大の特徴で、密度が濃いです。果実味で押すのではなく、繊細さやきれいさ、そして酸味とミネラル感がドイツワインの大きな魅力だと感じています。
とてもエレガントで上質なクリーミーさを持つクレマンです。このワインはピノ品種のゼクトですが、個人的には、酸がきれいでクリーミーな味わいを持つリースリングのゼクトも幅広い料理と相性が良く、おすすめです。
ペアリング2:ジルヴァーナー×季節のスープ(ショルバ)
北海道産のホワイトアスパラガスを使用し、マメ科やセリ科のスパイス、ココナッツミルクを加えたスープを、ほのかな果実味と繊細なアロマのジルヴァーナーでペアリング。野菜の持つ甘さや味わい、スパイスの香りとも相性の良い組み合わせだった。
【ワイン詳細】
イプヘーファ・カルプ ジルヴァーナー トロッケン 2022
Iphofer Kalb Silvaner trocken 2022
生産地:フランケン
生産者:ハンス・ヴィルシング
品種:ジルヴァーナー
アルコール度数:13.5%
未輸入ワイン
<瀧田ソムリエの解説>
ジルヴァーナーとホワイトアスパラガスの相性は完璧。現地のフランケンでは、春先になるとこの組み合わせが楽しまれています。変わったボトルの形状は、フランケンに伝わるものです。諸説ありますが、馬に乗って旅をするときに、腰にぶら下げていたものだと言われています。
フランケンは大変寒い気候で、基本的に川沿いの南向きの斜面にぶどうが植えられています。空からと川面に反射する日光により日光量が2倍になる場所で、初代神聖ローマ皇帝のカール大帝(フランス語では、シャルルマーニュ)が、雪解けが一番早いエリアを見て「あそこにぶどうを植えろ」と指示したと伝えられています。さらに、ドイツの人々は、全てのぶどうの房に日光を当てることができる、ハート形の仕立て方を生み出しました。
ジルヴァーナー自体の個性は、比較的酸が穏やかでグビグビ飲めるものが多いですが、このジルヴァーナーはミネラル感がしっかりしていて、どちらかというとガストロノミックに感じます。この強いミネラル感が野菜のミネラル(無機質)と同調し、口の中を甘くするのです。また、フィニッシュに感じる塩味が、食事の甘やかさをふわっと広げます。
通常のジルヴァーナーは、アルコール度数が上がりづらいのですが、この生産者は丁寧な栽培と収穫をギリギリまで遅らせることで、これだけのストラクチャーと滑らかな味わいをつくり出しています。
ペアリング3:ソーヴィーニャ・グリ(PIWI)×ペサラットゥ
南インドの定番料理の1つであるペサラットゥ(発酵させていない緑豆の生地を焼いたもの)と野菜のシャミケバブに、PIWI(カビ耐性品種)であるソーヴィーニャ・グリ(ソーヴィニエ・グリ)をペアリング。粘度のあるワインで、ほんのり感じる甘さが辛さやスパイスとの相性が良かった。
【ワイン詳細】
ソーヴィーニャ・グリ 2021
Souvignier Gris 2021
生産地:ラインヘッセン
生産者:アプトホフ
品種:ソーヴィーニャ・グリ
アルコール度数:13.9%
参考小売価格:3630円(税込)
<瀧田ソムリエの解説>
ソーヴィーニャ・グリは、セイベル・ブランとツァーリンガーの交配品種です。以前はソーヴィニヨン・ブランと何かの掛け合わせだと伝えられていましたが、DNAデータによりソーヴィニヨン・ブランは関係ないことが分かりました。
トマトチャツネの辛さを、ソーヴィーニャ・グリの甘やかさが少しマイルドにしてくれるペアリングです。
ソーヴィーニャ・グリは、アロマティックで華やかな香りとともに、ルッコラや野生のハーブのようなベジタルなニュアンスが感じ取れます。少し甘やかさがあり、穏やかで口当たりはややトロっとした質感です。パウダー状のミネラルが味わいを引き締めていて、酸は穏やかですが、余韻はやぼったくありません。
ペアリング4:リースリング×ウナギのラッサム
スパイスのだしが効いたトマトみそのスープにウナギを合わせた1品と、リースリングのペアリング。みその発酵感とトマトの酸味が、リースリングの香りと酸味にマッチしていた。
【ワイン詳細】
リースリング キャビネット 2021
Riesling Kabinett 2021
生産地:ラインガウ
生産者:ライツ
品種:リースリング
アルコール度数:11.0%
参考小売価格:3630円(税込)
<瀧田ソムリエの解説>
ウナギは、白焼きにわさびを添えたものを熟成したリースリングで楽しむイメージでした。今回の料理では、トマトとウナギのうま味がリースリングと相性抜群です。かむほどに出てくるウナギのうま味を、このリースリングが持つ密度の濃さがキャッチしていきます。余韻にかけて、酸とうま味が口の中で充実する組み合わせです。
ラインガウは、面積はそこまで大きくありませんが、高品質なリースリングの生産地としてモーゼルの次に知られています。冷涼なモーゼルではエレガントできめの細かい酸のリースリングが、やや温暖なラインガウでは果実味のある、よりリッチなボディのワインができます。
アロマティックで、白桃や白い花、白こしょうのようなトーン、そしてリースリングらしいオイリーなミネラルの香り。リースリング自体に甘酸っぱさがあり、残糖も高くて果実味やしっかりとしたミネラル感があります。
アルコール度数は11.0%。柔らかさがあり、飲み疲れはしませんが、薄いわけではありません。密度が高く、キャラクターがしっかりしています。酸や味わいが感じられるのに、アルコールが柔らかいという、時代の潮流によく合ったワインです。
ペアリング5:シュペートブルグンダー×タンドリー
タンドールというつぼ形のかまどで焼いたラムチョップと、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)のペアリング。緻密さと軽やかさがありながら、ラムの力強さにも負けない味わいで、料理に合わせやすいワインだった。
【ワイン詳細】
グンダースハイマー シュペートブルグンダー エアステ・ラーゲ 2020
Gundersheimer Spätburgunder Erste Lage 2020
生産地:ラインヘッセン
生産者:グッツラー
品種:シュペートブルグンダー
アルコール度数:12.5%
参考小売価格:7500円(税込)
<瀧田ソムリエの解説>
ドイツの赤ワインで、最もトレンドと言われているのが、このシュペートブルグンダーです。このシュペートブルグンダーにはGGと付いていますが、それはグラン・クリュ(特級畑)を意味しています。つまり、品質はトップ・オブ・トップ。香りのトーンは、少し控えめな赤系のチェリーと動物性のスパイスを思わせる野性的なニュアンスがありながらも、どこかデリケートでエレガントです。口に含むと、まず酸が主体的で、パウダー状のタンニンが広がります。余韻にかけてうま味とタンニンが持続するワインです。
12.5%のアルコール度数で、これほど濃密なワインはなかなかありません。最近ではブルゴーニュのグラン・クリュが一般的に14%ぐらいのアルコール度数であることを考えると、いかにこのワインの密度が濃いかが分かります。
強さではなく繊細さ、そしてエレガントさやデリケートさ、そして密度の濃さが魅力のワインです。
ペアリング6:ロゼ×ビリヤニ
3種類のソースで味わうビリヤニとロゼワインのペアリング。ヨーグルトソース、ダルマッカニ(豆カレー)、辛味のあるカレーのいずれにも合い、ロゼワインの懐の深さを感じるペアリングだった。
【ワイン詳細】
ロゼ クーベーア トロッケン 2022
Rose QbA trocken 2022
生産地:ファルツ
生産者:ドクター・ビュルクリン・ヴォルツ
品種:シュペートブルグンダー
アルコール度数:11.0%
参考小売価格:5720円(税込)
<瀧田ソムリエの解説>
3つのソースを調節して、新しい味わいを見つけられるビリヤニです。そしてどの組み合わせにも、まんべんなくマッチするのがこのロゼの甘やかさです。
アセロラやクランベリーなど赤系フルーツの香りの中に、少し涼やかでミンティなニュアンスとスパイスを感じます。口に含むとジューシーな口当たりです。酸味がみずみずしくて余韻は爽やか。フィニッシュにかけてミネラルが生み出す芯の強さが感じられます。軽やかで柔らかいのですが、密度が濃いワインです。
スパイスとドイツワインを合わせるコツ
家庭でスパイシーな料理とドイツワインを合わせるコツについて瀧田氏は、「味わいを重ねることで、ワインに近づけていくのが良い」と説明している。
例えば、ワインの酸味に合わせるならトマトやマンゴーのチャツネなど酸味のあるものを、甘やかさに合わせるのなら完熟したフルーツに火を入れたものを使うと良いとのこと。また、ミネラル感を合わせることもポイントだという。例えば、クリーミーな泡を持つゼクトであれば、ココナッツミルクを使うと相性が良くなる。
酸味があってジューシーなロゼワイン、特にゼクトのロゼはスパイスと合わせやすいそうだ。エレガントなものだとワインが負けてしまうことがあるので、果実味があって少しジャミーなタイプのワインやオレンジワインとも相性が良いとのこと。また、リースリングやゲヴュルツトラミネールのような、残糖がしっかりあるワインは辛いカレーに合わせやすいそうだ。
逆にスパイスの効いた食事と反発してしまうことがあるワインとして、スパイシーな赤ワインや樽の効いたシャルドネが挙げられた。
次回の記事では、瀧田氏により解説のあった、ドイツワインの“今”を知るのに欠かせないキーワードの1つ「ゼクト」について紹介していく。
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