ワインの話をしていると、必ず出てくる「AOC」や「DOC」、また「ヴァン・ド・ターブル」といった言葉。よく見ると、よりハイクラスのワインには誇らしげに「Appellation d’Origine Contrôlée」といった文字が書いてある。皆さんの中には、その意味をご存じの方も多いだろう。
では、なぜこういった表記が記載されているのだろうか。実はものによっては、ラベル表記を見るだけで、ぶどうの種類が分かったりもするのだ。
知っておいて損はない原産地呼称制度のことをご紹介しよう。
原産地呼称制度はなぜあるの?
お酒はいつの時代も、労働で疲弊した人たちの癒やしだった。昔から世界中のあちらこちらでいわゆる「バルクワイン」が大量生産されていた。バルクワインとは、痩せた土地でもよく育つぶどうなどを使った安ワインのことだ。
一方、昔ながらの製法で良質なワインをつくり続けていた人たちにとっては、自分たちの高品質なワインが、そんな安ワインと一緒に並べられてはたまらない。
さらに良質なワインのつくり手たちには、その土地に合ったぶどうだけを用いて、その土地ならではのつくり方にこだわった“地酒”を守っていきたいという思いもあった。
そんな状況下で導入されたのが、原産地呼称制度と格付け制度だ。
原産地呼称制度は20世紀中頃より、フランスをはじめとするヨーロッパ各国などで採用されるようになった。今でも新たなワイン産地としてお墨付きを得たいと各地域からの申請が相次いでいる。
AOCとACって別物なの?
フランスでは最も厳しい基準をクリアした“地酒”は、「Appellation d’Origine Contrôlée」と明記できるようになる。
この「AOC制度」はワインとチーズに存在し、よく「Appellation 産地 Contrôlée」といった具合に表記される。
中には「AC ブルゴーニュ」というような表現を聞いたことがある人もいると思うが、これは「Appellation ブルゴーニュ Contrôlée」のことだ。
ちなみにイタリアでは「DOC」や「DOCG」、スペインでは「DO」と称される。
AOCが付くと何が違うの?
AOCを名乗るには、産地ごとに厳しい条件が課されている。
例えばブルゴーニュ地方のボジョレー地区では、ある特定の条件で栽培されたガメイ種を使ったワインのみ「ボジョレー」を名乗ることができる。これがAOCだ。
もっと言うと、同じボジョレー地区で生産されたワインでも、ピノ・ノワール100%のものは、「ボジョレー」とは名乗れず、より広域の「ACブルゴーニュ」を名乗ることになる。
また、ボジョレー地区内には98もの村があるが、その中の46村で生産され、指定された条件をクリアしたものだけが「ボジョレー・ヴィラージュ」を名乗ることができる。
AOCの条件は産地によってさまざまだが、産地ごとにぶどうの種類のみならず、収穫量や醸造方法、糖度やアルコール度数など、非常に細かく指定されている。
AOP、IGPって何?
実はこの原産地呼称制度は規定が変わり、フランスではかつて4段階だった区分けが3段階となった。
2009年ヴィンテージより、AOP=Appellation d’origine protégée、IGP=Indication géographique protégée、さらにVin de Tableという3つの区分けになった。AOPは特定の産地を名乗れる地域特産ワインのこと。IGPはそれまでのVin de Pays(ヴァン・ド・ペイ)、生産地域とぶどう品種を名乗れる地酒的ワインだ。Vin de Tableは産地を名乗ることのできないテーブルワインを指すことになる。
まだAOC表記のワインをよく見掛けるが、少しずつAOP表記のラベルも増えてきているようだ。
<まとめ>
結局のところ、この呼称制度は産地独特のワインの伝統や味わい、クオリティを守るためのものだ。ヨーロッパではそれほど、土地の文化と食、お酒が大切に保護されている。
一方、ワイン愛好家にとっては、AOCやDOC表記のされているワインは「間違いなくこんな味」という期待どおりのクオリティを返してくれる。ワイン選びの際に、外せないチェックポイントだ。
おいしいワインに出会ったときには、ぜひラベルの写真を残し、その原産地呼称を覚えておこう。自分でも、同じようなワインをすぐに見つけることができるようになるはずだ。