世界中からワインが集まる展示会「Vinexpo Tokyo 2016」が2016年11月15~16日、プリンスホテル東京・パークタワーにて開催された。
同展示会では老舗シャンパーニュ・メゾン「ランソン」の新製品が発表され、同社の最高醸造責任者(シェフ・ド・カーブ)であるエルヴェ・ダンタン氏がランソンのポリシーと新製品について直々に説明。ランソンの魅力、そして可能性について紹介してくれた。
ランソンは1760年に創業。シャンパーニュのメーカーとしては、3番目に長い歴史を誇る。1860年にはすでに隣国・イギリスの王室御用達シャンパンとなり、かのヴィクトリア女王も口にしていたとされる。そのほかにもスペイン、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンなどの王室に愛飲されてきた。
ランソンを代表するシャンパーニュであり、最も売れている「ブラック・ラベル」は1937年に発売。30年後の1967年には古いセラーからのワインをアッサンブラージュした年号なしの「コレクション」シリーズを発売。その後「ヴィンテージ・コレクション」と名称を変更した。
ランソンのシャンパーニュは、フレッシュな味わいが一番の特徴だ。フレッシュさをもたらす秘訣は、今やシャンパーニュでは当たり前となった「マロラクティック発酵」を行わないところにある。
1960年代よりシャンパーニュ地方ではマロラクティック発酵が普及してきた。乳酸菌の作用でリンゴ酸を乳酸と二酸化炭素に分解する醸造法であり、酸を穏やかにし、まろやかな風味をもたらしてくれる。
しかし冷涼なシャンパーニュ地方では、従来こういった方法は使われてこなかったという。ランソンはあえてマロラクティック発酵を使わず、時間をかけて酸をコントロールし、きれいな酸を大切にした味わいを生み出してきた。
他にはゴッセ、クリュッグ、サロンなどのメーカーがランソンと同様のつくり方をしている。
また、ランソンの自社畑や契約農家の畑はほとんどがグラン・クリュ(特級畑)かプルミエ・クリュ(一級畑)。ピノ・ノワールはコート・ド・ブラン地区、シャルドネはコート・デ・バール地区、ピノ・ムニエはヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区を中心に、合計60町村の畑から収穫される。これらのぶどうはその年のワイン醸造に使われるだけでなく、後年のアッサンブラージュのためにリザーブされるものも多い。
ランソンの誇りの1つは、このリザーブワインが豊富すぎるほどにあることだ。シャンパーニュの醸造は、このアッサンブラージュが命といえるほどに大切。何年のどのワインをどの程度使用するかをシェフ・ド・カーブが「調合」していく。ランソンがアッサンブラージュに使用できるリザーブワインはなんと300種類以上。シャンパーニュ・メゾンの中でもトップの豊富さだという。このリザーブワインの存在が、ランソンの可能性を常に広げ、華々しい未来を約束しているのだ。
穏やかな語り口と職人肌を感じさせる表情で登場したエルヴェ・ダンタン氏。250年以上の歴史を有するランソンの魅力を紹介する彼の一言一言に、氏の両肩にかかる最高醸造責任者としての誇りと責任感を感じたのは、私だけではあるまい。次にランソンを味わうチャンスが、とても楽しみになった。