コラム

多様性に満ちたプロヴァンスのロゼワイン、その秘密を一挙公開

2019年5月9日、ワイン関連総合商社のグローバルが主催するワインイベント「WINE TOKYO」で、プロヴァンスワインのセミナーが開催された。そのテーマは、(1)世界市場におけるロゼワインの市場動向、(2)プロヴァンス・ロゼの強みと多様性の2つ。前回は(1)についてご説明したので、今回は(2)についてお話しする。

このテーマでは、レストラン「ロオジエ」で活躍するソムリエの井黒卓氏が、気候や土壌、産地やぶどう品種など、それぞれのプロヴァンス・ロゼに個性をもたらす要素について解説。その説明のもと、6種類のワインをテイスティングしてきた。プロヴァンスのロゼワインの多様性を、さまざまな側面からご紹介していこう。

プロヴァンスとワイン

プロヴァンスは、地中海に面したフランス南部の地域だ。避暑地であるニースや映画祭でおなじみのカンヌ、フランス最大の港湾都市であるマルセイユを擁し、国内外からの観光客を多く集めている。

フランス国内で最も古いワイン産地は、このプロヴァンスだ。そのワインづくりの歴史は2600年もの長きに及ぶ。ロゼワイン発祥の地としても知られ、紀元前からピンク色のワインが作られてきたという。現在、同地で生産されるワインの9割がロゼワインだ。

ワイン産地としてのプロヴァンス

プロヴァンスはワイン産地として、以下のような特徴がある。

土壌とテロワール

日照は強く、その時間も長い。土壌は痩せて、水はけが良い。マルセイユ周辺の西側エリアは主に石灰岩、石灰・粘土質土壌が広がる。一方、東側エリア(主にAOPコート・ド・プロヴァンス)はシスト系(結晶質地塊、片岩)土壌だ。

気候

全般的に暑く乾燥している。プロヴァンスでは、「ミストラル」と呼ばれる突風が、アルプス山脈沿いから海へ吹き抜け、湿気を飛ばす。これによって空気が乾燥するため、ぶどうの病害は非常に少ない。ミストラルは自然派ワインづくりの大きな助けになっている。

歴史とノウハウ

実に2600年もの経験に裏付けられたワインづくりのノウハウが、仕様書にまとめられ現在に伝わっている。ロゼ専門の研究センターがあり、醸造や市場動向に関する研究を進めている。ロゼワインづくりに専従する農家やつくり手も多い。ワインづくりは彼らの生活そのものであり、設備に対して積極的に投資して、常にワインづくりを前進させている。

産地による特徴の違い

プロヴァンス地方で作られるワインは、下記の3つのAOPに分かれている。

1.コート・ド・プロヴァンス
全体の生産量の71%を占める広大な産地。すっきりした辛口な味わいが特徴だ。

2.コトー・デクス・アン・プロヴァンス
エクス・アン・プロヴァンス以西の産地で、全体の18%を占める。力強い味わいが特徴で、赤ワインもつくられる。

3.コトー・ヴァロワ・アン・プロヴァンス
中部の内陸に広がる産地で、全体の11%を占める。内陸のため日照が強く、ボリューム感のある味わいが特徴。

使われるぶどう品種とその特徴

ロゼに使われるのは黒ぶどうがメインだが、白ぶどうも20%まで混ぜることができる。また、全てのロゼに最低2品種をブレンドすることが決められている。ブレンドの仕方はつくり手が決めることができ、それらの要素が味わいの多様性を生み出している。

主に使われる黒ぶどうは次の通り。
1.サンソー
プロヴァンス原産のぶどう。爽やかさや滑らかさ、フルーティーさをワインにもたらす

2.シラー
濃い赤い色のぶどうで、ワインに骨格をもたらす。熟成に向き、タンニンが多い。石灰系土壌に適している。

3.グルナッシュ
スペイン原産のぶどう。糖度が高く、ワインのアルコール度数を上げ、ボディを与える。もともとスパイシーなニュアンスがあるが、ロゼにするとハーブの香りが漂う。

4.ムールヴェードル
石灰系土壌に適する晩熟型のぶどう。グルナッシュと対極にあるような要素が多く、バランスを取るのにも使われる。

白ぶどうは、ロール(ヴェルメンティーノ)、ユニ・ブラン、クレレット、セミヨンなどが使われる。

プロヴァンス・ロゼの多様性

では、ここで実際にテイスティングした6本のワインの特徴を紹介していこう。

エスタンドン・リュミエール/エスタンドン・ヴィニュロン

ぶどう品種:グルナッシュ、シラー
特徴:かんきつ類や桃、ピンクグレープフルーツのような香りがわずかに漂う。果実の凝縮感から、味わいにボリュームが感じられる。このような凝縮感のあるワインは、あさりの酒蒸しなどにベストマッチだ。

テール・デ・ザンジュ/シャトー・パラディ

ぶどう品種:シラー、ムールヴェードル、ロール
特徴:イチゴやラズベリーのような赤い果実、アプリコットや桃のような香りがする。10%だけ足された白ぶどうのロールが、香りや味に花のような柔らかさを与えている。このようなフローラルな印象のワインは、えびの生春巻きなどと合わせるのがおすすめ。

ミラヴァル/ミラヴァル

ぶどう品種:サンソー、グルナッシュ、シラー、ロール
特徴:淡い色に対し、深い味わいのあるロゼ。ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが購入し、一躍有名になった。爽やかな春の花、白桃やアプリコットのニュアンスがある。繊細ながらもしっかりとボディがあり、子牛の肩ロースなど、脂の多い肉にもぴったりだ。

シャトー・ロアシス/ヴィニョーブル・ラヴェル

ぶどう品種:グルナッシュ、サンソー、シラー
特徴:チェリーなどの赤果実、ザクロ、桃などの香りがする。はつらつとした酸味と心地よい苦味のバランスが良く、味わいにメリハリがある。こういった引き締まったロゼには、カツオのたたきなど味のはっきりした料理がおすすめ。

エスプリ・ガシェ/シャトー・ガシェ

ぶどう品種:グルナッシュ、サンソー、シラー、ロール
特徴:爽やかで酸のきれいなワイン。アーモンドの花や白い果実のはかなげな香り、ローズマリーやタイムなどのハーブ香がする。油物と相性が良く、揚げ物などをさっぱりと食べるのにちょうどいい。おろしポン酢を添えたチキンの竜田揚げに合わせたい。

エクス/メゾン・サン・エクス

ぶどう品種:グルナッシュ、シラー、サンソー
特徴:赤いベリーやピンクグレープフルーツ、黒果実っぽさや蜂蜜のニュアンスもある。アタックはしっかりしているが、酸味とバランスがよく取れている。適度な重みもあり、脂の甘さがある和牛などグルメな食材との相性が抜群だ。

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About the author /  Yayoi Ozawa
Yayoi Ozawa

フランス料理店経営ののち、ワインとグルメ、音楽を専門とするライターへ転身