コラム

樽熟成の試みが進むヴィーニョ・ヴェルデ、これまでにない新たな道へ

若さが特徴とされるヴィーニョ・ヴェルデを、木樽で熟成

ヴィーニョ・ヴェルデは、ポルトガル北部ミーニョ地方原産の微発泡ワインだ。日本語に直訳すると「緑のワイン」となるが、その名が示す通り、完熟前のぶどうを使ってつくられている。

若くフレッシュな飲み心地が特徴で、一般的には熟成に不向きとされているヴィーニョ・ヴェルデだが、ヴィーニョ・ヴェルデ・ワイン協会によると、ミーニョ地方でつくられるワインは、必ずしも軽くてフレッシュなタイプばかりではないという。

実際には、ヴィーニョ・ヴェルデのスタイルは、時代とともに変わってきている。ミーニョ地方は今や、長期熟成によってその魅力が増す上質な白ワインの生産地となっている。現地のつくり手たちの中で、木樽を使って発酵や熟成を行うという試みが顕著になってきているのだ。

今回の記事では、その領域のパイオニアである3人のつくり手(アンセルモ・メンデス、フェルナンド・モウラ、アントニオ・ソウザ)を挙げながら、ヴィーニョ・ヴェルデの樽熟成の試みについて紹介する。

ヴィーニョ・ヴェルデの樽熟成はローストが肝

アンセルモ・メンデスは1987年以来、約30年もの間、アルヴァリーニョ種やロウレイロ種を木樽で発酵、熟成させる研究を進めてきた。彼が、木樽で発酵、熟成させたヴィーニョ・ヴェルデを初めてつくったのは1995年のこと。1998年には、225リットルのフレンチオーク樽で完全発酵させたヴィーニョ・ヴェルデをリリースしている。

30年にわたる研究と実践の結果、アンセルモは、アルヴァリーニョ種の木樽での発酵、熟成には、木樽のローストの軽さが肝であることをつかんだ。彼は「樽のローストは軽くした。ミディアムあるいはヘビーローストは、赤ワインにとっては良い効果をもたらすが、白ワインの場合はそれぞれの品種が持つ本来のアロマを消してしまう」と述べている。

また、樽のローストだけでなく、澱をかき混ぜて熟成中のワインに澱の旨味を含ませるバトナージュや、木樽のサイズも重要なカギとなることが分かった。

現在、アンセルモは400リットルと500リットルの樽を使っている。そのうち 80%は古い樽だ。非常に軽めのローストを施し、すべての澱を残してバトナージュしている。

木樽を使用するメリットについて、アンセルモは「木樽を使うと、発酵温度が比較的高くなる。上質なワインにとって、低すぎる発酵温度は質を損なう要因となる」と指摘する。

つくるワインによって変わる木樽のスケール

フェルナンド・モウラは、ヴィーニョ・ヴェルデの白ワインを木樽で熟成、発酵させることについて、次のように語っている。

「我々は白ワインのポリシーを変えなければならない。ヴィーニョ・ヴェルデは若々しくフレッシュであってよいが、同時に長寿な熟成ワインでもありうる。木樽は長期熟成に必要な条件を与えてくれる」

彼がアルヴァリーニョを初めて木樽に注いだのは1996年のことだ。その時につくったワイン「Deu la Deu」は、品種と木樽熟成の“完璧なマリアージュ”が消費者を大いに喜ばせた。

モウラもアンセルモと同様、樽のサイズに気を配っている。彼が携わるワインメーカー、アデガ・デ・モンサオンでは、当初は醸造に225リットルの樽を使っていたが、現在は1500リットル容量の2つの樽に差し替えている。そして、毎年600万リットル中3000リットル分のワインを木樽で発酵、熟成させている。

モウラは別のメーカーでも木樽を採用し、ブレンドに用いるぶどう品種、アヴェッソやアリントなどの熟成、発酵にも木樽を使っている。ミーニョ地方でトウリガ、アラゴネス、シラー、メルローなどのブレンドを熟成させて赤ワインをつくる場合は、225リットルの小さな樽が適しているという。

熟成ヴィーニョ・ヴェルデの市場形成

アントニオ・ソウザは、すでに10年以上にわたって熟成ヴィーニョ・ヴェルデを展開している。アルヴァリーニョやアヴェッソだけでなく、アリント、ロウレイロ、ヴィニャオンといったぶどう品種でも、木樽熟成の成果を上げている。

ソウザのつくるヴィーニョ・ヴェルデは、一般的なヴィーニョ・ヴェルデとは完全にスタイルを異にする。木樽で1年半、さらに瓶内で同じくらい熟成させ、収穫から3~4年後に市場にリリースされる。

このような熟成ヴィーニョ・ヴェルデをつくる上での最大の問題は、高額の初期投資を必要とすることだ。にもかかわらず、全売上量のうち、熟成ヴィーニョ・ヴェルデが占める割合は、わずか3~5%だという。

それでも、ソウザは「1本15~20 ユーロ(ポルトガル国内市場価格)になりうる非常に高いポテンシャルを持っている」と熟成ヴィーニョ・ヴェルデの将来を有望視している。さらに彼は、熟成ヴィーニョ・ヴェルデのニーズがまだわずかで、市場の伸びが緩やかであることを認めつつ、伸びが緩やかであること自体は問題ではないという。サウザは「急いではいけない。市場をしっかりと固めることが大切だ。ゆっくりと、しかし、しっかりと」と語っている。

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