コラム

伝統から進化へ、アメリカン・ドリームをつかんだ「ルイ・マルティーニ」 ~Inside California Winemaking

カリフォルニアワイン協会(CWI)は、アジア市場を意識したウェビナーシリーズ「Inside California Winemaking ~カリフォルニアのワイン造り、その内側~」を2020年5月下旬より隔週で実施している。

ホストを務めるイレイン・チューカン・ブラウン氏は、ワインライターやワインエデュケーターとして活動しており、2019年にワイン・インダストリー・ネットワークによる「ワイン業界で最も影響力のある9人」の1人に選出された人物だ。さらに、2019年と2020年の2年連続で、インターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション(IWSC)による「年間最優秀ワイン・コミュニケーター」の最終候補者にも選出されている。

「ルイ・マルティーニ」の伝統を引き継ぐワインメーカー

2020年6月11日に開催された第2回目のゲストは、「ルイ・マルティーニ」でワインメーカーを務めるマイケル・エディ氏だ。

ルイ・マルティーニは、アメリカで禁酒法が廃止された1933年に設立。2002年には、長年家族ぐるみの付き合いがあった大手ワインメーカー「E.&J.ガロワイナリー(ガロ)」の傘下となった。近年では、カベルネ・ソーヴィニヨンを中心に高い評価を受けている。

今回のウェビナーでは、ワインへのこだわりや、アメリカン・ドリームを実現させた創業から今なお進化し続けるルイ・マルティーニについて解説している。

マイケル・エディ氏の経歴

カリフォルニア州南部で育ったエディ氏は、ハンボルト州立大学で生物学を学んだ後、カリフォルニア大学デービス校でワイン醸造学を専門とした食物化学の修士号を取得。ナパ・バレーの「トレフェセン」などでワインづくりを経験し、2005年にルイ・マルティーニに入社した。ルイ・マルティーニの3代目であるマイク・マルティーニ氏の下で10年以上修業し、2013年にはワインメーカーの座に就任。マルティーニ家以外の人間がワインメーカーになったのは、エディ氏が初となる。

カリフォルニアワインの発展に寄与した「ルイ・マルティーニ」

ルイ・マルティーニは、カリフォルニアの歴史的なワイナリーの1つであり、カリフォルニアワインの発展に寄与したワイナリーだといえる。

アメリカン・ドリームをつかんだ創業者

創業者であるルイ・M・マルティーニ氏(ルイ・M氏)は、“アメリカン・ドリーム”と表現されるのにふさわしい人物だ。

1899年、当時12歳だったルイ・M氏は、サンフランシスコで漁師をしていた父親の仕事を手伝うため、たった1人でイタリアのジェノバから船と鉄道を乗り継いでやって来た。そこにはイタリア系アメリカ人のコミュニティがあり、漁師は余った魚でスープをつくったり、パン屋でパンに交換したり、肉屋で肉に交換したりといった物々交換が行われていた。

ある時、魚と交換したのが、ワイン用のぶどうだった。そのぶどうでつくった初めてのワインは素晴らしい出来とはいえなかったが、ルイ・M氏はこの経験から、父の跡を継ぐのではなく、ワインづくりという自分が進みたい道を見つけたのだ。父親はワインづくりを学ばせるために、彼をイタリアに帰した。

そして禁酒法が廃止された1933年、ルイ・M氏は、ナパ・バレーの中心地にワイナリーを開設する。現在のナパ・バレーはカリフォルニアワインの一大生産地となっているが、当時は野菜や農作物、果樹園などはあったものの、ぶどう畑は多くなかった。

「ルイ・M氏には、ビジョンと運の両方があったのだろう。土地のポテンシャルを見抜いていたと思うが、カベルネ・ソーヴィニヨンの中心地になるとは思っていなかったはずだ」とエディ氏はコメントしている。

また、ナパ・バレーにワイン業界が誕生したばかりの1943年には、非営利生産者団体「ナパヴァレー・ヴィントナーズ(NVV)」の設立にも貢献。当時のナパ・バレーのワイナリーは、価格のコントロールや人手不足、ボトル、車両の不足などの問題に直面しており、つくり手が団結することで、問題を解決し、ナパ・バレーのワインの地位向上を目指した。NVVは翌1944年に正式に発足している。

アメリカン・ドリームを受け継いだ人々

その後、ルイ・M氏の跡を継いだのは、息子のルイ・P・マルティーニ氏(ルイ・P氏)だ。彼はビジョンを持ってワイナリーを成功させた父とは異なり、ヴィンヤードで初めて防霜用のウィンドマシーンを導入するなど、技術を重視してビジネス面でワイナリーの安定を図り、成長させた。ワインづくりを3代目に譲った後の1994年には、カリフォルニア大学デービス校に寄付をし、ぶどう栽培やワイン醸造学の調査研究のための基金が設立された。

1977年にカリフォルニア大学デービス校を卒業後、3代目として父のルイ・P氏からワインづくりを受け継いだのが、マイク・マルティーニ氏だ。10年以上一緒に働いたエディ氏は、「彼は創業者と同じように、ビジョンを持った人物だ」と語っている。

2002年にはカリフォルニア最大手ワイナリーのガロが、ルイ・マルティーニのワイナリーとヴィンヤードを買収した。ガロは、約75カ国に流通している「カルロ ロッシ」を展開しているワイナリーで、販売数量世界No.1(IMPACT DATABANK 2019 EDITIONより)の実績を持つ。

アメリカでワイナリーを設立する際には登記が必要だが、ガロとルイ・マルティーニはこの登記番号が続き番号だったそうだ。創業当時から親交のあるワイナリーによる買収は、ジョー・ガロ氏がマイク・マルティーニ氏に「最高のナパキャブ(ナパ産のカベルネ・ソーヴィニヨン)をつくるために何が必要か」と聞いたことがきっかけだという。ガロの投資により、つくりたいワインがつくれる環境が整った。

現在では、小規模生産のワインから、フラグシップワインである「ナパ・バレー・カベルネ・ソーヴィニヨン」まで幅広く手掛けている。

ルイ・マルティーニの伝統あるワインづくりは、2013年よりマイケル・エディ氏に引き継がれ、ガロと共にさらなる進化に向かっているところだ。

カベルネ・ソーヴィニヨンのワイン3本

ウェビナーでは、3つの産地で栽培されたカベルネ・ソーヴィニヨンが紹介された。

3つのぶどう産地

ルイ・マルティーニがその歴史をスタートさせたのは、マヤカマス山脈とヴァカ山脈に挟まれたナパ・バレーのセント・ヘレナだ。南には太平洋からの風や冷たい霧を内陸に引き込むサンパブロ湾が位置しており、その影響で冷涼な気候になっている。

1938年にはソノマ側にヴィンヤードを購入。後にモンテ・ロッソに改称し、今ではカリフォルニアで最も古いヴィンヤードの1つになっている。およそ300mの標高にあり、127年前に植えられたジンファンデルと北米最古のセミヨンがある。

モンテ・ロッソの風景

ルイ・マルティーニのステージコーチ・ヴィンヤードがあるのは、岩が多い火山性の土壌を持つ孤立した場所だ。もともとは岩がピラミッドのように重なっており、ヴィンヤードをつくるためにダイナマイトで岩をどける必要があったという。

ステージコーチの風景

同じくソノマ郡にあるアレキサンダー・バレーAVAは、サンパブロ湾から離れているため比較的暖かい。その北部にあるボレッリ・クリーク・ヴィンヤードの一部は、標高が高くて砂利っぽい。過酷な環境で育ったぶどうは小さいが、タンニンのしっかりした実をつけるという。

ボレッリの風景

ルイ・M・マルティーニ カベルネ・ソーヴィニヨン ソノマ・カウンティ

ヴィンテージ:2017
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、プティ・シラー
アルコール度数:14.5%

熟成はタンクで行い、フレッシュで若々しい果実味を保っている。ルイ・マルティーニが手掛けて広く流通しているものの中で、最も安いカベルネ・ソーヴィニヨンだ。食事と一緒でも、単体でも楽しめる味わいに仕上げている。

モンテ・ロッソのぶどうも使用しているが、アレキサンダー・バレーAVAのボレッリ・クリーク・ヴィンヤードのぶどうが多く使われている。熟成させるためのワインではないが、それでも10年間は熟成に耐え得るという。

【テイスティング・コメント】
カベルネ・ソーヴィニヨンの骨格や強さはあるものの、丸みが感じられ、長い余韻がある。カベルネ・ソーヴィニヨンといえば、肉と一緒に味わうようなイメージがあるが、このワインは単体でも楽しめる。ルイ・マルティーニが素晴らしいのは、価格に対する質の高さ。ソノマ・カウンティのカベルネ・ソーヴィニヨンはその良い例だ。

ルイ・M・マティーニ カベルネ・ソーヴィニヨン アレキサンダー・バレー

ヴィンテージ:2017
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン
アルコール度数:15.0%

ボレッリ・クリーク・ヴィンヤードを中心とした、アレキサンダー・バレーAVAのぶどうが使われている。

ソノマ・カウンティとは異なり、醸しの時間を長くしてよりしっかりとした骨格とタンニンを与えており、樽熟成することで、口当たりを柔らかくし、ワインに奥行きを与えている。ワインのニュアンスも、フレッシュなものからより複雑さを感じられるものとなっている。強い酸味と山からくる高いタンニン、そして複雑さがワインの熟成に可能性を抱かせる。何十年と熟成できるワインだ。

【テイスティング・コメント】
多少の海っぽさや乾いた土、そしてわずかに乾いた葉が混じったカリフォルニアの森のような香り。タンニンの触感や口当たりの感覚はあるが、それでもとてもスムーズで心地よさが感じられる。ジューシーなステーキやリブアイと一緒に味わいたいワイン。

ルイ・M・マティーニ カベルネ・ソーヴィニヨン ナパ・バレー

ヴィンテージ:2017
品種:カベルネ・ソーヴィニヨン 83%、プティ・シラー 11%、プティ・ヴェルド 3%、メルロー 2%、ジンファンデル 1%
アルコール度数:15.0%

エディ氏が「これは我々を定義するワインだ」と語ったワイン。ナパ・バレーの中心地で、カベルネ・ソーヴィニヨンに力を入れているルイ・マルティーニの歴史や伝統を表現しているという。

新樽の使用比率などの違いはあるが、アレキサンダー・バレーと似たつくり方をしている。それでも、ナパ・バレーのカベルネ・ソーヴィニヨンは洗練された古典的な味わいを持ち、同じヴィンテージのものを比べると、栽培地の差が感じられるという。

【テイスティング・コメント】
アレキサンダー・バレーのワインで感じられた触感や口当たりとは異なり、よりきめ細かく、ほとんどパウダーのような凹凸が感じられるワイン。確かなタンニンがあるが、すぐに口の中に溶け出す。日光を浴びてタンニンがしっかり含まれた山のカベルネ・ソーヴィニヨンだが、エレガントさを感じる。

アルコール分がワインに与える影響

ルイ・マルティーニのカベルネ・ソーヴィニヨンには、アルコール度数が15%を超えるものもある。アルコール度数がワインに与える影響について、エディ氏は次のように解説している。

アルコール度数が上がると、ワインを飲んだ時に熱さや攻撃性を感じてしまうことがある。それは、果実の凝縮感や重さなど、他の要素とのバランスが取れていないからだ。アルコール度数は口の中に“甘さ”の印象を与えるが、これは重い後味を残す過剰な糖分とは異なり、後に残らずに消える。

また、アルコール度数が、ワイン伝統国とカリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニヨンの違いの1つだと、エディ氏は考えているそうだ。アルコール度数が低いと、「酸味が前面に出てきて、より直線的で硬い伝統国的なワインになる」と説明した。

ぶどうの糖分が分解されてアルコールになるため、アルコール度数を高くするにはぶどうがしっかりと甘さを持つほど熟してから収穫する必要がある。さらに、早くに収穫するとアルコール度数が高くならないだけではなく、味わいに緑っぽさが残り、カベルネ・ソーヴィニヨンのハーブらしさが失われる。エディ氏は「どちらが好きかは好みによるが、緑っぽさのあるカベルネ・ソーヴィニヨンは、カリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニヨンの王道ではない」と説明している。酸味と糖分のバランスを見て、収穫の時期を慎重に見極める必要があるそうだ。

ルイ・マルティーニのカベルネ・ソーヴィニヨンへのこだわりは、アルコール度数だけを見てもよく分かる。カベルネ・ソーヴィニヨンを使用したワインは現在9種類あるが、さらに新しいものをリリースしようと考えているという。

ウェビナーの全編は、YouTubeで公開されている。詩的な表現でワインやワインづくりを語るマイケル・エディ氏を見たい方は、ぜひ再生ボタンを押してみてはいかがだろうか。

<関連リンク>
Inside California Winemaking with Elaine Chukan Brown | Michael Eddy, Louis M. Martini Winery

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