コラム

テロワールにこだわったワインを手掛ける、ソノマ・コーストのパイオニア「フラワーズ」 ~Inside California Winemaking

カリフォルニアワイン協会(CWI)は、アジア市場を意識したウェビナーシリーズ「Inside California Winemaking ~カリフォルニアのワイン造り、その内側~」を2020年5月下旬より隔週で実施している。

ホストを務めるイレイン・チューカン・ブラウン氏は、ワインライターやワインエデュケーターとして活動しており、2019年にワイン・インダストリー・ネットワークが選んだ「ワイン業界で最も影響力のある9人」のうちの1人だ。さらに、2019年と2020年の2年連続で、インターナショナル・ワイン&スピリッツコンペティション(IWSC)による「年間最優秀ワイン・コミュニケーター」の最終候補者にも選出されている。

“真のソノマ・コースト”にこだわったつくり手

2020年6月25日に開催された第3回目のゲストは、「フラワーズ(Flowers Vineyard & Winery)」で、ワインメイキングディレクターを務めるシャンタル・フォーサン氏だ。

フラワーズは、1991年にウォルトとジョアンのフラワーズ夫妻がソノマ郡に設立したワイナリー。夫妻が購入した土地は霧が多く、日照量が足りないため、ぶどう栽培に適した土地とは考えられていなかった。そこで、霧の上に位置する標高約400mの土地を開墾し、海風の涼しさと豊かな日照量を生かしたぶどうづくりを開始した。

夫妻が開墾した自社畑がある地域は、2012年にフォート・ロス・シー・ビューAVAに認定されている。

フラワーズ夫妻が手掛けるぶどうの可能性に気づいたのは、“カリフォルニア・シャルドネの王”と称されるスティーヴ・キスラー氏だ。夫妻から買い付けたシャルドネでつくったキスラー氏のワインは評判を呼び、フラワーズはファーストヴィンテージをつくる前から、注目を集めた。1994年には、フラワーズもファーストヴィンテージをリリース。以後、ソノマ・コーストには多くのワイナリーが軒を連ねることとなる。

フラワーズでは、その土地を生かした自然なワインづくりを実践している。ビオディナミ農法によるぶどう栽培や、発酵は元々ぶどうについている野生酵母で天然発酵させるという徹底ぶりだ。

シャンタル・フォーサン氏の経歴

カリフォルニア州出身のシャンタル・フォーサン氏は、農業に囲まれて育ち、カリフォルニア州立大学チコ校で生物学と植物学を学んだ。

2005年には、カリフォルニア州のぶどう栽培地、ローダイでぶどうの収穫に関わり、その後、ボニー・ドゥーン・ヴィンヤードで自然なワインメイキングやサステイナブルファーミング(持続可能な農業)によるワインづくりに挑戦した。ニュージーランドでのビオディナミ農法の経験を経て、フラワーズに加入。2012年からは、フラワーズのワインメイキングチームを率いている。

フラワーズの地球温暖化への取り組み

フォーサン氏は、今回のウェビナーの中で、「農業に関わる人は、気候変動(地球温暖化)を否定できないだろう」と語っている。

気候変動への対策として、フラワーズでは、ぶどうの成熟を遅くすることを心掛けているという。標高の低い畑では、ぶどうの糖度は急速に高まるが、糖度が上がっても酸味が強すぎたり、タンニンの成分が含まれる種がまだ緑色だったりと、バランスよく成熟できない。

バランスが整う前に成熟してしまうのを避けるため、森を成長させて陰をつくる、葉の成長を制限して光合成による成熟が進むのを防ぐ、日よけのネットを導入するなどの対策を取っているそうだ。また、ビオディナミによる土壌の改良で、温暖化にぶどうの樹が適応する効果を期待しているという。

フラワーズのワインを生む5つの産地

フラワーズのワインづくりで無視することができないのが、テロワールだ。現在、フラワーズでは2つの自社畑と、3つの契約畑で栽培されたぶどうを使ってワインをつくっている。

フラワーズの畑が位置するソノマ郡は、サンフランシスコの北に位置し、マヤカマス山脈を隔てた東側にはナパ・バレーがある。ソノマ郡にクローズアップした地図がこちらだ。

黄色の線で囲まれているのが、ソノマ郡。その内側にある、ピンクの線で囲まれているのが、5つのヴィンヤードがあるソノマ・コーストAVA。フラワーズの自社畑は、2つとも青い線で囲まれているフォート・ロス・シー・ビューAVAにある。

キャンプ・ミーティング・リッジ

海を見下ろすヴィンヤード。写真上部には海が広がっている

最初にフラワーズ夫妻が開拓した畑が、このキャンプ・ミーティング・リッジだ。海に近いため、太平洋の寒流の影響が強すぎ、霧も深すぎると考えられていたエリアだ。しかし、標高350~441mのキャンプ・ミーティング・リッジまでは、霧が上がってこない。霧に覆われないため太陽の恵みを受けられ、さらに海からの冷たい風の恩恵の両方を受けられるという、ワイン用ぶどうの栽培に適した条件がそろった土地だ。この地では、塩っぽさと、豊満で強い酸味を持つ個性的なシャルドネができる。

秋の風景

1980年代の後半から開墾が始まり、1991年にぶどうが植えられた。土地のほとんどが急な斜面であるため、425エーカーの土地のうち、畑にできたのは29エーカーだった。

設立者の一人であるウォルト・フラワーズ氏は非常に几帳面な性格だったらしく、彼の注意深さがこのヴィンヤードの確立に生かされた、とフォーサン氏は考えているようだ。

シー・ビュー・リッジ

この写真の奥にも海が広がっており、名前の通り海を見下ろす標高の高いヴィンヤードであることがよく分かる。フォーサン氏が「ドラマチックな地形」と表現するこの畑では、区画ごとに細かい気象の差が生まれるという。土壌のタイプもさまざまで、少なくとも5つのタイプがあるそうだ。

3つの契約畑

フラワーズには、長年にわたってパートナーシップを結んでいる契約畑が、グリーン・バレー、セバストポール・ヒルズ、ペタルマ・ギャップの3カ所にある。

グリーン・バレーは、ソノマ郡の中で2番目に冷涼なAVAで、砂質の土壌が多い地域だ。この地のヴィンヤードは、海からの冷たい霧が長くとどまり、午後には強くて冷たい風が吹くため、ぶどうは時間をかけて成熟する。砂の土壌は標高の低いソノマ郡西部でよく見られる土壌で、とろけるようなタンニンをつくり出す。生き生きとしたフレッシュさのある酸味と、とろけるようなタンニンがこの畑のぶどうの特徴だ。

セバストポール・ヒルズは、正式なAVAではないが、ソノマ・コーストAVAの南部にあり、ペタルマ・ギャップAVAと重なる位置にある。こちらのヴィンヤードも砂質の土壌だが、歩くと砂埃が舞い散るようなダスティな土壌が特徴だ。しっかりとした骨格を持つタンニンとブルーベリーのような若干青っぽい果実味、植物のサルサパリラのようなハーブの風味を感じられるぶどうができる。

ペタルマ・ギャップのヴィンヤードは、ペタルマ・ギャップAVAの西側にあり、海からの風の影響が大きい場所にある。土壌には粘土が含まれ、活力や力強さを持つぶどうができる。

ソノマ・コーストらしさを表現するためには

設立して30年が経ち、既に高い評価を受けているフラワーズだが、よりテロワールを知るため、地質学者に依頼してシー・ビュー・リッジの土壌について調べてもらっているところだという。5つのヴィンヤードのぶどうをブレンドし、真のソノマ・コーストらしさを表現するには、お互いを補完し合うぶどう栽培が必要であり、そのためには、土壌への深い理解が欠かせないと考えているからだ。

例えば、キャンプ・ミーティング・リッジのぶどうだけを使用すると、しっかりしたタンニンや、岩、花、森のテクスチャを感じられる、個性の強いワインができる。一方で、グリーン・バレーのヴィンヤードのぶどうには、キイチゴや深い赤のベリー系フルーツ、かすかなプラム、砂質土壌の特徴がワインに現れ、キャンプ・ミーティング・リッジの岩っぽい特徴を補完してくれるのだという。

フラワーズのおすすめワイン2本

ウェビナーでは、今回の内容をじっくりと楽しめるワインが2本紹介された。

フラワーズ・ピノ・ノワール ソノマ・コースト

ヴィンテージ:2017
品種:ピノ・ノワール
アペレーション:ソノマ・コースト
アルコール度数:13.5%

5つの産地のピノ・ノワールをブレンドした1本。1つの産地の特徴を引き立たせるようなブレンドではなく、1つのワインとして魅力を生み出すために適切な量でブレンドをしているそうだ。ペタルマ・ギャップのぶどうが持つ力強さが核となり、それぞれのヴィンヤードの特徴をつなぎ合わせているという。

【テイスティング・コメント】
それぞれのトーンのハーモニーが感じられるワイン。フォート・ロス・シー・ビューの北部の森のようなアロマと岩っぽさ、ペタルマ・ギャップの乾燥した樹脂を含む森の感じと若干のフローラル感、スパイス、素晴らしい酸味が口の中で広がる。それぞれが組み合わさった素敵なブレンドだ。

フラワーズ・シャルドネ ソノマ・コースト

ヴィンテージ:2017
品種:シャルドネ
アペレーション:ソノマ・コースト
アルコール度数:13.5%

キャンプ・ミーティング・リッジで栽培されたシャルドネでつくられた1本。

【テイスティング・コメント】
この地域のシャルドネは、口の中を刺激する。フレーバーと酸味が調和しており、食べ物にもとてもよく合う。15年後、20年後にも楽しめるシャルドネだ。

今回のウェビナーは、YouTubeで動画が公開されている。農業の専門家としてワインに向き合うフォーサン氏やフラワーズの取り組みについて、もっと細かく知りたい方はぜひ動画を視聴してもらいたい。

<関連リンク>
Inside California Winemaking with Elaine Chukan Brown | Chantal Forthun, Flowers Vineyards & Winery

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で
About the author /  鵜沢 シズカ
鵜沢 シズカ

J.S.A.ワインエキスパート。米フロリダ州で日本酒の販売に携わっている間に、浮気心で手を出したワインに魅了される。英語や販売・営業経験を活かしながら、ワインの魅力を伝えられたら幸せ