コラム

進化するボルドーワイン、若手生産者が語るトレンドと最新動向 ~ボルドーワイン委員会ウェビナー

「ワインの女王」とも呼ばれる、ボルドーワイン。伝統的で格式高い高級ワインのイメージがあるが、近年、型にはまらない斬新なスタイルのワインも続々と誕生している。

ボルドーワイン委員会(CIVB)は2020年12月2日、ボルドーワインの新しい魅力を発信するウェビナー「ボルドーの赤ワイン~正統派だけじゃない、モダンで型にはまらないスタイルも~」をワイン業界のオピニオン・リーダー向けに開催した。ボルドーワイン委員会ゼネラルディレクターのファビアン・ボヴァ氏のほか、ボルドーの若手生産者3人をゲストに迎え、3つのイノベーティブなキュヴェをライブテイスティングとともに紹介した。

この記事では、2020年のボルドーワインの生産状況や、時代とともに変化してきたぶどう栽培、ワインづくりについて紹介する。

ボルドーワインの生産状況と使用品種

セミナー冒頭では、ボルドーワイン委員会の国際広報部長セシル・ア氏が、現在のボルドーワインの生産状況を解説した。

セシル・ア氏によれば、現在、ボルドー地方のぶどう畑の89%は、赤ワイン用ぶどうの栽培に使用されている。これらのぶどうからつくるワインの年間生産量は約5億5500万本。1日当たり150万本生産されている計算になる。

ボルドーの主力となる赤ワインでは、地域全体で31のAOCを抱えている。赤ワインに使用される主要栽培品種と、その栽培面積は以下の通り。

<メルロー>
66%
7万1000ha

<カベルネ・ソーヴィニヨン>
22%
2万3500ha

<カベルネ・フラン>
9%
9500ha

<マルベック>
2%
2000ha

<プチ・ヴェルド>
1.1%
1200ha

<カルメネール>
0.05%
58ha

メルローやカベルネ・ソーヴィニヨン、カルメネールは現在、世界各国のぶどう畑で栽培される非常にポピュラーな品種となったが、これら6品種の歴史は長く、いずれも2000年前にはボルドー地域で栽培されていた、とセシル・ア氏は明かす。

ボルドーの生産者たちは、長い歴史の中で、常に良いアッサンブラージュを生み出すため、品種の多様性を追い求めてきたということだ。

ボルドーワインの6つのトレンドとは?

セシル・ア氏によると、市場のニーズは近年大きく変化し、よりしなやかで果実本来のおいしさを引き出したワインが求められるようになった。

この流れをキャッチしたボルドーの若手生産者たちは、これまでの伝統的なぶどう栽培や醸造法とは異なるアプローチで、果実の個性を引き出すワインづくりを行っているという。

セシル・ア氏は、ボルドーの生産者が実践している、ワイン生産の6つのトレンドを紹介した。

1.摘みたての味わいを引き出す栽培

ボルドーでは過去、果実の風味を引き出すために、ぶどうが過熟した状態で出荷していたが、現在では摘みたての果実の味わいを損なわないよう、最適な熟度で収穫している。

(c)CIVB / Mathieu Angalada

また、品種の特性に合わせて対応を変えている。例えば、本来は早生早熟傾向の品種であるメルローの場合、気候変動の影響を考慮して、晩生タイプの台木を選び、果実本来のみずみずしさを保つ工夫をしているという。

2.テロワールの魅力を生かした醸造

ワイン醸造においては、「Less is more(よりシンプルに、より豊かに)」というコンセプトのもと、丁寧に果実のおいしさを引き出し、テロワールの魅力を最大限に生かすことが尊重されている。

例えば、タンニンがしなやかに溶け込んだワインに仕上げるため、従来のワインよりもマセラシオン(浸漬)期間を短縮している。また、重力を利用して穏やかにルモンタージュ(液循環)することで、果実本来の個性を引き出す。酵母は土着酵母を使用することが多いという。

3.昔ながらの品種や固有品種の再評価

ボルドーのワイン生産現場では現在、伝統的なぶどう品種を再評価する動きがある。

特に注目されているのが、ボルドーに昔からある固有品種のプチ・ヴェルドとカルメネール、カオール原産のマルベックの3品種だ。

これらの品種はもともと、剪定が難しく、長梢が折れやすいこと、花ぶるい(落花)を起こしやすいことから収量が安定しにくく、生産者にとっては「扱いにくい品種」だった。しかし、栽培技術や機械の進歩、天候の変動などから、以前よりも栽培しやすくなり、収穫量も安定したことで、これまでにない新しいスタイルを追求する生産者たちの目に留まったという。その結果、過去20年で、この3品種のボルドー内での栽培面積は倍増した。

これらの品種がアッサンブラージュに占める割合はごくわずかだが、ワインのスタイルに与える影響力は大きいと、セシル・ア氏は指摘する。また、果実本来の味わいを追求するため、これらの品種を単一で使用したユニークなワインも次々に誕生している。

現在、ボルドーで新しく提案されているキュヴェワインの味わいの鍵は、これらの品種が握っているとも言えそうだ。

4.伝統のバリック樽を使わない熟成

ボルドーワインといえばバリック樽熟成のイメージがあるが、バリック樽は木の香りが強く出るため、果実感が抑えられてしまう。

そのため、近年はバリック樽を使わずに容量が大きなフードル樽を使用したり、樽内での育成・熟成期間を短縮したり、新樽の使用率を低減したりといった方法が取られており、木の香りを抑えて仕上げることが多いそうだ。

また、木の香りを控えめに仕上げるという点では、ステンレスタンクと木樽など、複数の素材を使う方法が取られることもある。

実際に、樽の代替となるニュートラルな素材での育成・熟成は、近年人気が高まっている。セシル・ア氏が例として挙げたのは、ステンレスやコンクリートのタンク、素焼きや炻器(せっき)製のアンフォラ、シュール・リー熟成の試みが可能な卵型タンク。特に、木の影響を受けずに、樽のように微量な酸素供給を柔らかく進められるアンフォラには、チャレンジングな生産者たちの注目が集まっているそうだ。

(c)CIVB:Favoreat / M. Anglada

5.サステナブルを意識したワインづくり

今、世界中のワイン生産者たちの関心を集めているのが、サステナビリティへの挑戦だ。もちろん、ボルドーも例外ではなく、SO2無添加ワインやヴィーガンワインなど、サステナブル志向のワインに取り組む生産者は近年急増している。

現在、ボルドーのぶどう畑の65%は、環境価値重視認定(HVE)やオーガニック認証をはじめ、なんらかのサステナブル認証を取得しているという。

ちなみに、SO2無添加ワインは、特殊な工程を経て生産されるため、つくり手の技術力と衛生管理能力が必要とされる。

ヴィーガンワインは、ろ過に使用する清澄剤に動物性タンパク質由来ではなく、大豆、小麦、ジャガイモなど植物由来の清澄剤を使用したワイン、あるいは清澄剤を使用せずに生産されているワインを指す。

6.ボトルパッケージも新しく

従来のボルドーワインは、肩の張った“ボルドーボトル”に、歴史あるシャトーが描かれたラベルが一般的だった。しかし近年は、新しいスタイルのワインにふさわしく、ボトル形状もラベルも、よりクリエーティブでスタイリッシュなデザインに様変わりしている。

写真左上から、「Charivari」「Château Lauduc」「Hors-Série」「Château Mangot」「Château Peybonhomme-Les-Tours」「J. LEBEGUE」

「新世代のボルドーワインは、中身だけでなく、見た目にもつくり手のこだわりやワインの個性が自由に表現されているので、ぜひ注目してみてください」とセシル・ア氏は自信を見せた。

2020年、生産現場と市場の最新動向

セミナー終盤には、ボルドーワイン委員会のゼネラルディレクター、ファビアン・ボヴァ氏が登場した。

ゼネラルディレクターのファビアン・ボヴァ氏

ウェビナー参加者の大半を占める、ワイン業界関係者に向け、ボルドーワインの2020年の動向や日本市場でのボルドーワインの状況、今後のプロモーションについて語った。

2020年のぶどうは、総じてハイクオリティ

ボヴァ氏はまず、ボルドー地域のぶどうの生産状況について解説した。

それによると、2020年はエリアによって収量にばらつきが見られ、相対的に過去10年平均より収量が減ることが予想されている。一方で、クオリティに関しては地域差がなく、総じて高いクオリティに仕上っているそうだ。

また、近年の気候変動で、ワイン業界でもサステナビリティが緊急性の高い課題となっているが、ボルドーではおよそ15年前から、環境に配慮したワイン生産に注力してきたという。

その取り組みの成果として、ぶどう畑の85%が除草剤を撤廃したこと、65%のぶどう畑が環境認証を取得していること、ジロンド県のぶどう畑の80%が関連するAOCの生産仕様書に「環境に配慮した対策を行う」という要項が盛り込まれたことなどを挙げた。

日本市場で好調が続くボルドーワイン

ボヴァ氏によると、新型コロナウイルス感染症が世界的に猛威を振るう厳しい状況下でも、日本市場において、ボルドーワインは前年からの販売業績を維持している。

2020年9月~11月のデータを見ると、2019年の日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)締結による関税撤廃の効果も相まって、日本市場でのボルドーワインの売上は伸長している。特に9月は、数量ベースで前年同月比32%増という好調ぶりだ。

2021年以降も各種プロモーションに注力

「ボルドーワイン委員会は今後、あらゆる角度から日本での販売促進を強化していく」とボヴァ氏は語る。日本で主流となっている“家飲み”に着目した戦略のほか、ウェビナーによるワインスクールの開催、SD(Sustainable Development:持続可能な発展)戦略の強化、SNSを活用したデジタル戦略などを今後の販売促進のポイントとして挙げた。

また、ボルドーワイン委員会が毎年公式サイトで提案する「ボルドーセレクション」について、2021年の変更点を紹介した。

それによると、2021年は名称がリニューアルされるほか、セレクトする銘柄を100から50銘柄に厳選し、消費者がよりワインを選びやすくなるツールに進化するという。

「ボルドーワイン委員会は、日本の取引関係者と長年培ってきた信頼関係をさらに強め、小売店や酒販店の方を対象としたプロモーション活動にますます力を入れていきます」とボヴァ氏は力を込めた。

日本のオピニオン・リーダーへのメッセージ

最後に、ボヴァ氏はセミナー参加者に向けてメッセージを送った。

「ボルドーワインの新たな魅力を楽しんでいただけたでしょうか。ボルドーが取り組む、伝統と革新への挑戦を形にした、イノベーティブなワインをご紹介できたかと思います。ボルドーでは、伝統的な正統派ワインと並行して、こうした新しいスタイルのワインを続々と生み出し、ワインの面白みを広げています。皆さんの、オピニオン・リーダーとしての活動に心から感謝を申し上げます。ボルドーや日本で、直接お会いできる日を楽しみにしています」

伝統にあぐらをかくことなく、市場の変化をキャッチして、常に新しい取り組みに挑戦しているボルドーワイン。次回の記事では、ボルドーの若手生産者たちによる、型にはまらないユニークなキュヴェのテイスティングをレポートする。

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About the author /  原田さつき
原田さつき

広告制作会社でコピーライターとしてワイン・ビールの販売促進に携わったのち、フリーランスに。WEBメディア・取材記事・機関紙など、幅広く活動。得意分野は酒・食・ペット。